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新山の洞窟 謎の壁画

新山の洞窟までの道は、開けた街道みたいになっていた。この辺りの自然も、俺が暮らしていた横浜では見られないものだった。


「あんまり景色に見とれるなよ。この辺りにだって魔物が…」


ジョージさんが言った通り林の中から、大きなネズミの様な怪物が飛び出して来た。この世界の魔物は、RPGに出て来るモンスターと大差なかった。


「取り敢えず魔法を…どうやって扱うんだ」

「後で教えます!」


俺は魔法を発動しようとしたが、そもそもどうやって放つのか分からなかった。リリィは簡単に風の刃のようなものを放って、魔物を倒した。


「うわ…」


魔物の死体はゲームみたいに霧散せず、その場に残った。その遺骸からは血が流れ出ていて、嫌な臭いが漂った。


(そもそも俺に魔法の才能はあるのか?)


リリィによると魔法は念じるだけで発動するらしいが、周囲への影響が強い魔法は練習が必要との事だ。


「火…念じても出ないな」

「攻撃用の魔法はそう簡単には使えないよ」


残念ながら、魔法の会得には時間がかかりそうだった。戦闘はリリィ達に任せておいた方が、邪魔にならないかもしれない。


「涼子が使っていた魔法は…」

「影に出入りする魔法…私も見た事が無いよ」

「4年もいれば、才能を開花させることもできるんだろうな」


涼子の影への出入りを可能にする魔法は、やはりかなり珍しいものみたいだ。リリィやジョージさんは会得どころか、見た事も無かったらしい。


「そう言えば、仁子は魔法を試さないのか?」

「私も上手くいかなくて…」

「じゃあ異能で武器を…」


仁子に魔法を試したか聞いていると、今度は草むらから狼のような魔物が飛び出して来た。前衛は涼子達に任せて、俺と仁子は後方へ下がった。


「仁子、銃を作って!」

「えっ…うん!」

「ちょっと…あー」


俺はすぐに仁子に拳銃を生成して欲しいと頼んだ。涼子は止めようとしていたが、この世界で現代の物を生成したら駄目なのだろうか。


「あれ、弾が出ない…」


仁子が作った拳銃らしき物を魔物に向けて引き金を引いたが、弾丸は射出されなかった。見かねた涼子が細かい石を高速で飛ばして、魔物を倒した。


「ニコちゃんは拳銃の内部構造知ってるの?」

「え…知らない、けど」

「じゃあ形だけそれっぽく見せても意味無いよ」


俺も拳銃の構造は、複雑だという事しか知らなかった。だが、異能にも制限があるという事が分かっただけでも十分だろう。


王都への道の途中には大きな山があったが、登山する訳では無い。山の中腹に空いた洞窟を通って、王都に向かうのだ。


「この穴の中を通るの…?」

「この道が王都までの最短ルートなんだよ」


仁子は嫌がっていたが、この洞窟を通らないという選択肢は無かった。そんなに長い洞窟では無いらしいから、危険は少ないだろう。


新山の洞窟は静かな洞窟で、僅かに水が滴る音が聴こえてくるだけだった。暗くて不安にさせられるが、魔物の気配は感じられない。


(これなら何事も無く…ん?)

「なぁ…変な足音が聞こえないか?」


後方から聞こえて来た足音に気づいたのは、俺だけではなかった。音の大きさと伝わって来る振動は、明らかに人間のものでは無かった。


「こいつは…!」

「オークだ!」


俺達の後方から襲いかかって来たのは、大柄な獣人…オークだった。一眼見れば意思疎通は不可能だと分かり、俺はすぐに逃走の態勢に入った。


「私達から離れないで‼︎」


リリィは俺と仁子を呼び止めたが、俺はすぐに走り出してしまっていた。リリィ達はオークを倒そうとしていたが、本当に倒せるのだろうか。


「父さん、一匹だけじゃ無いみたい!」

「何っ…」


リリィ達が戦っているオークは一匹だけでは無かった。俺は王都側の出口まで走って逃げようとしたが、目の前にネズミ型の魔物が現れた。


(畜生…ん?!)


俺は万事休すかと思ったが、ネズミの身体が透けている様に見えた。そのおかげで、どの辺りに太い血管があるのか分かった。


(取り敢えず…急所を狙う!)


俺は飛びかかって来たネズミの首に向けて、真空の刃を放った。生成出来たのは小さな刃だったが、ちゃんと首に当たった。


「よし…」


ネズミの魔物はしばらくもがいていたが、すぐに動かなくなった。そしたら今度は、人間のものと思われる足音が聞こえて来た。


「はぁ…死んでなくて良かった」


やって来たのは涼子で、俺の顔を見て少し呆れている様子だった。確かに、オークに遭遇して走って逃げたのは余りにも迂闊だった。


「それからこっちは出口への道じゃ無いよ。むしろ洞窟の奥の方」

「…気づかなかった」


確かに先程オークと遭遇した場所と比べて、明らかに暗かった。僅かに風が吹く音しか聞こえず、不安を掻き立てられた。


「そう言えば、リリィ達は…」

「湧いて来たオークの数が予想以上に多くて…離れ離れになっちゃった」


王都へ行くだけの安全な旅だと思っていたが、こんな事になるとは。この洞窟もかなり危険であると分かった以上、無事に出れるかも分からない。


「まぁ、この辺りにはオークの気配はないね。ネズミならいたけど」


俺が倒したネズミが弱い部類のモンスターなのは、明らかだった。ここに現れたのがオークだったら、俺は死んでいた可能性が高いだろう。


「出口に向かうよ。今度はいきなり走り出したりしないでね」

「…分かった」


オークの出現など予想外の事態もあったが、今回は明らかに俺の判断ミスだった。涼子達にこれ以上迷惑をかけない為にも、彼女の側から離れない様にした。


「うーん…出口はこっちであってるかな?」


洞窟の奥はかなり入り組んでいて、景色の変化も無かった。このまま出られないかもと想像して、必死にそんな事は無いと心の中で言葉にする。


「向こうから光が差し込んでる…?」

「出口かも知れない…でも何処に出るのか…」


俺は狭い洞窟の道の先から差し込んで来る光に気づいた。とは言えこの先に出口があったとしても、そこから王都に向かえるかは分からない。


「開けた場所に出たな…」

「出口じゃ無いみたい…」


光が差し込んでいたのは、上の方に穴があったからだった。とは言え上の穴まで登るのは、どうやっても不可能だった。


「これ…絵に見える」

「壁画…か?」


差し込む光に照らされていたのは、奇妙な壁画だった。掠れていて分からない部分も多いが、何を描いているのか興味が湧いた。


「これ、何を描いているんだ…?」

「人々の着ている服は様々だね。色んな国の人々が集っている事を示しているのかな」


絵のタッチが独特なせいで分かりにくいが、明らかに中世の時代には無い服も描かれている。Tシャツやスーツ姿の者も集っている様に見える。


「異世界人だよ、これ」

「これは予言として描かれたのか…それとも過去にも異世界人が…」

「レイジ!涼子!」


俺達が壁画を見ていた所、後ろから駆け寄って来たのはリリィだった。リリィの後から、ジョージさんも歩いて来ていた。


「周囲の確認もしないで、走って逃げるなんて本当に危ないな…俺の探索魔法で探し出せたから良かったが」


ジョージの魔法は空中に地図を浮かばせるもので、それを見て俺達を探し出してくれたみたいだ。魔法は攻撃だけでなく、様々な使い道があるみたいだ。


「そう言えば仁子は…」

「無事…なんだが…」

「うう…最悪…」


ジョージさんの後ろから現れた仁子は、怪物の血液と体液を頭から被ってしまった様子だった。仁子は当然ながら、かなり気持ち悪そうな表情になっていた。


「オークの数もかなり多くて苦戦したんだが、加勢してくれた人がいてな」

「その人が頭部に魔法を当てて…オークの脳みそが仁子の頭に…」


…それは本当に気の毒だとしか言いようが無かった。早く汚れを落とすためにも、取り敢えず王都へ急ぐべきだろう。


「その少女は…」

「余程急いでいたのか、さっさと出口に向かって行ったな…王都の方に用があるみたいだな」


その少女の事も気になるが、俺も早く休みたい気分だった。こんな目に遭ったせいで、早く安全な場所に行きたくなっていた。


俺達はジョージさんが魔法で作り出した地図を確認しながら出口に向かい、無事に辿り着いた。ここから出て数分後には、王都に到着するらしい。


「あんな目に遭うなんて…」

「新山の洞窟も、もう安全に通れる場所では無いという事か…」


リリィとジョージさんも疲れ切った様子になっていた。俺達が洞窟を出た時には正午はとっくに過ぎていたが、太陽はまだ低くなっていなかった。


「おお…」


洞窟から出た所は小高い丘になっていて、そこから王都を一望出来た。城壁に囲まれて至る所に整備された水路がある都は、離れた丘の上から見ても美しかった。


「早く行くぞ、昼飯も早く食べたいからな」

「それよりもこの汚れを何とか…」


ジョージさんと仁子は、さっさと王都に向かい始めた。俺とリリィもその後を追って、王都の方へ歩き始めた…


今回登場した新キャラクターの名前などが分かるのは、もう少し後になります。


用語集

新山の洞窟 

ガリア新山に存在する洞窟で、ライロ村から最短で王都に向かう場合はこの洞窟を通過しなければ行けない。最近になって魔物が棲息する様になり、危険度が上がった場所だが最奥部には奇妙な壁画が存在する。


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