未知の土地 盗賊団とエルフの少女
(何処なんだよここは…)
気がついたら草原に立っていて、俺は呆然としていた。近くに建物も無く人もいない場所に放り出されて、どうすればいいのか思いつかなかったのだ。
(そうだスマホは…)
俺はスマートフォンを使って誰かに連絡を取ろうとしたが、圏外だった。アプリもまともに機能しないせいで、ここが何処なのかも分からない。
(取り敢えず辺りを見れる場所を…)
幸い、近くには遠くを見渡すにはちょうど良さそうな丘があった。そこまで登り辛そうでは無かったので、すぐに丘へと向かった。
(この近くに街は無いのか…?てかここは何処の国なんだよ…)
丘の上から周囲を見渡しても、建物のような物は確認出来なかった。今いる場所の草木が、日本のものとは大きく異なっている事にも不安を感じた。
(あれは…村か?)
街道らしき道の先を目で追って確認していると、小さな村を見つける事が出来た。随分と発展が遅れた土地らしく、現代的な物を見る事は出来なかった。
(街道には旅行者の姿も…ん?)
街道には人の姿が殆ど無かったが、妙な姿の人々が街道を歩いていた。頭部まで布の様な物で覆っていたので、どの様な顔かは分からなかった。
(道を聞いてみるか…?)
ここは俺にとっては未知の土地であり、どんな危険が潜んでいるかも分からない。人を見かけた以上は、ここがどんな場所なのか聞いてみるのも良いかも知れない。
(いや、やっぱり怪しすぎるよな…あの集団)
だが、妙な装束を身につけている人々に道を聞くのも、危険に巻き込まれる可能性がある。この国の一般的な服装がどの様なものか分からないから、怪しいと判断するのも難しかった。
(少し様子を見てみるか…)
俺は岩陰に身を隠して、怪しげな一団を観察する事にした。その集団も辺りを見回している様で、地面の匂いを嗅いでいる者もいた。
(何だあいつら…)
匂いを嗅いでいる者の1人が、何かに気がついた様子を見せた。それを仲間達に話すと周囲を警戒する動きから、目標を探す動きへと変わった。
(俺に気づいたのか?まさかな…)
しかし、奴らは明らかに俺の方へと向かって来た。俺は岩陰から離れて、できるだけ自然な様子で丘を降りようとした。
「〜〜〜‼︎」
「何だ?!」
怪しい服装をした連中の仲間と思われる男が、背後から襲い掛かって来た。俺は咄嗟に避ける事も出来ずに、体を抑えつけられてしまった。
「体が動かない…」
俺を抑えつける力はかなり強く、全くと言っていいほど体が動かなかった。少なくとも力尽くでこの状況を打開するのは、不可能だろう。
「あのっ!実は道に迷ってしまって…」
俺は思い切って、彼らに道を聞いてみる事にした。話が通じれば、解放してもらえるかもしれないからだ。
「〇〇?」
(分からない…何語なんだ?)
彼等の言葉は聞いた事も無い言語で、俺には分からなかった。体を抑えつけられているので、身振り手振りで伝える事も出来なかった。
「××〜」
(あいつら…俺のバッグを!)
どうやら奴らは盗賊の集まりだったらしく、最初から俺の荷物が目当てだった様だ。俺は必死に抵抗しようとしたが、抑えつけられている腕はびくとも動かなかった。
「離せっ!…ひっ…」
盗賊の1人が、俺の首元にナイフを突きつけて来た。正に絶体絶命で、生きて帰る手段は無いかと思った。
「ぐあっ…」
視界の隅で、盗賊の1人が飛んで来た何かに吹っ飛ばされた。盗賊達は驚いていた様子を見せていたが、俺も驚いていた。
「何が起きた…?!」
俺は頭を動かして辺りの様子を確認したが、金色の髪の少女が何かした様だ。特別力が強い様には見えないので、武器を使ったのだろうか。
「ぐぅ…!」
「なっ…」
俺の体を抑えつけていた盗賊は、俺の事を人質にしようとした。しかし彼の体は、すぐに後ろに倒れ込んでしまった。
「どうなった…うわっ…」
俺はすぐに起き上がって盗賊の体を確認したが、彼は既に死んでいた。頭部は灰しか残らず、首からは血が流れ出していた。
(あの子がやったのか…)
彼女はすぐに俺の方へ駆け寄って、声を掛けて来た。やはり何処の言葉か分からず、彼女の言葉を理解する事は出来なかった。
(やっぱり分からない…)
その少女はエルフを思わせる尖った耳をしていた。全く異なる場所の住人である彼女に、日本語は通じないだろう。
「レイジ。レイジミナヅキ」
俺は自分の方を人差し指で示しながら、名前を名乗った。こうすれば言葉が通じなくても、名前を伝える事が出来るはずだ。
「…リリィ」
俺が名前を名乗ったと分かったからか、彼女も名前を教えてくれた。リリィと名乗った彼女は、俺を案内してくれるみたいだ。
リリィに案内してもらって、無事に村に着く事が出来た。先程遠くから見た時と印象は変わらず、発展の遅れた村といった様子だった。
「ここは何処なの?!もうちょっとちゃんとした街に連れて行ってよ!」
村人に文句を言っている少女の声が聞こえて来た。それだけなら大した事では無いのだが、その言葉は明らかに日本語だったのだ。
「ホントにイヤ…何か虫もいっぱいいるし…」
そのうんざりした様子の少女は高校生らしく、制服を着ていた。
俺以外にも、この場所に飛ばされて来た人間は居たみたいだ。
ややスローテンポですが、話はゆっくりと展開していきます。今後も読んで頂けると嬉しいです。
用語集
レイジが元いた世界
西暦2019年4月20日の地球。様々な技術が発展しているが、環境問題が年々深刻化している。レイジが生まれ育った国である日本では、新年度が始まったばかりである。