レイジ達の帰還 図書館の本棚裏の書物
「レイジ達が戻って来たぞ!」
伝えを事前に聞いていたシローネさんは、ファルバウティから戻って来た俺達を出迎えてくれた。リリィや仁子も来ていて、かなり心配していた様子だった。
「無事みたいだね…良かった」
「俺達は大丈夫。それから協力者が増えた」
俺達の帰還を喜んでいたリリィ達だったが「協力者」の顔を見た途端に、表情が硬くなった。彼女達にも、王都襲撃事件の黒幕がシャロンである事は知らされていたからだ。
「協力者って…彼女の事なのか」
「彼女の居場所も限られています。ここで協力したいみたいなんです」
「自業自得だろ…」
やはりというかカリドさん達はかなり不満そうだった。実際、ファルバウティ側が賠償の支払いを渋っているせいで、王都の復興も上手くいっていないのだ。
「待って、私はちゃんと宝玉を持ってきた。協力してもいいでしょ」
「宝玉?それは何だ」
「えっそれも知らないで願いを叶えたいとか言ってたの?」
シャロンの言い分ももっともではあるが、カリドさん達をイラつかせているのも明らかだった。ここに居るのは、異世界に来てでも願いを叶えたいほど、追い詰められた者ばかりだ。
「…取り敢えず、宝玉を見せろ」
「これ」
「私たちが預かる、いいな」
吹雪の宝玉はシローネさん達が預かるという事で、全員が納得した。シャロンは不服そうだったが、ここで逆らう事はなかった。
「えっ何…私自由に外に出れないの?」
「当たり前だ。お前の事は、当分の間は隠しておく必要がある」
シャロンの事はオリヴェルの王族にも、ファルバウティの皇族にも隠す事に決めていた。明かせば間違いなくシャロンを引き渡す事になり、俺達転移者の立場も危うくなるからだ。
「そう言えば皇族達への説明はどうなったんですか?」
「今回の騒動の黒幕がシャロン皇女って事は、伝えてないみたいだが…」
「それじゃあ納得しないんじゃ…」
ファルバウティの皇族達への説明は、結局は有耶無耶なままだった。彼らの大半は仕方無く帰還する事にしたが、第二皇子のグリスは復興支援の為に、残りたいと言った。
「彼は純粋に王都に迷惑をかけた償いをしたいみたいなんだ」
「だったら無下に扱うわけにはいきませんね」
以前のパーティで見たグリス皇子の第一印象からは、良い意味で皇族らしさを感じなかった。色々と大雑把な少年だが、庶民との交流に抵抗を感じている様子はなかった。
「レウニアスに残るのがグリス皇子なのはいいとして…」
「宝玉に関する情報はどの程度集まっているんだ?」
"願いが叶った世界"を作るのに必要な宝玉は七つ。その内二つは手元にあるが、それ以外が何処にあるのか手がかりはない。
「先は長そうだな…」
「それでも気長に情報を集めるしかないですよ」
ファルバウティの国宝だった吹雪の宝玉と、涼子が持っていた大地の宝玉、それ以外の宝玉の行方は分からなかった。情報屋を頼ったり、図書館で書物を探したりして、伝承について調べる必要があった。
しかし、そう簡単に新たな手がかりが見つかるはずも無く…
ーー
「この宝玉の伝承…本当なのか?」
「それしか手がかりが無いんだ。信じるしか無いだろ…」
宝玉の手がかりを探し始めてから何の手がかりも得られないまま、既に一週間経ってしまっていた。カリドさんとシローネさんも、この状況に疲れ果てていた。
「既に諦めて、元の仕事に戻ってる人もいますね」
「サクラが働いてるレストラン…また行きたいな」
転移者達の何人かは積極的に情報を探す事を、既に諦めていた。桜は自身が勤めている、レストランでの仕事を優先していた。
「それにしても…涼子の行方もまだ掴め無いな」
「アイツ、今度は何処に行ったんだ…ファルバウティの件は一先ず解決したんだし、姿隠す必要ないだろ」
涼子は皆で協力して宝玉を探し始めた時から、既にいなくなっていた。行方を探すべきだという意見もあったが、宝玉の手がかりが優先された。
「結局、ここに残ってるのはあたしたちだけだね」
「また手がかりの無い状態に戻ったからな…皆、思い思いの場所で過ごす方が楽なんだろう」
俺も最近は地下室に足を運ぶ事なく、自分の家で読書する事が多くなった。仁子やリリィ、桜と一緒に暮らすのにも、大分慣れてきた感じだ。
「レイジは涼子が何処にいってるのか、知らないのか?」
「…あんまり気にしてなかったです」
そう言えば涼子の姿が見えない事を、桜以外は気にしていなかった。俺にも図書館での仕事があったので、涼子の存在感が段々と薄くなっていった。
「メルビィがファルバウティと繋がっていたとは…何も疑わなかった俺たちのミスだな」
「彼女は有能だったのだが…だからこそ、という事なのかもな」
メルビィは、今はファルバウティで生活しているらしく、レウニアスには戻って来ていない。彼女がシャロン皇女と通じていた事には、カリドさん達も驚いていた。
「例の"涼子被害者の会"は…」
「肝心の涼子も、発足人のメルビィも居なくなったせいで、解散に近い状態だよ」
クリフさんは住んでいる町に戻って、医院で働いているらしい。ビルさんはまだ宝玉の手がかりを知っている人を、探してくれているらしい。
「まあ…状況は以前に逆戻りした感じだな」
「元々、まとまった連中では無かったからな」
今、地下室に残っている転移者は、カリドさんとシローネさん、そして琴音の3人だった。いつの間にか、俺が初めてここに来た時のメンバーに戻っていた。
「そう言えばレイジ、昔は琴音の事をコトねーちゃんと呼んでたのか?」
「うんうん、あの頃のレイジは今よりもうちょっと元気があって…」
「やめてくれ琴音」
「レイジ、止めるな。私も気になる」
俺はカリドさんやシローネさんと一緒に、他愛のない話にしていた。その話に大した意味は無かったが、何となく悪い気はしなかった。
ーー
「貴方ですね、宝玉について嗅ぎ回っているのは…」
「待ってくれ‼︎俺だけじゃない‼︎仲間がいるんだ‼︎」
その頃、レウニアスのスラム街では、ビルがエルフの女性に追い詰められていた。スラムの人に聞いて回っていたところを見つかったのだ。
「まず、貴方は何者ですか?」
「俺はビル…海の向こうにある、別の国からやって来た」
「海の向こう…嘘ですね。根本から気配が異なります」
「本当のこと言っても信じないだろ‼︎」
「早く言いなさい」
「ひっ…俺は別の世界から来た転移者だ…さっきの仲間ってのも、他の転移者達のことだ」
ビルは正直に異世界からの転移者である事を明かして、エルフの女性は彼の首を掴んでいた手を離した。そして後からやって来た女性に、彼らの動向を調べて欲しいと頼んだ。
「お願いできますね、チアキ」
「分かったよヘレナ…やってみる」
チアキと呼ばれた女性は、すぐに王都の市街へと向かって行った。ビルは隙を見て逃げ出そうとしていたが、エルフの女性に抑えられていた。
「おい、離してくれよ」
「駄目。貴方は人質にする」
エルフの女性には、ビルを解放するつもりなどなかった。向こう側の対応によっては、始末する事も視野に入れていた。
(保たれて来た安寧を…壊させるものか)
ーー
(えっと…レシピ本は…)
その日、桜は新しいレシピを考えるために、図書館で料理に関する本を読みに来ていた。ついでに、宝玉の伝承についての本も探してみる事にしていた。
(レシピ本は見つけたから…)
桜は自分が今まで入った事の無い部屋に行ってみる事にした。ひょっとしたら、宝玉に関する本が、見つかる可能性もあるからだ。
ーー
(ここ、掃除されてないのね…)
桜が入った3階の部屋の本棚には埃が積もっていて、長い間誰も出入りしていない様子だった。彼女は部屋の埃っぽさに顔をしかめながらも、本棚の本を確認した。
(保存状態もあまり良くない…この本なんか虫のせいでボロボロだし…ん?)
桜は、手に取ったボロボロの本の表紙が、妙に硬い事に気づいた。よく見たら表紙の部分は紙ではなく、厚い木の板の様なものだった。
(何これ…鍵?)
木の板には鍵と思われる物が、糊付けされていた。桜はその鍵を剥がして、取り敢えず鍵穴を探してみる事にした。
(これは…どう見ても何か隠してる)
本棚に置いてあったボロボロの本を退かすと、小さな穴があった。そこに鍵を差し込んで回すと、がちっ、という音がした。
(まあ…鍵穴だよね)
鍵を開けると蓋が開き、中に本がある事を確認できた。それ以外にも防虫剤に近い物を染み込ませた、巻いた布もあった。
(これは…エルフの歴史に関する本か)
桜はその本の表紙を見て、内容を見てみる事にした。保存状態は非常に良く、読めなくなっている箇所は見当たらなかった。
(…新緑の宝玉?)
その本の文字は古いもので、理解しきれない部分も多かったが、いくつか図説が乗っているページもあった。そのページの中に"新緑の宝玉"という物に関する情報が記載されていた。
(新緑は我らの森の中、その深くに…)
本には他にも、大地、灼熱、天空、三つの宝玉についても載っていた。しかし、地図と共に詳しい説明が載っていたのは、新緑の宝玉だけだった。
(夢と現は裏返る…?)
天空の宝玉について記載されていた一文を見た桜は、首を傾げた。どういう意味だか、さっぱり分からなかったからだ。
ーー
「この本、貸し出してもらえますか?」
「…何処でその本を見つけたのですか」
桜は本を貸し出してもらおうと司書に頼んでみたが、彼の表情は強張っていた。司書の表情を見た桜は、すぐにこの本が特殊な物であると察した。
「図書館の3階の部屋で見つけました」
「3階…あの放置されていた部屋ですね」
司書には思う所があったみたいで、悩んでいる様子を見せていた。数秒後に司書は、はっきりとした口調で桜に、その本は貸し出せないと告げた。
「分かりました…じゃあ、もう少し手に取りやすいところに置いて欲しいのですが…」
「いえ、これは図書館には置いておけない本なので、別の場所に保管します」
「えっ…それは」
「あの、見られたらそんなに困る本なんですか?」
桜と司書の会話に割って入って来たのは、明るい髪色をした女性だった。穏やかそうで圧がなく、頼りやすそうな雰囲気だ。
「その本、どうするつもりですか」
「この図書館とは別の場所に、保管するつもりです」
司書は本を他の人間の目に見せてはいけないと考えているのだろう。それではだめだと思った桜は、司書を正面から見据えた。
「エルフの歴史がまとめられた本を隠すのはどうしてですか?何か不都合が?」
「いえ…この本は歴史に関する書物では無いので…」
司書は何とか言い訳をして、桜に本を渡すのを避けようとしていた。それを見かねた女性は持っていた鞄に入っていた大量の金貨を、司書に見せつけた。
「これで、その本を買い取ります」
「え…良いんですか?!」
司書は断るどころか、金に目がない様子になっていた。本の秘密を守る事よりも、自分が儲ける事の方が大事なのだろう。
「これだけあれば…かなりの贅沢が…!」
「じゃあこの本は貴女の物だね」
「はい…その、良かったんですか…あなたのお金…」
「あの本をあんな男が独占するのはダメ」
ーー
図書館の外に出た桜は、その近くにある庭園で金貨を出してくれた女性に話を聞いていた。どうやら彼女は、エルフの歴史に関する書物を集めているらしい。
「宝玉の伝承については知ってますか?」
「…それっておとぎ話じゃないの?」
「わたしの仲間に、願いを叶えようとしている人たちがいるんです」
「……貴女、ひょっとして別の世界から…」
彼女は"願いを叶える"という荒唐無稽な目標を持っているのは、この世界に転移して来た異世界の人間だけだと思ったみたいだ。隠す必要が無いと判断した桜は自分の名前を名乗って、彼女にも名前を聞く事にした。
「私は五条桜、あなたは…」
「サクラちゃんね。天ヶ瀬千秋よ、よろしくね」
あまり他者を疑わない桜は、自腹で本を買い取った千秋の事を、好意的に見ていた。千秋にも協力して欲しいと思い、バザールにある地下室についても話した。
「カリドさんとシローネさん、それに琴音さんね。私も会ってみたいな」
「うん!きっと仲良く出来るよ!」
千秋の目的も知らないまま、桜は彼女を転移者達がいる地下室に案内する事に決めていた…
前回の更新からだいぶ間が空いてしまいました…
最近は忙しいですが、次の回も出来るだけ早く投稿したいです。
キャラクター設定
天ヶ瀬千秋
身長168cm。誕生日は8月8日。大学2年生。
かなりの優等生で面倒見もいい、慕われるタイプ。
歪に巻き込まれて異世界に転移してしまい、アルカディアのエルフ達に救出される。
その後はヘレナと行動を共にして、レイジ達への接触を図る。




