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伝承 宝玉と並行世界

「そう言えば…さっきは言わなかったけど、宝玉の一つは手に入れてあるんだよね」

「やはりか…」

「待ってくれ、話の流れが…」


いきなり宝玉がどうだと言われても、俺にはついていけない。彼女達2人の間には、どんな話があったのだろうか。


「七つの宝玉の伝承…知らないの?」

「知らない…まるで漫画の話みたいだな」

「そっか…メルビィは教えてなかったんだね」


何故ここで転移者の一人であるメルビィの名前が出て来るのか分からなかったが、シャロンが転移者側にスパイを送り込んでいると言っていた事を思い出した。メルビィがどんな人間かは分からなかったが、スパイだとは思っていなかった。


「私達が転移した目的だよ。七つの宝玉を集めれば、願いが叶うの」

「何だそれ…本当なのか…」


俺はかなり疑わしいと感じていたが、桜の表情に変化は無かった。アニメや漫画の様な話も、この世界ならあり得ると理解したみたいだ。


「これが宝玉の一つ、大地の宝玉だよ」

「綺麗だ…」


俺が見た大地の宝玉の感想は、一言で終わってしまった。橙色に輝くそれは不思議な力強いエネルギーを放ち、あまりに美しかったからだ。


「メルビィと色々あった後、もう一度遺跡に侵入して、その時に宝玉を手に入れた。いや〜流石にあの時は何度も死にそうになったよ」

「貴方、私を騙していたんですね…」


平然とした様子で話す涼子に対して、シャロンはイラつき始めている様子だった。彼女は出来るだけ落ち着いた口調で、涼子に続きを聞いていた。


「それを…どこに隠してたの」

「歪の向こう側、元いた世界」


こちらの世界の人間が転移した話は聞かないので、俺達の世界で保管するのは意外と有効だろう。向こうの世界で盗まれないか心配だが、彼女がその様なヘマをするとは思えない。


「それじゃあ…吹雪の宝玉を譲ってくれないかな」

「出来るわけないでしょ…国宝と言っても何処にあるのかも教えられてないし、現存するのかも分からないよ」


吹雪の宝玉というのは、少なくともシャロンが直接管理している物では無さそうだった。しかし、涼子は表情を変える事なく、さらに話を続ける。


「嘘は駄目だよ。吹雪の宝玉は帝都の管轄じゃ無くて、別の組織が管理してるらしいじゃん」

「そこまで知っているのね…」

「大方、この屋敷の近くに保管されてるんでしょ」

「…正解」


正解…という事は宝玉の一つがシャロンの管轄下に置かれているという事になる。彼女は本当はその事はずっと隠しておくつもりだったのだろう。


「本当はメルビィ以外の転移者には教えるつもり無かったんだけどな…」


そう言っているシャロンは、兵達に指示を出し始める。話の内容を聞く限り、吹雪の宝玉はこの屋敷に保管されているみたいだ。当然ながら、俺なんかには見つけられない様に、厳重に管理されていたのだろう。


兵士達が持ってきた吹雪の宝玉は、淡い水色に輝いていた。大地の宝玉とは違い、部屋の気温を下げている様な気がした。


「それ譲って」

「だから無理だって…」

「王都を滅茶苦茶にしたのに?」

「何だって?」


俺と桜はすぐにシャロンの方を見たが、彼女は気まずそうにしていた。多分、彼女が指揮した作戦によって、王都に被害が出たのだろう。


「その割には収穫がなく終わっちゃった…あなたのせいね」

「なんで私のせいにするの…他の皇族にも迷惑かけて…」


こればっかりは、明らかにシャロンの言っている事が理不尽だ。王都への被害…俺達が住んでいる家や地下室は無事なのだろうか…


「という訳で、あんたが王都レウニアスへの復興支援をするのが筋だよね」

「くっ…」

「後、転移者達への全面的な支援もよろしく」


確かにシャロンはファルバウティの意向と関係なく、他国に危害を加えたのだ。オリヴェル王国とファルバウティの深刻な国交問題に発展する可能性が高い。


「あの…」


唐突に声を上げたのは、基本的に話を聞いているだけだった桜だ。桜はレストランの事を気にしていたみたいだが、それ以上に気になる事があるみたいだ。


「宝玉を集めると…どのように願いが叶うのでしょうか」

「どの様にって…」


確かに宝玉を集めると何が起きて、願いが叶うのだろうか。まさか神が降臨して、願いを聞き入れるというのは無さそうだし…


「伝承を調べた上での予想なんなけどね…七つの宝玉をある場所に集めて願うと、並行世界に移行するみたい」

「並行世界⁉︎…それって生きてる人間みんな移行するのか?」

「多分ね。移行する前の世界は破棄されて消滅する」

「破棄…消滅…」


何というか、今まで以上に突拍子の無い話になって来た。その話しが本当なら願いを叶えた結果、新たな世界が生まれてしまう事になる。


「願いを叶えると、宝玉はどうなるんだ?ひょっとして世界中に散り散りになるのか?」

「そんな事ないよ。宝玉は手元に残って、願いを叶えた結果の微調整も出来るみたい」


願いの微調整と言うが、殆ど並行世界を支配している様なものである。人々の意志をも細かく操作できるのだとしたら、宝玉を使って願いを叶える事自体がかなり危険だと言える。


「分かった…この世界に歴史の空白が刻まれているのは、宝玉が原因なんだ」

「並行世界が何度も作られて…正しい歴史が伝えられなくなった…?」


「改めて聞くが…涼子は世界をどうするつもりなんだ?」

「今よりマシな世界にする」

「それは涼子の主観しか判断材料がないんでしょ?」

「でも、誰かがやるしかない」


どうやら涼子は、かなり独善的な考えの持ち主らしい。前々から分かっていることだが、並行世界を作る為ならどんな犠牲も厭わないだろう。


「いくらなんでも見過ごせませんね…」

「あんた…私を殺すつもり?」

「ちょっと待て!」


明らかに戦い始めようとしていたので、俺は割って入った。こんなところで殺し合っても、双方にメリットは無いはずだ。


「誰か1人しか願いを叶えられない…訳じゃないから、余計な争いをする必要はないよ」

「ここは皆で協力しながら宝玉を探すのがベストじゃないか?」


その提案を聞いたシャロンは、戦闘態勢を解いた。彼女の様子を確認した涼子も、椅子に座り直していた。


「宝玉を集めれば転移者達全員の願いが叶う…その様子を見れば、あなたも使い方が分かる」

「それで私も願いを叶えられるという事ね」


シャロンはものすごく不満そうだったが、一応納得したらしい。彼女の目的は不明瞭だが、転移者を殲滅する事では無さそうだ。


「はぁ…贖罪も兼ねて、あなた達に積極的に協力しようかな」

「マジか…いいのかそれで?」

「ここで協力しなかったら、ファルバウティの立場無くなるでしょ」


シャロンは俺達の世界の情報も知りたがっているので、それも目的だろう。桜はすぐに彼女と握手をして本心かは分からないが、お互いに協力し合おうと言っていた。


「桜が作った料理…また食べたいな」

「もちろん良いですけど、代金はいただきますからね」


前回の更新から間が空いてしまいました…今後も不定期連載でやっていきます。


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