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氷の地の屋敷

(…ん?)


俺が目を覚ました場所は、王都の家のベッドの上ではなかった。少なくとも俺達が元いた現代ではないし、一度も訪れた事が無い場所だった。


(この寝具も、他の調度品も相当高価な物だな)


家具には詳しくはなかったが、何となく高級そうなのは分かった。最低限の家具しか置かれていない、シンプルな部屋である。


(ドアの鍵は…)

俺は閉じ込められている可能性を調べる為に、ドアノブを回してみた。鍵はかかっていなかったみたいでドアノブは回り、扉は開いた。


(廊下の雰囲気は…部屋の中と同じか)


廊下にも絨毯が敷かれていて、窓から光が差し込んでいた。廊下も俺がいた部屋と同じ様子で、西洋風の屋敷に近い雰囲気だった。


(ここはオリヴェル王国なのか?それとも別の異世界…?)


1人で見知らぬ場所に放り出されるのは2回目だったが、やはり不安になる。せっかく同じ境遇の人に会えたのに、味方がいない状況に戻ったかも知れないのだ。


(気温が低いな…)


廊下を歩いていると、明らかに他よりも大きい扉があった。玄関の扉では無いが、リビングなど大きな部屋に通じている可能性がある。


(…入ってみよう)


扉を開けると、そこはソファや大きめのテーブルが置かれたリビングになっていた。そこのテーブルに座っていたのは、ファルバウティの皇女シャロン…ここが別の異世界では無いことは理解できた。


「お茶でも飲む?」

「…じゃあ苦くない奴で」


シャロンの指示を受けた使用人が準備をする間に、聞きたい事が山ほどあった。ここは何処なのか、何の目的で連れて来たのか、いつ帰してくれるのかを聞かなければいけない。


「ここは何処なんだ?」

「ファルバウティにある私の隠れ家。私が許可した人しか出入り出来ない」


この宮殿の周囲に、何らかの結界が張られているという事なのだろう。つまり、カリドさん達がここを突き止めて助けに来る事は、ほとんど期待できない。


「この紅茶…蜂蜜が入っているのか?」

「ローレイス王国の蜂蜜だよ」


ローレイス王国は、確かオリヴェル王国よりも南にある島国だ。それなりに平和な国らしいが、軍が弱いので他の国に守ってもらっているらしい。


「何で俺を連れて来た…そういえば桜は?」

「そろそろ起きて来ると思うけど…」

「ここは…あっ…レイジさん、おはようございます」


リビングに入って来た桜は、いつもと変わらずのんびりした様子だった。冷静なのか、あるいはただ単にマイペースなのか…


「桜ちゃん、後で朝ご飯作ってくれない?昨日レストランで食べた夜ご飯…美味しかった」

「食材によって作れる物は限られてくるけど…」


桜は使用人達にここにある食材を聞いた後、厨房へ向かって行った。どうやらシャロンの為に、本当に料理を作るみたいだ…


(俺も食べていいのかな…)


お腹が空いていないわけでは無かったので、俺も朝食は食べたかった。取り敢えずご飯を食べてから、色々聞き出すことにしよう。


「朝ご飯は食料庫にあったパンと…コーンスープを作ったよ」


流石にここにある食料は限りがあるみたいだった。それでもコーンスープは美味しそうで、作ってくれた桜に感謝していた。


「このパン硬いな…」

「しょうがないでしょ。ただの備品なんだから」


朝食に食べたパンはかなり硬く、いかにも非常食と言った感じだった。シャロンは食べ慣れている様子だが、少なくとも美味しそうな表情では無かった。


「でもコーンスープはまろやかだな…ありがとう」

「どういたしまして」


温かいコーンスープはまろやかな口当たりで、美味しく食べる事ができた。パンも完食できたので、取り敢えず腹を満たす事は出来た。


「じゃあ、ここに連れて来た目的を教えてくれ」

「それは私も知りたいな」


朝食も食べ終わったので、シャロンも話す気になったみたいだ…納得できない理由だったとしても、すぐには帰れないだろうが。


「願いを叶える儀式…できるんだったらあなた達もやるでしょ」

「…カリドさんやシローネさんが、どうやって願いを叶えようとしているのか、知りたいんだな」

「その通り」

「私には分かりませんし、レイジさんも知らないと思います」


確かに願いを叶えると言っても、方法については教えてもらっていない。ひょっとしたら、詳しくは知らない可能性もある。


「確実な方法が無いのにわざわざ異世界に来て願いを叶えようとするかな?」

「何か伝承みたいなものは無いのか?」

「ありすぎてどれが異世界関係か分からない。明らかな御伽も多いし…」


彼女も調べてはいる様だが、やはり手がかりが少ないらしい。だが俺たちは、異世界で願いを叶える方法に一番詳しそうな人物を知っている。


「この世界に詳しそうな異世界人を知っているから、連れて来てもいいぞ」

「それってファルバウティの皇族に伝えて良いんだっけ?」

「知っているよ。涼子でしょ」


涼子の事はファルバウティ側には隠していた筈だ。いつの間にか、異世界人についての情報を得ていた様だ。


「だったら、涼子に聞けばいいじゃないか」

「それは分かっているけど…あの人の扱いは難しいと思うよ」


まぁ…言われてみれば、涼子に聞いても素直に答えるとは思えない。そうなると、取り敢えず誰でも良いから異世界人を捕らえる…という考えに至るのも仕方ない。


「まぁ送り込んだ人もいるし…何も手が無い訳じゃないけど」

「涼子から、確実に願いを叶える方法を聞き出せる手段があるの?」

「それはまだ思いつかないから…涼子を捕まえるしか無いね…」

「…は?」

「作戦は向こうに任せてあるけど、彼女なら大丈夫なはずだよ」


かなりの実力者である涼子を捕らえるなんて、不可能に近いと思うが、相変わらず無表情なシャロンには自信がありそうだった。ただ単に自身の配下を紛れ込ませている訳では無さそうだが…


「実は私は…既に転移者の1人と協力関係にあるんだよね」


用語集


シャロンの隠れ家

ファルバウティの領地内に存在する、第三皇女シャロンの隠れ家となっている屋敷。結界で守られていて、シャロンに信頼されている者にしか、場所は教えられていない。


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