レイジと桜 再びの転移
「……」
シャロンは表情を変える事なく、黙々とプリンを食べていた。何を思っているのか分かりにくいが、たぶん「美味しそう」に食べているのだと思う。
「こんなに美味しいプリンは初めてだよ」
プリンを気に入ったシャロンを、桜は嬉しそうに見ていた。自分のレシピで作られたものを褒められたのだから、嬉しいと感じるのは当たり前だろう。
「じゃあ、何を聞きたい?」
…ここで皇族が来た目的を聞けば、ベラベラと喋るのだろうか。とは言え皇女を連れて王城に戻っては損をするだけかも知れないので、聞き出してみる事にしよう。
「何で皇族は俺たち転移者に会いたがった?」
「異世界からの転移者の危険性を確かめる為、間違ってもこの国を侵略したい訳じゃない。叔父は少しでも有利な貿易をしようと交渉してるみたいだけど」
転移者にしか興味が無いなら、取り敢えずは安心だ。この国に攻撃を仕掛けられたら、俺たちもタダでは済まない。
「少し前に王城で転移者同士の争いがあったが、こちらからこの世界に攻撃をするつもりは無い」
「それはあなたに限った話でしょ?あなたは巻き込まれただけでも、願いを叶えようとしてる連中はどんな事をするか分からない」
…カリドさんとシローネさんの願いなら分かるが、他の奴らが何を考えているか分からない。ソルの一件もあるし、確実にこの世界に危害を加えないとは言い切れない。
「転移者に危険性があると分かったら、シャロン達はこの国を攻撃するの?」
「パパが何かするかも知れないけど、すぐに戦争を仕掛ける事は無いよ」
とは言え、俺達の存在がオリヴェル王国にも影響を与える可能性がある。カリドさん達とも話し合い、今後の身の振り方を決めるべきだろう。
「さて、王城に戻るか…シャロンの家族も待ってるよ」
「何を勘違いしてるの?私の目的をまだ言っていないでしょ」
シャロンは先程までと一切変わらない、静かな瞳で俺たちを見つめていた。しかしデザートのプリンを食べていた時とは、雰囲気が違っていた。
「私の用があるのはあなた達なの」
「はぁ…あんな事になるなんて。無駄に疲れた…」
仁子と琴音は歓迎の会がお開きになったので、家に帰る途中だった。既に王都は寝静まっていて、空には星が煌めいていた。
「本当にね…でもシャロンって子、大丈夫かな…」
「王都中を兵士が探すらしいし、見つかるでしょ」
疲れ切っている仁子は、かなり楽観的な考えになっていた。そういう考えにでもならないと、やっていられないのだ。
(あれ…レイジも桜も帰って来てないの?)
家の中に灯りは無く、人の気配は感じられなかった。何者かが押し入った形跡も無かったので、この家では何も起きていない事が分かる。
「桜はまだレストランに居るかもしれない…」
琴音はすぐに彼女が働いているレストランに向かったが、桜が突然いなくなったという話を聞く事になった。同時に2人の客もいなくなったが、注文した分の代金は残されていたという。
「レイジと桜まで行方不明に…」
琴音から報告を受けたシローネは、かなり慌てていた。桜はこの世界に馴染んでいたし、レイジの事も仲間の一人として大切だったからだ。
「俺達はレイジと桜の手がかりを追う事を優先しよう」
カリドはすぐに仲間の転移者達と、傭兵達に指示を出した。第三皇女の捜索よりも、仲間の行方を最優先にするのだ。
「今回の件は、ソルの時と似てるな…」
レストランの従業員達から聞いた情報は、気づいた時には何の痕跡も残さず消えていたというものだった。カリド達は怪しいのは、やはり一緒にいた少女だと考えていた。
「やはり一緒にいたのは…」
「ファルバウティの第三皇女でしょ」
地下室に現れたのは、歓迎の会への出席を禁じられていた涼子だった。彼女は転移者達が王城にいる間に、皇族について調べていたのだ。
「使われたのは、転移魔法だね」
「…もうオリヴァース大陸にはいないという事か」
第三皇女とレイジ達は既にファルバウティにいる、その可能性が高くなってきた。探しに行く為にもすぐにゲルミル大陸に向かいたかったが、色々と問題もあった。
「ゲルミル大陸に行くには、パスポート…許可証が必要になるね」
転移者全員分の許可証の発行には、かなり時間がかかる。誰がファルバウティに向かうかを、慎重に考える必要があった。
「俺たちが出向くしか無いだろ」
「我々がいなくなったら、誰が統率するんだ…」
誰が出向するかはカリドとシローネが自分達で決める事にしたが、中々決められずにいた。延々と話し合いを続けていたせいで、地下室に入って来た人物に気づかなかった。
「そもそもファルバウティに向かう必要は無い」
「メルビィ!帰って来てたのか」
「…何か手がかりを見つけたのか?」
口を挟んだのは、つい先程地下室に戻って来ていたメルビィだった。彼女は他の転移者達と一緒に、手がかりを探っていたが…
「誰の仕業か、分かったよ」
「本当に〜?」
涼子は疑わしそうにメルビィを見ていたが、メルビィの方は涼子を睨み返した。尚も疑わしいと感じる涼子を他所に、メルビィは犯人の名を言う。
「レイジと桜を消し去ったのは…涼子だよ」
次回はレイジ達とシャロンのパートになる予定です。
登場人物
シャロン・フレーグ
身長147cm。誕生日は7月7日。15歳。現在のファルバウティを治めるフレーグ家の三女で、第三皇女に当たる。淡い金色の髪と蒼色の瞳で綺麗な顔立ちだが、表情の変化が少ない。あまり喋らない少女だがかなり賢く、冷静な判断力を持つ。転移者達に強い興味を持ち、レイジと桜を連れ去った。




