ファルバウティの皇族
「ファルバウティの皇族に会ってくれるのですか!」
「ああ、他国の皇族が会いたいと言ってるんだ。断る必要が無い」
カリドさんとシローネさんは、ファルバウティの皇族と会う事を承諾した。俺も転移者としてこの世界での味方を増やした方が良いと考えていたので、賛成だった。
「使者には歓迎するという返事を持たせました。すぐに離宮で迎え入れる準備を始めなければ」
「我々もすぐに王都の外に出向いている者達に集まる様に呼びかけよう」
3日後にファルバウティの皇族や貴族を迎え入れる歓迎の会の準備はエルラ王子主体で行われ、カリドさん達は王都の外で活動している転移者達に指示を出し始めた。今回は俺がやる事は無さそうなので、申し訳ないと思っていた。
「私たちと同じように願いを叶えようとしている者は他にもいる。今回集まってくれるかどうか…」
「色んな奴がいるから、レイジ達も楽しみにしててくれ」
琴音はカリドさんやシローネさんの仲間に会った事もあるらしい。彼女も全員と会った訳では無いので、今回集まる事には興味がある様子だ。
「協調性はあるけど願いを叶えるのに必死って人も多いからね…あんまり人当たりが良くないのもいるよ」
シローネさん達の下に集まった転移者は多く、それぞれが異なる願いを抱いている。過去には衝突もそれなりにあって、現在では地下室から離れた転移者もいるとの事だ。
「でも、レイジ達も会っておくと良いよ。あなた達も呼ばれてるでしょ」
地下室を拠点としている転移者だけでは無く、王城付近の家で暮らしている俺達も呼ばれている。もちろん俺だけでなく、仁子や桜も含まれていた。
「でもリリィも呼ばれるとは…」
「私はレイジの第一発見者だから」
「そう言えばそうだった…どんな姿で倒れてたの?」
「見た事のない服だったよ。こっちの世界には無い服だったね」
リリィも転移者と関わりの深い人間として、歓迎会に呼ばれていた。転移者にどんな印象を持っているのか聞きたいと言うのもあるのだろう。
「そう言えば涼子は…」
「私は出ちゃ駄目なの?!」
「何らかのトラブルが発生する事を防ぐ為という、国王からの条件だ」
オリヴェル王国の国王であるガイネス・オリヴァースは、涼子に対してかなりの不信感を抱いている。今回ファルバウティの皇族が王都に呼ぶ事を許す条件は、涼子を関わらせない事だった。
「何で〜…」
「あのおっさんは、遺跡を勝手にアジトにした俺達の事を気に入らないみたいなんだ。今回の条件だって、かなり譲歩したんだろう」
王都の地下に異世界から来た人間を名乗る連中が、勝手にアジトを作ったのだから気に入らないのも分かる。治安を悪化させていないのだから、そこまで冷遇しなくてもと思うが。
「そう言う訳だから、涼子は王城には来るなよ」
「分かったよ…」
納得した涼子は、今回はおとなしくする事にした様だ。3日後の歓迎の会には俺もソワソワしていたが、落ち着く為にファルバウティに関する本を読む事にした。
ファルバウティの皇族は予定通り、3日後に到着した。その日の夕方、皇族に会う転移者達もバザール裏路地の地下室に集っていた。
「これから会う転移者…かなり荒っぽい人もいるから気をつけてね」
地下室の人口密度はかなり高くなっていて、様々な人種の者がいた。荒っぽい人がいると言っていたが…既に喧騒が起きていた。
「テメェ涼子‼︎俺の事忘れたとは言わせねえぞ‼︎」
「えっと…どちら様だっけ」
涼子は背の高い筋肉質の男に詰め寄られていたが、平然としていた。今回は煽っているのか、ソルの時のように本当に覚えていないのか…
「盗賊に襲われた時、どさくさに紛れて俺の宝石を盗んで行っただろう‼︎」
「あ…いや、お金が必要だったから…ごめん」
その一言を聞いた男は怒りのままに涼子に殴りかかり、涼子は魔法で障壁を作って防御する。咄嗟にカリドさんが止めに入り、男は落ち着きを見せる。
「あの…私も涼子さんに聞きたいことがあるのですが」
その人物は先程の男とは異なり、穏やかそうだった。だが彼も涼子に用があるらしく、彼女を冷たい目で見下ろしていた。
「私が研究した薬のレシピは何処に行ったんです…?」
「それは困っている医院があったから、そこにあげちゃったよ」
「そうですか。人の役に立っているなら何よりです」
彼は納得した様に離れたが、不服そうでもあった。その様子を見ていた俺に声をかけて来たのは、小柄な少女だった。
「涼子被害者の会もあります。あなたも無理やり歪を通して異世界に連れて来られた以上、入る事が出来ます」
「被害者の会なんてあるのか…」
「私は入れてもらったよ…本当だったら今頃も元の世界の家でゴロゴロしてたはずなのに…」
被害者の会がある事に驚いたが、彼女が他の転移者に迷惑を掛けてきた事を考えると不自然では無い気がする。俺も会に入らないかと誘われたが、丁重に断った。
「さっきの3人は、私も以前会った転移者だよ。涼子に宝石を盗まれたのがビル、薬のレシピの行方を聞いたのがクリフ、メルビィは…よく知らないんだよね」
「それ以外の連中は…」
「初めて会う。こんなにたくさん居るとは思わなかったな…悪鬼羅刹の集まりって感じだね」
地下室に新たに集まった転移者は、10人くらいだった。どうやら元からの知り合いはいないらしく、親しい者以外とは距離を取っている様子だ。
「私もカリドとシローネ以外の連中がどんな願いを叶えようとしているのか分からない。願いの内容によっては、不審な行動が目立ったり邪魔して来る涼子を強く敵視するのも仕方ないかもね」
(琴音や俺も十分敵視してると思うが…)
他の転移者達と親しくなるのは、難しそうだった。様々な思惑の者が集まり、新たな衝突が生まれる可能性もある。
「はぁ…別の国の皇族が会いに来るだけでしょ?面白いの?」
「顔出すだけでもいいと思うよ」
すっかり異世界に飽きた仁子は、相変わらずつまらなそうにしていた。ファルバウティの皇族の顔を見ておくと良いと言われて、仕方なく参加する事にしたそうだ。
「そう言えば桜は?」
「今日もレストラン休みじゃ無いから行かないって…」
「マジか…」
桜がレストランでの仕事をかなり気に入っているのは知っていた。彼女としては初めて見る皇族の連中がいるパーティに出席するよりは、レストランで料理を作る方が良いのだろう。
「みんな揃ったし、離宮に向かうぞ」
俺や仁子もカリドさん達も一緒に離宮に向かう事にした。エルラ王子から「異世界の服を着て欲しい」と頼まれているので、何人かは既に元の世界の服を着ている。
(やっぱりこっちの世界でTシャツ着てる人は目立つな…)
王都の住人達はこの世界に無い服を着ている人を、怪しそうに見ている。出来るだけ目を合わせない様にしながら、王城へ向かう。
「着いたぞ、これで参加者全員だ」
「こちらも準備は出来ています。ファルバウティの皆さんはもうすぐ着くはずです」
俺達はエルラ王子と一緒に、皇族を迎え入れる事になった。どんな人達が来るのか少し不安で、かなり緊張していた。
(来た…)
「君たちか…異世界からの転移者は」
一応挨拶を済ませたが、ファルバウティの皇族もしばらく黙っていた。こちらの様子を伺って、何から話せばいいか迷っているみたいだ。
「俺たちの何を知りたいんです?」
「この世界に来た目的、そしてその為に何をするのかを知りたい」
皇族たちの中心にいる男は、俺達の事を明らかに警戒していた。自分達の国にとって、この世界にとって危険では無いかどうかを探っているのだ。
「家族にまともな暮らしをさせてやりたいからです」
「…君たちは貧しい暮らしを脱する為に、この世界に来たのか?」
「色々な願いの者がいます。だからこの世界に迷惑をかけるかも知れません」
「そうか…分かった」
カリドさんは、転移者がこの世界に害をもたらす可能性がある事を認めた。それを聞いた相手の男は納得した様に頷き、改めて握手を求めた。
「アルベルトだ」
「俺はカリド。よろしく」
お互いに笑顔で握手を交わしていたが、カリドさんもアルベルトも心を許した訳では無さそうだ。この後は歓迎の会となっているが、一瞬も油断出来なさそうだ。
夜になり歓迎の会が始まって、王城の料理人達が作った高級そうな料理が用意される。どれも味付けが濃すぎず、素材の味を丁寧に活かした料理だった。
「何だよワインあるじゃねえか!」
転移者達の内の何人かが酒を飲んで、酔い始めた。酔っ払った男の1人がファルバウティの皇女に絡もうとしたが、アルベルトが素早く抑えた。
「全く…品が無い奴もいるな」
ファルバウティの皇族達は、明らかに居心地が悪そうだった。原因は明らかに酔って暴れ始めている、数人の転移者だった。
「カリドさん…放って置いて良いんですか?」
「うん…どうしよう…」
当のカリドさんも困った様子を見せていて、この状況を制御できないらしい。一方のシローネさんは兵士に手伝ってもらいながら、酔い潰れた連中を運び出していた。
「シローネの方が頼りになるね」
「何も言えない…」
琴音やカリドさんとそんな会話をしている中で皇子の1人が慌てた様子で誰かを探しているのを見つけた。確か彼はファルバウティの第一皇子、ルースだった。
「どうしたんだ?」
「妹が1人、いなくなったんです」
ルースはすぐに叔父であるアルベルトに伝えに向かった。俺達は会場を抜け出して、何処を探すかを話し合った。
「居なくなったのは、第三皇女みたいだな…確か名前は、シャロン」
「あの兄妹の中で1番下の妹ですね」
フレーグ家の子供達は、第一皇子ルース、第一皇女ディリア、第二皇女エリエナ、第二皇子グリス、そして第三皇女シャロンの5人だった。どんな人物かはまだ分からないが、シャロンが一番小柄なのは覚えていた。
「どうする…?」
「俺は王都の中を探します。琴音は王城の中を…」
「そのまま帰る気?」
俺は内心、このパーティに疲れを感じていて帰りたくなっていた。それに皇女がいなくなったとなると大変な騒ぎになるはずなので、巻き込まれたく無かったのだ。
「俺、迷子になった皇女を探しに行くから…」
「ちょっとレイジ!」
俺は呼び止められても構わず、とっとと広間を出て行った。もう十分料理は食べたし、ここにいても俺にやれる事は無い。
夜の王城周辺は人数が少なくかなり静かだったが、見回りの人がいたので治安は悪くなさそうだった。
(改めて見ても綺麗な街並みだよな…桜が働いているレストランに行ってみるか)
すぐに帰らなくてもいいと思った俺は、桜がいるレストランに向かう事にした。デザートだけでも頼んで、彼女と何か話をするのも良いかもと思ったのだ。
その頃王城は、第三皇女がいなくなった事により大騒ぎになっていた。歓迎の会は中断となり、転移者達を置いて兵士達は慌てた様子で捜索に乗り出していた。
「俺達も探すのを手伝うぞ」
「何で迷子を探す事になるの…」
仕方なくカリドは他の転移者にも、迷子の皇女を探す様に指示を出した。とは言え嫌々出席していた仁子をはじめ、積極的に協力する者は少なかった。
「あら、いらっしゃい」
「もうすぐラストオーダーってタイミングで悪いな…」
「大丈夫ですよ、まだ他にお客さんもいるので…」
もう遅いからか、レストランにいた客は俺以外には1人しかいなかった。テーブルにいる幼い少女は、ビーフシチューを食べていた。
「じゃあ、プリンを一つ…」
注文して数分後に用意されたプリンは、勿論こだわった手作りの一品だった。別に食べても体の悪いところが治る訳では無いが、とても滑らかで程よい甘さだった。
「これも桜のレシピで作ったのか」
「はい。とても美味しくなったって、評判なんです」
前のプリンは滑らかとは言えず味もイマイチだったらしいが、桜が元の世界から持って来ていたレシピで作るとかなり美味しいプリンになった。それ以外の料理も俺達の馴染みのあるものに変化して、この世界の人々からの評判も良いみたいだ。
「どうやって作ってる?この世界に電化製品なんて無いだろうし」
「調理器具を元の世界の物に近づけて改良してるんです。それから火に関しては魔法で生み出しているので、火事にはなりにくいです」
魔法で生み出した火を使って料理をするのは、一般的では無いはずだ。一部の料理人にしか出来ない技術を扱える桜には、かなりの才能があるようだ。
「デザート持ってきて」
先程の少女がデザートを頼んで、厨房の料理人達が準備する。恐らくこの日最後の仕事だが、疲れを見せてはいない。
(あの子…)
その少女の髪は淡い金色で、瞳は美しい蒼色だった。顔立ちは綺麗だったが、常に無表情で何を考えているのか一目見ただけでは分からない。
「あなた、桜と同じ転移者でしょ」
「え…?!」
言葉を交わしていないのに、俺を転移者だと見抜いた少女に少し驚いたが、雰囲気で分かるものなのかも知れない。この少女は只者では無いと感覚で分かったので、何者か聞いてみる事にした。
「僕はレイジ・ミナヅキ、君が言った通り転移者だよ。君はいったい…」
「私はシャロン・フレーグ、それだけ」
シャロン・フレーグ…ファルバウティの第三皇女だ。意外なところでの遭遇となり俺はまた驚いていたが、彼女は変わらず静かな目をしていた。
いつの間にか5000字越えの長編回になってしまいました…さらに登場人物が増えた回となりましたが、大半がサブキャラとなる予定です。
登場人物
クリフ・ハミルトン
身長175cm。オーストラリア出身の男性。表情が硬く、金色の髪を短髪にしている。元の世界では医者だった。
ビル・アバト
身長189cm。カタール出身の男性。黒の短髪で、顔のあちこちに傷がついている。キレやすい性格で、元の世界では貧困層だった。
メルビィ・ステープル
身長150cm。イギリス出身の少女。髪は銀色で、自毛かどうかは不明。謎が多い人物で、涼子の事を嫌っている。
アルベルト・フレーグ
身長185cm。ファルバウティの皇族で、皇帝ガルムハルトの弟。黒く長い髪を、後ろで結んでいる。自分にも他人にも厳しく、転移者に対しては一切油断しない人物。
ルース・フレーグ
身長169cm。ファルバウティの第一皇子で、気弱な人物。金色の髪を丁寧に切り揃えている。優柔不断な面があり、自分は次期皇帝には相応しくないと考えている。
ディリア・フレーグ
身長170cm。ファルバウティの第一皇女で、かなりの野心家。金色の髪で、少しカールした髪型。第一皇子を引きずり下ろしてでも、皇位を継承しようと考えている。
エリエナ・フレーグ
身長161cm。ファルバウティの第二皇女。金色の髪を、後ろで結んでいる。皇帝に仕える事を目標としていて、皇位には興味が無い。
グリス・フレーグ
身長156cm。ファルバウティの第二皇子。金色の短髪。小柄な体格だが武勇に優れ、将来は軍を率いる将になろうと努力している。




