襲い来る転移者 涼子VSソル
(ソルの手が触れた物が吹き飛んでいる…異能の正体は何だろう)
涼子は魔法で真空の刃や炎を生成しながら遠距離で戦い、ソルの異能を分析していた。ソルが触れた物は派手に吹き飛び、潰れているのだ。
(瞬間的に衝撃を加えて…違うか)
単に物に衝撃を与える異能なら、あの様に吹き飛んだりはしない。特定の方向に力を加える異能だと、涼子は判断した。
「皆、気をつけて。そいつの手に触れた物は反対の方向に吹っ飛んで行くよ」
「何だそりゃ…」
涼子の分析を聞いた俺は、ソルに接近戦を挑むのはとても危険だと判断した。接触を許せば重傷は確実で、最悪即死する可能性もある。
「ソルの異能は斥力を操るもの…詳しい説明はしないけど、端的に言えばソルの手と他の物には強い反発力が発生するって事」
「斥力?」
「確か引力の反対だよ」
引力の反対だと教えてくれた琴音は、完全に涼子に戦いを任せるつもりだった。怯えるエルラ王子を他所に、安全地帯に逃亡しようとしている。
(この状況で俺に出来る事は…)
攻撃魔法を使って戦う事は、今の俺には困難だった。かと言って接近戦を仕掛けるのは、自殺行為に等しい。
「強いっ…こうなったら…」
ソルは足元に斥力を生み出して反発させ、素早くエルラ王子に近づいた。すぐに、怯える王子に隠し持っていたナイフを突きつけた。
「ひいぃっ‼︎助けてくれぇっ‼︎」
エルラ王子は反撃しようすらせず、悲鳴を上げるだけだった。あの様子では戦闘能力は皆無だと言う事が、よく分かる。
(異能で、弱点を探してみるか…)
俺は以前ネズミ型の魔物の体が透けて見えた時と同じ様に、異能の発動を図った。すると、ソルの皮膚が透けて内臓の位置などを確認する事ができた。
(首元を狙えば一撃で致命傷を負わせられる…)
俺は魔法で真空の刃を生み出して、ソルの首に狙いを定めた。そして俺は迷う事無く、真空の刃をソルに向けて放った。
「何っ‼︎くっ…」
ソルは間一髪で回避動作を取ってしまい、致命傷を負わせる事は出来なかった。彼は魔法を使い、俺の方へ石を弾丸の様に飛ばして来た。
「ぐあっ…」
俺は魔法で障壁を作って身を守ろうとしたが、薄すぎた。飛んで来た石の威力は弱まったが、確実に俺の皮膚をえぐる。
「レイジ‼︎」
「鬱陶しいな…お前から先に…」
ソルが俺に向かって接近して来るが、先程の石のダメージが予想以上に大きかった。痛みも強く出血の量も多く、早期の治療が必要なのは明らかだった。
「ニコちゃん‼︎何か撃てる武器作って‼︎」
「撃てる武器?!拳銃じゃダメなんでしょ⁉︎」
「ボウガンか何か!弓でもいい!」
仁子が思い付いたのは、好きなアニメに出て来たクロスボウだった。どんな風に扱っていたかを思い浮かべながら、何とかクロスボウを生成した。
「大丈夫!これなら使える!」
涼子はテーブルの破片を魔法で素早く削って矢の形にして、カーテンの残骸などの布を使って弦を補強する。魔法で硬くした矢を、涼子はソルに向けて放った。
俺には何が起こったのか、すぐには理解出来なかった。一瞬でソルの腹部から血が噴き出て、そのまま倒れたのだ。
「何が…」
「ふぅ…上手くいった」
涼子が持っていたボウガンは罅割れて、そのまま消えていった。どうやら魔法の出力に耐えられず、崩壊した様だ。
「ソルは…死んだのか?」
「生きてる。これから拘束するところ」
城の兵士たちがすぐに動いて、ソルを縄で縛り始めた。医師達もやって来て俺の傷の応急手当も始まった。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないな…とても痛い」
医師達の話によると、俺は城の医務室に運ばれる様だ。王城の医療設備ならこの世界でもまともな医療を受けれるだろうと思う俺を、医師達は運んで行った…
「死ぬかと思った…」
「でも傷の治りは早いね」
俺の傷の治りは予想以上に早く、まだ痛みは残るが、戦いの翌日の午後には普通に動けそうだ。もちろん医者から激しい運動は控える様に言われている。
「この世界の医療は見た目より進んでいるのか…」
王城の医者達が用意した薬の効き目は、意外と強力だった。治療は正直痛かったが、耐えられない程では無かった。
「そう言えばソルは…」
「牢屋の中で治療を受けてる。もう少ししたら涼子が尋問するみたい…1人だけで」
異世界の人間とは言え、尋問を行うのが涼子1人だけ…元々彼女が標的だったみたいだし、任せるのは不安な気がする。
「地下室の人達を呼んだ方が良いんじゃ…」
「うん、涼子だけに任せたら何が起こるか分からない」
俺は何とか立ち上がりバザール裏路地の地下室に向かおうとしたが、医師に止められた。まだ動くのは危険かも知れないから、他の人に任せるべきと言われた。
「じゃあ私が行ってくる」
「ああ…任せた」
結局、琴音が地下室に行ってシローネさん達を読んで来る事になった。しかし俺達は、既にソルへの尋問が始まっている事を知らなかった。
(琴音が地下室の連中も呼ぶべきだって言ってたけど、まあいいよね…)
琴音がレイジの様子を見に行く少し前、涼子は既に牢屋へ向かっていた。やはり彼女は、1人でソルと対話するつもりなのだ。
(ソル・レウ…本当に思い出せない。向こうの人違いじゃないかな)
自分が何か悪い事をしたとは思わず、相手の人違いという事にする涼子。踏まれた方は忘れなくても、踏んだ方はすぐに忘れてしまうのだ。
「さて…君はこの世界でどんな願いを叶えたかったのかな?」
「貴様はまだ俺の事を思い出さないのか…」
ソルは強い怒りを感じていたが、願いを話す事にした。さっさと話さなければ、尋問が拷問になると判断したのだ。
「一番強い権力を…国連のトップになる事を望んだ。前にも話しただろ」
「そうだっけ?」
ソルのイライラはどんどん強くなっていき、我慢の限界になっていた。彼は涼子に過去何があったかを、全て教える事にした。
「そもそもお前が協力すると言ったのに、俺を裏切ったのだろうが‼︎」
「それって最初から協力じゃなく利用してただけじゃ…あ」
やっと涼子は何かを思い出したようだが、すぐに元の表情に戻った。相変わらず平然としている涼子に対して、ソルは怒る。
「やっと思い出したか…」
「ごめん…似たような事が何度もあったから」
その言葉を聞いたソルは、自分以外にもたくさん涼子に利用された人がいる事に驚いていた。彼は先程涼子に協力していた連中が、その事を知っているのか気になり始めた。
「さっきの連中は、お前が何をして来たのか知ってるのか」
「教えてないから、知らないでしょ」
「奴らも同じように使い捨てるつもりか?」
「まだ考えてない」
涼子の言う事に対するソルの憤りは、どんどん強くなっていった。一方でこいつの考えを知ったら涼子の味方をする気が無くなるかも知れないと思った。
「涼子はお前達を利用する事しか考えていない…そう奴らに言ったら、味方は残るかな?」
「転移者連中が、私を手放す事は無いよ。一番この世界に関する知識を持っているのは、私なんだから」
ソルは涼子に反論する事が出来ず、黙るしか無かった。いつまでも牢屋にいて疲れた涼子は、少し外の空気を吸う為に外に出た。
「ソル・レウ」
「ひいっ⁉︎」
ソルは自分の背後に現れた白装束の人物に驚いて飛びのいた。牢屋の扉は開いておらず、鍵もかかったままのはずだ。
「我々の意向を無視した独断専行…容認できない」
「待ってくれ‼︎涼子を放っておくのが危険なのは、あんた達も理解しているだろう?!」
白装束の人物は呆れた様子で、ため息をしていた。ソルは相手の考えを、全くと言っていいほど理解できていなかった。
「涼子に関してはしばらく泳がせる…そういう方針だ」
「それは…わかって、いた。分かっているんだ…」
ソルは必死になって白装束の人物を納得させる理由を探したが、見つからなかった。そうしている間に白装束の人物は、ソルに手を伸ばして来た。
「ま」
ソルは何か言おうとしたが、白装束の人物共々牢屋から消えてしまった。外の空気を吸いに行った涼子が戻って来る10秒前の出来事だった。
「ソルは結局行方知れずか…」
「涼子が目を離していた時間は1分も無かったらしいです。牢屋の鍵に痕跡は残されていなかったので、魔法を使ったのではと…」
俺は城の兵士から聞いた話を、地下室のカリドさんに伝えていた。ソルに魔法を使う体力が残っていたとは思えないので、外部からの侵入者の魔法である可能性が高いという事だった。
「涼子…ソル以外にも転移者との繋がりがあるらしいな」
シローネさんは俺が連れてきた涼子に、視線を向けていた。視線に気づいた涼子は、そっぽを向いて無視しようとする。
「では…今度こそ教えてもらおうか」
次の話は今回の話から、少し時間が経った後の話になります。
登場人物
ソル・レウ
身長172cm。アジア系の男性。黒い髪を刈り上げている。「国連のトップになる」という願いを叶える為に、レイジ達に攻撃を仕掛ける。
斥力を操る異能を持ち、手で触れたものを反対方向へ吹き飛ばせる。
レウニアスの王城で涼子たちに戦いを挑むが敗北、その後白装束の人物に連れ去られて行方不明になる。




