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桜と涼子 転移者の集い

「リリィ達は…」

「追い出したよ」


地下室に侵入して来たリリィ達は涼子の拘束を解いたが、あっさりと傭兵達に取り押さえられた。涼子は別の部屋に連れて行かれて、リリィ達は地下室の外に追い出されていた。


「彼女達は、俺を心配して来たんです」

「そんな事は、俺たちだって分かってるよ」


カリドさん達はリリィ達に厳しい処分を下す気は無いらしい。シローネさんはそれよりも、リリィ達と一緒にいた少女の方が気になるみたいだ。


「ええと…五条桜と言います」

「君は涼子を助ける事が目的だったみたいだな」

「はい…少しの間、世話になったので」


桜も涼子によってこの世界に連れて来られた人間らしい。俺も食べさせられた不味い果実によって、こちらの言葉を話せる様になったみたいだ。


「こっちの言葉を話せる様にしてもらったり、お金を貸してもらったり、住む場所を用意してもらったり、涼子さんにはお世話になりました」

「え…私、あのマズイ木の実みたいなの食べさせられただけなんだけど」


涼子は桜に対しては、随分と優しく接していたらしい。一方で琴音は、この世界の言葉を話せる様にしただけで、放置されていた様だ。


「扱いの差がすごいな…」

「シローネさん達に助けて貰わなかったら、どうなってた事やら…」


王都の近辺で途方に暮れていた琴音を見つけて保護したのが、カリドさんだった。それから琴音はこの地下室で寝泊まりする様になって、王都を散策していた所、たまたま涼子に遭遇したらしい。


「でも今日は本当に疲れた…お風呂入って来る」


そう言って琴音は、風呂場となっている部屋に向かった。普段から気怠げで体力が無さそうな彼女に取ったら、今日は本当に大変な一日だっただろう。


「君は先程の…リリィ達に助けて貰ったのか?」

「ああ…言葉も伝わらなかったけど、俺が困っている事は伝わったんだ」


彼女達は言葉も話せなかった俺を家に入れてくれた事を教えた。ついでにもう一人、神木仁子という転移者もいると伝えた。


「仁子は多分宿屋で休んでる…俺も疲れた」

「ああ…色々と付き合わせて、悪かったな」


話の続きは後にして、俺も風呂に入らせてもらう事にした。新山の洞窟でオークに遭遇するわ、王都の公衆浴場で琴音と再会するわ…かなり大変な一日だった。


温泉が湧いて風呂となっている部屋は複数あって、大浴場もあれば少人数用の風呂がある浴室もあった。多くの浴室が使用中または清掃中となっていたが、一つ空いている浴室があったので使わせてもらう事にした。


(脱衣所狭いな…)


まあ、洞窟を元に作った地下室に風呂があるだけありがたい。俺は脱衣所でさっさと服を脱いで、小さめの浴室に入った。


(蒸し暑い…)


狭い洞窟である以上仕方が無いが、最低限の換気口しか無い浴室はかなり蒸し暑かった。さっさと風呂に入る為に体を洗った後、温泉に入った。


(少し熱いな…)


天然の温泉に入って疲れを取るのは、やはり格別だった。源泉を使っているのか、どんな泉質なのかは分からなかったが、効能も良さそうな気がした。


(こっちの世界に来て3日目か…)


涼子と話をしただけの昨日はともかく、今日は異世界に放り出された日と同じ様に、かなり疲労が溜まっていた。一昨日は盗賊に襲われたり言葉が通じなくて困ったり…


(だけど…転移者は意外と多いんだな)


俺と同じ様な境遇の人間が意外と多い事には、希望を感じていた。お互いに協力すれば、少しでも苦労は減るはずだ。


(…涼子は何を考えているのか。他に彼女の様な転移者がいたら…)


涼子の願いは、恐らく俺たちの世界の在り方を変える、危険なものだろう。他にも似たような願いを持つ転移者がいたら、対立は避けられないだろう。


(熱いな…そろそろ出るか)


換気がうまくできていない浴室は暑く、のぼせそうだった。俺はもう一度湯で体を流した後、脱衣所に戻った。


「ここのお風呂暑いんだけど…」

「私達の世界と同じ様に換気するのは難しいからな…」


俺が談話室に戻ると既に風呂から上がっていた琴音と、シローネさんがいた。どうやら琴音が、風呂が暑かった事に関する愚痴を言っていたみたいだ。


「疲れは取れたか?」

「はい、いい温泉でした」


シローネさんは俺が疲れているのを分かっていたので、気を遣ってくれている様だ。すぐに俺達は、涼子に関する話をする事になった。


「やはり、涼子とは対立せず出来る範囲で協力していくしか無いと思います」

「消極的な選択だが…仕方が無い」


涼子と戦う道を選ぶのは、明らかに愚かな選択だ。異能同士をぶつけ合う戦いは、数を揃えれば解決という訳では無い。


「レイジと琴音は、今後も涼子と行動を共にして欲しい」

「見張っていて欲しいという事ですね」


シローネさんは頷いたので、俺も涼子に対する方針を理解出来ていたみたいだ。表向きは友好的に接すれば、向こうもそんなに過激な手段になるでないはずである。


「地下室の外の様々な地域にも、俺達の仲間の転移者がいる。彼らとも協力して…」

「え…ここから離れるの嫌なんだけど」


シローネ達と同じ様に地下室で生活していた琴音は、涼子と行動を共にするのを嫌がっていた。見たところここはかなり安全そうだし、離れたく無いのは当然だろう。


「レイジ一人だけではなく、君も一緒にいた方がいい。何かあったらいつでも戻って来ていいから…」


シローネさんは琴音に理由を説明した上で、頼み込んでいた。琴音も渋々ではあったが、すぐに納得したみたいだ。


「それじゃ一緒にいる事になるからよろしくね」

「ああ…」


琴音は以前と同じ様な雰囲気で俺と接しているが、俺も前とは変わった筈である。彼女が大学に進学する前と同じ様な関係ではいられないと思うが…


「今晩は用意した個室に泊まって行ってくれ。リリィと涼子…それからジョージという男は宿に送った」

「…何から何まで、ありがとうございます」

「気にしないでくれ。同じ世界の人間をただ放置する様な真似はしないだけだ」


願いを叶える転移者の中にも、巻き込まれただけの俺たちに優しく接してくれる人達がいてくれて本当に良かったと思っている。


俺が泊まる事になった部屋は狭かったが、ベッドはそれなりの物だった。値段はどれほどの物かは分からないが、ぐっすり眠れそうだ。


「はぁ…」


疲れ切っていた俺は、すぐにベッドで横になった。地下室なので窓は無く、燭台の火が消えたら真っ暗になった。


(明日も…大変そうだ…)


俺は明日の事を考えようとしたが、ベッドの寝心地が割と良かったのもあってすぐに眠ってしまった。そしてそのまま夢を見る事は無く、朝まで眠っていた。


「おはようございます…」

「あなたは…桜ちゃん」


パンなど朝食を食べた後、俺達に話しかけて来たのは、昨日リリィ達と一緒に地下室に侵入して来た桜という少女だった。桜は涼子に色々と助けて貰った事を先程聞いたが、どう思っているのだろうか…


「私も一緒について行く事になりました」

「涼子についてどう思ってる?どんな人?」


琴音の方は涼子のかなり身勝手な部分しか知らないはずだ。桜は涼子からの援助を受けていたみたいだが、その時の涼子の態度はどうだったのか俺も気になる。


「まずこの世界で自分の願いを叶えるのを手伝って欲しいと頼まれました。私も今すぐ帰りたい訳では無かったので、涼子さんに協力しています。私に対しても住居に不満は無いかなどを聞いてくれて、色々と気遣ってくれています」


この世界での言葉を喋れる様にした後は放置された琴音とは、扱いがかなり違う。持っている異能の種類か、それとも協力的な姿勢かどうかか…


「そう言えば涼子には妙に自信があるみたいだけど…何でか知ってる?」

「あの子、この国の王子のエルラ君と知り合いなの」


オリヴェルの王族と知り合いならば、あれ程強気な態度に出ていたのも理解出来る。こちらが下手な事をすれば居場所を失う…かなり不利な条件だ。


「俺達が涼子を見張っても、いい様に利用されるだけな気もするけど…」


俺は疑問に思った事を、つい口に出してしまった。彼女は恐らく頭もかなり良いので、出し抜く事も出来無さそうだ。


「それでも、一緒にいて彼女の事を知るのは無意味では無い」

「あんまりにもやばそうな事企んでいたら、説得して止めます」


カリドさんの言う通り、気は進まないが涼子の事をもっと知るべきではある。彼女の本心を分かった上で対話すれば、より穏健な願いに変えてくれる可能性もある。


「じゃあな。困った事があったら、いつでも助けになるからな」

「…同じ境遇の人が沢山いる事が分かって、安心しました」


カリドさんやシローネさんにも、それぞれの願いはあるが、俺達を助けてくれている。俺もこの人達の為に、やれる事をやろうと思っていた。


「最後に忠告する事がある…涼子がいるから分かると思うが、転移者は味方ばかりじゃ無い」

「分かっています」


他の転移者全員の事を把握している人間はいない。相手がどんな人間かを慎重に判断する必要があるのは、誰もが理解していた。


「それで、私の事を見張る訳ね」

「ああ…気が進まないけどな」


涼子は宿の外で、リリィ達と共に俺達を待っていた。気が進まないというのは涼子と行動を共にする事自体だが。


「お前から目を離す訳にはいかないからな」

「私ってそんなに危険?」


歪を開く異能力で他の人間をこの世界に引きずり込んでいる時点で、十分に危険だ。自分がこんな目に遭った元凶だからこそ、もっと知りたかった。


「おい…昨日住民登録を済ませたばかりなんだぞ」

「大丈夫だよ。私達はこの近くにある桜ちゃんの家で暮らすから」

「大丈夫じゃねぇよ…登録の取り消しに行かなきゃいけねぇ…」


状況を理解しきれていないジョージさんは、頭を抱えていた。ジョージさんにも世話になったから、お礼をしなくてはと思っている。


「さてと…これからエルラ王子に会いに行かないと。あ、仁子もついて来てね」

「はぁ…この用事が終われば、少しは落ち着けるのかな…」


俺達はこれから、涼子の知り合いらしいエルラ王子と会う事になる。彼がどんな人なのか、俺達の生活はどうなるのかは、まだ分からない。


やっぱり世界観的に王族なども登場させる必要がありますが、異世界人とどの様な関係性にするのか、構成を考えるのは難しいです。


登場人物 


五条桜 

身長154cm。誕生日は5月5日。高校3年生。ぽっちゃりした体型で、おっとりとしたマイペースな性格。実は金色に近い髪は自毛。環境への適応能力は高く、異世界に転移したにも関わらずのんびりしている。元の世界に戻る事を急がず、涼子と一緒に異世界を満喫するつもりらしい。

彼女も転移者である為、異能力を扱う事ができ、様々な「気」を追う事が出来る。異世界に来た桜は気配を追って、自らに降りかかる危険を回避したり、他者を助けたりしていた。


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