閑話 王都の宿屋
レイジ達がカリドと共に地下室の通路を進む少し前…
「はぁー…」
レイジ達が地下室に向かっている頃、仁子は宿のベッドに寝転がっていた。今の彼女は本当に疲れていて、何もやる気が起きなかったのだ。
(こんなに危ない世界だったのね…)
あの時助けが入らなければ、仁子はオークに殺されていた。あまりにも酷い目に遭ったので、今日は何もしないと決めていた。
「レイジ達は既に宿に向かったかな」
「宿の場所は涼子に教えてあるから、迷う事は無いと思うが…」
住民登録を済ませたジョージ達は、今晩の宿へ向かった。既にレイジ達も、宿で待っていると思っているのだ。
「戻ったぞ」
ジョージ達は宿の予約した部屋に入ると、先に休んでいた仁子がいた。レイジ達はおらず、仁子は慌てる様子もなく布団で寝転がっているだけだった。
「ニコ、調子はどう?」
「あんな目に遭ったんだから良い訳ないでしょ…」
仁子はオークの血飛沫と肉片を頭から浴びてしまった。浴場で洗い流したので汚れは取れているが、まだ感触などを覚えている。
「レイジと涼子はまだ来て無いのか?」
「来てない…」
仁子はベッドから体を起こす事なく、まだレイジ達が来ていない事を告げた。まだ彼らが宿に来ていない事に、緊急性は無いと考えているみたいだ。
「レイジ達は大丈夫かな…」
「確か市場の方に向かっていたが…」
ジョージもリリィも王都の地理には詳しかったが、いくら何でも広すぎる。同じく王都に詳しい涼子には宿の場所を伝えてあるので、帰りを待つのが最善だった。
「あの…」
「あなたは…!」
リリィ達の部屋のドアをノックして入って来たのは、ぽっちゃりした体型の女の子だった。彼女は新山の洞窟で、リリィ達の窮地を救った人物でもある。
「市場の方から、嫌な気配がしてますぅ…ひょっとしたらあなた達の仲間も危ない目に遭ってるかも知れません…」
「何だって…?」
「はい…私には異能と言えるものが…」
「その、嫌な気配を追うことは出来る?!」
リリィは慌てた様子で少女に詰め寄り、ジョージに宥められた。リリィも、レイジ達が危険な目に遭っていないか心配なのだ。
「その異能力があれば行方を追えるな…名前は」
「サクラです」
「分かった。サクラ、案内してくれ…それからニコ」
「私は行かないよ」
仁子はベッドの上から動くつもりは無さそうだった。レイジ達が危険な目に遭っている可能性や他の転移者の事よりも、とにかく休みたかったのだ。
「そうか…じゃあ武器を用意してくれないか?」
「え…簡単な物しか作れないけど…」
ジョージに頼まれた仁子は、ナイフを三つ生成した。レイジ達がいた世界の軍隊で使用されているコンバットナイフだ。
「これなら戦えるな」
「留守は任せます」
ジョージとリリィはサクラと一緒に、嫌な気配を追う事にした。一人部屋に残された仁子は取り敢えず、軽めの夜ご飯としてパンと焼いたハムを食べる事にした。
今回は区切りがいいので、短めの話にしてみました。
用語集
王都の宿屋
今回ジョージ達が予約した宿屋は、それなりにランクが高い宿である。宿の中にもパンや調理済みの肉類などを提供する店があり、夕食などを揃える事ができる。




