鍋中
朝起きると見覚えのない鍋がコンロに置かれていた。
昨晩私は疲れていたし、何より一人暮らしの人間の家に見覚えのない鍋がそうそう転がり込んでくるはずがない。
不思議に思うよりもさきに気味が悪くなった私は鍋に手を当ててみた。とっくに冷めた鍋は金属特有の冷ややかな冷たさを手のひらに感じさせていた。
次に気になったのは鍋の中身だった。
私は恐る恐る蓋を外し、中身を伺った。
しかし、鍋を退けて中身を見た瞬間、視界に映っていたものを私は理解できなかった。
中身は赤黒い液体だった。鍋の九分目まで並々と入っている。
恐ろしくなった私はソファに倒れこんだ。
もう何が何だか分からない。
そんなソファには先約が居た。先居座った首の無い夫だった。