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遺跡の守り手

 俺は薬店が閉まる前になんとか滑り込み、ハンナさんに渡す薬を購入した。

 薬だけじゃ病は治せないが、なにせ(びん)ひとつで金貨2枚の高級品。

 ハンナさんの容態(ようだい)は、少しだけ快方に向かった。

 (せき)が少し減り、血色もよくなったように見える。

 突然、高級な薬を持ち帰った俺に驚いていたが、街の周囲で魔物を狩り、魔石で稼いでいることを話すと、ハンナさんは喜んでくれた。

 まだまだこんなものじゃない。

 育ててもらった大恩があるんだ。

 もっといい治療を受けられるように、稼がなくては。


 翌朝、俺は街の警備兵が集まる詰所(つめしょ)に向かい、退職を願い出た。

 俺がグリフォンに殺されかけたことを知っていた上長は、引き止めなかった。

 もっとも、大した戦力じゃないから辞められたところで痛くも(かゆ)くもないのだろう。

 そこは少し寂しいが──

 俺はカイルや警備兵の仲間たちに礼を言うと、詰所を後にした。


 昼前にリズと合流。

 今日は街の南西にある遺跡を探索(たんさく)する予定だ。

 なんでも古代に作られた建物らしく、貴重な魔導書が眠っているという噂だ。

 情報の出どころがディモンなので、あまり期待はしていない。

 戦闘に使える魔法なら戦力アップにつながるし、住み着いた魔物を倒せば治安も向上、魔石で金も稼げる。

 今の俺にとってはいいことずくめだ。


「ずいぶんやる気じゃない。なんかあったの?」

「ああ。昨日薬を買って帰ったんだけど、少し効果があったんだ。ハンナさんは俺にとっては親みたいなもんだからさ」


 リズは少しだけ寂しそうに微笑んだ。


「アッシュにとって大事な人なんだね。あたしもいつか会ってみたいな」

「優しい人だよ。リズの話をしたら、一度お礼をしたいって言ってた」


 快癒(ヒーリング)の魔導書が見つかれば、リズだけでなくハンナさんも治せるようになる。

 手がかりはリガレアの街に訪れた大賢者が快癒の魔導書を作り、どこかに残したという伝説だけだ。

 怪しそうな場所は片っ端から調べていくしかない。



 平原を抜けた、沼地の近くにその遺跡はあった。

 古代の宗教施設として使われていたらしいが、今は石柱もところどころ崩れており、相当な時間の経過を感じさせる状態だ。

 入り口まわりの石材にも、(こけ)や熱帯樹の枝や根が(から)みついている。

 木々が侵食(しんしょく)した瓦礫(がれき)の山は、視界の先まで広がっていた。

 天井もところどころ崩れていて、そこから陽の光が差し込んでいる。

 あたりはうっすらと霧に包まれていた。


「ずいぶん広いね。それに、あちこちから魔力の反応があるよ」


 リズが感知魔法(センシング)索敵(さくてき)してくれている。

 足場が悪い中を、器用に前進してく。

 比較的軽装とはいえ、身軽なもんだ。


「俺が先に行くよ」

「はーい。無理しないでね」


 遺跡に入る前から、防護魔法(プロテクト)を使いっぱなしだ。

 自分にもリズにも付与してある。

 こんなに贅沢な使い方、普通なら魔力の消費が気になるところだろう。

 だが、俺には関係ない。

 元の量が常人の比じゃないうえに、一晩ぐっすり眠れば魔力は満タンになるのだから。

 防護(プロテクト)のおかげで、多少の不意打ちを受けても無傷でやり過ごす自信があった。


 侵入者に気づいたのか、霧の向こうにぼんやりと人影が現れる。

 剣を引きずる音まで聞こえてきた。

 ずいぶん動きが遅いな。

 近づくにつれて、それが人ではないことに気づく。

 魔力で動く骸骨(がいこつ)戦士、スケルトンだ。


 がらんどうの目が俺たちを捉えている。

 確認できる限り、8体が思い思いの装備でこちらに向かっていた。


「なあ、リズ。あれって炎は効くのかな?」


 焼いて残った部分だけで構成されたような連中である。


「んー、火力次第じゃない?」


 こちらの会話に反応したのか、急にスケルトンたちはガシャガシャと音を立てて走り出した。

 遺跡の内部はほとんどが石造(いしづく)りだ。

 多少派手にやっても、火事の心配は無いだろう。


 俺は軽めの炎弾(フレイムバレット)を、立て続けに3発放った。

 直撃したスケルトンは炎に包まれ、その場で崩れていく。

 身につけていた古い(かぶと)や鎧だけが、がしゃんと音を立てて地面に落ちた。

 あれ? こんなもんでいいのか。

 強力な魔物ではないことは知っていたが、それにしたって呆気ない。

 残ったスケルトンたちにも炎弾(フレイムバレット)を叩き込む。

 それぞれが着弾した瞬間から一歩も動けないまま、燃えて朽ちていった。


 遺跡を守る戦士たちだったのだろうか。

 それとも、遺跡を(おとず)れた冒険者が返り討ちにあったのか。

 いずれにしても、悲しい光景だった。

 しかし、自分の亡骸が魔力に操られて遺跡をさまようなんて、嬉しいことじゃない。

 彼らを闇の呪縛から解放できた、と考えるようにした。


「トレントに比べると魔石は小さいね。金貨1枚ぐらいかな」


 リズは魔石を拾い集めていた。

 淡々(たんたん)としたものである。

 濃い紫色の石が、黒く変色した土の上に乗っている。


「その大きさじゃ、たいした金額にはならないかもな。でも、数は用意できそうだ」


 俺は再び右手をかざす。

 薄い霧の奥に、無数の人影が浮かんでいた。



 18、19……

 数えるのも面倒になってきた。

 スケルトンたちは数にものを言わせて突っ込んでくる。

 しかし、いずれも俺たちに触れることなく消し炭になっていく。

 リズの足止め魔法【捕縛(バインド)】の効果で、スケルトンたちの動きはさらに(にぶ)くなっていた。

 もともと遅いので炎弾で倒すのは簡単だが、こう数が多いと忙しいな。

 もっと広範囲に攻撃できる魔法があればいいんだが。


大漁(たいりょう)~! ほら、これ見てよ」


 リズは魔石でいっぱいになった革袋を掲げる。

 笑顔がまぶしい。

 あの袋ひとつで、金貨30枚ぐらいにはなるだろうか。


 しかし、肝心の魔導書がありそうな場所はまだ見つからない。

 俺たちはさらに遺跡の奥へと進んでいった。

 少しずつ重要な場所に近づいているらしく、周囲の石柱や瓦礫には細かい文字が刻まれている。

 そして、広場のようなひらけた場所に出た。


「前方に気をつけて。今までとは比較にならない相手だよ」


 リズが真剣な眼差(まなざ)しで警告する。

 俺は無言でうなづいた。

 濃くなってきた霧の向こうに、建物らしき影が浮かんでいる。

 それが、ゆっくりと動いているのだ。

 イヤな予感がする。

 やがて霧の向こうから、それは顔──らしきものを出した。


「うわっ! でけえ……」


 思わず俺はつぶやいてしまった。

 家一軒分の大きさはあるゴーレムだ。

 魔力で動く、岩でできた人形。

 ただ、人形という言葉で片付けるにはデカすぎる。


 細かい古代文字が刻まれた岩でできた体は、いかにも頑丈そうだ。

 熱帯樹の枝が、複雑に(から)みついている。

 人間の目に相当する部分には空洞があり、赤い光がもれていた。

 歩くたびに、地面を()らす振動が起こる。


 俺は両手を重ねて魔力を集中させた。

 的は大きい。

 ゴッ! と空気を切り裂く音がした。

 これまでで最大級の炎弾(フレイムバレット)を、ゴーレムの頭めがけて撃ち込む。


 直撃する、そう確信した一撃だった。

 しかしゴーレムは炎弾をなんなくかわす。

 上体を少し動かしただけだった。


「おいおい、うそだろ。そんなに早く動けるのか!?」

「見た目ほど鈍重じゃなさそうだね。あたしが捕縛(バインド)を使うから、その間に撃って!」


 リズはゴーレムの左側に回り込んだ。

 ゴーレムの赤い光が、その動きを追う。

 腕を振りかぶった。


「リズ! 危ない!」


 俺が叫ぶのと、リズが捕縛(バインド)を使うのは同時だった。

 ゴーレムの動きが少しだけ(にぶ)る。

 魔力で作られた見えない縄が、対象の全身を包む。


 ──はずだった。


 ゴーレムは身をよじると、何かをふりほどくように勢いよく体を広げた。

 単純な力の強さだけで、魔法による捕縛から逃れたのだ。


「うそ……!」


 呆気(あっけ)にとられるリズの眼前に、岩でできた拳が振り下ろされようとする。


 俺は走りながら、炎弾をゴーレムの肩と(ひじ)部分に撃ち込んだ。

 (あわ)てて撃ったので、魔力は少ししか込められなかった。

 今度はどちらも着弾したが、ゴーレムは少しバランスを崩しただけだ。


 俺は夢中でリズを突き飛ばし、両腕を交差させて防御の姿勢をとった。

 魔力を腕に集中させる。

 ギリギリのタイミングで、ゴーレムの巨大な拳が落ちてきた。


「アッシュ!」


 リズの悲痛な叫び声が、霧の中に溶け込んでいく。


 次の瞬間、凄まじい衝撃が俺を襲う。

 両足は石畳(いしだたみ)を突き破って、地面に埋まってしまった。

 両膝から下は、地中に隠れている。


 しかし、俺の体は全力の防護(プロテクト)によって守られていた。

 さすがに全身に衝撃は()(めぐ)ったが、ダメージはほとんどない。


 拳の下にいる無傷の俺を見て、ゴーレムはその動きを止めていた。

 魔導生物でも驚いたりするのだろうか。

 何が起こっているのか理解できていないようだった。


 そのスキに俺は魔力を両手にためる。

 怒りがふつふつと()いてきた。


 ──こんな力でリズを殴ろうとしたのか。


 許さん。

 俺の怒りに呼応(こおう)して、魔力はどんどん手のひらに集まっていた。

 今出せる、全力の炎弾を叩き込んでやる。


 もう一度、拳を振り上げたゴーレムだったが、その動きはリズの捕縛(バインド)によって鈍る。

 動きを制限できるのは、わずかな時間だ。

 しかし、今回はそれで充分だった。


「消えろ!」


 俺は交差させた両手から特大の炎弾を撃ち込んだ。

 膨大な魔力によって作られた火球は、爆音とともに突き進む。

 ゴーレムの上半身が一瞬、光に包まれた。


【大切なお願い】



「ハアハア、やったか……?」


「アッシュ硬いな」


「先もちょっと読んでみたいな」




と、少しでも思ってくださったら


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宜しくお願いしますm(_ _)m


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