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防護魔法の習得

 王都リガレアに帰った俺たちは、すぐに魔石を換金(かんきん)した。

 その結果、予想よりかなり多い金貨36枚の入手に成功する。

 もっとも、値切(ねぎ)られそうになったところをリズが交渉してくれたからなんだが。

 何しろ、こんなに大きな魔石を手にいれたことは初めてなのだ。

 俺には全然相場がわからない。


 あたりには夕暮れの気配が(ただよ)いはじめていた。


「さて、利息込みで金貨16枚、返してもらうね。で、残りは10枚ずつ」


 リズが屈託(くったく)のない笑顔を見せる。

 あれ? 当日返したのに利息が金貨1枚……。

 やや高すぎる気もするが、金貨10枚もあれば充分か。

 炎弾(フレイムバレット)の魔導書までもらっちゃったしな。


「これから魔導書店に行きたいんだけどさ。リズも付き合ってくれないか?」


 金貨は今後の戦いのために、魔導書の購入費用に充てるつもりだった。

 俺よりずっと戦闘経験が豊富な、リズの助言が欲しい。


「いいよ。あんたにぴったりの魔法を選んであげる。手数料は購入費用の一割ね」


「え? あ、うん。疲れてるのに悪いな」


「……冗談だよ」


 少しひるんだ俺の表情を見て、リズが言う。

 取れそうなら取ろうという気配を感じたが、そこには触れないでおこう。

 もしかして、結構がめつい性格なのかな。

 その割には、俺なんかの装備代金を建て替えてくれたりもしていたが。

 いずれにせよ、この世界でたくましく生きていくためには、多少押しが強いほうがいいのかもしれない。

 戦闘以外にも、リズから学べることはたくさんありそうだ。



 魔導書店のやけに高い天井には、大きなランプが()り下げられていた。

 薄暗い店内には俺の身長よりもずっと背の高い書棚(しょだな)が立ち並んでいて、魔導書がこれでもかというほど収納されている。

 金貨3枚で買えるお手軽なものから、50枚を超えるものまで様々だ。

 奥に座っている品の良い老人は、俺の姿をちらりと見て、すぐ手元の本に視線を戻した。

 客じゃない、と判断されたんだろう。


 金貨7枚と書かれた書棚の前で、リズがいろいろな魔導書を物色しはじめた。

 爆雷砲、空裂断、速鋼弾に雷閃領域。

 彼女が手にした魔導書はどれも、ぶっそうなタイトルばかりである。

 リガレアの領主が北側の森を開拓しはじめて以来、街の人々が襲われることが増えた。

 当然、戦闘用の魔導書もよく売れるのだ。


「んで、あんたどんな魔法を探してるの?」


「できれば、防御系の魔法が欲しいんだ」


 攻撃手段もたくさん欲しいところではある。

 炎が効かない魔物もいるだろう。

 だが、いざという時にリズを守れるようにしておきたい。


「防御系? なんで?」


「いやその……街の人や仲間を守るのが、俺の目的だから」


 本当の理由は気恥ずかしくて言えない。

 まあ、仲間なんてリズしかいないんだけど。


「ふーん。あたしのこと、守ろうとしてくれてるんだね」


 少しだけ口角を上げて、リズが言う。

 ちょっとだけ、嬉しそうに見えた。


「そりゃまあ」

「んじゃさ、これなんか良いんじゃない?」


 リズが差し出したのは【防護(プロテクト)】と書かれた魔導書だった。


「初歩の魔法だけど。あんたの魔力なら、ガッチガチの防御になるでしょ」


「へえ。防護か」


「そいつが気になるのかい?」


 奥から店主が声をかけてきた。

 どうやら真剣に話す俺たちを見て、客として認めてくれたようだ。


 店主の話だと、体の周りに魔力で作ったバリアを展開できる魔法らしい。

 ちなみに対象は自分に限らない。

 込められた魔力が強ければ強いほど、対象の防御力は上がる。

 なんでも、大魔道士によって付与された防護(プロテクト)は、龍のブレスにすら耐えられたという伝説があるのだとか。

 

 俺はこの魔法で、仲間を守る自分の姿をイメージした。


 (ドラゴン)の吐く強力無比なブレス。

 それを片手で防ぐ俺。

 背中にしがみついてくるリズ。


 うんうん。

 悪くない、悪くないぞ……むしろ良い!

 というか、理想そのものかもしれない。

 それに俺の戦い方は素人同然なんだから、基礎からしっかり固めていった方が良さそうだ。


 俺は支払いを済ませて店主に礼を言うと、店を出てすぐに防護の魔導書を胸に当てた。

 役目を終えた魔導書は(あわ)い光を放ち、空気に溶け込んでいく。


「じゃあ早速試してみようよ」


 リズは店の裏にある広場まで歩いていく。

 もうすっかり日も落ちているからか、人通りはない。


「まずあたしに防護(プロテクト)をかけて、その後に炎弾(フレイムバレット)で撃ってみてよ」

「わかっ……はあ!? そんなことできるわけないだろ? ケガしたらどうするんだよ」


「ケガしないための防護魔法でしょ?」

「そりゃそうだけどさ」


 恐ろしい提案をする子だな。

 それだけ俺の魔力を信用してくれているのか、それとも自分の力だけで炎弾を防げるのか。

 グリフォンを仕留めた手並みを見る限り、リズは相当な手練(てだれ)だろう。

 リガレアを見渡しても、彼女と同等以上の戦力を持つものは少ないはずだ。


 それはわかってはいるが、目の前の彼女は華奢(きゃしゃ)そのものなのだ。

 ()けるように白い肌は、頑丈さを全く感じさせない。

 手足や腰も細い。

 ただ、その割に胸は──


「なにジロジロ見てんのよ。やんの? やらないの」

「えっ!? ああ、ちょっと待った。まずは俺で試そう」


 うろたえながら、俺は覚えたての防護(プロテクト)を自身に使ってみる。

 すぐに光沢を()びた魔力のバリアが、俺の体全体を覆った。

 手を広げると、指の一本ずつが膜で覆われているのが確認できる。


「おお! リズ見てよ、この──うぐっ!」


 顔を上げた瞬間、炎の塊が飛んできた。

 避けるまもなく胸に直撃。

 というか、気づいた時には当たっていた。


「うわっ! あっつ……くない」

「すごいすごい。鎧もまったく焦げてないね」


 リズの放った炎弾が直撃しても、俺の体にダメージはなかった。

 それどころか、鎧にまで到達(とうたつ)していない。

 しかし、決してリズの炎弾が弱いわけじゃない。

 あの屈強なグリフォンですら、悲鳴をあげながら逃げるしかなかった魔法である。

 試し方はちょっと引っかかるが、おかげで防護がどれほどの効果を得られるかははっきりした。


「ちょっと荒っぽかった? ごめんね」


 そういってリズは手を差し出した。

 触れようとした俺の手に、青白く光った短剣が襲いかかる。


「うわっ」

()けたらダメじゃない」


 反射的に手を引っ込めた俺は、なぜか怒られる。


「いやいや、斬りつけるって言ってからやってくれよ!」

「何いってんの。実戦じゃ、誰も宣言してから攻撃してくれないよ」


 リズの表情は大真面目(おおまじめ)だった。

 彼女の言うことにも一理ある。

 だからって、短剣に魔力付与(ハーキュリアン)までかけなくても。


 俺は、渋々(しぶしぶ)手を差し出した。

 と、同時にリズの短剣に斬りつけられる。


 ガギンッ! と聞き慣れない音が響いた。

 金属同士をぶつけたような音だ。


「うーん、予想以上。けっこう魔力を込めたんだけどな。これなら、よっぽどの魔物じゃないかぎりダメージ食らわないよ、きっと」


 リズは純粋に感心した様子だった。

 防護(プロテクト)を使用している間は、魔法も物理攻撃も防げるみたいだ。

 どのぐらい維持できるのかはわからないが、今のところは全然平気である。

 戦闘中に自分とリズを守るぐらいなら、余裕だろう。


 またひとつ、自分は強くなれた。

 これもすべて、リズのおかげだ。

 少しずつ無力感が薄まっている。


 充実感にひたっている俺のはるか頭上から、若い男の声がした。


「探しましたよ、リズ様。さあ、わたしと一緒に帰りましょう」

【大切なお願い】



「頭上の男はだれ?」


「アッシュどこみてんだ」


「わるくないな」




と思ってくださったら


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宜しくお願いしますm(_ _)m


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