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妖樹の森

 太陽が登り切る前に、俺たちは妖樹の森にたどり着いていた。

 背の高い木々がうっそうと茂っている。

 太陽の光は葉に(さえぎ)られ、地面はところどころが暗くなっていた。


「どんよりした雰囲気の森だね」


 リズは湿った(こけ)で転ばないよう、慎重に(あゆみ)を進めている。

 俺たちの足音に混じって、遠くで鳥か何かの鳴き声が聞こえた。


「俺もこんなに奥まで入ってきたのは初めてだよ」


 つい見栄をはってしまったが、本当は入口までしか来たことはない。

 少しは男らしいところを見せよう、とリズの前を歩きだしたのは良いが、どの木も怪しく見えてしまう。

 あの奥の巨木なんか、いきなり動き出しそうだな。

 と、思ったら景色の一部が急に動き出した。

 まるで、人間の腕のように太い枝が折れ曲がった。

 ウロだと思っていた大きな穴から、低いうめき声がもれている。

 闇の魔力が木に宿り、生物すべてを攻撃する獰猛(どうもう)な妖樹、トレントだ。


「待って、アッシュ。魔力は(おさ)えてね。あんたが全力を出したら、森ひとつ燃えちゃうよ」


 とっさに右手をかざした俺を、リズが制した。

 魔力を抑えて……か。

 出力する魔力量を意識しながら、慎重に炎弾(フレイムバレット)を撃ち出す。

 前の試し打ちに比べて、一割ぐらいの威力をイメージした。


 小さな破裂音(はれつおん)が森に響いた。

 トレントの左腕が一瞬で黒焦(くろこ)げになり、地面に落ちる。

 腕かどうかは知らないが、まあ人間で言えば腕のある場所だ。


「グオオオォォォッ!」


 突然、自身の体の一部が焦げ落ちたことに、トレントは動揺(どうよう)しているようだった。

 右腕を振りかぶったところで、俺は次弾をトレントの顔面に撃つ。

 今度はもう少し大きな爆発音になった。

 着弾した場所から炎が一気に燃え上がり、右腕と見られる太い枝が落ちる。

 炎が消えた後には、向こうの景色が見えていた。


「へえ~やるじゃない! あんなに大きなトレント、あたしも倒したことないよ」


 リズは素直に感嘆の声を上げた。

 俺が仕留めそこなった時のために、魔法を準備してくれていたようだ。

 掲げた右手を下ろせないまま、俺は感動にひたっていた。

 トレントは決して弱い魔物ではない。

 動きこそ鈍いが、ヤツらの攻撃は頭の(はる)か上から丸太が降ってくるようなものだ。

 巨体は生半可な剣や槍の攻撃など、まるで問題にしない。

 大型のバトルアックスで、やっと少しダメージを与えられるかな、ってところだろう。

 そんな頑丈な魔物を、わずか2発で……

 それも、周りに火がうつらないよう、火力を十分に抑えた炎弾で、だ。


「うわ、魔石も立派だね。これだけで金貨3枚にはなるかな?」


 リズはトレントの根本に転がっている、濃い紫色をした石を拾い上げた。

 大きさは人間の親指より少し大きいぐらい。

 うっすらと、妖しい輝きを放っている。

 魔物の生命力が結晶化したという魔石だ。


「え!? それで金貨3枚!?」


 俺は思わず声が大きくなってしまった。

 金貨3枚を得ようと思ったら、どれだけ働かなきゃならないか……。


「んー、もっと行くかもね。これなら、あたしが建て替えたお金も今日中に利息付けて返してもらえるかな」


 リズはにっこり微笑(ほほえ)んだ。

 可愛いけど、どこか引っかかる笑顔だ。

 借りたばかりなのに、もう利息が付くのか。

 まあ、彼女は命の恩人だしな。


 ありがたいことに、魔力の消費はちっとも感じられない。

 炎弾はいくらでも撃てそうだ。


「よし。目標は金貨30枚だ。どんどん奥に行こう!」


 来た時とはうってかわって、俺は大股で歩き出す。


「うんうん。その調子。しっかり稼いでね!」


 リズは魔石を腰にさげた小さなバッグに入れ、俺の背中をポンと叩いた。

 軽い仕草ではあるが、何か重圧(プレッシャー)のようなものを感じた。



 進むにつれて森の影は濃くなっていく。

 そして、それに比例してトレントの出現頻度も増していった。


「十時の方向に1体。正面奥にもいるよ」


 リズが感知魔法(センシング)で敵を見つけて、事前に居場所を教えてくれることで、スムーズに討伐できた。

 俺は言われた場所に炎弾を撃ち込むだけでいい。

 彼女を中心にした半径20歩圏内(けんない)にいる敵は、どこにも隠れられない。

 便利な魔法だが、そのぶん魔力の消費が激しいらしく、温存していたらしい。

 だが、攻撃は俺ひとりで十分なのだ。


「オオオオォォオオ!」


 洞穴(どうけつ)のような口から、断末魔の叫びが響く。

 炎弾に込める魔力の加減にも慣れてきた。

 まだやりすぎて、周囲の木々も燃やしてしまうことがあるが。


「ふう……これで7体目か。まだまだいそうだな」


 魔石を拾いながら、俺はつぶやいた。

 金貨20枚分は確保できただろう。


「ちょっと休憩する? あんたも無限に撃てるわけじゃないんでしょ」


 リズは倒れた巨木に腰掛(こしか)ける。

 感知を使い続けたせいか、少し疲れているようだ。

 俺は目を閉じて、体内の魔力を意識する。

 流石に少し目減りした感覚はあるが、まだまだ問題なさそうだ。

 しかし、日が傾きかけている。

 帰りの時間を考えれば、ここらが引き時かもしれない。


「今日はいったん引き上げ──」

「待って。あとひと仕事残ってるみたい」


 リズの赤い瞳が、薄っすらと輝いていた。

 感知魔法が何かをとらえたようだ。


「近い……! 真下!?」


 突如、リズの足元が盛り上がった。

 人間の胴体ほどもある根が飛び出す。

 蛇のように、ぐるりとリズに巻き付いた。


「リズ!」


 反射的に右手を掲げた俺だが、このまま炎弾を撃てばリズにも当たってしまう。

 かといって、本体は見当たらない。

 地面ごと撃つか。

 しかし、すぐ上にいるリズも炎に巻かれてしまう。


 俺はダガーを引き抜くと、力任せに根を斬りつけた。

 少しだけ締め付ける力が弱まった。

 そのスキに、リズは腰の短剣を抜いた。


 【魔力付与(ハーキュリアン)


 短剣の刀身が、青白く燃え上がったように見えた。

 リズが短剣を振るうと、絡みついた根がバラバラと地面に落ちる。


「撃って!」


 リズが飛び退いたのを確認してから、俺は炎弾を地中めがけて撃ち込んだ。

 今回は強めの魔力でいいだろう。

 轟音(ごうおん)が木々を揺らす。

 地中から根を伸ばしていたトレントは、炎弾に触れた瞬間に蒸発していた。



「相変わらずデタラメな威力だね」


 地中にぽっかり空いた穴を見下ろしながら、リズがつぶやく。

 我ながら恐ろしい威力だ。


「ほら、この魔石を見る限り、相当でかいトレントだったんだよ」


 リズが拾い上げた魔石は拳大ほどあった。

 これひとつで、金貨10枚ぐらいになるんじゃないだろうか。


「悪い、リズ。危ない目にあわせてしまって」

「いいよ、あんなの。慣れてるし」


 特大の魔石を見ても、俺は浮かれた気持ちにはなれなかった。

 トレントなんて炎弾なら一撃で倒せる、と()めてかかっていた。

 まさか、いきなり地中からリズに巻き付くなんて。

 仲間を巻き込まないよう、もっといろんな魔法を習得しなくては。


「そういえば、あの魔法は? 短剣が光ってたように見えたけど」

魔力付与(ハーキュリアン)のこと? 物理攻撃を強化する魔法だよ」


 まだまだ俺の知らない魔法はたくさんありそうだ。

 近接戦闘に備えて、俺も覚えておいた方がよさそうだな。


「あんたの魔力なら、とんでもない威力になりそうだよね。街で探してみようよ」


 リズは特大の魔石をしまうと、軽快な足取りで歩き出した。

 そうだな。

 大小合わせて8個の魔石が手に入った。

 建て替えてくれた分を返しても、お釣りが来るだろう。


 今日は、俺にとって街を守るための第一歩となった。

 あんな手強い魔物を仕留めることができるなんて……

 しかし課題もはっきりしつつある。

 古代神の魔力をあますことなく活用するためにも、もっとたくさんの魔法を身に付けないといけない。


 幸い、魔導書を手に入れるチャンスはすぐにおとずれた。



【大切なお願い】



「リズ強いな」


「アッシュ頑張れ」


「魔導書どこから手に入れるの?」




と思ってくださったら


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宜しくお願いしますm(_ _)m


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