【キャラ絵あり】超絶火力!
キャラクターイラスト:リズ
「あ、起きた」
祭壇の上でむくりと体を起こした俺を見て、木陰に座っていた少女がつぶやいた。
ええと……なんだっけ。
なんでこんな所で寝ていたんだっけな。
「あんた、どういう体してるの? あれってどう考えて古代神でしょう」
そうだ。
俺は、この祭壇で何者かと融合したんだ。
「古代神? 俺、神さまと融合したの?」
「そうだよ。本当はあたしが狙ってたんだけどさ。あんなデタラメな魔力、抑えきれないよ」
少女は残念そうにため息をついた。
「それとも、なにか特別なスキルでも持ってんの?」
いやいや、特別なスキルなんてない。
そのせいで雑兵止まりなんだから。
あ、でも。
「そういえば、固有スキル鑑定で空っぽだって言われたけど。それが関係あるのかも」
「ふーん。空っぽってことは、固有スキル【空洞】でしょ。その空洞に古代神の魔力を丸ごと収めちゃったってわけだ」
少女は立ち上がり、服についた砂と草を払い落とした。
何もない空洞だからこそ、精霊以上の存在である神の魔力を「収納」できた。
そんなこと、俺に可能なのか?
まるで信じられなかった。
しかし、現に体のどこも痛まない。
あれほどの重傷が、完全に治癒していた。
革鎧は血まみれのままだが、体は眠っている間に修復されたらしい。
「……ありがとう。俺はアッシュ。君が固有スキルを使ってくれなかったら、きっと助からなかった。それで、えっと」
「リズ。あたしも欲しかったなぁ、神霊の力。ね、せっかくだから、ちょっと見せてよ」
リズと名乗った少女は手を後ろに組んで、いたずらっぽく笑った。
「見せるったって、どうやって?」
「なんかホラ、初級の魔法でいいから使ってみ?」
「いや、悪いけどさ。俺は魔法なんてなにも使えないよ」
魔法を習得するにはグリモアと呼ばれる魔導書が必要だ。
古代の魔法使いたちが残した、貴重な魔導書。
当然、俺みたいな平民にはまったく縁がない。
オマケに誰かひとりが魔法を習得すると同時に、その魔導書は消えてしまう。
「しょうがないなぁ。じゃあ、コレ、だぶったから君にあげるよ」
リズが腰のバッグから取り出したのは、炎弾と書かれた手のひらサイズの魔導書だ。
細かい古代文字がびっしり書き込まれている。
炎弾ってのはたしか、魔力で作り出した炎の弾を射出する、初歩の攻撃魔法だっけ。
リズがグリフォンの頭を燃やしたのも、きっとこの魔法だな。
「その本を胸に当てて、炎弾って念じてみて」
俺は戸惑いながらも、リズの言葉に従った。
意念に反応して魔導書が発光したかと思ったら、そのまま光の粒になって空中に消えていく。
も、もったいない!
売ればしばらくは食っていける金額になるっていうのに。
しかし、これで魔法を習得できたらしい。
どれ、試してみよう。
俺は祭壇から少し離れた場所にある、枯れた巨木に手のひらを向けた。
体の内側から、莫大な量の魔力があふれ出しそうになるのを感じる。
「炎弾!」
言い終わる前に、俺の手のひらから拳大の炎の弾が飛んでいった。
矢を遥かに超えるスピード。
青い炎の弾は巨木の表面に当たるやいなや、一気に燃え盛った。
あっという間に、乾燥した巨木の上半分が蒸発する。
「はっ!? なにそれ」
リズは唖然として巨木のあった空中を見つめていた。
なにより俺が一番驚いていた。
魔法自体、初めて使ったのだ。
それなのに、リズがグリフォンに使った炎弾とはまるで火力が違う。
「ドン引きなんですけど……。宮廷魔術師のトップでも無理だよ、こんな芸当」
あきれ気味なリズの言葉を、どこか夢うつつな気分で俺は聞いていた。
こんなことがあるのか。
何をやっても人並み以上にはできなかったのに。
いきなりとんでもない力が手に入ってしまった。
でも、これなら──
この力があれば、お世話になった街の人たちに恩返しができるかもしれない。
それどころか、街ごと魔物から守ることだって。
生まれてからずっと胸の奥で抱えてきた、無力感。
それが少しだけ薄まったのを感じた。
まずは近隣の魔物を倒して、報奨をもらったらハンナさんのために薬を買って……
「ちょっとちょっと。余韻にひたってるところを悪いんだけどさ。これから街に戻るんでしょ」
「そうだな。グリフォンのことも一応報告しなきゃいけないし」
「まさか、これっきりってこと無いよね?」
「えっ!?」
普段から女の子に縁のない俺はぎょっとした。
「一応、あんたの命の恩人なんだからさ。それなりにお礼はしてくれるよね」
リズはにっこりと微笑んだ。
なんだそういう意味か。
「もちろん。俺にできることならなんでも」
命を救ってもらったばかりか、古代神の力まで手に入れられたんだ。
おまけに貴重な魔導書まで。
確かに何かお返ししなきゃ、きまりが悪い。
「よし。じゃ、まずは宿を案内してもらおうかな。あたし、しばらくあんたの住む街で過ごすことにするから。詳しい話は明日しよう」
「ああ、わかった。じゃあ、一緒に戻ろう」
もう陽がかなり傾いていた。
木々の影が、細長く伸びている。
祭壇の警備に、グリフォンの襲撃。
死にかけて、リズに助けてもらって、神霊の力も手に入れて……
とにかく、いろんなことが一度に起こった日だ。
そう思ったら、とたんに体が重くなったように感じた。
孤児院の硬いベッドを、こんなに恋しく思う時が来るなんて。
◇
王都リガレアに戻った俺は、馴染みの宿屋をリズに紹介し、兵士の詰所へ今日の出来事を報告しにいった。
ちょうど、上長に増援を嘆願していたカイルは俺を見て驚き、涙を流して喜んでくれた。
もうすっかり死んでしまったものだと思っていたらしい。
まあ、実際あの状況じゃそう思うのも無理はないよな。
リズが来てくれなかったら、今ごろは祭壇の下で冷たくなっていただろう。
帰り道にリズと話した結果、古代神との融合のくだりは報告しないことに決めていた。
俺の力を利用しようとする者があらわれても面倒だ。
詰所で報告手続きを終えた俺は、血だらけの革鎧から普段着に着替えた。
もう買い換えなきゃいけないだろうなぁ。
そんなことをボンヤリ考えながら孤児院に戻ると、ベッドにごろんと転がった。
壁に据え付けられた小さな灯りを見つめる。
炎弾の威力を思い返す。
あの威力なら、街のまわりに魔物があらわれても、きっと一撃で倒せるだろう。
ハンナさん、あと少しだけ待っていてくれよな。
今度は、俺があなたを助ける番だ。
もっと力を使いこなして、魔法を習得しなくては。
それにしても。
リズはリガレアに滞在して、俺に何をやらせるつもりなんだろう。
どんな目的があって、この街にやってきたのか。
「恋人とかいるのかな、やっぱり」
ぽつりとつぶやきながら、彼女の涼しげな微笑みと、甘い香りを思い出す。
間近で見た白い肌は、内側から輝いているようだった。
もっと彼女のことが知りたい。
そんなことを考えながら、静かに目を閉じた。
でも、今は休もう。
まずはぐっすり眠って、これからのことは明日考えよう。
俺はあっという間に眠気に飲み込まれていった。
【作者からお願い】
「リズいいかも」
「それで恋人いるのか?」
「アッシュこれから何すんの?」
と少しでも気になったら、
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宜しくお願いしますm(_ _)m