表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

六月の晴れ

癇の虫

作者: とわ

テストを間近にするクロイツ学園の生徒達は、それぞれに教科書を抱えて右往左往していた。

期末テストさえ終わってしまえば、あとは長い冬季休暇が待っている。冬休みの楽しい計画と、目の前の単語帳を胸に、野村じゅんはある人物を探していた。

「あ、キキ!」

まるで造り物のように整った鼻梁と、ふっくらした唇。弧を描く眉に、マッチ棒が乗るほどの睫毛…水無月樹木が振り向き、長く、淡い栗色の髪を揺らした。

ハッとするほどの美女であるにもかかわらず、その表情はひどく憂鬱そうである。

「じゅん…どうしたの?」

「どうした…っていうか、キキこそどうしたんだ?顔色悪いぞ、具合でも悪いのか」

樹木の前の席を陣取ってイスを跨いで座る。

「なんでもないわ。具合が悪いわけではないから」

かぶりを振って言うが、じゅんは、普段と異なる樹木の様子に対して首をかしげたままだ。

「……なんでもない…って言っても信じてくれないわね」

「うん」

樹木は、じゅんの黒い瞳に見つめられるのが嫌ではないが、苦手だった。強制されたわけではないのに、何でも打ち明けてしまいたくなる衝動にかられるのだ。

「…手紙を、もらったのよ」

「手紙?」

「そう。告白の手紙」

サラリと言うのは、さすがにラブレターに慣れているからかもしれない。

「告白の手紙をもらって沈んでたのか?」

一般的に、告白の手紙をもらって喜びはしても、ここまで沈む理由となりうるのか、じゅんには疑問だ。

「知らない人にいきなり会いたいと書かれて、素直に喜べる?」

「う~ん…少し不気味ではあるよなぁ…実際」

「そうでしょう?私は相手の名前だって聞いたことないのよ」

樹木は大きな溜め息をついた。

もっともらしくじゅんに相談しているが、今まで樹木はこのような悩みごとに直面したことはなかった。なぜなら、もらったラブレターは一応目を通した後は、内容にかかわらず『無視』するのが常だったからだ。

しかし今回、なぜかそれができなかった。いつも通り、手紙の主は全く知らない人で、樹木自身、全く興味はないのだが…。

「気持ちはわかるけどさ、会うだけ会ってみなよ。案外いいやつかもしれないぜ?」

屈託の無い笑みを向けられ、樹木は仄かに頬を染める。

「・・・・・・・・・・・・そうね」

樹木は、喉の奥に黒い霧がかかったような感覚に、胸のムカつきを覚えた。

何故か自分がイラついていることがわかった。

「…って、もう会うつもりだったんだよな。オレが口出すことじゃないよな。ごめん」


じゅんならば、『会ってやれ』と言うのがわかっていたから、手紙の中の今日の日付を覚えていた。

今、じゅん自身にそう言われて、何をイラついているのだろうか。


樹木は自問自答しながら、癇癪に似た己の感情の原因を探ろうとしている。


「良いヤツだと、いいな!」




何 が こ ん な に 、 私 を イ ラ つ か せ て い る の だ ろ う ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ