王子が婚約破棄しようとしたら家臣から決闘を受けました。
この国また婚約破棄してるなぁと思いながら書きました。
「君との婚約破棄を宣言するぞ、コンスタンツェ!」
ベルクラント王国の王立アカデミーの卒業パーティーは緊張に包まれていた。第2王子エグモント・ディートリヒが取り巻きを連れながら婚約者のザルツシュタット侯爵令嬢アレクシア・コンスタンツェに対し、婚約の破棄を告げたのだ。
「あら、エグモント様。私が殿下の不興を買うような事でも行いましたか?」
「とぼけるな、君がカタリーナにしたことを知っているぞ!」
カタリーナは、この国の貴族ヴァッツマン男爵家の令嬢である。彼女はエグモントの取り巻きに囲まれていて、その様子は怯えているようだった。
「あら、私はそのようなことはしておりませんわ。そもそも――」
「まだ口答えするか!こちらは証拠は全部掴んでいるんだぞ!」
エグモント王子は次々と証拠を上げ続けたが、アレクシアは呆然とするような表情を見せていた。一方、カタリーナはうろたえながらエグモントに声をかけようとしたが、王子は耳に入れようともしなかった。
「とにかく、君には俺の妻となる資格がないことが分かった!」
「それで、殿下はどなたと結婚されるのでしょうか?」
半ば呆れるように質問したアレクシアに対し、エグモントは自慢そうに答えた。
「俺が結婚するのはカタリーナだ」
エグモントの発言に、広間にいた人々は貴賤を問わず皆驚愕した。そして王子がカタリーナの方を向いて口づけしようとした時、三人の青年が群衆から飛び出した。
「殿下、貴方に決闘を申し込む!」
そう叫んだのは紅色の髪の青年であった。青年の名はイグナーツ、ローレンツ男爵の長男である。
突然イグナーツが叫んだことで王子や取り巻きたちは驚いていたが、カタリーナだけはイグナーツたちを見ると笑顔を浮かべた。
「イグナーツ、一体どういうことだ!?」
「それは私の方が聞きたい。すぐに姉上から手を放せ」
王子にそう告げたのは、腕を組んだ細身の青年であった。彼の名はブルーノ・オスカー・フォン・ヴァッツマン、カタリーナの弟であり温和な性格で知られているが、今エグモントに彼が向ける目は冷たかった。
「我が妹を捨て、あまつさえブルーノの妹に手を出すとは、万死に値する!」
怒りを抑えながら声を発したのはフランツ・ニコラウス・フォン・ザルツシュタット、アレクシアの兄である。
「殿下、貴方に決闘を申し込む。貴方が勝てばカタリーナとの結婚を認めますが、もし殿下が負けた時は僕が!」
イグナーツの発言を聞いてカタリーナは思わず笑みを浮かべるが、それに気づかないエグモントは突然の決闘の宣告に驚いたままだった。
「待て!俺一人に対し三人で一度にかかるつもりか!?」
「そんなことはない、3対3の乱戦だ」
「大体どこでやるというのだ?」
「外の演習場でやれば良いだろう」
「そもそも父上がお認めになると思うか?」
「それには心配する必要はない」
誰かが口を挟んできたので、皆が声のした方を向くと金髪の貴婦人が立っていた。彼女の名はベルンハルディーネ、ロートフルト伯爵婦人であり、かつては戦場で武勇を馳せた女傑である。
「すでに第一演習場の使用許可が下りた、自由に使ってよいと陛下はおっしゃられたぞ」
「ありがとうございます、叔母様」
「ほめらるほどでもないぞフランツ、アレクシア」
全員が王子を改めて見ると、もはや逃れることができない状況と悟ったのかエグモントは武人のような表情を浮かべていた。
「よろしい、やってやろうじゃないか!」
結局この決闘を制したのはイグナーツたちの方であった。イグナーツは決闘が終わっって二週間後にはカタリーナと結婚式を挙げた。
一方で、エグモント・ディートリヒ王子は勝手に婚約破棄をしたことを咎められ、留学の名目でアビュドス市に追放されることになる。そこでとある女性と出会い、ちょっとした恋愛劇を繰り広げることになるが、ここでは詳細に触れないでおこう。
最後にザルツシュタット侯爵令嬢アレクシア・コンスタンツェの話をすると、6歳も年下になるグリューンタール伯の子息と結婚することになるが、結婚式の際にはエグモントには見せないような笑みを浮かべていたと言う。
最後までお読みいただきありがとうございます。