84話 転生うさぎとシャドウ戦(魔国編)
「来たか。月兎」
(魔王のせいで)ほぼ廃墟と化した先ほどの街の入り口に転移したわたしに、知らない男の人がいきなり声を掛けてきました。
「・・・貴方は・・・」
思わず、腕に抱えたままのスライムちゃんを抱く力が強くなります。鑑定するまでもなく、なんとなく目の前の男性の正体がわかりました。
「・・・ウロボロスさんですか」
「ああ」
街の防壁だった名残の残る壁に寄り掛かるように立っている男性は、腕を組みながら小さく頷き肯定します。
――魔王が化け物と言っていましたが。その気持ちが今とても分かりました。
灰色の髪、灰色の瞳。特徴と言えるところはそれくらいしかなく、顔はまぁ、整ってはいますが、探せばいそうなぐらいの普通の顔です。ただし、見た目の平凡さとは裏腹に、何よりも薄気味悪いところは、〈精密索敵〉や〈魔力感知〉を駆使しても人間にしか見えないところです。
ですが、わたしの勘が、この人はとてつもなくヤバイやつだと言っています。これまで会って来た人たちの中でもダントツに強いでしょう。たぶん、わたしでも勝てません。
会いたいとは思っていましたが、唐突すぎでしょう。これだから神獣は。
「この程度には気付いてもらわなければな。まぁ、合格と言っておこう」
「・・・そんなことのために、人の体を作って魔力量も誤魔化していたのですか?」
「ついでのようなものだ。本命はここに現れた悪魔の気配だ。どうやら仮初の体のようだがな」
「・・・貴方が戦うのならば、わたしが手を出す必要は無くなりそうですけど」
――その方が、わたしも楽なのですけどね。
本音を心の中で付け加えておきます。ウロボロスさんは灰色の瞳をこちらに向けながら、わたし並みに無感情で無表情な顔を静かに横に振りました。
「いや、ちょうどいい機会だから、其方の手並みを見せてもらおう。もし失敗したら我も動こう」
「・・・はぁ。そうですか。期待、されているかどうかは分かりませんが、裏切らないように頑張ってみますよ」
いつも通りを装っていますが、この人の前に居ると本能的な恐怖が襲ってきて落ち着きません。スライムちゃんも不安そうにしているので、さっさと話を切り上げてシャドウを探しに行こうと歩みを始めると、ウロボロスさんがまだ話は終わってないとでも言いたげに、片手を上げてわたしを制止しました。
「待て、最後にひとつだけ、警告しておこう」
「・・・警告とは穏やかでは無いですね。何でしょう?」
「其方の持つ悪魔の力についてだ」
「・・・ラプラスの悪魔をご存知なのですか?」
フェニさん達ですら聞いたことが無いと言っていたのですが、ウロボロスさんは会ったことがあるのでしょうか?
「我も詳しくは知らないが、悪魔達の中でも異端とされ、この世界に来てから悪魔や天使達の意に添わぬことをしていたせいで封印されたと聞いたことがある」
「・・・はぁ、まぁ、確かに変わった悪魔な感じはしますね」
そもそも、ラプラスの悪魔は、ソロモンの72柱の悪魔達とは別物ですからね。異端扱いも何も、同じ悪魔の括りになっている方が、わたし的には不思議ですよ。もっとも、前の世界の記憶に基づいたものなので、違っていても不思議ではないですけどね。
「・・・それで?ラプラスの悪魔の力が何なのです?」
「全知の悪魔という名ならば、恐らくはそれに関する鑑定系のスキルがあるであろう?」
「・・・ええ、まぁ」
「既に使っているのならば理解していると思うが、情報の波に呑まれて廃人になりたくなければ、使う時は十分に注意しろ」
「・・・肝に銘じます」
既に知っていることではありますが、ウロボロスさんがわざわざ警告したのです。〈全知の瞳〉を使う時は、今まで以上に気を付けましょう。
話が終わったようなので、再び歩き出しますが、ふと思い付いて、再び足を止めます。
「・・・ちなみに、貴方を鑑定したら廃人になっちゃいますかね?」
「人によって耐えられる情報量というものは違うからわからないな。試してみるか?」
ウロボロスさんが無感情な瞳をわたしに向けます。わたしは肩をすくめて顔を横に振りました。
「・・・止めておきましょう。リスクは背負いたくないので」
「賢明な判断だ」
ウロボロスもそうですが、他の神獣達も情報が多そうなので、間違っても〈全知の瞳〉で鑑定しないようにしましょう。頭がパーンってなるかもしれません。
わたしはそう肝に銘じて、ウロボロスさんの横を通って街の中に入りました。
* * * * * *
突然訪れたウロボロスさんとの邂逅を果たし、一旦別れたわたしは、シャドウを探しに廃墟となった街の中をうろうろと彷徨います。
――さて、この辺で索敵してみましょうか。
おもむろにピタっと歩みを止めたわたしは、〈精密索敵〉と〈魔力感知〉、おまけに索敵魔法を駆使して周辺を探ります。スライムちゃんも手伝おうとしてくれているのか、ぷるんぷるんとしていますが、全く役に立ちません。あの、気が散るのでやめてくださいね?
少しずつ索敵の範囲を広げていき、シャドウ、もしくは悪魔の気配を感知するかどうか確かめて行きます。
――・・・見付けました。
アナスタシアさんの予想通り、ヴァンパイアの体では日中に外に出るのは難しいのか、それは街の瓦礫の中でひっそりと隠れていました。こんなにあっさり見付かるのならば、あの時一度アナスタシアさんと一緒に転移する必要ありませんでしたね。あ、いや、でも、邪魔者(魔王)をここから引き離せただけでも意味はありましたか。
「・・・さて、はやく終わらせて帰りましょうね」
わたしが独り言のようにそう呟くと、スライムちゃんも賛同するようにぷるんっと震えました。
シャドウの隠れている場所に〈潜伏〉で近付き、槍を構えて奇襲をかけます。〈神速〉と移動法、縮地を駆使して一瞬で距離を詰めたわたしは、潜んでいたヴァンパイアの肉体の真ん中辺りを突き刺して、そのまま地面に串刺しにしました。
「ぐぎゃあああああ!!!?」
おやおや、相変わらず小者っぽいやつですね。しかし、小者でも一応悪魔王に属する厄介者なので、素早く終わらせ・・・あ。
わたしが仕留めようと魔法を準備し終わった瞬間に、串刺しにされたヴァンパイアの体が霧化して、わたしの槍から逃れて少し遠くに実体化しました。全く、本当に面倒なやつです。
「キ、貴様ぁぁあああ!!」
「・・・こんにちわ。どうせその肉体を滅ぼしても貴方は死なないのでしょう?もう影の相手は飽きたのです。これ以上苦しみたくないのなら、さっさと死んでくれません?」
「貴様!!我は錬金の悪魔王だぞ!!」
「・・・錬金ですか・・・悪魔って似た能力を持った者が多いので誰だかいまいちわからないのですが、名前をお聞きしても?」
「我が名はザガン!我の復活のために、貴様の魔力を寄越せぇぇえええ!!」
悪魔が操っているヴァンパイアのシャドウが、あちこちの陰から影の手のようなものを生み出して、わたしを捕えようと一斉に伸ばしてきました。
それらを〈舞操術〉を使って踊るようにくるくると回りながら槍で薙ぎ払いつつ、先ほど正直に名乗りを上げた悪魔の名前を思い出そうとします。
――え~っと、ザガン、ザガン・・・わたし別に悪魔に詳しいわけではないのですよね。ちょっと思い出せません。
錬金の悪魔王と言っているのですから、きっと階級は王で、錬金術にまつわる逸話のある悪魔なのでしょう。それに、相手が誰であろうと、悪魔や天使は滅ぼすのがわたしのお仕事です。なんて時間の無駄をしてしまったのでしょう。
(聞こえるか?月兎)
(・・・おや?ウロボロスさんですか。今は一応戦闘中なのですが・・・)
(その程度の雑魚など片手間で十分であろう。それよりも、少しだけ戦う時間を伸ばせないか?)
悪魔王が雑魚ですか。まぁ、わたしもこいつが強いとは思えませんけど。
(・・・日没まででしたら構いませんけど)
(では、時間稼ぎをしろ。ただし、逃がすなよ?)
(・・・まぁ、やってみます)
ウロボロスさんが何かやっているのでしょうか?詳細はなにも語らないまま〈思念伝達〉が切られてしまいました。まぁ、どちらにせよ少し時間が掛かりそうなので構いませんけど、神獣って勝手な方多いですよね。今までフェニさんがどれだけ苦労していたかと思うと、同情しちゃいます。
こんなやり取りをしている間にも、影の手がひっきりなしに襲い掛かってきて、わたしはひたすらそれらを迎撃します。さて、どうやって、あのシャドウを足止めしましょうかね。
これが意識の無い今までのシャドウであればもう少し楽に倒せるのですが、今回はきちんとした意識のある人(悪魔)が体を動かしているせいである程度臨機応変に対応されてしまって、なかなか上手く事が運ばないのですよね。
さてどうしようかと考えていると、スライムちゃんがぷるんっと震えたのを感じて視線をシャドウの方に移します。わたしを倒すことは出来ないと踏んだのか、早々に逃げ出そうしている体勢に入っているのに気付き、わたしは持っていた槍を〈神速〉スキルと〈投擲〉スキルをフルに使って投げつけて再びシャドウを地面に縫い付けます。
「ぬぐわぁぁぁあああ!!!」
叫び声何パターンあるのでしょう?そんなことより、どうせ霧化して逃げられるのですから縫い付けても意味が無いのが残念ですね。
逃げられるけど逃がさない。なんだか矛盾しているようで成立してしまっている戦いにわたしは小さく息を吐きます。まぁ、日没までには時間がありますし、それまでに足を止められる作戦を考えますか。
そうしてしばらくの不毛な応酬を続けること三十分。わたしが決め手に欠けていると思ったシャドウが、ようやく逃げの姿勢から攻勢へとシフトチェンジしてきました。
「我を倒す術が無いようだな!代替品の体だが、中々に便利ではないか!!」
「・・・いえ、倒そうと思えばいつでも倒せるのですが、魔力の節約と効率を重視したいのでいろいろと考えているだけです」
「強がっても無駄だ!貴様をここで我の糧にしてくれる!!」
シャドウがそう叫んでわたしに飛びついてきます。触られると魔力を吸われそうだったので、適当に槍を振り回して追い返します。しかし、このままでは、とても魔力を使った非効率的な手段を使わざる得ないですね。どうしましょう。
スライムちゃんがぷるんっと頭の上で震えました。そうです。足止めをしたいのですよね。少しだけ足を止められればそれでいいのですが。・・・えっと、何です?スライムちゃんを使えばいい?スライムちゃんを使うってどういう・・・ああ、そういうことですか。
スライムちゃんが提案してくれた作戦ですが、試してみる価値はありそうですね。しかし、スライムちゃんと会話していると、皆さん不審そうな目で見てくるのですよね。こんなに分かり易いのに・・・。皆さんにはスライム愛が足りないのではないでしょうか?
もしこの作戦が失敗しても、最終手段を使えば良いだけなので問題ありません。ちょっとこの辺りが何も残らない荒野になってしまいますけど、仕方ないですよね?街はまた作れば良いのです。わたしは弁償しませんけど。
シャドウを討伐する目安がついた時、タイミング良くウロボロスさんから〈思念伝達〉が来ました。
(もう倒しても構わん。すぐやれそうか?)
(・・・ちょうどやろうと思ったところです)
(ならばちょうどいいな。お手並みを拝見させてもらおう)
拝見って、どこかで見ているのでしょうか?あの人(竜?)は底が見えないので有り得そうなのが怖いですね。千里眼的なスキルを持っていても驚きません。
「・・・では、さっさと終わらせますかね」
「くっくっく・・・。そろそろ終わらせてやろう!!」
シャドウと声を出すタイミングが被りました。何かやるつもりでしょうか?
そう身構えた瞬間、一瞬で影に取り囲まれてしまいました。思わず頭に乗っていたスライムちゃんが巻き込まれないようにポイっと投げて逃がします。その間にわたしは影に飲み込まれてしまいました。
・・・・・・
影に飲み込まれたわたしは、魔力が奪われるのと同時に、わたしの中に意識のようなものが入り込もうとしているのを感じました。なるほど、これが呪いですかね。フェニさん曰く、強い意志があれば飲み込まれることは無いと言っていましたけど・・・。
わたしが反発するように意識をすると、そんなの関係無さそうにすんなりと呪いが入り込んでくるのが分かりました。って、これ非常にヤバイのでは?
(ハハハハハ!!なんという魔力!!これだけあれば、今までの分の全て、いや、それ以上を補えることが出来るぞ!!)
わたしの中から声が響きます。でも、どうやって追い出せばいいか分かりません。ちょっと迂闊でしたね。早々に影から出られるようにするべきでした。
(さぁ、貴様の魔力、根こそぎ奪って我の手駒にしてやろう!!)
――マズイですマズイです!どうしましょう!?
混乱するわたしの中でふと、今まで眠っていたかのように静かだったアレが目を覚ましました。
(あらら。不愉快なやつが居るよ。居るね)
おや?この声は、ラプラスでしょうか?
(ん?なんだ貴様は?)
(ふーん。ザガンか。ザガンだね。お前がアルジの中に居るのは許せないね。許せないかな)
(貴様は、まさか!?)
そんなやり取りを聞いていると、わたしの中に居た悪魔の意識が急に消えて無くなりました。追い出されたのか、別の事をしたのかわかりませんが、これでわたしが呪いに取り込まれる心配は無さそうです。
(アルジ?安心しているところ悪いけれど、はやくここから出た方がいいよ。いいかな)
そうですね。さっさと出ましょうか。
わたしは、聖の魔力を込めた〈月神覇気〉を使って魔力を放出して、まとわりついていた影を吹っ飛ばします。途端に視界がクリアになり、スライムちゃんがぴょんとわたしに飛び乗ってすりすりしてきました。心配をかけたようですね。
「きさ、貴様!何故裏切り者が中に居るのだ!?貴様は一体何者だ!?」
「・・・ラプラスはわたしを助けてくれた恩人ですよ。・・・普段はずっと寝てますけど・・・貴方と違ってまともな悪魔です」
「あいつは我々と同じ悪魔などではない!」
「・・・そうですね。貴方と一緒にはされたくないですね。・・・さて、先ほどのみっともないミスの挽回をしましょうか」
わたしが新たに新しい槍を頭の方から取り出すと、それを持って、ノーモーションからの〈神速〉と縮地で一瞬でシャドウと距離を詰め、それをシャドウの体に突き立てて地面に縫い付けました。
「ぬぉおおお!!しかし、何度やっても無駄・・・!?」
シャドウが再び霧化して逃げようとする前に、『それ』が液体金属のように溶けだし、シャドウを包みこむようにして霧化を妨害しました。わたしが突き立てた槍は、ただの槍では無くて、スライムちゃんの分身体が〈変幻体〉で姿を変えたものです。体を地面に縫い付けられた状態で、体を金属のスライムに覆われたシャドウは咄嗟のことに逃げることが出来ませんでした。その小さな時間を使って、わたしはシャドウを仕留めるべく小さな領域を展開します。
「・・・さぁ、特等席を差し上げます。存分に日焼けしていくといいです」
「うああああ!!!暑い!熱い!!焼ける!!!」
本当に暑いですね。赤道直下のとある国をイメージしたのですが、太陽近すぎでしょう。空調の魔法が無ければ耐えられませんね。
あ、もがき苦しみながらもなんとかスライムちゃんの槍から抜け出したようですね。しかし、金属は金属でも、よりによって銀になるなんて、スライムちゃんも解っていますよね。思わぬ追い討ちを与えられましたよ。
そして、スライムちゃんの銀の液体金属から抜け出すということは、直射日光を浴びる面積が多くなるということです。
それでも這って逃げようとするシャドウに近付き、動けないように再びスライムちゃんの銀の槍をお腹に突き刺しました。
「・・・どこへ行くのですか?折角なのですから、その陰鬱な体を日光浴で綺麗にしてもらうといいです」
「うがぁあああ!!はははは!!」
「・・・何が可笑しいのです?」
「貴様も、すぐに、わかる、はははは!!我の勝ちだ!!ははははははああああああ!!!」
耳障りだったので、槍で細切れにしてさっさと焼かれてもらうことにしました。
面積が小さくなったからか、一分と掛からずに日の光に焼かれて、ヴァンパイアの体と共にシャドウの完全消滅を確認したわたしは、用済みになった領域を消します。外はちょうど夕焼けで、空が赤く染まっていました。それを眺めながら、頭に乗っているスライムちゃんをぷにぷにとしてお礼を言います。
「・・・今回は大活躍でしたね。ありがとうございます、スライムちゃん」
ぷるんぷるんっと嬉しそうにスライムちゃんが震えました。わたしの役に立てたのが嬉しいそうです。愛いやつですね。
さて、まずはウロボロスさんに報告に行きますか。
* * * * * *
再び街の入り口まで戻ってくると、ウロボロスさんが全く変わらない体勢で待っていました。この人、わたしが戦っている間ずっとこの体勢だったのでしょうか?
「・・・終わりましたよ」
「そのようだな。少し苦戦したようだが」
「・・・ちょっと油断してしまいまして。まさか、悪魔王の呪いに対抗出来ないとは思えなかったのですよ。フェニさんは余裕そうでしたし」
「ほう・・・」
わたしが苦戦した理由を言うと、ウロボロスさんが興味深げにわたしを見てきます。そして、「なるほどな」と呟いて納得したように頷きました。
「其方は少し精神が不安定で脆弱なようだ。精神系の攻撃への対策として、精神強化系スキルを覚えるといい。後で、フェニックスにでも相談してみろ」
「・・・はぁ。わかりました」
ちょっと意外です。精神が脆弱だなんて神獣として失格だ。とでも言われそうでしたが、普通にアドバイスしてくれました。
「神獣とて、ただの魔物だ。弱点の一つくらい存在する。それくらいで失格とは言わん。それに、フェニックスに強く推されたとはいえ、我自らが其方を神獣として認めたのだ。そんな簡単に撤回などせんよ」
「・・・人の心を読むのはやめてください」
わたしが抗議するようにウロボロスさんを見上げるように睨みますが、ウロボロスさんはふんっと鼻を鳴らして顔を背けました。無表情な顔のせいかそういうクール系の仕草が絵になりますね。ムカつきます。
微妙な空気になってしまったので、話題を変えますか。
「・・・そういえば、戦闘中の通信は何だったのですか?」
「あぁ、あのシャドウは悪魔王本体が遠隔で直接操っていた。だから、そこからアイツの居場所を特定しようとしただけだ」
「・・・出来たのですか?」
「当然だ」
それはいい情報ですね。本体の場所が分かれば後はそこを攻めてチェックメイトです。いい加減、平穏な生活をしたいものです。のんびりお月見をしたいのです。・・・お月見はよくやっていますけどね。
「・・・その場所、教えてくれますか?」
「あぁ、良いだろう。・・・ここだ」
悪魔王の本体が潜んでいる場所を地図上に印をつけて表示するように〈思念伝達〉で教えてもらいます。まぁ、やっぱり帝国に居ますよね。場所は・・・帝都から西に行った辺りですね。ちょうどわたしの領域と一直線上の位置になります。
「・・・この辺りって何があるのでしょう?」
「さあな。その情報を得るために人との関わりを続けているのであろう?上手く使うといい」
「・・・そうですね」
情報の共有が終わり、話すことも無くなったので、わたしは次にアナスタシアさんにシャドウを倒したことを報告に行くことにします。
「・・・では、わたしは用事があるので失礼しますね。このような形で会うことになって驚きましたが、会えて良かったです」
「ふっ、機会があれば我の領域にも来い。其方の異世界の話も興味があるしな」
「・・・えぇ、近いうちに」
ウロボロスさんって、フェニさん並みに普通な性格かもしれません。あ、でも、ウロボロスさんって滅多に自分から動かない放任主義なんでしたっけ?そのせいで、リルさんとかの問題児をまとめてフェニさんが面倒見ているのですよね。まぁ、少なくとも、リルさん達よりはマシですね。強いて言うならば、何もしていなくても圧が怖いことでしょうか。わたしのような小動物のうさぎには辛いです。
「あぁ、最後にひとつだけ」
「・・・はい?」
どうでもいいことをつらつらと考えながら転移の準備をしていたら、直前にウロボロスさんに声を掛けられました。何ですか?どこかの警視庁のなんとか係の人みたいな言い方ですね。
「今回の悪魔の件は、其方に一任することにした。存分に暴れてくるといい」
「・・・言われなくても、そうしますよ」
わたしがそう答えると、無表情だったウロボロスさんの顔が残忍そうな笑顔を浮かべます。普通の人がその顔を見たら恐怖のあまり意識を失うかもしれません。でもわたしの場合はちょっとドン引きしてしまいました。こんなに残忍な顔が似合う人が居るのですね。
そんな嫌な笑顔に見送られながら、わたしはアナスタシアさんの居る後方の街(街の名前知りません)へと転移しました。
 




