81話 転生うさぎと魔国
山脈を越えて魔国の街並みが見え始めた頃、わたしはすぐに異変に気が付きました。
「・・・街がボロボロですね」
恐らくは山脈の麓の街だったのだろう、そこそこな規模の街が遠目で分かるほどにボロボロでした。この状態はいつかの帝都を思い起こさせます。
――魔物が押し寄せているわけでは無さそうですが・・・
あの時とは状況は違いそうですが、あまり良い状況とは言えなさそうです。急いで麓の街に向かってみましょう。
三十分ほどで麓の街に辿り着くと、街のボロボロさがよくわかります。門は半壊しており、激しい戦いがあった後があちこちに見られました。後は、人が全く居ません。索敵にも引っ掛からないので本当に無人なのでしょう。
とりあえず、無人の街の中に入ってみることにします。こういうのはゴーストタウンと言うのでしょうか?建物はあるのに不気味なほど静まり返っています。
しかし、魔国の建物の様式は地球の近代に近いですね。鉄筋コンクリートらしき建物があちこちにあります。技術的には魔国が一番発展しているのでしょうか?
まぁ、鉄などの資源は豊富ですし、閉ざされた土地だからこその独自な文化の進化なのでしょう。きっと。知りませんが。
比較的近代に近い建物様式とはいえ、電気があるわけでもなく、生活に関しては他の国々と大きく違いは無さそうです。強いて違いをあげるならば、生活用の魔術具が魔族仕様になっていることでしょうか。
たっぷり一時間以上かけて街を歩き回りましたが、やはり人は居ないようでした。それと、きちんとした避難をしたような痕跡があります。具体的には、突発的な避難とは思えないほど、食料などの物資が無いのです。これは事前に避難の指示が出て、必要な物は全て運び出したということでしょう。わたしの考えていたよりも切迫した状況では無さそうですね。
――これ以上この街に居ても無駄ですね。
ひとまずは、魔王の住む魔王城を目指すことにします。勝手にシャドウを探して討伐しても良いのですけどね。個人的に会ってみたいですし。魔王。最終的には勝手に行動させてもらいますけどね。
何もないとわかった街を後にして、魔国の中央に向かいます。どうでもいいですが、国の中心地って国土の真ん中にあることが多いから、探すの楽ですよね。え?そんなことないですか?
全く、勇者でも無いのに、まさか魔王に会いに魔王城に行くことになるとは思いませんでした。どちらかと言ったらわたしの方が裏ボスとか隠しボスの立ち位置なのですが・・・。
そんなことを思いつつ、舗装された道を通って次の街へと向かいました。
それから次の街も麓の街同様にゴーストタウンだったので、何もせずにスルーし、その次の街でようやく人の気配を感じることが出来ました。ですが、
「・・・襲われてますね」
人の姿をしたシャドウと思わしき者達と、魔族の兵隊らしき人達が争っています。魔法が吸収され、物理攻撃は霧になって避けられてしまいます。ふむ。あのシャドウは全てヴァンパイアですか。
地球では、ヴァンパイア、つまり吸血鬼は日の光に弱いと相場
が決まっていますが、この世界ではどうなのでしょう?ちなみに今は夜なので日の光はありません。魔法で太陽を出すのはさすがに骨がおれるので試せないのが残念です。
本当は銀を試してみたいのですが、あいにくと持ち合わせていないので、普通に取り込んである魔鉱石やらミスリルやらアダマンタイトやらオリハルコンやらを槍の形にして周囲に展開させます。さらに、それらに聖の魔力を纏わせて浄化能力を付与しました。あまり使いませんし、天使ほど強力ではありませんが、わたしも浄化が使えるのですよ。
そして、〈念話〉を前方広範囲に指定して、戦っている魔族に注意を促します。
(・・・そこの魔族達。すぐにそこから退かないと巻き込みますよ。巻き込んでも、責任はとりませんからね)
ちょっとざわついてから、魔族達がシャドウから距離を離して後退したのが見えました。シャドウが魔族達に再度襲い掛かる前に、わたしは周囲に浮かせた槍達を魔法で弾丸のように吹っ飛ばします。
吸血鬼のシャドウ達は霧になる時間すら無く槍に貫かれ、浄化の力で体を構築していた魔力を失って体が崩壊していきました。
やっぱり、こいつら眷族みたいな魔力で生まれた存在のようですね。ほとんどが魔力で構成されているので、浄化は弱点のようです。でも、シャドウ化しているので、吸収した魔力は本体に送っているのでしょうね。また面倒な事態になっているようです。
わたしが考えごとをしながら、シャドウ達が居た場所まで移動して槍を回収していると、先程まで戦っていた魔族の兵士が声を掛けてきました。えっと、この魔族はオーガでしょうか。半魔族だったリンナさんが鬼化した時と似ていますね。
「君、助かった。礼を言おう。俺の名前はガドケウス。この街の防衛隊の隊長をしている。正式な所属は魔国軍防衛隊の副隊長だ」
「・・・わたしはトワです。この子は家族のスライムちゃんです」
「お、おう」
スライムちゃんがぷるんと挨拶したのに反応が微妙ですね。まぁ、スライムを家族だと言われれば困惑するでしょう。
ちなみに、ペットではなく家族と表現した理由は、スライムちゃんが人の姿になれることが分かったからです。いや、だって、あの少女をペットと言ったら完全に事案ではないですか。スライムちゃんが人の姿になることは基本的には無いとは思いますけどね。
ガドケウスさんでしたっけ?・・・言いにくいですね。鬼さんでいいですか・・・は二メートルを超える身長があるので、必然的にわたしを見下ろしてきます。顔が鬼のように厳ついので、子供が見たら泣きそうですね。
「トワはまだ子供のようだが、一人なのか?まぁ、あれだけ強ければ心配は無いと思うがな」
「・・・わたしは一人ですよ。魔王に用事があって来たのですが。なんだかごたごたしているようですね」
「魔王様を呼び捨て・・・?トワ、君は何者だ?なんの目的で魔王様にお会いになるのだ?」
あぁ、面倒なことになりました。そりゃあ、国のトップを呼び捨てにしたらこういう反応になりますよね。ましてやこの人は魔国の軍人さんのようですし。
しかし、街の警備隊ではなく、軍が動いているというのは穏やかでは無いですね。先ほどのシャドウといい、ここでは既に石板の欠片を核にした呪いの元凶が暴れているのかもしれません。ここで押し問答で時間を取られるのは悪手ですね。
「おい!聞いているのか!?なんの目的で魔国に・・・!?」
「・・・もう少し穏便に行きたかったのですが、仕方ありません。知っている情報を全て吐いてください」
わたしが〈月神覇気〉を発動させて、覇気の中に〈精神干渉〉で恐怖を刷り込みます。
先ほどまで威勢のよかった鬼さんが恐怖に顔を歪めて膝をつきます。後ろに並んでいる他の兵士は覇気の影響でこちらに近付けないようで、遠目からわたしを警戒するように武器を構えています。先ほど助けたというのに、失礼な奴らです。
「・・・先ほどの影の存在はいつ頃から現れて、どの程度被害が出ているのですか?元凶がどこに居るか知っていますか?」
「ぐっ、う・・・貴様の目的が分からぬのに、話すわけ無いだろう!」
「・・・強情なのは結構ですが。このままですと貴方の精神が壊れてしまいますよ?わたしが優しく聞いている内に早く喋ってください」
「・・・」
なんて面倒な、いえ、忠誠心の高いと表現した方が良いですか。美徳ではありますが、今この場でだんまりは困ります。うっかり殺さないように手加減するのも大変なのですよ?鬼だから頑丈だと思いますけどね。
「・・・はぁ。時間の無駄ですね。魔王城に行けば魔王に会えるでしょうし、そこならば情報も多いそうなので、ここは放置して先に急ぎましょうか」
「ぐぅ!?・・・はぁ、はぁ。魔王様のもとに行かせるか!!」
わたしが覇気を解いた瞬間、愚かにも鞘から剣を抜いてわたしに斬りかかってきました。ちょっと、頭悪すぎでしょう、この人。さっきまで私の威圧で動けなかったでしょうに。
わたしは足元から斬り上げてくる剣の腹を蹴り、恐らくミスリル製の剣を真っ二つに蹴り折ります。ついでに魔法で鬼さんを吹き飛ばして部下の下に帰してあげました。
「・・・相手との実力差は明白なのに攻撃してくるなんて。無能な上司を持った部下が可哀そうでありません。魔王の不興を買いたくないので見逃しますが、次は容赦しませんからね?殺す覚悟があるならば、殺される覚悟を持って戦うことです」
わたしはそう言い捨てて、〈神速〉スキルを使ってさっさとその場から距離を離しました。魔族ってみんなこんな感じなのでしょうか?違うと思いたいです。でも、魔王はめんどくさいって言っていましたね。なんだか、もう魔王なんか無視してシャドウを探しましょうか?
魔王への興味よりも面倒事が嫌になってきたわたしは、魔王に会いに行くか迷いながら街道を走りました。




