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転生うさぎは異世界でお月見する  作者: 白黒兎
第四章 居場所
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76話 転生うさぎと月の領域の住人達の近況

 常夏の領域と聞いて、日本での嫌になる暑さを思い浮かべてしまうのはきっとわたしだけではないはずです。



 常夏の領域は、以前に説明した公国の作りから言うと、公国の南東の位置にある領域です。広さはどの領域も同じ・・・いえ、春姫さんの領域は二回りくらい大きいですね・・・春姫さんのところ以外は同じ広さになっています。



 ところで皆さん、夏という季節と言えば何を思い浮かべるでしょうか?きっと大半が、山や海と答えるでしょう。答えますよね?アイス?お祭り?その意見は無視します。話が進まないので。



 そんな夏という季節が凝縮している常夏の領域の景観は、新緑の山々と大陸端にある海岸が広いビーチのような砂浜になっているのが印象的です。わたしはそんな山林の中の少し標高の高い場所にある大きい木の上に立ってその眺めを見渡していました。



――そういえば、この世界に来て海を見たのは初めてかもしれません。



 領域の半分以上が山々と海岸のためか、街や村の総数は春や秋の領域よりも少ないようですね。そして、ここの社は海岸沿いにある大きな街の中にあるようです。領域の中央に必ず社が無ければいけないわけでは無いのですね。それとも、領域の中心地点にはまた別に何かあるのでしょうか?



 しかし、春や秋と比べると幻想的さは無いですが、自然の豊かさというか、自然な自然さによる美しさでいえばこちらの方が良いですね。春や秋の景観は綺麗ですけど作りもの感が拭えませんから。ですが、どちらも甲乙つけがたい良さがあります。夏を馬鹿にしてごめんなさい。



 わたしの頭の上に乗っているスライムちゃんも、この景観を見て嬉しそうに飛び跳ねています。見えているかは分かりませんが。あと、あまり跳ねないでくださいね?ここ木の上なのでバランス悪いのですよ。



 さて、人里離れた人の寄り付かなそうな場所でのんびり待っているのですが、なかなか夏姫さん来ませんね。なんかこのパターンつい最近もありましたね。あー暇です。でもお花見も出来ませんし、どう時間を潰しましょうか。



 スライムちゃんをぷにぷにしたり、スライムちゃんに大きくなってもらってスライムクッションでお昼寝したり、たまに寄ってくるアホな魔物を倒して収納したり、スライムちゃんにわたしの偽物魔石や変異種の魔石を与えて餌付けしたりして時間を潰していると、気がついたら夜になってしまいました。



――あれ?おかしいですね。夏姫さん来ませんね。まさかわたしが領域に入ったことに気が付いていないのでしょうか?



 疑問に思いながらも、体は勝手に動いて三方を用意して団子を並べてお月見の準備を始めます。もはや月を見ると反射的にお月見の準備を始めてしまいますね。習慣って怖いです。



 お月見の準備が終わったので、あっちはどうしているのか気になって〈思念伝達〉で弥生と如月と卯月、あとなんとなくミラーに繋ぎました。



(主様、どのようなご用件でしょうか?)


(あるじさま~?)(あるじ様!)


(およ?トワ様?あたしにも繋ぐなんて珍しいですね)


(・・・ミラーは気分で繋ぎました。皆さん、変わったこととかありましたか?)


(き、きぶん・・・?)



 ミラーのなんともいえない雰囲気は無視して、わたしは弥生達に意識を傾けます。弥生達が今日一日あったことを報告してきました。



(そうですね。私はクーリアから魔法陣を使った魔術具の作成方法を教えてもらいました。あれを礎の核にやっていた主様の凄さを痛感致しました。私には未だにさっぱり理解出来ません)


(・・・わたしは結構感覚でやっちゃうんですけどね。でも、確かに面倒な制約は多いですし、魔法陣を描くのは大変ですよね)


(あるじ様!今日、如月はベガさんと訓練しました!とっても強かったです!)


(・・・へぇ、聖獣の戦闘ってまだ見たこと無いのですよね。ゼロさんより強かったですか?)


(う~ん、同じくらい・・・?戦い方があまりにも違くて如月では判断出来ません・・・)


(・・・そうですか。それでは仕方ありませんね)


(はいはーい!卯月は今日はミラーと遊んでたのです~♪)


(あれを遊びと言いますか・・・。それに、今日『も』ですよ!)


(・・・そうですか。良い遊び相手が見付かって良かったですね)


(えぇ、あたしとしてはラスクとかカールとかに押し付けたいのですが・・・)


(え?卯月と遊ぶのは嫌なのですか・・・?)


(・・・わたしの可愛い卯月の相手が嫌なのですか?)


(いやいやいやいや!そんなことは言っていないですよハイ!・・・なんで〈思念伝達〉越しなのにこんなにピンポイントに威圧が来るのですか・・・?)



 皆さんの話を聞いている限り、今日も月の領域は平和だったようですね。



 それにしても、何度も卯月の遊び相手を務めることが出来るというのは実はとても凄いことなのですよね。もはや改めて言う必要もありませんが、卯月は月の領域の住民の中でも間違いなくトップクラスに君臨する戦闘力を持っています。そんな卯月の遊び(という名の戦闘訓練)にまともに相手出来るのは今のところわたしかミラーぐらいなものです。



 前に一度だけゼロさんが如月のついでということで卯月の相手をしたことがありましたが、十分ほど戦ってから途端に逃げてばかりになり、訓練が終わるとすぐにわたしのところに来て、一言「あの子は俺より強いわ。無理」とだけ言って、それ以来卯月の相手をしなくなりました。



 正面から戦うのが専門ではないとはいえ、Sランク冒険者という対魔物専門を相手にして無理と言わしめる卯月がどれだけの強さなのか多少は伝わると思います。



 そんな卯月の相手というのはとても大変な訳ですが、いろいろと文句を言いながらもミラーはそつなくこなしているようです。



 聖獣は戦闘はあまりやらないので得意ではないとは聞いていますが、フェニさん達と同じくらい長生きしている個体もいるのです。わたしの思っているよりも戦闘能力が高いのかも知れませんね。今度時間のある時でも確かめてみましょうか。



(う、なんだか今嫌な予感が・・・)



 ミラーが何か言っていますが、わたしの領域に住む以上は重要なことですからね。むしろ何故今までやらなかったのでしょう。わたしは悪くありません。毎日のように来る神獣の皆さんの相手をしないといけなかったので、リルさん達が悪いのです。フェニさん?フェニさんはいつでもウェルカムです。曲者ばかりの神獣の中の唯一の天使ですからね。鳥ですけど。



(・・・ついでにミラーは何かわたしに言うことというか、報告とかありますか?)


(あたしですか?そうですねぇ・・・。そういえば、ラスクが領域外の周囲を索敵したいとか言っていましたね。機会があればトワ様にご提案したいと)



 ラスクと言うと、リスみたいな見た目の聖獣のラタトスクでしたね。大丈夫です。覚えていますよ。はい。



(・・・領域外のですか。具体的にはどの範囲までですか?)


(とりあえずは聖樹の森全域とその周囲の目視範囲くらいと言っていましたかね。詳しくはトワ様と話して決めたいとか)


(・・・そうですか。では、ラスクにも〈思念伝達〉を繋げましょう)



 その後はラスクと領域外での行動について話し合い、弥生達と雑談をして、ミラーには時間のある時に聖獣達の戦闘力を調べたいことを伝えておきました。



 通信を終えると、スライムちゃんがピョンとわたしの頭から降りて、三方に乗っている一番上の団子を触手を伸ばして取ってゼリーの中に入れます。団子が青い半透明なゼリーの中でじわ~と溶けていくのが見えました。団子ならまだ良いですが、動物とか魔物とかだと結構グロいのですよね。



 わたしはなんとなく前の世界で聴いたことがあるような曲を鼻歌で歌いながら、夜空に浮かぶ月を眺めながら団子をひとつ口の中に入れます。



 今は不思議なくらい心が穏やかで、なんとなく機嫌が良いとわたし自身思います。理由まではわかりませんけど。



――でもきっと、わたしは今、嬉しいんでしょう。



 そう。きっとわたしは嬉しいのです。何が嬉しいのか、いまいち理解はしていなくても、ただただ、その嬉しいという感情に酔いしれながらその夜はスライムちゃんと一緒にお月見をしました。



 結局、朝になっても夏姫がやって来なかったので、仕方なくわたしの方から夏姫に会いに行くことにします。とりあえずは、社が見えた大きな街に向かうことにしました。



 わたしはスライムちゃんを頭に乗せると、電車より速いうさぎの足で山の中の森を駆け抜けました。




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― 新着の感想 ―
[一言] >夏という季節と言えば何を思い浮かべるでしょうか? エアコンx電気代!
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