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転生うさぎは異世界でお月見する  作者: 白黒兎
第四章 居場所
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73話 転生うさぎと獣王との面会

 クーリアさんの実家を道場破りして、屋敷をズタボロにして警備兵を全員倒して、執事と父親を威圧で無力化することで獣王と会えることになりました。



 言葉にすると酷いことをやったような気がしますが、大体クーリアさんがやったことなのでわたしは悪くありません。ちなみにあの屋敷は後で魔法で修理するそうです。魔法世界って便利ですね。大工さんの仕事が無くなって大変です。まぁ、その大工さんが魔法で作業するんですけど・・・。



 ずっと考え事をしていたクーリアさんは、ようやくこれからの獣王との話し合いを優先することに切り替えたようで、いつもと変わらぬ感じでわたしに話しかけてきました。



「ところで、獣王様との話し合いはトワちゃんにお任せしても良いのですよね?」


「・・・お話しですか?威圧です?」


「話し合い=威圧で言う事を聞かせるはどう考えても違うでしょう!?誰ですか!?トワちゃんにそんなことを教えた人は!!」



 魔物の思考としてはいたって普通なのですが・・・。そんなことを言うわけにはいきませんか。冗談ということにしましょう。



「・・・冗談ですよ?」


「相変わらず分かりにくい冗談ですね。本気でやりかねそうななところがたち悪いです」



――まぁ、ほぼ本気でしたし。



 と、心の中で呟きます。しかし、獣王との話し合いですか。聖域に入りたいですと言ってすんなり入れるならば、わたしが話をしても良いのですが、やっぱり面倒ですね。丸投げしましょう。



「・・・というわけで、任せますね」


「何がというわけなのですか!?何の説明もありませんでしたよね!?」


「神獣との会話では、どう話そうとも神獣側が持つ力のせいで話し合いになりにくい。対等に話し合いをする気があるのならば、お前がやった方が良いだろう」



 前を歩くクーリアさんの父親がこちらには振り向かずにそうアドバイスします。



「ぐぬぬ・・・。仕方ありません。トワちゃんに任せて獣王国との関係を悪化させるわけにはいきませんからね」



 別に話が早く進むのならば関係が悪化しようがどうでも良いのですけどね。でも、折角面倒を押し付けることが出来たので黙っていることにします。わたしは後ろに控えて美味しいお菓子でも食べて話が終わるのを待つことにしましょう。



 そういえば、獣王国に来るのは初めてなのでお菓子とか食べ物とか料理とかいろいろ見て回りたいですね。あーでも、他の場所も行かないといけないのでそんなにゆっくりは出来ませんか。でも、ちょっとくらい良いですよね?



 そうこう考えているうちに宰相権力で宮殿の中にすんなりと入り、そのまますいすいと中を歩いていきます。やがて、結構奥にある一室の扉の前で止まり、クーリアさんの父親がとんとんとんとノックして扉を開けて中に入って行きました。黒猫執事とわたし達もそれに続きます。



 部屋の中に入ると豪華絢爛な目が痛くなるほどピカピカした部屋が目に写ります。なんです?光り物が好きなのですか?カラスの獣人でも居るのでしょうか?



 わたし達が入ってくるのを見ると、金色の髪の結構なイケメンの猫耳青年がキラキラしたソファーから立ち上がります。え?この人が獣王なのでしょうか?わたしのイメージではもっといかつい顔をしたライオンみたいな人かと思っていたのですけど。クーリアさんが緊張した面持ちなのでご本人なのでしょうね。



 獣王(?)はクーリアさんの父親を見て、出入口で止まった黒猫執事を見て、クーリアさんを見て、最後にわたしで視線を止めました。爽やかな笑顔でわたしに向けて手を差し出します。



「はじめまして。獣王国獣王のアトラス=ゴールデンライオンです」



 だからその安直な姓はなんとかならないのですか?センス無さすぎでしょう。分かりやすいですけど。



 わたしは差し出された手は無視して、高い身長の獣王を見上げながら「はじめまして」と簡単に挨拶します。



 あまりにも簡素すぎたのか、握手を無視したのがいけないのか、部屋の中がなんともいえない空気になりましたが無視です。別に仲良くしたいわけではないですし。ここはクーリアさんに任せると決めましたからね。



 わたしが話は終わりと言わんばかりに顔を逸らすと、獣王は困ったように笑ってから差し出した手をクーリアさんに向けました。



「それで、そちらがリドックの娘さんのクーリアちゃんだったかな?よろしく」


「は、はい!よ、よよろしくおねがいしますです」



 ガッチガチに緊張したクーリアさんが震える手で獣王と握手をすると、獣王はわたし達に席を促して、クーリアさんの父親には自分の後ろにつくよう指示を出しました。わたしは真っ先にソファーに座り、クーリアさんが恐る恐るソファーに座ります。ふむ、座り心地はまぁまぁですね。わたしの風のクッションほどではありませんけど。



 クーリアさんの父親が獣王の後ろに立つと、獣王がその端正な顔を生かした胡散臭いほどキラキラした笑顔を浮かべながら話を切り出しました。



「それで、神獣月兎とその眷族であるクーリアちゃんは、我が国の聖域に入りたいそうだね?」


「は、はい。そうです」


「理由を聞いてもいいかい?」


「え、えっと・・・」



 言っても良いのかとクーリアさんがわたしを見てきます。実家の時はかっこよかったのに、獣王に会った途端にヘタレになってしまいましたね。仕方無いのでわたしが口を出しましょうか。



「・・・詳しい理由は話せませんが、帝国絡みでここの聖域に厄介な魔物が入り込んでいる可能性があります。わたし達はそれを排除しに来たのです」


「聖域に厄介な魔物ね。それならば我らで対処しよう。それとも、神獣自らが相手しないといけないほど危険なのかい?」



 わたしは戦ったことが無いから強さはわからないのですよね。でも、少なくともフェニさん達は手加減が難しいくらいには弱かったと言っていましたけどね。



 ただ、面倒な石板があるので、出来ればわたしの手で排除したいです。それに、わたしも例のシャドウとやらと戦ってみたいですし。さて、何て言いましょうかね。



「・・・貴方達の手に余るものなので、わたしがわざわざ直に来たのです。兎に角、貴方達が何かする必要は無いので、さっさと聖域まで案内してください。それとも、結界を破って中に入りましょうか?わたしはそれでも一向に構わないのですが」



 おっといけません、これでは脅しているようなものですね。でも、もう面倒だから別に良いですよね。早くここの用事を終わらせて街で買い物したいです。



 クーリアさんがわたしの物言いに顔を青くします。獣王の後ろに居るクーリアさんの父親も額に手を当てています。肝心の獣王の反応はと言うと、変わらずキラキラした笑顔をしていました。笑顔で感情を隠すタイプですか。腹黒とも言います。その証拠にキラキラ笑顔から放たれた言葉はこんなものでした。



「あまり調子に乗らないで欲しいね。神獣だかなんだか知らないけれど、ここは僕の王国だ。魔物如きが好き勝手していい場所じゃない」



 と威圧を掛けてきました。おや、普通の威圧とはちょっと違いますね。わたしと同じ覇気でしょうか?ま、効果は威圧と変わらないので威圧でいいですね。



 わたしはもちろんのこと、クーリアさんにもほぼ影響が無いようです。今のクーリアさんは完全な熾天使化する前のセラさん並みに魔力量があるので、魔人の中でもかなり高位に位置する強さです。この程度の威圧などほぼ無力でしょう。



 ですが、威圧を受けたことに変わりはなく、クーリアさんの指がピクリと動いて警戒心を高めている気配を感じます。わたし?わたしはこの程度で警戒する必要は無いので、特になにもせずに受け流しています。



 思っていた反応と違ったのか、獣王のキラキラ笑顔が崩れて眉をひそめました。わたしはおもむろに串付きの黒胡麻タレの団子を取り出してもぐもぐと食事を始めます。もうわたしは喋らない方がいいでしょう。任せましたよ、クーリアさん。



 わたしの意図を正確に受け取ったクーリアさんは、一瞬恨めしそうな目でこちらを見た後、獣王に向き直ります。その表情には先ほどまでの緊張の色はありませんでした。これなら大丈夫でしょう。



「獣王様、はっきりと言いますが、神獣と事を構えるのは愚策です。獣人としての誇りや信念も大切でしょうが、一国の王として判断することをお勧めいたします」


「さて、それはどうかな?これでも僕はSランクの魔物を同時に三体相手にして一網打尽にした経験だってある。神獣がどの程度の強さかは知らないけれど、勝てない相手ではないだろう」



 そう言って挑発するようにわたしを見てくる獣王ですが、わたしは完全に無視してもぐもぐとゆっくりお団子を食べます。お茶も欲しくなってきましたね。お茶も出しましょう。



 わたしが一人お茶会をやっていると、クーリアさんが堪えきれなくなってわたしに苦言を言います。



「ちょっとトワちゃん!空気読んでくださいよ!話が進め難いではないですか!!」



 でも、この獣王、恐らくは聖域にわたし達を入れる気無いんですもん。話す気も失せますよ。もぐもぐと咀嚼していた団子をお茶で流し込むと、クーリアさんに顔を向けて問いかけます。



「・・・では、わたしが話を終わりにしても良いですか?」


「話を終わりに?嫌な予感しかしないのですが・・・」


「へぇ?何をする気だい?言っておくけれど、この部屋はただの応接間じゃない。危険な人物と会談する時の為に用意した場所で、あちこちに仕掛けがあるんだ。ここで暴れたって無駄」



 高々と自慢げに演説している獣王の言葉を手を振って制止します。そして、わたしは窓の外に目を送りました。その場に居た全員がわたしに釣られるように窓を見ます。



「な・・・!?」「これは・・・」「相変わらず規格外ですねぇ、トワちゃんは・・・」



 三人がそれぞれ反応して(黒猫執事は我関せずでした)、獣王が顔を怒りに染めてわたしを睨みつけてきます。更に強い威圧が来ますが、わたしにはなんともないので変わらず受け流しておきます。



「貴様!民を人質にとるなど卑怯だぞ!!」



 獣王がそう叫びます。わたしが何をしたかというと、とても簡単な事です。空一面、獣王国の首都がほぼ全域の空に魔力の槍を出現させただけです。もちろん着弾したら爆発するので、あれを雨のように降らしたらこの辺りは一瞬で廃墟になるでしょう。



 獣王の怒りがごもっともですが、わたしからすれば甘いとしか言いようがありません。肩に掛かった髪を手でサッと払いのけてわたしは怒りの表情の獣王を無表情に見つめ返します。



「・・・貴方阿保なのですか?わたしは最初に言ったはずです。結界破って入っても一向に構わないと。つまり、貴方の命を奪うことに特に躊躇う理由は無いのです。ならば、ここの住人を根絶やしにするのにも躊躇う理由などありません。わたし、魔物ですし」


「くっ!!」


「・・・そもそも、相手の実力も見抜けないなんて戦闘民族として無能でしょう。いっそのこと一度白紙にして最初から作り直してはいかがでしょう?・・・わたしのクーリアさんに暴言を吐いた奴らを殺すのになんの罪悪感もありません」


「あ、まだ怒っていたのですね。ちょっと嬉しいかもです。でも、規模が大きすぎて困ります」



 クーリアさんが嬉しいようなやりすぎだと困惑するような微妙な顔を浮かべます。わたしはわたしの仲間を傷付ける敵には容赦しませんからね。当然のことです。



「・・・では、問いましょうか。大人しく話し合いをするか。ここで神獣(わたし)に挑むか。後者を選べばまず最初に犠牲になるのは眼下の街並みと住人達ですけど」


「・・・・改めて、話し合おう」



 獣王が歯を食いしばりながら呻くようにしてそう言いました。それを聞いたわたしは、空に浮かぶ無数の魔法の槍を何事も無かったかのように消し去ります。



「・・・そうですか。では、クーリアさん、後は任せましたね」


「え!?またこのパターンですか!?」



 またこのパターンも何も、そもそもわたしはおまけで獣王国への対応は元獣人のクーリアさんがやる話だったでしょう。しっかりと役目を果たしてくださいね。



 その後は和やかに(?)話し合いが続き、獣王と宰相(クーリアさんの父親)の二人が同行するという条件付きで聖域への立ち入りが許されました。



 実はわたしが脅しで出した魔法はただの幻影だったのですが、クーリアさん以外は気が付かなかったようですね。わたしがクーリアさんを馬鹿にされたくらいで国を滅ぼそうとか簡単に考える訳ないと言うのに・・・。いえ、半分くらいは本気でしたけど。



 なんだか、わたしが悪い魔物みたいに思われて不服ですが、ちょっとだけ自業自得なところもあるので我慢することにしましょう。でも、わたしは悪いうさぎじゃないですよ?




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