表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生うさぎは異世界でお月見する  作者: 白黒兎
第四章 居場所
83/106

72話 転生うさぎと黒猫少女の道場破り

 クーリアさんが獣王国首都の門番にギルドカードを提示しているのを足元で姿を隠しながら見守ります。



「クーリアか。帰って来たのか。今日は御守りのパーティーは居ないのか?」


「今日は私一人です」


「そうか。まぁ、カードに問題は無さそうだな。精々里帰りを楽しみな」


「・・・」



 門番の獣人の妙に突っかかるような口調を無視してクーリアさんは街の中に入って行きます。わたしも黙ってそのあとについていきます。



「おい見ろよ。あれ宰相様の娘じゃね?」「ああ、あの出来損ないの」「獣人のくせに魔法しか能のない変人娘か」「おいおい帰ってきたのかよ。獣人の面汚しが」



 何やら随分と面白そうな話があちこちから聞こえてきますね。思わず魔法の槍をぶちこんでやりたくなります。気になったのでクーリアさんに声をかけてみましょう。



(・・・随分な言われようですが、クーリアさんは有名なのですか?)


(ええ、まぁ、私は獣人の中でも体が弱くて、身体強化魔法も苦手だったためにずっと馬鹿にされてきたんです。こういうのは慣れっこですよ)


(・・・それだけではないでしょう?一番有名な理由は宰相の娘だからです?)


(そうですよ。お父様がこの国の獣王様に次ぐ二番目の権力者なのです。黒猫族は代々獣王である金獅子一族の補佐をやっていまして、獣人の中でもトップクラスの身体能力を持つ一族として有名です。その中で体の弱い黒猫族の長の娘として産まれてしまった私はずっとこのような陰口を言われてきたのです)



――陰口というか、もう本人に聞こえるぐらいの声量なのですが。



(だからここに、私の居場所は無いのですよ。家はありますけど、私の帰る家はトワちゃんの月の領域ですし、私の居場所は『白の桔梗』だけですから)



――クーリアさんが白の桔梗という居場所に拘った理由は、そういう過去があったからなのですね。



 淡々と話をしているクーリアさんは本当に周りの陰口など気にもしていない様子です。クーリアさんが気にしていないならばわたしも我慢しましょうか。イライラするので頭を揺らしてスライムちゃんをぽよんぽよんして和むことにします。



(・・・ちなみに、クーリアさんの家族もこんな感じで?)


(私が産まれてすぐは可愛がられたそうですが、体が弱く、身体強化魔法もまともに使えないことがわかってからは、ずっと出来損ないとして扱われていますよ。うちは良くも悪くも実力主義ですからね。仕方のないことです)


(・・・そうですか)


(ですが、今回は私の生まれが役に立ちそうです。宰相であるお父様に実力を示して話を通せば、獣王様への話も通りやすくなるでしょう。さっきも言いましたが、うちは良くも悪くも実力主義ですから)



 なるほど、クーリアさん的には目的を達成する足掛かりにしつつ、今までの恨みを晴らすつもりなのですね。そういうことならば、クーリアさんに全面的に任せましょう。たとえこの国の獣王とやらが出てきても今のクーリアさんが引けを取るとは思いませんからね。


(別に恨みを晴らしたいとかないのですが・・・。まぁ、折角ですし絡まれたら暴れさせてもらいますよ)



 しばらくざわざわと陰口が流れる通りを歩き続けると、大きい貴族の屋敷っぽい場所に辿り着きました。屋敷の門にはクーリアさんと同じ黒猫族の門番が二人並んでいます。ここがクーリアさんの実家みたいですね。とてもお嬢様だったんですね・・・。



 近付くクーリアさんを見た門番が嗜虐的な笑みを浮かべながら話しかけてきます。



「おやおや、クーリアお嬢様ではありませんか?ついに熾天使殿に見捨てられて逃げ帰ってきましたか?さすが出来損ないですね」



 口調は礼儀正しいですが、言葉の中身は悪意しかないですね。とってもムカつきます。うさぎキックで頭を刈り取ってやりたいです。



 ですが、クーリアさんは気にした様子もなく無表情のまま門番に話に応えます。



「ちょっと用事がありまして、お父様は今屋敷に居ますか?」


「そんなこと、勘当されたお嬢様には関係無いかと思いますが?」


「あぁ、そういえば勘当されていましたっけ」



 別に興味無さそうにクーリアさんが呟きます。家族としての縁が切れているならば話を聞いてもらうのは難しいかもしれませんね。どうするのでしょう?



 わたしがクーリアさんを見上げて耳をひょこひょこさせながら状況を見守っていると、何を思ったのかクーリアさんはいきなり改造魔道銃を二丁取り出して門番に向けました。門番の二人がそれを見て咄嗟に武器を構えます。



「何のつもりだ!」


「はい。なんだか面倒になってきたのでもうやってしまおうかと」


「出来損ないが!そんなことをしてただで済むと思うなよ!」


「出来損ないが俺達に勝てると思っているのか?笑わせるな。痛い目見ない内にとっととここから消えろ!」



 門番が口々に言う悪口にクーリアさんではなくわたしが切れました。クーリアさんに少し強め魔力を込めてに〈思念伝達〉を送ります。



(・・・クーリアさん。わたしが許可します。こいつらやっちゃってください)


(私もそろそろ堪忍袋の緒が切れるところでした。こいつらに格の違いを教えてあげないといけませんね!)



 平気そうに装っていただけで、クーリアさんも大分イライラを貯めていたようでしたね。それならば、存分にやってもらいましょう。



 クーリアさんが銃の引き金に力を込めたのが分かったのか、門番の一人が素早く接近して手に持っている槍で突いてきます。ですが、瞬時に周囲に空間湾曲魔法を展開してその槍の軌道を逸らしました。



「なっ!?」


「アーツも使わないなんて、随分と舐めてますね。でもこちらは容赦しませんよ?」



 二丁の拳銃の引き金を引くと、魔法陣が浮き上がり、門番を対象とした一定範囲の空間を吹き飛ばしました。



「クイック!」



 クーリアさんがそう叫ぶと、いつの間にかいくつもの魔法陣が拳銃の前に並びます。えっと、たしか特定のモノの時間の流れを早める魔法でしたっけ?今回は魔法陣の展開を早めるのに使ったようですね。



「エレメンタルバースト!」



 複数の魔法陣が輝くと、吹き飛んだ門番と門を対象に四属性の大爆発が起こります。炎、水、風、土、そして爆発系魔法の複合ですか。相変わらず器用ですね。っていうか四属性複合魔法の魔法陣を刻んでいるのですか。オタク過ぎて気持ち悪いです。



(・・・ところで、そのカッコイイ魔法名を唱える意味があるのですか?魔道銃には必要無いものですよね?)



 わたしの言葉にクーリアさんの顔が真っ赤になります。ボソッと小さな声で「つい癖で・・・」というのが聞こえてきました。やっぱり意味無かったのですね。



 跡形も無く吹き飛んだ門を通って屋敷の敷地内に入ります。あ、門番は生きてますのでご安心を。獣人は体が丈夫ですからね。それでも、しばらくは動けないでしょうけど。



 クーリアさんが敷地に足を踏み込むと、わらわらとどこからともなく黒猫族や一部他の獣人が屋敷から出てきて、クーリアさんの行く手を塞ぎました。全員が武器を手にしてクーリアさんを取り囲みます。その中から黒猫族の執事服を着たやや年老いた男性が前に出てきました。



「随分と手荒な帰省で御座いますね、お嬢様」


「あら?私はここを勘当されています。これはただの道場破りですよ」



 道場破りって言葉この世界にあるのですね。心の中でツッコミを入れます。でも、たぶん意味は違うと思います。だってこれは道場破りではなくて強襲ですし。



「しかし、少し魔法が扱えるようになっただけで、そう図に乗ってもらっては困りますな」


「そうですか。とりあえず、有象無象に用は無いので通してもらいますよ?」



 話をするのも嫌そうな顔で、クーリアさんは以前にわたしと戦った時と同じ、ライフル型の魔道銃を周囲に展開させました。そして、なんの躊躇いもなく引き金を引きます。



 五十丁ものライフルから放たれた炎の礫が周囲に一斉に飛んで行き、着弾と同時に爆発します。



 攻撃を避けた人達はそのままクーリアさんに近付こうとしますが、即座に放たれた二射目以降の攻撃に当たって沈黙、なんとか目の前まで辿り着いた一人の黒猫族の男性兵士を、手に持っていた拳銃を額に押し付けて引き金を引き、あっさりと吹き飛ばしてライフルで追撃しました。



 クーリアさんの周囲を取り囲んでいた人達は十秒と経たずに全員が魔法の直撃を何度も受けて意識を失っています。一応、殺さないように威力の低い魔法にしているみたいですね。わたしと戦った時は殺意高かったですから。



 唯一残ったのは先ほど黒猫執事のみでした。攻撃を躱したわけではなく、クーリアさんがわざと狙わなかったようです。黒猫執事は周りの惨状をゆっくりと見回して首を横に振ります。



「ふぅ。怠け者ばかりで御座いますな。あの程度の攻撃でやられてしまうなど。訓練メニューを厳しくいたしましょう」


「何事だ!騒々しいぞ!!」



 屋敷の奥から豪華な服を着た二人の青年が出てきました。ふむ、使用人では無さそうですし、ひょっとして?



「お兄様方ですか。ちょうどいいです。まとめて相手してあげますよ」


「クーリア!?貴様か、これをやったのは?」


「出来損ないの妹がなんだって?調子に乗っているなら少し兄として教育してやらないといけないな」



 ああ、なんだか獣人のことがすごくどうでもよくなってきました。いっそのこと獣王とやらを殺してもいいので聖域に押し入りましょうかね。文句言ってきたら根絶やしにしてやりましょうか。



 わたしがイライラとしていると、スライムちゃんが落ち着けと言いたげに頭の上でぽよんぽよん跳ねます。ささくれだった心が少しだけ落ち着いていきます。スライムちゃんのおかげで命拾いしましたね。



(・・・クーリアさん、早く終わらせましょう。これ以上聞いていると思わずわたしが横やりしてしまうかもしれません)


(それは困りますね。わかりました。トワちゃんの指示通り終わらせますよ)



 そう言うと、五十丁あるライフルの銃身を全て正面に向けてマシンガンのように魔法を乱射しました。隙間なく撃たれる魔法の雨をクーリアさんの兄を名乗る二人が左右に分かれて跳び避け、残った執事は大きく上にジャンプします。



「トキ、このまま挟み込むぞ!」


「了解した、兄さん」



 左右に分かれた兄弟はそのまま挟み撃ちのようにしてクーリアさんを近付こうと走ります。流石は黒猫族のトップというべきか、身体強化魔法も込みとはいえ、中々の速さです。先ほどまでの有象無象よりは多少はやるようですね。わたしからすればどんぐりの背比べですけど。



 クーリアさんが手を広げて左右それぞれの拳銃を向かってくる兄弟に向けます。



「はっ!所詮は魔法にしか頼らないお前に、俺達が倒せるかよ!」


「トキ、無駄口叩くな。さっさと追い出すぞ」



 兄弟それぞれの拳が何やら魔力で光っています。それとこの気配は、アーツっぽいものも感じますね。追い出すと言っていますが、直撃すれば普通の人ならば死ぬ可能性もあるのではないのでしょうか?



 そんな二人に特に興味も示さずにクーリアさんは引き金を引きました。ライフルはずっと黒猫執事を追い続けています。っていうかあの人、拳で魔法を弾いているのですがどうなっているのです?あっ、あの拳が光っているのがそういう効果を生み出しているのですね。ほー、これは勉強になります。今度わたしもやってみましょうか。そんな機会は無いと思いますけど。



 ギリギリまで接近された状態でクーリアさんの拳銃から放たれた魔法は業火魔法のインフェルノブラスター。以前にわたしと戦った時にライフルで一斉射撃してきたやつですね。あの時はライフル型魔道銃の耐久力が持つように威力が抑えられていましたが、今回はクーリアさんが持っている二丁拳銃なのでほぼ手加減無しの威力で放たれました。



 さっきまでの弾ける程度の攻撃だと思っていた兄弟は突然の大技に反応出来ずに直撃します。業火の光がレーザーのように敷地の端まで飛んで行き爆発しました。あーあ、敷地の庭がボロボロですよ。わたしは弁償しませんからね。っていうか、あれ死んでいませんか?あっ、意識は無いですけど生きてますね。獣人しぶといですね。



(殺さないように爆発の威力を抑えましたから大丈夫でしょう)



 あれで威力抑えているんですね。大きな敷地に二本の地面が抉れた道が出来上がり、爆発地点は敷地の境界にある壁に大きな穴を空けてボロボロにしています。通行人がびっくりしてますよ。あっ、瓦礫に埋まっていた弟くんが通行人に助け出されました。ざまあみろです。



 ライフルの攻撃が止むと、正面にある屋敷の入り口がみるも無残な状態になっているのに気付きます。そりゃあ、躱された攻撃は全部屋敷に飛んで行きますよね。これ修理費とか請求されません?ちょっと不安になってきました。何度も言いますが、わたしは弁償しませんからね!



 ずっと空中に浮かんでいた黒猫執事は地面にとんと着地すると、周囲の見るも無残な状態を見て顔をしかめます。その気持ちお察しします。



「お嬢様は、もしや聖人化されているので?」


「残念ですが違います。私は魔人ですよ」


「なんですと!?」



 黒猫執事が驚いたように声をあげました。その瞬間、屋敷の埋まった入り口からすごい音が鳴り、塞いでいた瓦礫を吹き飛んでいきます。



 黒猫執事が即座に飛び退いてそれを躱し、クーリアさんは飛んできた瓦礫を魔法で打ち落とします。中から出てきたのは先ほどの兄弟と似た容姿の初老の大柄な男性でした。誰なのか言うまでもないですね。



「やっと出てきましたか。お久しぶりです。お父様」


「お前にお父様と呼ばれる筋合いはない。・・・随分と派手にやってくれたようだな。おかげで執務もはかどらん」


「旦那様、お嬢様は・・・」


「言うな。先ほどの会話は聞いていた。クーリア、お前、人工魔人なのだろう?」



 もう人工魔人の存在は人間界に知れ渡っているようですね。こうなると、クーリアさんが帝国方面から来た刺客だと思われるかもしれません。



 どうするのでしょう?とクーリアさんを見上げると、彼女は無感情な金色の瞳を父親である目の前の男性に向けています。



「確かに私は人工魔人ですが、帝国から来たのではありません。今のわたしは、新たな神獣である月兎の眷族としてこうして貴方の目の前に居ます」


「新たな神獣?聖国の西方にある聖樹の森に出来た領域を支配する月の女神だったか」



 わたしのことも知れ渡っていますね。この口ぶりでは神獣というよりは女神という覚えられ方のようですけど。 



「なんにせよ、神獣の眷族だと?魔物と何が違う?お前を勘当して正解だったな。とんだ面汚しの娘だ」



 ぷっつーんとわたしの中の何かが切れました。光学迷彩を解いて人の姿になると、クーリアさんとクーリアさんの父親の前に立ちます。突如現れたわたしに目の前の二人が驚いたように目を見開きました。



「ちょ、ちょっと、トワちゃん!落ち着いてください!威圧が漏れてますから!」



 無意識に威圧をしていたみたいですね。仕方ありません。意識的に〈月神覇気〉をしましょうか。



 周囲の空気が一気に重くなり、執事の方は片膝を付きました。それでも、クーリアさんの父親の方はかろうじて立っています。むかつくのでさらに強力にします。そうしたら、ようやく呻きながら片膝を付きました。執事の方は真っ青になっていますが、そんなこと知りません。



「これがトワちゃんの本気の威圧・・・。あのお父様が威圧だけで膝をつくなんて・・・」


「・・・まだ本気では無いのですけどね。わたしの大切な仲間に散々暴言を吐いたのです。もう少し立場をわからせましょうか?」



 わたしは〈精神干渉〉で恐怖を覇気に込めます。すると、執事は完全に両手両ひざをついてがたがたと震えだし、父親の方も顔を歪ませてわずかに震え出しました。



「・・・貴方達とクーリアさんの立場に何か言うつもりはありませんが、それ以上耳障りなことを喋ったら魂も残さずに消滅させてやります。良いですね?」



 反応はありません、というか出来なさそうなのでこれで良いでしょう。少しだけ溜飲も下りたので後はクーリアさんにお任せすることにします。



「・・・では、クーリアさん、後は任せますね」


「えぇ・・・ここで私に返すのですか?」



 クーリアさんは戸惑いながらも、父親に話しかけようとして、止まりました。



「トワちゃん、その、威圧を解いてくれないと話が出来ません・・・」


「・・・あ、忘れていました」



 〈月神覇気〉を解除すると、目の前の二人は荒い息を吐きながら体勢を整えて座り込みます。まだ立てる状態では無いようです。



 何度も深呼吸をしてようやく話せそうな雰囲気にまで落ち着きを取り戻したようです。クーリアさんがわたしの前まで出て二人を見下ろしながら話しかけます。



「お父様、と呼べる関係では無いのでしたね。では、獣王国宰相、リドック=ブラックキャットに要求します。至急獣王への謁見準備をしてください」



 ブラックキャットって姓だったんですね。それとも、対外向けの名前でしょうか。とても安直ですし。



「何が目的だ?獣王様に危害を成すかも知れぬ者と合わせる訳にはいかん」


「謁見が無理ならば仕方ありません。強引に聖域に踏み込んでしまうことになりますけど、それでもいいですか?」


「何!?聖域に踏み込むだと!?そんなことをすれば、獣王様が!!」


「獣王様に危害を与えたくないからこそ、謁見したいのです。私達の目的は聖域に入ることなのですから」



 クーリアさんが父親を脅して獣王との謁見をするために話しているのをぼんやりと聞きながら、今更ながらに何故聖域に獣王の命を懸けた結界を張っているのか、聖域には何があるのか気になってきました。これから見ることになるのですから楽しみにしておきましょうか。



「分かった。すぐに準備しよう。鐘一つ分の時間でなんとかしてみよう」


「お願いします」


「ではその間、お嬢様と月兎様は屋敷の中でお待ちください」



 ぼんやりしているうちに話がまとまったようです。今更うさぎに戻って姿を消してもあまり意味が無いので、素直に黒猫執事の言葉に頷きます。



 しかし、ついに一国の王と面会ですか。異世界物語っぽくなってきましたね。・・・あ、春姫さんとか智天使のソフィアさんとかも一国のトップでしたね。あの辺は君主制とはまた少し違う感じなので、国王という感じはしませんけど。そもそも女性なので女王ですか。



 屋敷の中に案内(外はボロボロですが中はまだ綺麗でした)されながら、応接室らしき部屋まで通されて、そのままテキパキとお茶が用意されます。



「自分の実家でこうした他所向きの対応をされるのは中々新鮮ですね」



 クーリアさんが興味深げにメイド達の動きを見ながら呟きます。悲観しているわけではなく、戸惑っている感じですね。



 クーリアさんの呟きが聞こえたのか、お茶の準備をしていたメイドの一人がとても悲しそうな顔でカップにお茶を注ぎながら話します。



「本当は、旦那様もお嬢様のことを甘やかしたいのですよ。ですが、お立場や他の獣人達からの目がある以上、そういうわけにもいかず・・・かと言って、お嬢様に対する旦那様の対応は、お嬢様に愛想を尽かれて親子の縁を切られても仕方のないことだと思います」


「切られても何も、もう切っているのでは?」


「ここだけの話ですよ?対外的には勘当した扱いにしていますが、書類的にはまだお嬢様は我ら黒猫族のお嬢様なのですよ。アードラ執事長がお嬢様のことを『お嬢様』と呼んでいたのがその証です」



 言われてみれば、あの黒猫執事はクーリアさんのことをずっとお嬢様と呼んでいましたね。他の人が侮蔑の意味も込められていたのに対して、あの人はそういった感情は感じられませんでした。



 まぁ、どんな理由があれ、クーリアさんに暴言を吐いて、幼い頃から虐げてきたことには変わりないので威圧したことを後悔する気は無いですけど。



「少なくとも、お屋敷の中のメイドや執事の中ではお嬢様を邪険に扱うような者は居ませんよ。むしろ、あの戦うことと腕っぷしにしか興味を示さないアルヤ様とトキ様よりも、聡明で可愛らしいお嬢様の方が慕っている者も多い程です」


「今更そんなことを言われましても・・・。私はもう獣人ですらありませんし」



 離れていたからこそ知った事実にクーリアさんも戸惑っているようです。確かに、今更感はありますよね。表向きでは陰口をずっと叩かれ、今日だって朝からずっといろいろと言われいましたし。



「たとえ、お嬢様が獣人で無くなり、黒猫族で無くなったとしても、ここはお嬢様の家であり、帰る場所で御座います。これからは事前に申し付けて頂ければ、邪魔な門番やアルヤ様達を予め追い出しておきますよ」


「・・・」



 酷く複雑そうな顔なクーリアさんを見て、メイドさんはそこで話を終わらせると、わたしの分のお茶を淹れてから最後に一礼して部屋から出ていった。



 メイドさんが出ていくとクーリアさんが紅茶の入ったカップを両手で持ちながらじっと赤い色の水面を見詰めます。わたしは何も言うつもりもないので、ただ無言のまま紅茶を静かに飲みます。



 静かなのは良いのですが、鐘一つ分の時間・・・およそ二時間もこのまま待つのはさすがに暇ですね。あまりにも暇なのでスライムちゃんをこねこねして遊ぶことにします。スライムちゃんでいろいろと遊んでいるうちに鐘の音が聞こえ、それから少し時間が過ぎた頃に部屋がノックされて黒猫執事とクーリアさんの父親が入って来ました。



「準備が出来た。案内する」



 クーリアさんが顔を上げて父親を見て、何か言おうと口を開きかけてから小さく顔を横に振ります。



「分かりました。行きましょう、トワちゃん」



 わたしが頷き席を立つと同時にクーリアさんも立ち上がります。そのまま、わたしの前を歩き出したためその顔を窺い知ることは出来ませんでした。ただ、わたしはクーリアさんが今後どのように生きたいのか、それがどんなことであろうと尊重するつもりではあります。考えられる時によく考えておいて欲しいですね。



 クーリアさんの父親の案内で獣王の住む宮殿へ向かうことになりました。今はこれが本題です。さっさと獣王の許可をもらってから聖域に入って、シャドウとやらを討伐して例の石板の欠片を破壊しに行きましょうか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ