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転生うさぎは異世界でお月見する  作者: 白黒兎
第四章 居場所
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71話 転生うさぎは獣王国へ

 獣王国は王国の南に位置する小国で、王国に対抗するために獣人の各部族が集まって国を成したと言われています。実際はどうだか知りませんが。



 熱帯林が広くひろがっており、かつて王国との諍いがあった時には、この熱帯林を利用したゲリラ戦で圧倒的な数の差を覆して勝利した逸話があります。更に、この熱帯林には独自の魔物も多く生息していて、道は整備してあるものの、護衛無しで一般的な人間は近寄れない独特な場所です。



 そうそう、獣王国の南には標高3000メートル越えの火山があり、その頂上付近にフェニさんの棲む炎熱の領域があります。獣王国に行くのならば寄ってもいいのですが、登るのはちょっと面倒なので、行くならば転移でいった方がいいですね。



 っと、獣王国に行く前に、まずはフェニさん達神獣組が先に調べた内容と、後はせっかく作った通信の魔術具を渡さないといけませんね。



「ちょっと待った!俺のこと忘れてないか!?俺も調査に参加するんだろう?ずっとこの領域に居たのになんで真っ先に渡してくれないんだ!?」



 転移しようとしたら、突然わたしの家にゼロさんが怒鳴り込んできました。そういえば、すっかり忘れていましたね。昨日の話し合いにも呼ぶの忘れていましたし。というか、ゼロさんだって意気揚々と如月と遊んでいたではありませんか。わたしは悪くないです。



「・・・では、はいこれを。使い方はクーリアさんに教わってください。わたしはセラさん達に届けてくるので」


「俺の扱い雑じゃね?」


「・・・ゼロさんは隠密なのですから、忘れられても仕方ありませんよね?今度からしっかりと自己主張してください」


「なんで俺が悪いみたいになってるんだ!?」


「では、主様が悪いと?」


「トワちゃんが悪いっていうのですか?」


「あるじさまは悪くないのです!」


「あるじ様、悪くない」



 わたしの眷族からの総攻撃にゼロさんは「ここには味方が居ない・・・」とがっくしと項垂れながらクーリアさんに話を聞きに行きました。その間にわたしはちゃちゃっと転移で届けに行きます。



 特別何かあったわけではないので届けたところの詳細は省きます。ただ、セラさんが「本当にこの短期間で作ったんだ」とかエルさんが「クーリアとトワちゃんの組み合わせはある意味危険ね」とか言っていましたけど何もありませんでした。



 例の場所の調査先で出会うであろう魔物っぽいやつと、その魔物っぽいやつの核となっている石板の欠片は破壊するように伝えています。理由に悪魔王の呪いの話をしたら二人とも納得してくれました。



 通信の魔術具を届け終えて月の領域に帰ると、すでにゼロさんは帝国方面に向かったと報告を受けます。念のため注意を促しておきますか。



 さっそく、通信の魔術具を取り出して登録してあるゼロさんの連絡先に連絡します。こんなことをしなくても、わたしが直接〈思念伝達〉すれば良いのですが、念のための試験ですね。



 無事に通信が繋がると魔術具からゼロさんの声がします。



「えっと、トワか?何か用か?」


「・・・念のため魔術具の使用試験と、後は注意ですね。ゼロさんの隠密能力ならば大丈夫だと思いますが、帝国にはゼストが居る可能性が高いです。Sランク冒険者の心臓を手に入れて強くなっている可能性もあるので、遭遇したら下手に戦わずに逃げてくださいね」


「了解した。逃げるのは得意だ。安心してくれ。トワも三カ所ほど回るんだろう?神獣のトワにはお節介かもしれないが、一応、足元をすくわれないように気を付けろよ」


「・・・ええ。わかりました」



 通信の魔術具に異常はなしですね。まぁ、クーリアさんが生き生きとたくさん試験をしていたので、そうそう異常は出ないと思いますけど。



 ゼロさんに関してもきっと大丈夫でしょう。彼が本気で逃げれば神獣のわたし達でも取り逃がすかもしれないくらいの実力がありますし。



 さて、それではそろそろ獣王国に向かいましょうか。



「・・・では、クーリアさん、獣王国に行きますよ。と言っても、まずは王国に転移してそこから徒歩で移動ですけど」


「わかりました。トワちゃんは獣王国は行ったことないんですもんね。でも、それならば、不死鳥さんの領域からの方が近いのでは?」


「・・・あの険しい山を降りろというのですか?わたしは兎も角、クーリアさんが音を上げそうですが」


「私も魔人になったので体力増えたから大丈夫ですよ!」


「・・・そうですか。王国から行きましょう」


「私は大丈夫なのに・・・」



 クーリアさんを信用していないわけではありません。わたしが山を下るのが面倒なだけです。せっかく整備された道があるのですからそっちを使ったほうが楽に決まっているじゃないですか。少なくとも山下りよりも魔物が襲ってくることもないでしょうし。ま、威圧してれば魔物寄ってきませんけどね。



 ぷるんっとひんやりとしたものがわたしの肩に跳び乗ってきました。スライムちゃんのことも忘れていませんから大丈夫ですよ。肩に乗ったスライムちゃんをぷにぷにとしていると、クーリアさんが不思議そうな顔で首を傾げました。



「本当にスライムちゃんを連れていくのですか?危険なような気もしますけど」


「・・・わたしの傍に居れば大丈夫でしょう。それに、わたしがスライムちゃんを連れていきたいだけですし」


「トワちゃん、スライムちゃんのこと特別扱いしてますね。卯月ちゃん達に拗ねられちゃいますよ?」


「・・・特別扱いというか・・・まあ、わたしの初めての友人の形見ですからね」


「友人の形見?」


「・・・なんでもありません。行きましょうか」



 あまりスライムさんの話はしたくありません。クーリアさんも気を遣ってしまうでしょうし。



 わたしが話したく無さそうにしたのが分かったのか、クーリアさんもそれ以上は聞いてきませんでした。わたしは留守を任せる弥生達に体を向けます。



「・・・では、獣王国の件が終わってクーリアさんと一度帰ってくる後は、わたし単独・・・いえ、スライムちゃんもいますけど・・・でしばらく動きますので、何かあったら通信機で連絡してください」


「畏まりました」


「・・・ベガやミラーは弥生達のサポートをお願いしますね。まだまだ未熟なところが多いですから」


(お任せください)


(任せてください!)


「・・・それでは、行って来ます」


「行ってらっしゃいませ」「行ってらっしゃいなのです~」「気を付けてください!」(こちらのことはお任せを)(お早いお帰りをお待ちしていますねー)



 転移が終わり、周囲の風景が夜の世界の森から昼真っただ中の森に変わりました。ここは、初めて弥生達(あの当時はまだ普通のうさぎの親子でしたね。懐かしいです)と出会った『仄暗い洞窟』とかいう名前のダンジョン近くの小さな森です。



 クーリアさんがきょろきょろとしながら場所を確認し、わたしの方に振り返ります。



「そういえば、前から聞きたかったのですが、あのベガさんとかミラーさんとか、その他にも月の領域のあちこちに見慣れない魔物っぽいのが居ますけど、彼らは何なのです?」


「・・・あれ?言ってませんでしたっけ?」


「聞いていないですよ。最初は普通の魔物かと思いましたけど、魔力の質が違う感覚がしましたし、魔人に近いほどの知力もあるようでしたし、ずっとなんなのか気になっていたのです」


「・・・聖獣ですよ」


「聖獣?あの幻の?」



 そういえば、聖獣は滅多に姿を現さないこの世界のUMAのような存在でしたね。今更ですが、わたしの領域って結構凄いのが住み着いていますよね。しかも、住み着いた理由も正直わたし自身よくわかっていませんし。



 獣王国へ向かうまでの間にゆっくり話しましょうか。ここから急いでも一日は掛かるでしょうから。



 わたしは〈神速〉スキルで、クーリアさんは身体強化魔法をかなり多めにかけて獣王国への道を歩きます。歩くと言っても馬が走るより速いですけど。競歩の大会で絶対に優勝できる自信がありますね。でも、絵で見たらきっとシュールでしょうね。途中にあった村や街は全部無視して、馬車や他の通行人が居た場合は光学迷彩の魔法で姿を隠して通り過ぎます。



 夜も寝ることなく(必要無いですからね。むしろ、わたしはスキル能力の関係上、夜の方が元気です)ひたすら歩き続け、予想通りにほぼ一日で獣王国の首都が遠くに見える位置まで辿り着きました。



「・・・首都の名前はなんというのですか?」


「ありませんよ。獣王国の首都。それだけです」


「・・・そうなのですか」



 なんでも、獣王国と名乗っているし、外向けに首都もあるけれど、基本的には各部族毎に分かれた街や村に住んでいるとのこと。ここに来るまでにあったのもそうした個別の部族の街らしいです。



 首都と一部の街についてはあちこちに居る部族が集まっている場所なので、特定の名前を付けると揉めるのだとか。結果的に首都という名前のない形に落ち着いたらしいです。まぁ、獣王国の首都でも伝わりますからね。名前なんて無くても構わないのですけど。



「・・・それで、どうやって聖域に入れば良いのでしょう?王様に会えばいいのですか?」


「なんの伝手もなく会える訳無いでしょう・・・。その辺は考えがあるので大丈夫ですよ。気乗りはしませんが」


「・・・気乗りしないのならば王城に押し入りますか?」


「これから近いことはしますけど、いきなり王城はやめてください!印象も悪くなりますから」



――印象なんてどうでもいいのですが。



 まぁ、もとより、元獣人のクーリアさんにわたしが付いてくる形でしたし、基本的にはクーリアさんに任せてしまってもいいでしょう。



 わたしはうさぎの姿になって光学迷彩で姿を隠します。ちなみにスライムちゃんはわたしの頭の上でぷるんっとしています。肩よりも頭の方が気にいったようですね。そして、念のためにクーリアさんに〈思念伝達〉を予め繋げておきます。この状態で後ろから様子を見守ることにしましょう。



(・・・では、任せましたよ、クーリアさん?)


(任されましたよ、トワちゃん)



 クーリアさんは大きく深呼吸をすると、獣王国の首都の門まで歩いていきます。わたしはその後ろをスライムちゃんを頭に乗せながら跳ねるようについていきました。




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