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転生うさぎは異世界でお月見する  作者: 白黒兎
第四章 居場所
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65話 転生うさぎと黒猫少女の来訪

 わたしが正式に神獣として認められ夜遅くまで・・・ってわたしの領域は一日中夜でした。外の世界で深夜の時間になるまで宴会をして解散となった次の日。わたしの領域に来訪者がやって来ました。



「おや?ゼロ殿と、私達に近しい存在がやって来ましたね。たしか人工魔人にさせられた主様のご友人でしたね?」


「・・・ええ、クーリアさんですね。わたしの眷族になっていますが友人でもあります。わたしが色々と裏技を使って眷族化させたので弥生達とはちょっと眷族としての意識が低いと思うので、いろいろと教えてあげてください」


「かしこまりました」


「じゃあじゃあ!卯月が迎えに行ってくるのです!」


「如月も行ってくる」



 食事中に来た来訪者を迎えていくために卯月と如月が残ったご飯を一気に食べてバタバタと家の外に出ていきました。それを見送ったわたしは弥生に視線でお茶とお茶菓子の準備を指示します。最後に一緒に食卓を囲んでいたプリシラさんに視線を送ります。



「・・・プリシラさんは、教会で静かにしていてくださいね」


「はい。最近は聖獣の方が文字や言葉を教えて欲しいと言って集まっているので退屈していませんよ」


「・・・そうですか」



――何度か文明が滅んでいるはずなのに、なぜが文字や言葉は毎回同じか近いものが使われるのですよね。しかも、世界共通語ですし。異世界七不思議か何かですかね。七つどころではないぐらい不思議がありそうですけど。



 そんなどうでもいいことを考えながらのんびりと食事を済ませてわたしも家の外に出ました。弥生とプリシラさんが食器などの後片付けをするために家に残ります。家の前にある大きな広場の一角に置いてある大きい円卓の月がよく見える席に風魔法のクッションを作って座り、体をクッションに埋めながら月をぼんやりと見上げます。



 わたしがぼんやりとしている間に後片付けを終えた弥生とプリシラさんがやってきて、プリシラさんは迎えのユンと共に教会まで帰って行きました。弥生はわたしの指示通りにお茶会の準備を始めます。・・・そろそろお茶請けの在庫も少なくなってきましたね。機会があれば人の街まで行って仕入れてきましょうか。



 わたしの周りがバタバタと動いているのを眺めていると、卯月と如月が来訪者を連れて帰ってきました。



 既に何回か来ていて慣れた様子のゼロさんと、物珍しそうにキョロキョロとしているクーリアさんですね。クーリアさんはわたしの姿を見付けると、見慣れた人を見付けて安心したように緊張した表情を和らげました。二人は卯月と如月の案内でわたしの前までやってきます。



「・・・卯月、如月、ご苦労様です。わたしは少し話をするのでその辺の聖獣とでも遊んでいてください」


(何気にトワ様ってあたし達の扱いが雑ですよね・・・)


「わかったのです!ミラーと遊んでくるのです!」 


(まぁ、暇だったし構いませんけどって、卯月ちゃん?もうちょっと丁寧に扱って、うぎゃあ!卯月ちゃん待って担いで走らないで卯月ちゃん話聞いてぇぇええええ!!!)


「・・・・如月は母様のお手伝いします」



 広場でのべんとしていたうさぎの聖獣のミラーを担いで卯月が森の中に消えていったのを何事も無かったかのように見送った如月がぽつりと呟きました。まぁ、いつもの光景ですし、ミラーもそんなに言うほど嫌そうではないですし大丈夫でしょう。さっきの悲鳴はガチな感じがしましたが大丈夫でしょう。きっと。



 わたし達のやりとりを見ていたゼロさんとクーリアさんはそれぞれ呆れた顔と呆然とした顔をして立っています。わたしが二人に適当な席に座るように促すと、はっとした様子でゼロさんはわたしの反対側へ向かい合うように、クーリアさんはわたしの右斜めの位置に座ります。その席にすかさず弥生と如月がお茶とお菓子を置きました。



「・・・ゼロさんとは少し前に会いましたが、クーリアさんとは帝都以来ですね」


「えっと、その、はい。これでも急いで来たつもりだったのですが・・・」



 徐々に小さくなっていく言葉をわたしは手を軽く振って制止します。帝都から王国の国境門までを生き残った民間人を守りながら移動するのにはかなりの時間が掛かるでしょう。転移魔法を使うにも魔力は足りないでしょうし、移動用の馬車なども調達するのが難しい状況、そう考えると必然的に徒歩で移動したことになります。時間が掛かるのは仕方のないことでしょう。



「国境門から聖都までは春姫が転移で連れて行ってくれたので時間を短縮出来たのですけど・・・」


「俺がこの間トワと話した帰りに聖都近くの街でたまたまこの娘を見付けてな。『白の桔梗』は有名だからメンバーの顔は覚えていたからまさかと思って声を掛けたんだ。それで連れてきた」



 えっと、前回ゼロさんがいろいろ情報を持ってきてくれたのが一週間前でしたね。その帰りにクーリアさんと会ってまた戻って来たということですか。え?聖都近くの街で?移動早くないですか?ここから聖都まで途中で馬車を使ったとしても二週間以上の時間が掛かると思うのですが。



 まぁ、わたしが走れば数日で着きますし、魔人と聖人ですからね。きっと普通ではない方法でここまで来たのでしょう。



 ぼんやりとしながら話を聞き流していると、弥生がおもむろにお茶を注ぎ足しました。あまり減っていない器の中に足されるお茶に意識が引き戻されます。いけませんね。ちょっとぼーっとしてしまいました。最近は平和過ぎてつい意識が逸れてしまうことが多いですね。気を引き締めましょう。



「え~っと・・・トワちゃんにいろいろと聞きたいことがあるのですが・・・」



 遠慮がちにわたしの名を呼んだクーリアさんに視線を移します。はて、なんの話をすればいいのでしょう?と考えます。っと、そこで、そういえばわたしが神獣になったこと以外は何も話していなかったことを思い出します。今後クーリアさんはこちら側になるので、ある程度事情を説明する必要があるのでしたね。



 わたしが口を開こうとしたタイミングで後ろから弥生のやや棘のある声が発せられました。



「あなた、主様の眷族になったのならば相応の呼び方をするべきではありませんか?」


「ぅ、え?、あぁ・・・そうですね」



 人見知りのクーリアさんは初めて会った人にいきなり叱られてしゅんとなります。そして、おずおずと顔を上げると照れくさそうに小声で言いなおします。



「えっと、トワ・・・様?それとも、主様と呼べばいいのですか?」



 ぞわぞわと背中に寒気がきます。お互いに呼び慣れない言い方で呼ばれるのはとても気持ち悪いですね。



「・・・とても気持ち悪いので今まで通りで結構です」


「き、きもちわるい・・・」


「・・・・主様がそう仰るならば私的な場ではお目こぼししましょう」



 気持ち悪いと言われて落ち込んだ様子で呟いたクーリアさんと「仕方が無いですね」と呟いた弥生。わたしは弥生の方に振り向いて提案します。



「・・・なんなら、弥生達もわたしのことを名前で呼んでもいいのですよ?」



 わたしがそう言うと、弥生と如月が呆けたような顔をして一瞬だけ固まったあと、ぶんぶんと音が聞こえてきそうな勢いで顔を横に振ります。



「無理ですそんな恐れ多いことが出来ませんお許しください!」


「ダメです無理ですひとりの時にこっそりと呼ぶくらいで許してください!」



――わたしの名前ってそんなに恐れ多いものではないのですが?というか如月?ひとりの時こっそり呼ぶってなんですか?ちょっと怖いですよ、それ。



 この二人はこんな感じですけど、卯月は普通に名前で呼んでくれそうですけどねぇ。っと考えていたら、こほん、と咳払いが聞こえて視線を正面に戻します。



「話が全然進まないんだが?いろいろと大切な話があるんだろう?」



 ゼロさんが呆れた様子でお茶を飲みながら話を進めようと問いかけてきました。どうでもいいですが、貴方は馴染みすぎではないですか?



 まぁでも、このままではいつまで経っても話が進まないので居住まいを正して改めてクーリアさんの方に向き直ります。真剣な話だと察したクーリアさんも背筋を伸ばして居住まいを正してわたしをじっと見返します。



 わたしは、『白の桔梗』から離れることになった公国でのことから順に今までのことを説明していきます。神獣となったことも、正式に認められたことを改めて報告して、その神獣の役割や、悪魔と天使についてに話もしました。



 そこそこ長い話を終えると、クーリアさんは深い深い溜息を吐いて視線を下げてテーブルをぼんやりと見ながら思慮に浸ります。彼女の考えがまとまるまでわたしはゼロさんと話をしましょうかね。



「・・・ところで、ゼロさんはクーリアさんに案内をしにきただけなのですか?」


「ん~?まぁ、そんなところだな。後は、強いて言うならば、春姫にこき使われるの嫌だから会うのを先延ばしにしている」


「・・・後半が妙に切実でしたね。・・・ちょっとだけわたしのせいかもしれませんので、まぁ、頑張ってください」


「頑張りたくはないんだよなぁ・・・。ん?トワのせいってどういうことだ?」



 わたしは前に春姫さんからお手伝いの連絡が来た時にフェニさんに報告したら、フェニさんが春姫さんと話をしに行ってキャンセルになったことを話しました。それを聞いたゼロさんがどこか遠い目をしながら「あ~あのブツブツ言っていたのはそれかぁ」とどこか納得したように呟きます。



「・・・そもそも、会いに行かなくても〈思念伝達〉で連絡来るでしょう?」


「それなんだよなぁ。応答しなければいいんだが、しないと後が怖いんだよなぁ」


「・・・というより、いつ春姫さんは〈思念伝達〉覚えたのでしょう?たしかあそこの連絡ツールは式神とかいう陰陽術でしたよね?」


「ツールというのがなんなのか知らんが・・・以前から〈思念伝達〉覚えていたみたいだぞ。といっても、式神使う方が慣れているから普段は式神を使っているとは言っていたが」



 〈思念伝達〉って概念的に覚えるのが難しいスキルなのですが、春姫さんってすごいですね。ま、わたしもすぐ覚えましたけどね。別に対抗しているわけではないですよ?



 そんなとりとめのない会話をしていると、クーリアさんが顔を上げました。情報の整理は終わったようですね。



「本来はこの世界にいないはずの存在。消滅すら出来ずに奥底に僅かな意識の欠片を持ってスキルとして残った存在。気になったのですが、その天使と悪魔はこの世界に来て何をしたかったのですか?」


「・・・さぁ?」


「さぁって・・・それがわからなければ対策も立てられないではないですか」


「・・・そんなことを言われても、わたしは特に気にしなかったので・・・。仕方ありません、詳しそうな人を呼びますか」


「詳しそうな人と言うと、他の神獣さんですか?」


「・・・ですね」



 というわけで、いつも通りにフェニさんに〈思念伝達〉で話を聞いてみます。すると、すぐにこちらに来てくれることになりました。ついでにわたしが助けた元獣人の人工魔人という存在も直接見て見たいそうです。



 わたしの〈思念伝達〉が終わってからすぐに転移でフェニさんが現れました。鮮やかな赤い髪の短いポニーテールを揺らして地面に降り立つと、そのまま流れるようにわたしの隣に風のクッションを作って座りました。もう覚えたのですね。まさか昨日帰ってから練習していたのですか?



「昨日ぶりね、トワ。それと、そこの聖人は久し振りね。あの薬草は役に立ったかしら?」


「あぁ、あの時の不死鳥殿か。人の姿だからわからなかった。お蔭様で助かったよ。依頼人もそのお嬢さんも病状は回復してきたそうだ。感謝する」


「あら、ふふ。ただの気まぐれだから気にしないで。・・・そして、そっちの子が例の子ね」



 フェニさんはわたしに微笑みかけて挨拶した後にゼロさんにも声を掛けました。そういえば一度だけ会っているのでしたっけ。最後にフェニさんが穏やかな笑みを湛えたままクーリアさんを見詰めます。なんとなくですが、〈魂魄眼〉で視ているような感じがします。何か問題でも探しているのでしょうか?



 しばらくの間無言でじっと見詰められて、クーリアさんが居たたまれないように身じろぎすると、わたしに救いを求めるような視線をちらちらと送ってきます。ですが、わたしがフェニさんのやることに何か言うつもりはありません。きっとわたしの為に必要なことをやっているのでしょうからね。



「・・・・・・・・うん。なるほど、大体わかったわ。まぁ、及第点かしら」


「・・・何が及第点なのですか?」


「トワの眷族として近くに置いておいて良いのかどうかかしらね。元人族だからちょっと淀んでいるけれど、人族にしてはマシな方かしら。だから及第点」


「それ、失格だったらどうするのですか?」


「・・・・・トワに近付けないようにするだけよ」



 その間と笑顔が怖いのですが、頑張って助けたのですから殺すようなことはしないでくださいよ。わたしがそう念を込めてフェニさんを見詰めると、「分かってるから大丈夫」と言いたげにウィンクしてきました。どうでもいいですがすごく似合うし可愛いですね。時折見せるそういう子供っぽい仕草は卑怯ですよね。ホント、前の世界にフェニさんが居たらさぞモテたでしょう。



 見分されていたクーリアさんは顔を青くして中身が空っぽになったコップを震える手で握りしめていました。本当に良かったですね。でも、さすがに何かされそうになったら助けてあげますから。たぶん。



「それで、悪魔と天使がこの世界にやってきて何をしようとしていたかという話でいいのかしら?」



 フェニさんが変わらずの微笑を浮かべたまま話を進めました。ゼロさんも悪魔スキルを持っていてかつ一度は意識を乗っ取られそうになったことがあるからか、興味津々にフェニさんの言葉に耳を傾けています。弥生が話の腰を折らないようにさり気なくティーカップをフェニさんの前に置きました。



「簡単な話よ。この世界を手にいれようとしていたの」


「・・・はぁ、ありがちな話ですが、何故手にいれる必要があるのですか?元の世界で住んでいたのでしょう?」


「そうね。あいつらが居た世界は概念的な世界らしくて、この世界のように実体がある世界ではないそうよ。私も異世界のことだから詳しくは知らないけれど、元々概念的な存在だからこそ、実体を得て存在出来る世界が欲しかったみたい。他の理由もあるかも知れないけれど、私が知っているのはその程度かしらね」



 なんとも迷惑な話ですね。一番迷惑なのはそんな異世界の存在をこの世界に呼び込んだ大昔の人間なのですが。昔々大昔の人に文句を言っても仕方ありませんね。起きたことは仕方ない。過去は変えられませんから。



「なるほど、概念的な世界からこの世界にやってきたことで実体を持てるようになったから欲しくなったということですか・・・。迷惑な話です」



 クーリアさんがわたしと同じ感想を抱いて小さく呟きます。でも、わたしが帝都で会った悪魔らしき気配からは違う目的を言っていたような気がして首を傾げます。



「・・・今回の悪事を働いている悪魔は神獣への復讐がどうとか、あの方が戻ってくるまでとか言っていましたよ」


「ねぇトワ?その話、始めて聞いたのだけど?」



 フェニさんがそれはそれは怖い笑顔で身を乗り出してわたしの顔を見詰めました。冷や汗をだらだらと流すような気分で必死に言い訳をします。こういう時に表情が変えられないのは良い事なのか悪い事なのか判断に困りますね。



「・・・いえ、ほら、わたしここに帰ってきてすぐに寝てしまいましたし、ここ二ヶ月ちょっとの間いろいろと動いていて忙しかったですし、少しくらい忘れることがあってもおかしくないと思いますですごめんなさい」



 はっ!フェニさんのニコニコ顔の圧力に負けて思わず謝ってしまいました。これでは頑張って早口で言った言い訳の意味が無くなるではないですか。



 フェニさんがまるで幼子を相手にするように頭を優しく撫でて「よく謝れましたね」と言って、「でも、次からはきちんと大事なことは報告してね」と釘を刺されます。



 わたしがぐぬぬという気持ちになりながら大人しく撫でられていると、向かい側と斜め側の方からひそひそ会話が聞こえてきます



「私達は一体何を見せられているのですか?」


「気にするな。ここではトワはいつもあんな感じだ」


「はぁ、変わりませんねぇ・・・」


「こうしていると無愛想なこと以外は普通の可愛い女の子にしか見えないんだけどなぁ」


「トワちゃんは可愛いですからね!」


「何故お前が誇らしそうなんだよ」



 そっちは楽しそうでいいですね。わたしはフェニさんのお説教が始まるのではないかと戦々恐々(せんせんきょうきょう)としていたのに。ずるいです。そこ変わってください。



 ま、アホなことをしていないで話を戻しますか。わたしがこほんと咳払いをすると、視線が一斉に集まります。いや、あの、頭撫でるのやめてくれませんかね?



「・・・フェニさん?いつまでやっているのですか?」


「あぁ、触り心地が良かったからつい。それで、その帝都の一件とやらに悪魔が関わっているのは間違いないのね?」


「・・・えぇ。わたしも悪魔スキル持っていますからね。なんとなく気配で分かります」


「トワも悪魔スキル持っていたのか」


「言っていませんでしたっけ?」



 ゼロさんがこくりと頷きます。そういえば、天使と悪魔の話はしましたが、わたしが悪魔スキル持っている話はしていないかもしれません。ま、どうでもいいので割愛しましょう。



「トワの話が本当ならば、私達にも何かしらの干渉があると考えた方がいいわね。後で他の全員に連絡しておきましょう」



 フェニさんが下唇に指を当てながらそう呟きます。それを聞いたゼロさんが恐る恐るといった感じでフェニさんに話しかけました。



「その、今回の件で神獣が暴れまわる事態になる可能性はあるのか?その、粛清という形で」


「・・・どうでしょうか。わたしには元々のスキル保有者が乗っ取られた感じに見えましたので、意図して人族が復活させたようには見えませんでしたけど」


「そうね。今はまだ、と言ったところかしら。でも、これ以上悪魔や天使が復活したり、事態によっては可能性がないとは言い切れないわね」


「粛清・・・全人類の抹消。文明の破壊とやり直し、ですか」



 クーリアさんはこちら側なので粛清対象ではありませんが、粛清する立場になるということはセラさんやエルさんと敵対する立場になります。複雑な気持ちでしょう。わたしも同じく粛清する側ですからね。その時が来た時のために覚悟だけはしておいた方がいいですね。



「そういえば、記憶は朧気ですが、ゼストの命令で世界中のいくつかの場所に何かを転移移送した記憶があります。あれも悪魔と関係のあるものなのでしょうか?」


「それは気になるわね。その転移先は覚えているの?」


「大まかな場所ならばわかります」


「それならば、そこを調査するのが現状の段階で出来そうなことだな」


「・・・これは事情を知っている人間とわたし達神獣側でこっそりとやりましょうか。悪魔と下手に関わらせる必要もないでしょう」



 わたしの言葉に会議の参加者全員が頷きます。あれ?これ会議でしたっけ?お茶会?もうなんでもいいですね。



 話も区切りがついたと判断したのか、いえ、クーリアさんがずっとわたしと話したそうにしていたのを察して敢えて終わらそうとしたのか、フェニさんがお茶を一気に飲むと話を切り上げる為に席を立ちました。



「それじゃ、私は一度戻ろうかしら。後でその怪しい場所の調査について話し合いましょう。リル達とも連絡を取っておかないとだし」


「・・・はい。わざわざ来てくれてありがとうございます。それに、気を使わせてしまったようで」


「いいのいいの。じゃあね。また近いうちに」



 最後にまたわたしの髪をそっと撫でてからフェニさんは転移して元の領域に帰っていきました。わたしはそれを見送ってから一瞬クーリアさんを見てすぐにゼロさんに目線を移します。



「・・・ゼロさん、話の続きはまた明日にしますので、今日は如月の訓練に付き合ってあげてください。如月の戦闘スタイルはゼロさんに近いですからね」


「構わないぜ。よし、如月、森の左の方に少し広めの場所があっただろ?そこでやろうか」


「はい!よろしくお願いします!」


「ならば、私も参考までに見学させていただきます。主様、少し席を外しますね」


「・・・はい。ありがとうございます」


「その、すいません・・・」



 クーリアさんが去っていく皆さんにぺこりと頭を下げると、ゼロさんは「おう」っと一言だけ言って如月を連れて森の中に消えていきました。弥生はクーリアさんの方に体を向けると少しだけ長く瞼を閉じてから目を開けると月のような金色の瞳で見詰めます。クーリアさんもまた、同じ瞳の色で真っすぐ見合いました。



「貴女に対して思うことがないわけではありません。ですが、主様が貴女をお救いになり、眷族として側に置くのならば納得はしましょう。眷族としてではなく人であった頃の友人として話すことがあるのならば、この場で全て話しておいてくださいませ。今後は基本的には主様の眷族として生きることになるのですから」


「はい」



 弥生はその短い答えに深く頷き、最後にわたしに一礼してその場から去りました。残されたのは、クッションに埋まるようにして座っているわたしと酷く暗い顔をしたクーリアさんだけです。



 お茶を一口飲んで、みたらし団子をひとつ、口の中に入れて咀嚼します。指先に付いたみたらしのタレをなめるとあまじょっぱいみたらしの味が口の中に残ります。それをもう一度お茶を飲んでリセットしました。全員が去ってから沈黙が続き空気が重苦しくなってきます。こういうのはあまり好きではないのでさっさと話を聞きだしますか。



「・・・話すことがあるのではないのですか?」


「・・・・ごめんなさい」



 黙ったままだったクーリアさんは黒い猫耳をぺたりと下げて嗚咽交じりのか細い声で謝りました。



「・・・何について謝っているのですか?」


「私達は、トワちゃんを守ることが出来ませんでした。むしろ、私達のせいで・・・あんなことに・・・」



 それは公国の時のことでしょうか。わたしにとっては仕方のない事、いつか起こると思っていたことだったので今はそんなに気にしてはいないのですが。クーリアさんにとってはずっと気に病んでいたことなのですね。



 わたしは夜空に浮かぶ月をぼんやりと見ながら謝罪を受け入れることにします。結局、わたしがどうこう言おうと気に病むのでしょうが少しは荷も軽くなるでしょう。気休めにしかなりませんけど。



「・・・それについては終わったことですから。わたしも気にしていませんので、クーリアさんも気に病む必要はないですよ」


「本当にそうですか?」



 本当に気にしていないのか?本当に許しているのか?本当に何も思うことがないのか?彼女は涙で濡れた目でそう問うてきます。セラさん達と一緒に行動することも、あの時にあのような別れ方を選んだのも、全てわたしが自分の意思で選んだことです。だから彼女達を恨んでいませんし、仕方のないことだったのだと考えているのです。



 わたしが本当に気にしていないと深く頷くと、彼女はどこか悲し気に微笑んで「そうですか・・・」と呟きました。



 しばらくの沈黙が流れ静かに時間が過ぎると、クーリアさんも段々と落ち着いてきたようで、まだほんのりと涙の痕が見える瞳でにっこりと笑って少し無理した元気な声音で会話を再開しました。



「では、今後の『白の桔梗』の話をしましょうか。ていっても、ギルド的には解散手続きしていますけど。もう知っているとは思いますが、セラさんは聖国に入って上位天使として各国に働きを掛けながら行動するようです。もちろん、今まで中途半端に扱っていた熾天使の力を解放して今ではちゃんとした聖人になっています」


「・・・そうですか。聖人になったのですね」


「はい。あ、少しだけ智天使さんとお話ししましたけど、トワちゃん、聖都に殴り込みしたそうですね。その話を聞いたセラさんが呆れていましたよ」


「・・・さっさと不可侵条約を結んだ方が後々に楽になると思っただけです。結果として女神として神輿にされましたけど」


「ふふ。まぁ確かに、女神と言われても私は納得しますけどね」



 セラさんが正式な聖人となり、熾天使の力の全てを解放したのだとすれば、人間界側はあまり危機的なことにはならないでしょう。元々が規格外な存在だったのにもっと規格外になるのです。ひょっとしたら、神獣並みの実力があるかもしれません。今度会う時が楽しみですね。



 女神云々は適当に流すことにして、もうひとりの仲間のエルさんについて聞いてみます。



「・・・はいはい。それで、エルさんはどうしたのですか?」


「エルさんは、エルフの里に帰るらしいです。なんでも、置いてきたものを取りに戻るのだとか。セラさんは詳しい事情を知っているようでしたけど、私は深くは聞かなかったので詳しいことはわかりません・・・」



 エルフの女王であるエルさんもまた、セラさんと同じ様に力に制限をかけていたはずです。恐らくはそれ関係のことなのでしょう。知る由もないことなので想像ですけどね。



「それと、リンナさんのペンダント・・・これもトワちゃんから貰ったものですけど・・・私が預かることになりました」


「・・・そうですか。良いんじゃないですか?」


「はい。大事にします」



 本当に大事なもののようにリンナさん用に用意した黒いペンダントをクーリアさんが握りしめました。クーリアさん用のティファニーストーンのペンダントも同じ場所にあります。



「そして、私はこれからはトワちゃんの眷族として側にいます。だから、なんでも頼ってくださいね」


「・・・はい。期待していますね」



 今のところは魔法のスペシャリストであるクーリアさんには弥生の育成をお願いしたいと思っています。魔物視点だけでなく人間界の知識と技術を覚えるいい機会です。わたしでは初歩的なものしか教えられないですし、わたしの魔法はちょっとだけ特殊なので参考にもしにくいですし。



 話もひと段落したところでわたしはふとクーリアさんの猫耳が目に留まって首を傾げます。



「・・・クーリアさんって黒猫族でしたよね?獣人の」


「はい。そうですけど。それがどうしましたか?」



 いきなりなんだろうとわたしと同じく首を傾げたクーリアさんにわたしは疑問をぶつけてみました。



「・・・うさぎの眷族の黒猫って、うさぎなのですか?猫なのですか?」


「えっ!?い、一応私も魔人ですし、うさぎになろうと思えばなれると思いますけど?」



――黒いうさ耳のクーリアさんもいいかもしれませんね。・・・ですけど、違和感があるのでこのままでいてもらいましょう。



 わたしが首を振ってそのままでいいですと言うと、クーリアさんは酷く安心したように息を吐きました。



「あぁ良かったです。うさぎになったらセラさんに構い倒されそうで怖いですからね・・・」



――それ、前に貴女がわたしにやっていましたよね?



 と、口に出しそうになりましたが抑えました。わたし、優しいですね。なので聖国に用事が出来た時はセラさんへの生贄用にクーリアさんを連れていくことにしましょう。さんざん猫耳をもふられればいいと思います。



 わたしが密かな復讐計画を立てていると、いきなりクーリアさんがぽんと何かを思い出したように手を叩くと、収納から魔石の欠片のようなものを取り出してわたしに渡してきました。



「セラさんからトワちゃんに渡すように頼まれていたものです。渡せばなんだかわかると言っていましけど、わかりますか?」


「・・・これは」



 もちろん知っていました。忘れるわけがありません。わたしが初めてこの世界で意識を持ってから出会って、短い間ですが草原や森で一緒に暮らして、最初の友人で、親友で。セラさん達に殺されて。そして、わたしが魔人になるきっかけになった魔石の欠片。



 そう、それは、スライムさんの魔石の欠片でした。




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[気になる点] >おや?ゼスト殿と、私達に近しい存在がやって来ましたね。 眷属たちがゼストを直接に確認した事はなかった気がする、、帝都とかで感じたかな?
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