55話 転生うさぎと智天使と力天使
プリシラさんの話では聖国の偉い人・・・つまり智天使か力天使ですね・・・が、この大聖堂という建物に居るらしいので、その大神殿の内部を案内してもらっているのですが・・・。
「なっ!こんなところにまで魔人が!?」
「控えなさい!このお方は月の女神様であらせられますよ!」
――布教しないでくれませんかね?プリシラさん?それにその台詞どこかのご隠居様の取り巻きが言ってそうなのですが・・・。ご隠居様とかこの世界の人には通じませんし、放っておきますか。
わたしが月の女神様だと思い込んで道を空けるというよりもプリシラさんの迫力で思わず避けている感じがします。それで良いのですか?ざる警備とか言われません?
正面から入り無駄に高い天井の礼拝堂らしき場所を颯爽と抜けて、通用口から中庭まで出て、大きな通路に集まってきていた騎士やら聖女やらシスターやらが空けてくれた道を通り、やがて先ほどの入り口の礼拝堂よりも立派な装飾が施してある大きな扉の前まで辿り着きました。
「この先は神々の像が並ぶ聖殿と呼ばれる大広間になっています。智天使様がおられる三階の執務室へはここを抜ける必要があります」
「・・・力天使は同じ場所に居ないのですか?」
「恐らく、この先の聖殿で待っていますよ。あの方は聖国の最高戦力ですから」
あくまで前の世界の記憶ですが、力天使は天使の階級では五位に位置する天使で、智天使は二位なのですよね。これで考えたら階級的には智天使の方が強そうですけど・・・ま、ここは異世界ですから前の世界と違っていて当然ですよね。それに階級=強さと結びつけるのも早計ですか。ちなみに、セラさんの熾天使は階級一位です。
さて、プリシラさんの言う通りこの先にはかなりの数の人の気配を感じますね。いずれも冒険者でいうBランク以上の強さを持つ人ばかりです。あくまで魔力量を基準にしているので技術面も含めると全員がAランク冒険者クラスの強さだと思った方が良いですね。
――どちらにせよ、今の私の敵では無いでしょうけどね。・・・二名を除いては。
「・・・プリシラさん、念のためにわたしの後ろに下がっていてください」
「畏まりました」
やっぱり、ちょっと弥生と似てますね。弥生もわたしを信仰してるっぽいところありますし。わたしとしては前の頃のプリシラさんの方が良いのですが、これはこれでしっくりくるのが複雑な気持ちですね。
わたしは目の前の大きい扉をゆっくりと開けます。中は非常に広いホールのようになっていて、正面に大きな女神像があり、左右の壁にはそれぞれ三体ずつ神様の像があります。おや、左の真ん中にいる女神像はプリシラさんと出会った教会にあった女神様ですね。あ、半分は男神ですよ。
そして、正面の大きな女神像の前におよそ三十人の騎士と聖女らしきシスターが整然と並び、その中心に真っ白なローブを来た人が居ます。この人が力天使ですかね。
「あの白いローブを着た人が力天使様です。それと、後ろに居る黒い騎士はカルタ様、十二天騎士筆頭です。トワ様、お気を付けください」
聖殿の入り口でひそひそとプリシラさんが説明してくれます。それらを聞いてから聖殿に足を踏み入れると力天使さんが白いローブのフードを脱いで前に出てきました。青い炎のような色の目がわたしを見据えます。お互いにやや距離を置いて立ち止まりました。プリシラさんは入り口で待機しているようです。
「新しい神獣だなんて情報が来ていたが、まさか本当に神獣レベルの化け物だとはな」
「・・・」
わたしはとりあえず様子を見るために黙ります。
力天使さんは前髪をかきあげて小さく溜息をすると、その体勢のままわたしを睨みました。少しだけ威圧も感じます。こんな程度の威圧など今のわたしには全然効きませんけどね。
「ひとつだけ教えてくれ。聖拳のコンゴウを殺ったのはお前か?」
「・・・聖拳のコンゴウ・・・?あぁ・・・あのSランク冒険者さんですか。・・・えぇ、襲って来たので返り討ちにしましたよ」
わたしの言葉に力天使さんの後ろにいる騎士達がざわざわとしました。騎士の中で真っ黒な騎士服を着ている女性が深く溜息を吐いて手をひらひらとさせました。
「コンゴウさんを倒してしまうような魔人が相手では私達は有象無象もいいところですねー。皆さん、端に寄りましょう。戦闘に巻き込まれると死にますよー?」
彼女の言葉で三十人居た集団は左右に分かれて道を空けました。残ったのは目の前にいる力天使さんだけです。
――って、あの黒い騎士さんは強いでしょう?何で弱いふりしているのでしょうか。まぁ、戦わないのならわたしは楽なのでいいのですけど。
この調子で全員退いてくれないかなと微かな望みをかけて目の前に立ちはだかる力天使さんに声を掛けます。
「・・・わたしは話がしたいだけなので戦いたくはないのですが?」
「そういう訳には行かない。魔物を神敵としている我々が魔物の要求に屈するなどありえない」
テロリストの要求には屈しない的なものを感じますね。ああいうのって大体は裏で交渉しているのでしょうね。どうでもいいですけど。
わたしは小さく溜息を吐きます。もう手っ取り早く終わらせましょう。
「・・・もう、本当に人間って面倒くさいです。では早く戦いましょうか」
「随分と余裕だな。上位天使であるあたしの浄化能力は強力だぞ?」
セラさんくらい強くなければどうとでも出来ますよ。とは口に出しませんでした。言ったら話が逸れそうな気がしたので。既にわたしは女神扱いされてたせいで精神的に疲れているのです。早く帰りたいです。お月見したいです。
力天使さんは大きな鎚を収納魔法付きの魔術具から取り出して担ぎます。少し成長したとはいえ、十三歳くらいのわたしの体でもぐちゃりと丸ごと潰れそうなくらい大きいです。そして、セラさんの聖剣と同じ性質のようで強い浄化能力を感じました。聖鎚とでも言いましょうか。
そして、戦闘は唐突に始まります。いきなりわたしの目の前まで迫ってきた力天使さんは思いっきり振りかぶった聖鎚をわたしに向けて振り下ろしました。
わたしはそれに余裕で反応して、片手で受け止めます。
何かのアーツだったのか凄まじい衝撃波が周囲に吹き荒れます。念のためプリシラさんの周りに空間湾曲防御魔法を張っておきましょう。彼女は一般人(?)ですから巻き込まれたら大変です。
力天使さんが驚愕に目を見開きました。そりゃそうでしょう。こんなに大きな鎚を十三歳くらいの少女が片手で受け止めた上に、ご自慢の浄化能力も効いていないのですから。正確にはちょっとだけ効いてますけど。
「な、何故だ!何故あたしの浄化が効かない!?」
その理由は大きく二つあります。まずひとつはわたしが予め〈魔力活性化〉で浄化能力にある程度抵抗力をつけたから。もうひとつは、浄化自体は効いているのですが、わたしの膨大な魔力量からしたら非常に微々たる量しか浄化されないので目に見えて変化が起きないから効いてないように見えるのです。
わたしはそれらを説明しないで片手で大鎚を持った体勢で無表情のままじっと力天使さんを見詰めます。
「・・・まさか本当にこの程度で神獣として進化を果たしたわたしと戦うつもりだったのですか?」
「ちっ!だがまだ!!」
諦めが悪いのか、負けたら後がないと思っているのか、力天使さんはもう一度聖鎚を大きく振りかぶります。今度は多くの魔力を大槌に注ぎ込んだのか。浄化の光が眩しいくらいに光っています。
それを再びわたしに振り下ろします。先ほどと全く同じ様に片手で受け止めますが、大鎚はわたしに傷を付けることも出来ず、強くなった浄化の力が、わたしの腕から魔力を消し去りますが先程よりも多少魔力を減らされた程度でした。そして、その減った魔力はわたしの〈月光浴〉で即座に回復します。
――そもそも、わたしに直接傷付けられない限りは浄化で多少魔力を削られても回復しますからね。その為にこの辺りを領域で覆って月を出したのですし。
浄化の力は、魔力体に傷を付けた場合にのみ魔力による治癒を阻害する能力があります。つまりわたしを倒すには、わたしの魔力が無くなるまで浄化の力で傷を付けるか、浄化の力でわたしをまるごと消滅させるしかありません。
この領域を造るのに半分も魔力を減らしているとはいえ、一撃で今のわたしの魔力を浄化の力だけで消滅させるのはセラさんでも無理なのでは無いでしょうか?セラさんの話では浄化による魔力の消滅には、消滅させる魔力の二倍使うらしいですし、わたしの魔力量に匹敵する人族はそうそういないでしょう。よって、まるごと消滅させるのは不可能と言ってしまっていいでしょう。
聖鎚でアーツを使っても尚わたしに傷を付けられなかった時点で前者も不可。もはや戦うことに意味はないのです。
さっき話題に上がったコンゴウっていう人と戦った時は、まだわたしはここまでの魔力量が無かったですし、魔力をある程度使った後だったので浄化能力による魔力削りも怖かったですが、今と前では魔力量に雲泥の差がありますからね。もしも、以前のわたしが力天使さんに出会っていたら危なかったかもですね。
「くそ!!」
「・・・もう良いでしょう?これ以上は時間の無駄ですよ」
「何で大鎚で叩き潰しているのに傷も付かないんだよ!?おかしいだろう!?」
――ごもっともで。わたしも見た目詐欺ですからねぇ。うさぎの姿ではないだけマシではないでしょうか?
何故傷一つ付かないのか?その理由を説明します。まず、身体能力がそれだけ高いのです。魔人になったばかりと比べてもこれまた雲泥の差というやつですね。今のわたしならば国境門での戦いで出会ったドラゴンを素手でボコボコに出来ると思います。非効率的なので普通に魔法で倒しますけど。
それと、魔力体なので〈魔力活性化〉で体を構成する魔力を変質させて体を固く出来るのですよね。〈魔力活性化〉便利すぎでしょう。もちろん、限界はありますので過信は禁物ですが。セラさんの聖剣には貫かれるでしょうし、神獣達の攻撃には耐えられないでしょうからね。逆に言うならば、それほどの攻撃が来ない限り傷も負いませんが。
――わたし、強くなりましたね~。やっと異世界無双とか出来そうです。まだわたしより強い人はたくさん居ますけど。
わたしがひとり感慨に耽っていると、力天使さんが性懲りもなく三度目の攻撃をしようと聖鎚を振りかぶりました。何度やっても無駄ですってば。
「止めなさい!もう無駄だと解っているでしょう?」
「っ!ソフィア・・・」
大鎚を振りかぶった体勢の力天使さんと声のした方に顔を向けると、聖殿の奥の扉の前に立っている女性がいました。この人が智天使ですかね。
緑色の髪が肩甲骨の辺りまで流れていて、ちょっとつり目のダークグリーンの瞳に銀縁のメガネを掛けています。おや、あのメガネは鑑定のスキルが付いた魔術具のようですね。表情がほとんど動かない無表情な顔をしていて冷たい印象を受けます。・・・無表情な辺りはとても親近感がわきますね。
「武器を下ろしなさい、リーチェ。そちらの貴方、プリシラと一緒に執務室まで案内します。ついて来てください。カルタとリーチェも同行して」
「はいー」「わかった・・・」
わたしとプリシラさん、智天使のソフィアさんと力天使のリーチェさんそれと一応護衛なのか黒い騎士服を着た十二天騎士の筆頭のカルタさんの計五名で聖殿奥の階段を上がってソフィアさんの執務室まで移動することになりました。
聖殿と言われていた場所の左奥の扉から通路に出て、いくつかの部屋を通り過ぎて階段で三階くらいまで上ります。階段を上り切ってすぐの部屋の扉にソフィアさんが入って行きました。それに続くようにリーチェさん、カルタさん、わたし、プリシラさんの順番で部屋に入ります。
「本当はきちんとした会議室をご用意したかったのですが、貴方にこの聖殿内をこれ以上うろうろされると、更に面倒な事になりそうなので狭いですがこの部屋でお話ししましょう」
そう言いながら席を勧めてきたので遠慮なく座ります。プリシラさんはわたしの後ろに控えて、ソフィアさんとリーチェさんがわたしの対面のソファーに座り、カルタさんは出入口前に立っている配置になりました。
わたしはお茶と団子をぽんぽんと収納から出して並べます。正面に座るソフィアさんが眉をひそめますが無視です。折角お月さまの見える窓もありますし、お月見したいじゃないですか?というか精神的に疲れたので糖分補給です。
「ん、んん!それで?貴方は何を話し合うためにここまできたのですか?」
わたしが呑気にお月見を始めたせいか、咳払いした後に言葉の端々に刺々しい感情が見え隠れする口調でソフィアさんが話を進めようとします。わたしは口に入った団子をお茶で流して飲み込んでから口を開きました。
「・・・とりあえず、自己紹介をしましょうか。わたしの名前はトワ。種族は月兎です。・・・もうご存知だと思いますが、ここから西にある聖樹の森という場所に『月の領域』という領域を造らせて頂きました。・・・あと、まだ正式ではありませんが、三体の神獣から認められいる六体目の神獣です」
「『月の領域』ね・・・。非常に綺麗で幻想的な雰囲気の領域だと聞いています」
――魔法のあるこの世界の人に幻想的と言わせましたよ。わたしの領域も中々やりますね。
「『月の領域』に月兎、ね。たしかに月の女神様みたいねー」
「おいカルタ、話に入って来るな。ややこしくなるだろう」
「えー?でもこれだけ月に関係する兎の魔人でしかも一度見たら忘れられないほどの美貌があれば、女神と言われても納得しちゃいますよー」
「・・・いえ、女神ではないのですが。あと、薄々感じていましたが貴方けっこう軽い性格なのですね?」
十二天騎士とやらの筆頭でしたよね?こんな軽くて良いのでしょうか。あ、でも次席の人は真面目そうでしたね。なんとなく次席のあの人がいろいろと面倒事を抱えていそうな感じがします。
「カルタの話は気にしないください。改めて自己紹介しましょう。私はソフィア。智天使のスキルを持っていてこの国の管理・・・国政を担っています」
「あたしの名前はリーチェだ。力天使としてソフィアの補佐と十二天騎士の統括をやっている」
「その十二天騎士の筆頭が私です。カルタと言いますよー。職務はリーチェ様の補佐と他の十二天騎士の取り纏め、その他にはー、非常時における全騎士団の指揮権とかもありますよー」
「・・・この人が全指揮を持っていたら不安ではありませんか?」
「今物凄く不安に駆られていますが、優秀な次席がいますし、実力もありますので外すわけにはいきません。それに、彼女は少し特別ですから」
聖国もいろいろと大変なのですね。ソフィアさんが額に手を当てて顔を横に振っています。わたしがお茶を出して勧めると「ありがとうございます」とお礼を言ってから一口飲みました。
お茶を飲んで落ち着いたのかソフィアさんが顔を上げました。相変わらず無表情ですが、どことなく疲れているような印象を受けます。
「それで、話を戻しますが、私達に話したいこととは?」
「・・・そうですね。まずは、わたしの領域に干渉しないことを約束してもらいたいです。・・・元々は貴方達の土地ではあるので勝手を言っているのは承知していますが」
「問題ありません。元々聖樹の森は時々冒険者や物好きが行く程度で国としてはあまり重要度の高い場所ではありませんから。ただ、冒険者までは抑えられませんよ?」
「・・・そこは構いません。過度な干渉さえしなければ多少の出入りは認めましょう。しかし、わたしが敵対行為と判断した者は例外なくその場で殺しますので注意してくださいね」
「解りました。冒険者ギルドにも一応伝えておきましょう。後は自己責任ということで」
ソフィアさんがお茶を一気に飲み干します。リーチェさんとカルタさんはこういった話し合いには参加しないようですね。先程から静かに話を聞いています。何か言いたそうな顔はしていますが。ま、言ってこないのならばいいですよね。後でソフィアさんに頑張ってもらいましょう。
「ふぅ。お茶、どうもありがとうごさいます。それで、トワさん、でいいですか?」
「・・・ええ。構いませんよ」
「ではトワさんはお互いの相互不可侵ということを提案したくて出向いてきた。ということで理解してよろしいので?」
「・・・はい、そうですよ」
「そうですか。では私の方からひとつ提案があります」
「・・・提案ですか?」
良い予感はしませんが、聞くだけは聞いておきましょうか。わたしが話を促すようにじっと見ると、ソフィアさんが眼鏡を片手で押し上げて深く息を吸って吐いてから口を開きました。
「提案というのは、トワさんを神獣としてではなく、『月の女神』と我々が公式に認定して、トワさんの領域を聖地として扱うということです」
「・・・わたしは女神では無いですよ?」
「それを言ったら私も智天使ではありませんよ?そういったスキルを受け継いだからそう名乗っているだけです」
ま、確かにソフィアさんは人間・・・というか聖人ですけど、天使では無いですからね。
「そして、トワさんは〈月の女神〉のスキルをお持ちですね?」
ソフィアさんのその言葉にわたしは思わず固まってしまいます。
――何故解ったのです?それともカマ掛けられているのでしょうか?ここで迂闊に頷くのは危険ですね。
そう判断したわたしは持ち前のポーカーフェイス(普段からずっと無表情なだけですが)で自分のお茶をこくりと飲みます。うん。美味しいですね。落ち着きました。
わたしは再び視線を上げると、わたしのことを見ていたソフィアさんと視線がぶつかります。何故かソフィアさんの口許が僅かに上がっているように見えますね。
「・・・何故わたしが〈月の女神〉というスキルを持っていると思うのですか?」
「ふふ。さっきまでトワさんが居た『聖殿』は天使スキルの保持者を見分ける為の信託の場としても使っています。天使と悪魔、それと神々の名を持つスキルを持っているかを調べることが出来るのですよ」
悪魔という単語の時にほんの少しだけ言葉が強調されました。どうやら、わたしが悪魔のスキルを持っていることも分かっているのでしょうか?でも、いつ鑑定されたのでしょう?あの場にその様な魔法陣や魔術具は見当たりませんでしたが。固有スキルまで見ることが出来るということは恐らくはアーティファクトと呼ばれるような特殊なものでしょう。
わたしがあの空間に置いてあった物を思い出していると、ソフィアさんが更に話を続けてきます。
「どうやって調べたのかは国家機密ですが、少なくとも神の名を持つスキルを御持ちなのは解っています。そして、今展開されている領域は月が浮かび、トワさんは『月兎』。これで持っている神の名のスキルが月の女神で無ければ私も驚きなのですが」
ああ、具体的な名前までは解らないのですね。あくまで推測を組み合わせた結果というわけですか。
――仕方ないですね。ここまで解っている相手に隠す必要は無いでしょう。
「・・・はぁ。確かにわたしは『月の女神』という名のスキルを持っていますよ」
「わぁお。・・・あ、すいませんー静かにしていますー」
突然カルタさんが声を上げましたが、ソフィアさんに睨まれて静かになりました。なんだったのでしょう?
ソフィアさんが再びわたしに顔を向けると片手で眼鏡を押し上げます。別にずれていないですけど彼女の癖なのでしょうか?気になるのでつい聞いてみたくなりますね。
「では、改めて、トワさんを月の女神として扱い、月の領域を聖域とした場合の利点を話しましょう。創造神を主神とした信仰を国教としている我が国ではその眷族である六体の神々の信仰もとても盛んです。その中でももっとも人の生活に近いモノを司っている女神が女神フレイネルという名の女神であり、その女神の眷族であり後に月の女神の称号を得る月兎の話は市民の中でも広く知られている神話です。その神話の存在が住む地を聖地とすれば、敬虔な信者である我が国の民は無闇に立ち入るようなことはしないでしょう。・・・近くに教会が建ち街は出来るかも知れませんが・・・そして、冒険者ギルドも下手に手を出せば、公式に女神と謳い信仰の対象にしている存在を害する行為に対して、我が国が口を出してくると思えばむやみやたらに手を出すような人は少なくなると思います。どうでしょうか?悪い話では無いでしょう?」
「・・・むぅ」
わたしは腕を組んで考えます。さっきの話を要約すると、わたしを女神に祭り上げて聖国がバックに付くということですよね?確かにソフィアの言う通り悪い話では無いのですが・・・。裏がありそうですけど、わたしは政治家ではないのでそこまで読めないのですよね。正直に質問してみますか。
「・・・貴方達の利があまり見えないのですが?何か思惑があるのでしょう?」
「それを直接聞きますか・・・」
ソフィアさんはわたしの直球な質問に少し呆れたような顔しながらも話してくれます。
「冒険者のゼロの話では人間界での情報も定期的に欲しいとのことでしたね?私達と友好関係になればお互いに情報交換が出来ます。私達も神獣からの情報はとても貴重だと思いますし、多少は他の領域へ足を踏み入れた時などに見逃していただけないかと下心もあります。特に魔の森とか」
「・・・魔の森ですか。あそこの神獣とはまだ会ったこと無いのですよね。話し合いが出来るかは解りませんよ?」
「それでも構いません。トワさんを通じて他の神獣達からの情報が手に入るのならばそれだけでも我々としては友誼を結ぶだけの価値があると考えます。どうでしょうか?」
なんだか営業の人に言葉攻めされている気分です。反射的に結構ですって言いたくなりますね。
んー、他にも何か思惑がありそうですが、多少は見逃してあげましょうか。面倒になってきましたし。気に食わないことは後で直談判しに行きましょう。何よりも、もう疲れましたし。
「・・・良いでしょう。最初はいろいろと齟齬があるでしょうから時々こちらに来るようにしますね」
「分かりました。ですが、いきなり来られても対応に困ります。何か事前に教えていただくことは出来ますか?」
「・・・それでしたら、わたしが事前に〈思念伝達〉でお教えします。・・・こういう感じで」
わたしが〈思念伝達〉でソフィアさんと魔力を繋げると、ソフィアさんがピクリと反応します。するとすぐにソフィアさんからも魔力が繋がりました。
(・・・こんな感じです)
(なるほど・・・これは便利なスキルですね。是非個人的にも体得したいものです)
(・・・結構大変なので頑張ってくださいね)
いきなり無言になったわたし達を不思議そうな顔で周りが見ています。わたしは〈思念伝達〉を切ると席を立ちました。伝えたいこと、話したいことはあらかた話しましたし、そろそろお暇しましょうか。
わたしが帰るつもりなのが分かったのか、ソフィアさんとリーチェさんも席を立ちました。・・・なんだかリーチェさんの表情が少し固いですね。緊張しているというか、最初に会った時と雰囲気が違うような?気のせいでしょうか?
「・・・では、わたしは帰りますね。今は人間界の方も大変でしょうから長居は困るでしょう?」
「ええ。変異種の件、その後ろで糸を引いている帝国、その帝国との戦争・・・。頭の痛い話です。もし可能であれば魔の森の行き来をある程度許していただくだけで王国との連携がとりやすいのですが」
「・・・機会があれば話してみましょう。ですが、あまり期待しないでくださいね。先ほども言いましたが、わたしもまだ会ったことがない神獣ですから」
話ながらわたしは展開していた領域を解除します。明るい太陽の光が再び街を照らし出しました。この聖都では一番大きい建物だからでしょうか。この部屋の窓からは聖都の白い街並みがよく見えます。
「・・・では、またいずれお会いしましょう。次は観光とかで来たいものですね」
「観光ですか、その時が来ればご案内します。それでは、次にお会いできるのを楽しみにしております」
「ええと、その、あの・・・」
「あははー女神様に武器を向けたことに動揺しているんですかー?リーチェ様も可愛いところあるんですねー?」
「くっ!カルタてめぇ覚えていろよ!」
「リーチェ、口が悪いですよ」
最後まで騒がしいですね。そして、最後なのでどうしても気になったことを聞いてみましょうか。まだ繋いでいる〈思念伝達〉でソフィアさんに話しかけます。
(・・・ところで、わたしに悪魔スキルがあるのもご存知のはずですよね?)
(えぇ、まぁ、それは一応伏せておきますので、出来れば聖国では口外しないようにお願いします)
女神として祀り上げるのに邪魔な要素は言うなってことですか。身内でも内緒にするのならばそれに従いましょう。わたしとしては女神云々はどうでもいいのですけどね。
窓にもう一度顔を向けると大きな湖が陽の光に照らされてキラキラと光っているのが見えます。わたしはその景色を目に焼き付けてから転移魔法で月の領域に帰りました。
こうして、わたしは人間界で神獣というよりは月の女神として知られることになりました。本物の女神様に怒られませんかね?そこだけが心配でなりません。




