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53話 転生うさぎと反省会

 人間達が領域から出ていくのを領域の制御版(せいぎょばん)を使って確認しました。やっぱり簡易の持ち運べる端末が欲しいですね。本気で考えてみましょうか。


 今聖樹の大木の前に広場では弥生(やよい)達の反省会が行われています。家でやれば良いと思うのですが、家では気持ちが弛緩してしまうからダメなんだそうです。わたしは可愛い眷族達が真剣に話し合っている様子を少し離れたところで見守っています。



「やはり、まだ全体的に力不足なところが目立ちますね。何よりも経験と技術が足りません」



「うん。如月(きさらぎ)もそう思った」



卯月(うづき)はわーっとやってがーっとやったら倒せたのですよ?」



「なんというか、卯月はちょっと違うと思う」



「なんでなのです~!?」



――卯月はいろんな意味で弥生と如月とは違うでしょう。



 そもそも戦闘スタイルが卯月の場合超パワータイプですからね。元々が高ランク冒険者並みにある身体能力に各スキルによる補正に加えて、〈月の戦兎〉による更に底上げされる身体能力は神獣であるわたしに匹敵する程です。



 というわけで、魔法で戦う弥生や奇襲攻撃が得意な如月のような、からめ手や技術を駆使して戦うのとは違って、卯月は正面からの力押しで戦うのにとても優れています。それに先ほども言いましたが、独自の固有ユニークスキルも発現していますからね。スキルレベルの低い弥生達より、素の戦闘力が高く、強力なスキルを持つ卯月は二人よりも数段上の実力なのです。



 そもそもとして、如月はまだいいとしても弥生は単体で戦うことを前提としていない戦闘スタイルですから、比べる必要もないことなのですが。



「・・・今回の防衛戦ではそれぞれ正面から戦ってもらいましたが、そのおかげで自分の弱点も実感できたでしょう?・・・でもまずは弱点を補うよりも自分の長所を極めた方が良いですよ」



「それは何故でしょう?」



 話し合いに交じったわたしの言葉に弥生が疑問を投げかけました。弱点をなくすことは重要なことではないのかと。まぁ確かにその通りなのですが。



 わたしの言葉を鵜呑みにするのではなく、きちんと自分で考えて意見も言える弥生はそれだけでも貴重な存在です。少し嬉しい気持ちになりながらわたしは説明しました。



「・・・貴方達には弱点が多すぎるのですよ。多少の弱点ならば秀でた能力である程度誤魔化すことも出来ますがまだ貴方達のスキルは発展途上なのです。・・・なので、まず貴方達がやらなければならないことは、弥生ならば魔法を、如月ならば隠密能力等を更に極めることです。弱点を補おうとあちこちに手を出していたらどれも中途半端になってしまって強力な敵と戦った時に力でごり押しされますよ」



「あるじさま~。卯月は何を極めれば良いのですか~?」



「・・・卯月は身体能力的にはすでにかなり突出していますからね。スキルを育てることよりも武器をもっと扱える技術を身に着けていただきましょう」



「わかったのです~♪」



――本当に分かっています?信用していない訳ではないのですが、ちょっと、いえ、かなり卯月の頭はアレですから心配ですね。



 フェンリルさんに育成を任せていたらどんどんと卯月が脳筋になりそうですね。これからはわたしが武器の扱いやアーツとかも教えてなんとか矯正していきましょう。



 わたしがそう決意を固めていると転移の兆候が表れました。空間が揺らぎ魔力を発するとそこには鮮やかな赤い髪を短いポニーテールにしてふわりと揺らしながら少女が現れました。少女はわたしの姿を見るとニコっと笑い掛けます。



「・・・フェニさんでしたか。どうしたのですか?」



 神獣の一体である不死鳥のフェニックス・・・フェニさんは微笑んだままわたしの対面の席に座ると、どこからともなくティーカップを取り出して自分で紅茶を淹れて飲み始めます。



「私の領域は今は落ち着いている時期だから暇なのよ。それで、暇を持て余した眷族達から早く弥生の訓練を再開したいって言われてね。ちょっと様子を見に来たの」



「・・・そうでしたか」



 フェニさんは茶目っ気たっぷりウィンクをしてそう言いました。それも理由のひとつなのでしょうが、恐らくはわたしの領域が人間に襲われるということで心配していたのでしょう。わたしの姿を見て安心したのか、なんだかいつもよりも雰囲気が柔らかい気がします。



 わたしはフェニさんに今回の人間達の侵攻の一部始終を伝え、この後わたしがやろうとしていることも教えました。フェニさんはじっとわたしの話を聞きながら優雅に紅茶を飲みます。所作を見ているとどこかの貴族のお嬢様のようですね。



 わたしの話を聞き終えたフェニさんが音を立てずにカップをソーサーの上に置きました。



「弥生達は確かにまだ全然、力も技術も神獣の眷族としては足りないところが多いわね。でもそれは、長い時間をかけて学んでいけばいいから問題無いとして・・・。トワが聖国だったかしら?に行く必要はあるの?放っておけばいいじゃない。今の人族の中でトワを害することが出来る存在はほとんどいないと思うわよ。たぶん、戦闘能力だけだったら今のトワは私より強いからね」



「・・・そうですかね?まだまだフェニさんには遠く及ばないと思いますけど」



 魔力量はフェニさんより多いですけど戦闘能力はどうでしょうかね?とても永い間生きていて、いくつもの激闘を繰り広げたことのある他の神獣達とは経験の差で負けそうですけど。



 わたしがそう言うとフェニさんは苦笑交じりに答えました。



「数えきれないほどの戦いを経験しているからこそ相手の強さがある程度分かるものなのよ。それに、私はスキルの関係上死なないだけで戦闘で負けることは何度か経験しているからね。神獣の中では比較的弱い方なのよ」



「・・・なるほど」



 それでも『死なない』という能力はそれだけで強力だと思いますけどね。具体的な能力まではわかりませんが、死ぬことがないということは、自分の命を捨てるような攻撃をいくらでも使えるということです。永遠と自爆攻撃をしてくるだけでも面倒な上、相手は神獣です。その攻撃自体も生半可なものではないでしょう。ゾンビ戦法というやつですかね。いつか絶対に首元を噛まれるのです。フェニさんだけは絶対に敵にしたくないです。



「それで?どうして人族の国に行くのかしら?」



 なんだか怒られそうな気がして話を逸らそうとしましたが、あっさりと元に戻されました。その顔には絶対に話すまで逃がさないと書いてあります。いえ、普通に微笑んでいるだけのですけどね。雰囲気的なものがですね、ちょっと怖いピリピリしたものを感じるのですよ。



 わたしは諦めて考えていることを話すことにします。別に隠すようなことでもないですからね。



「・・・それはですね」



 人族の動向を探り情報を集めることで世界に起きている異変をいち早く知ることが出来ること。



 万が一悪魔や天使の復活の兆しが見えそうな時に、人族との接点があれば事前に阻止できるかもしれないということ。



 以上の二点を説明すると、フェニさんはわたしの話を聞いて呆れたような感心したような複雑な笑みを浮かべます。



「なるほどね。きちんと考えているのならば問題無いわ。トワは人間のフリをして人族の国で過ごしたこともあるって聞いたから、なにか未練のようなものがあるんじゃないかと心配だったの」



――未練ですか。無いと思いますけど、どうなのでしょう?こうして関わりを持とうとしてしまうのは未練なのでしょうか?わかりません。



 わからないことはとりあえず放っておきましょう。この感じならばもう少し利点を上げればフェニさんから許可が出そうな感じです。。



「・・・それに人族と友好とまで行かなくても、定期的な関わりを作ることは人族を操作するのにも使えますよ」



 言い方は悪いですが、こちらの意図するように人族の意識を操ることが出来れば、危なそうな魔法の開発とか、悪魔や天使について余計なことをしないように出来るかもしれません。効果は薄いでしょうが。



 何故かと言うと、人間というのは禁止という言葉を使うとその禁止事項に興味を持ってしまいますからね。一番良いのは興味関心を抱かせないことです。全ての人の興味関心を操作するのはさすがに不可能でしょう。洗脳とか出来れば別でしょうけど、スキルによる対抗手段があるこの世界ではあまり現実的ではありません。なので、あくまで風潮というか空気のようなもので同調圧力を作り出すという程度が限界でしょう。



「・・・それと、神獣側からの意図や言葉を伝えるパイプもあったほうが便利だと思いませんか?」



「トワが私達神獣と人族のつなぎ役になるってこと?」



「・・・ええ。わたしならば聖人化している長命な人族の知り合いもいますから、わたし以外の神獣の皆さんの言葉をその人達を通じて人間界に発信することが出来ますよ。実際にこの領域のこととかはSランク冒険者の一人に協力してもらいましたし」



 ここでフェニさんが人族と関わるのには絶対に反対だと言ったらそれはそれで諦めますけどね。人族の情報を知りたいのは主にわたしですし、フェニさん達には興味の薄いことだと思いますから。それでも、セラさん達の動向も気になりますし、わたしとしては最低限でもいいので外と関われる何かが欲しいのですよね。



――やっぱり、フェニさんの言う通り未練なのかもしれません。



 しばらく頬に手を当てて考えこんでいたフェニさんでしたが、何かを確認するようにわたしの顔をじっと見ると、仕方のなさそうに困った笑みを浮かべました。



「分かった。他の神獣達には私からトワの意図を伝えておくわ。でもこれだけは約束して。トワはこちら側の存在だからあまり人族に肩入れするようなことはしないでね。人族は敵ではないけれど、味方でもないのだから」



 わたしが納得するように深く頷くと、フェニさんは満足したようにでもまだ不安そうな顔で紅茶のカップを持ってこくりと中身を飲みました。そして、再びカップをソーサーの上に置くと、微笑を湛えて周囲を見渡します。



「それにしてもこの領域に居るとなんだか落ち着くわね。それこそ定期的に通いたくなるくらいには居心地が良いわ。もちろん、自分の領域が一番なんだけどね」



「・・・これからも遠慮しないで何度も来ても良いのですよ。フェニさんならば大歓迎です」



「うふふ。本当は他の神獣の領域に頻繁に出入りするのはあまりマナーが良くないのだけど、トワがそう言ってくれるのならば今後もお邪魔しちゃおうかな」



「・・・それに、どうせオロチさんとかフェンリルさんとかは定期的に来そうですからね。酒盛りに。・・・なのでそれを抑えてくれるフェニさんに来ていただけると助かります」



 わたしが本音を言うとフェニさんがくすくすと笑いだしました。改めて言うつもりはありませんが、フェニさんならば本当にいつでも歓迎しますけどね。話をしていて一番気が楽ですし。頼りになりますし、優しいですし、天使ですし。鳥ですけど。



「そうそう。トワがその聖国に行っている間は私がここの守りをしておいてあげるわ。卯月がいれば問題無いとは思うけど、弥生や如月はまだちょっと力不足だからね」



「・・・それはとてもありがたいのですが良いのですか?」



「良いの良いの。私がやりたいのだから気にしないで」



「・・・では、お願いします。そんなに早く人族が再び攻めてくることはないと思いますけどね」



 というわけで、わたしが聖都に向かう時は〈思念伝達〉でフェニさんに報告することになりました。後でお礼もしないといけませんね。



 その後はまったりとフェニさんも交じって弥生達の教育の仕方や先の戦いの反省会の続きをしたり、特に何をするでもなく適当に談笑して時間をつぶしました。




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