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5話 転生うさぎと人間

 私の魔法の実験、研究、検証はほぼ終わり、変化した体にも慣れてきた頃。



 いつものようにわたしは平原をうろうろとして、頭の中で地図を作製します。ほぼ毎日やっていますが、スライムさんからあまり遠くに行かないようにしているので、遅々として進んでいません。地形を把握することは大事なので続けるようにしています。



 わたし一人でもこの辺りの危険な敵は倒せるようになりましたので、以前のようにスライムさんのところまで敵を誘導して直接倒してもらうのではなく、魔法でちょちょいと倒したやつを収納に入れて、スライムさんのところへ持ち帰って食べてもらっています。気分は狩人ですね。うさぎですが。



 ちなみに、わたしも狼の肉を食べてみましたが、あまりにも不味くて魔力に変換される前に吐いてしまいました。血抜きをしていない生肉だったので、血生臭いくて硬いのが我慢できませんでした。魔法で血抜きをして、火で炙って料理すれば一応食べられるようにはなりましたが、魔力を回復するために食べるのに魔法で魔力は使うし、苦労に見合うほどの味は無いし、匂いで狼達が群がって来ますし、それ以来食べていないです。香辛料があればまた違うのでしょうが。うさぎのわたしには関係の無い話です。



 草むらに潜んでいたヘビを風の魔法で真っ二つに切り裂いて倒すと、収納に仕舞います。狼ほどではないですが、スライムさんのお土産になります。相変わらず、周囲は緑一色の草原地帯が広がり、地図の作り甲斐がありません。周囲よりも少し高い丘まで移動して、そこにある石の上に乗って長草から顔を出し、身体強化で視力を強化して辺りを見渡します。



 すると、遠くの方に見慣れない影を三つ見つけました。



――この草原地帯の中で、長草よりも体長が大きい存在はいないのですが。



 この草原で最も多い、わたしが長草と呼んでいる丈の長い草が、およそ、70~80センチほどの大きさです。狼でも姿はほとんど見えません。それなのに、今わたしが見つけた影は草が腰ぐらいの位置にあるのです。



――それに、あのフォルムは・・・人間ですかね?



 この位置からでは離れすぎていて、いまいちピントが合いませんね。もう少し近づいて、改めて遠くから見てみましょうか。わたしは、今いる場所から影が居た方に向けて駆けだします。途中に大きめの岩を見つけたので、登ってみて場所を確認してみます。



――あれは、間違いなく人間ですね。武装しているようです。



 本当は第一村人発見、と言いたいのですが、あんな武装した村人がこんなところにいるはずないですね、近くに村とかは確認できませんでしたし、異世界名物の冒険者というものでしょうか?まあ、異世界の人間のことなんて分からないですが、実は村の狩人の可能性もありますけど。



――剣士が一人と槍士が一人と杖を持った人が一人ですか。狩人には見えませんよねえ。



 あの三人がどんな相手であろうと、人間と戦うのは得策ではありません。生かそうが殺そうが、危険な生物が居ると知られてしまったら、討伐部隊とかが出てくるかもしれません。数でかかってこられたら、いくら強くても限界があるでしょうからね。危険だと分かっていて、わざわざ藪をつつく必要は無いでしょう。



 ところで、なにか喋っているように見えるのですが、言葉を聞けばわかったりしますかね?実は日本語や英語で喋っているとかないですかね?試してみましょう。



 今度は聴力も強化してみます。うさみみを立てて、ぴくぴくと動かしながら、声を拾います。すると、3人組の男達の会話が聞こえてきました。



「――――」


「――――」


「――――」



 ――全く何を言ってるのかわかりませんね。やはり、都合の良い設定は準備してくれませんでしたか。ま、あまり期待はしていなかったので良いのですが。



 わたしがその場でしばらく意味の分からない会話を聞いていると、何か変なものを見つけたようで、焦った感じの声音になりました。聴力は元にもどして、再び視力を強化して状況を確認しています。三人がそれぞれに武器を構えて陣形を整えています。わたしが男達の居る方の気配を探ってみると、なんということでしょう。スライムさんが居ました。どうやら、スライムさんが見つかってしまったようです。



――助けに行った方が良いでしょうか?不意打ちすれば、一人は倒せると思いますが。



 元人間なのに人を殺せるのかって?今のわたしは人間ではないですし、むしろ、人間に襲われる側ですからね。向こうは襲ってくるのに、わたしが襲わないのはフェアではないでしょう?そもそも、そんな甘い考えでは、この世界でうさぎとして生きられませんから。



――状況を確認しつつ、スライムさんが危なそうだったら、ここから魔法で援護しましょうか。距離がわかって、視認していれば、この距離から攻撃できますからね。そこそこ魔力を使いますが。



 前衛が槍士で中衛が剣士、後衛が杖を持っているので魔法使いでしょうか?



――剣士が中衛なのですね。槍と立ち位置が逆な気がしますが。



「――――!」



 魔法使いの男がぶつぶつ呟いていたかと思うと、突然杖をスライムさんに向けて叫びました。すると、風の刃が、まだ人間達に気付いていないスライムさんを切り裂きます。傷は浅かったようで、スライムさんの体は即座に修復されました。



――魔法って詠唱したりするようですね。わたしはなにか特別な使い方をしているのでしょうか?気になりますけど、今はそれどころではありませんね。



 攻撃されたことで、スライムさんが大きく膨れ上がり、三人の人間達が丸ごと飲み込んでも余るほどの巨体になりました。この場所から見ていても、突然、薄緑色のドームが出来たみたいに見えます。そして、一番先頭にいた槍士の男に大きい触手をいくつも伸ばして攻撃します。



 一瞬だけ、大きさに驚愕した様子の男達は、いち早く我を取り戻した剣士の男が、槍士の男に怒鳴るように指示を飛ばします。槍士の男も攻撃に気付いて、慌てた様子で大きく跳躍し回避しました。



――明らかに人間離れした身体能力ですね。身体強化でしょうか?



「――――!」



 再び、魔法使いの男が魔法を使います。今度はいくつもの炎の玉を打ち出しました。スライムさんに当たると大きな音と共に爆発しました。が、スライムさんは何事も無かったかのように近くの槍士の男に攻撃を再開します。



――あれ?スライムさん思っていたよりも強くありませんか?



 その様子を見た剣士の男が、全員に向けて大声で指示のようなものを出しました。どうやら、スライムは剣で斬ることが難しいので中衛でサポート役に回ったのですね。それに様子を観察するに、この剣士がリーダーのようです。



 人間側は最初に比べると、今はとても落ち着いて対処してますね。槍士がスライムさんの攻撃をひきつけ、剣士が槍士の死角からくる攻撃を防いでサポートをしながら指示を出して、後方にいる魔法使いの男が何か呪文を唱えているようなので、作戦としては、剣士と槍士が時間を稼いで、魔法使いの攻撃を待つ感じでしょうか?



――どうしましょうか?魔法使いを妨害しても良いのですが、スライムさんに任せていても、一体で男達を倒せそうなのですよね。



 今は、なんとか二人掛かりでスライムさんの攻撃を耐えているようですが、スライムさんが触手それぞれに多彩な攻撃を織り交ぜていき、次第に捌ききれなくなってきています。一度、槍士に触手の薙ぎ払いが当たり、吹き飛ばされたところを他の触手が取り込もうと迫りますが、剣士が素早く触手を切り落とし、槍士を助け起こすというシーンがありました。



――疲労も溜まってきたでしょうし、もうそろそろ限界でしょう。



 そう思った時、魔法使いの呪文が終わったのを確認した剣士が何かを叫び、槍士が大きくバックステップして一気にスライムさんから距離をとります。その瞬間スライムさんと人間達の間に大きな土の壁が出来ました。そのあと凄いスピードで男達は逃げていきます。スライムさんが土の壁を破壊した頃には、もう姿は見えなくなりました。



 逃げたようですね。引き際がしっかりしているところと、戦闘時のイレギュラーにもしっかりと冷静に対応していて、戦闘の連携力も高かったことから、かなり腕の良いパーティーなのでしょう。そんなパーティーを圧倒したスライムさんはもっとすごいですが。戦闘が終わったのがわかったのか、スライムさんは元の大きさに戻って平原の草に紛れました。



 今日の活動はもう切り上げて、スライムさんと合流することにしましょう。わたしの計画していた予定よりもかなり早くなってしまいましたが、この草原から離れなければならないようです。恐らく、そう遠からずにまた人間が来るでしょう。今度はスライムさんを倒せるだけの戦力を伴って。その前に、ここから少しでも遠くへ行かなくては。






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