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4話 転生うさぎとスライムさんと強化

 散々だった転生初日から一週間後。わたしはまた草原を駆け回っております。後ろには、狼が獲物を捉えた目で追いかけてきます。



 狼の追ってくる速度に合わせて付かず離れず走ります。そうして誘導しながら駆け回り、ある地点に着いたところで大きく跳びます。相手もそれを追うように跳びました。わたしは華麗に着地をして振り向きます。相手は空中でゼリーに捕まっていました。あと数十秒で跡形もないでしょう。



 これが、ここ数日の間に出来たわたしの仕事です。



 わたしはここ一週間の間、例のスライムさんの傍で過ごしています。わたしから襲わなければ何もされないようなので、襲われた時の自衛手段として利用することにしました。利用料として一日三食分の獲物をこうしてスライムさんに献上しています。最初はわたしごと取り込まれそうでしたが、三回目ぐらいからはわたしを避けて、連れてきた餌だけを取り込むようになりました。



――スライムさんにも学習能力があるのですね。



 あの単細胞生物っぽい生き物に、考えて学ぶ力があることに感動しました。どういう仕組みなのか、この世界のことはまだまだ未知なことだらけです。



 スライムさんに定期的に餌をあげているからでしょうか。段々とスライムさんが大きくなってきている気がします。最初はわたし(あ、ちなみにわたしは子ウサギぐらいの大きさです)より二回りくらい大きいくらいだったのですが、今では二倍くらいになっています。薄緑色なせいか、長草に紛れていると保護色になって姿は見えにくいですけどね。



 今日もいつものように、スライムさんに餌をあげ終えると、最近の日課の一つである散策に向かおうとしますが、スライムさんがゆっくりとわたしに近づいてきました。そして、スライムゼリーの体から、触手がひとつ伸びてきました。



――な、なんです!?わたしを食べるのですか!?



 でも、警鐘は鳴らないので敵意は無さそうです。なんだろうと一応逃げられるように身構えながら待っていると、わたしの手前で触手の先端を切り離して、ぽとんと落としました。



――ん?どういうことですか?



 わたしは切り離された触手の先端・・・表現があれなのでゼリーと呼称しましょうか。ゼリーに近づいて、くんくんと匂いを嗅いでからスライムさんを見上げて首を傾げます。スライムさんはその場でじっとしていました。まあ、意思の疎通とか出来ないですからね。スライムは喋れないですし、わたしもきゅいとしか鳴けないですし。



 お互いにじっと動かずに見つめあいます。・・・もしかして



――食べろってことなのでしょうか?



 じっとゼリーを見つめます。そして、覚悟を決めてゼリーを一口分だけ口に入れました。



――んーーーー!!すごくおいしいです!!



 つるんとした食感とほどよい冷たさとなによりとても甘いのです。そうですね。地球の物で近い味は、ソーダ味のゼリーですかね。スライムさんのあの体がソーダ味のゼリーだと思うとなんか複雑な感じです。



――まあ、なんにせよ、この世界での初めての甘味ですね!病みつきになりそうです。



 そのまま、勢いでばくばくと食べて、全て食べ終えると、とても幸せな気分になりました。恍惚としているわたしを見て満足したのか、スライムさんがゆっくりとわたしから距離を置いて、今日の定位置でべちょーんと広がりました。



――あの姿はいつ見ても、スライムの死骸にしか見えませんね。



 ちょっと、複雑な気分になりながらも、予定通りに散策に出かけることにしました。たとえ、スライムさんが移動しても、大して距離も移動出来ないですし、この草原の中では他に同じ気配がしないので、すぐにわかります。



 この日以降、わたしが獲物をスライムさんに捧げる度にゼリーをくれるようになりました。わたしは甘味が手に入ってモチベーションが爆上がりです。



 スライムさんと共同生活を始めてさらに1週間。もうすっかり仲良くなったわたしはスライムさんのゼリー体の上で寝ることが出来るようになりました。ひんやりしていてとてもぷにぷにしていて最高の寝床です。何より、外敵に襲われてもスライムさんが撃退してくれます。わたしの中でのスライムさんの株が天元突破しています。



 スライムさんはわたしの友達・・・いえ、親友です。もうスライムさん無しの生活なんてありえません。ここでスライムさんに貢ぎながら余生を過ごすのも悪くないかもしれないと本気で考えそうになります。



 スライムさんのおかげで、順風満帆で自堕落な日々を過ごして、気付けば転生してから何日だか忘れてしまいました。まだ一ヶ月は経っていないと思いますが・・・ま、どうでもいいですね。さて、いつものようにスライムさんへの貢ぎものを探しに行きましょうか。



 そして、いつも通りにスライムさんに餌(狼)を連れてきて、食べてもらいます。わたしがわくわくしながら待っていると、食事を終えたスライムさんがいつものようにスライムゼリーをくれました。さっそく、いただきます。



――もぐもぐごくん・・・ん?



 なんだか急に眠くなってきました。それに、体の中が物凄く熱くなってきます。あ・・・力入らなくなってきました!?抗えないくらいの眠気が襲ってきます!?これはとてもマズイのでは!?



「きゅう~・・・」



――あ・・・もうダメです。意識が・・・・・・・



 そのままわたしは、倒れるように意識を失いました。



 おはようございます。わたしは今、スライムゼリーに包まれています。食べられてはいませんよ?どうやら寝ている間、スライムさんが守ってくれていたようです。スライムさんありがとうございます!さすがは親友です。



 目を覚ましたら、夜になっていました。満天の星空と煌々と照り付ける月明かりが宵闇の草原を照らしています。いつ見ても綺麗な光景ですね。



 少し高台にある岩まで移動したわたしは、綺麗な夜空を見上げながら草をはむはむしています。いつかの夜を思い出しますね。スライムさんが近くに居ますが一応警戒はしておきましょうか。



 それにしても、ほぼ一日寝てしまいましたね。ちなみにうさぎは夜行性です。わたしは人間としての前世の記憶がありますので昼に動き夜に寝る生活をしていますけどね。



 しかし目が覚めてからというもの、妙な違和感があるのです。



「きゅう~~~?」



 唸りながら考えます。ちなみに周囲の警戒はスライムさんがやってくれていますし、万が一襲われてもスライムさんが撃退してくれます。スライムさんマジ有能。愛しています。



 この妙な感じは何なのでしょう。なんだか、体が丸ごと変わったような気がするのですよね。見た目は変わってないように見えるのですが、体の造りが違うというか・・・以前やったみたいに、自分の内に意識を傾けてみましょうか。



・・・あ!わかりました!体の中の魔力っぽいものがかなり多くなっている気がします。ここに来たばかりのころに感じていたのとは段違いです。以前はあるような気がするぐらいだったのが、今ははっきりと感じ取れるくらいには多くなっています。それに何やら活性化しているみたいに自然と力が湧き出てくる感じがします。



 わたしは早速試してみました。何をって?最初のころにやっていた魔法ですよ。詠唱とかが必要ならば、うさぎのわたしには無理ですが、イメージだけで使えるならばなんとかなるはずです。



 よし、ではさっそく、蛇口から水を出す感じでイメージして・・・むむむ・・・



「きゅい!!」



――ぎゃー!!水がわたしにばしゃって!!わたしのもふもふ毛並みが~~・・・



 でも、できましたね。魔力っぽいもの(もう魔力でいいですね)の制御が甘かったのかイメージよりも威力が上がったみたいです。



――今度はドライヤーをイメージして・・・魔力を少しずつ使うように意識して・・・まだ少し弱いですねもう少し・・・よし・・・これで・・・やった。乾きました。もふもふ毛並みおかえり!そして一段と綺麗になりました。自慢の毛並みです。



 それから数日間ほどかけて、魔法の訓練と変化した自分の体の研究をしました。すると、魔法が使えるようになった他にもいろいろなことが変わっていることに気が付きました。



 まず、ほとんど寝ないで活動できるようになりました。具体的には三日三晩寝ずに、飲み食いなしでもほとんど支障がない体になっています。精神的疲労は蓄積するので、全く寝ないのは良くはないので、生活リズムは出来るだけ変えないようにしていますが。



 魔力は少しずつ自然と回復します。食事をすると食べたものが魔力に変換されて魔力が回復する感じですね。今後、食事は魔力が少なくなったら食べる感じになるでしょう。食べるものも、もともと魔力があるものを食べたほうが多く回復します。空腹感や満腹感はありません。いや、以前から、満腹になるほど食事をしなかったので、満腹感を感じたことは無かったですが。



 あ、ちなみに、スライムさんが出会ったばかりのころに薬草ばかり食べていた理由がわかりました。あの薬草にだけ魔力が少量ですがあったのです。あの魔力が目当てだったのでしょう。スライムさんの体の造りは今のわたしのように、魔力で体を維持して、動かしているようですね。



 ただ、わたしと違って、きちんと食事をしなければ体を維持できないようです。わたしの魔力が回復するのがおかしいのか、スライムさんの体を維持するのに使う魔力が多いのか、はたまた、その両方なのか。今の情報では判断はできませんが、とりあえずは、自分のことだけわかっていれば良いでしょう。



 次に魔法についてあの後いろいろと研究や検証をして次のことがわかりました。



 ①魔法はイメージで行使する。



 ②魔法を使うには魔力が必要。イメージした魔法のイメージの鮮明さ、強さ、複雑さ、距離で魔力の使用量が変わる。



 ③魔力の使う量を増やしたり減らして利することで使う魔法の強さを変えられる。しかし、使用量が少なすぎると失敗(不発)する。逆に多すぎると、制御が難しくなり、暴発する危険がある。



 ④魔法の大きな種類は三種類(わたし基準)。まずは、消費魔法。一般的な魔法で、魔力を使って現象を発現する。主な例は、火の玉を打ち出すファイアーボールですかね。



 ⑤継続魔法は魔法使用時に魔力を使ったあとに魔力を消費し続けることで、魔法の現象を維持し続ける。魔法使用者が任意に終了しないと終わらない。主な例は、竜巻を作ってしばらく維持する魔法や、飲み水をずっと出したりするとかも該当します。ちなみに、土の壁を作るだけなら消費魔法。土の壁を作って、壊れないように維持しようとすると継続魔法になります。



 ⑥持続系の魔法は魔力を常に一定量使用することで維持できる。ゲーム風にいうと最大MPを一定量減らして常時使用できるようにするということ。主な例は、身体強化とか収納魔法ですね。こちらも使い方次第で変わり、身体強化も一瞬だけ強化するならば、消費魔法になります。



 継続魔法と持続魔法は分かりにくいですが、簡潔にまとめると、常に魔力を消費しなければ効果が消えてしまう魔法と常に魔力で満たしていなければいけない魔法ということになります。



 まあ、魔法なんて、わたしの前世の世界には無かった概念ですから、深く考えても仕方ありませんね。こういうものだと割り切ってしまいましょう。



 ちなみに、魔力が無くなるとおそらく死にます。魔法の研究で夢中になっている時に、魔力が尽きかけて気を失い丸一日寝こみました。また、魔法の制御に失敗して怪我をしてしまった時に、魔力が勝手に動いて傷を塞ぎました。どうやら、魔力が無くなるか、即死しない限りは死なない体のようです。



 以前の体はいたって普通だったと思うのですが、やはり、体の造りごと変化したのでしょうか?



 後もう一つ不思議な変化がありました。夜になるとわたしの魔力量があがり、魔力の回復力も上がることに気が付きました。これもいろいろと検証してみました。月明かりの量で変化するようです。おそらく、わたしが食事をとらなくても魔力が十分に回復するのは、この力があるからのようです。



 今のわたしにとって、魔力が回復するというのは食事のようなものなので、毎日の日課にお月見が追加されました。前からちょくちょくやっていましたけどね。



 なぜいきなりこんな変化があったのか。気にはなりますが推察の域を出ないことを考えると、考えるだけ無駄な気がします。今はそういうものだと自分を納得させましょう。



 折角魔法が使えるようになったので、普段使い用の魔法のほかにもいろいろと研究して、新しい魔法を開発してみましょうか。ようやく、まともに前世の知識が生かされる時が来ましたね。日本のアニメ、ゲーム文化に万歳です。






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