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39話 転生うさぎの目覚めととある少女の記憶

~登場人物~


トワ・・・主人公。月兎の魔人で白い兎と十歳ぐらいの少女の姿で容姿を使いわけることが出来る。地球の日本での知識がある転生者だが、本人自身の記憶はほとんどない。しばらく人間として人間界の街に潜り込んでいたが、Sランク冒険者達に正体がバレて戦闘になり敗走した。


【白の桔梗】

セラ・・・冒険者パーティー『白の桔梗』リーダー。種族は人間。世界に五人しかいないsランク冒険者で熾天使という呼び名で有名。呼び名の由来は本人の固有スキルである『熾天使』から来ている。トワの正体がバレた際の戦闘で逃がそうと奮闘するも、最終的に聖剣でトワの心臓(核)を貫いた。自分がトワを殺したと悔やんでいる。


クーリア・・・冒険者パーティー『白の桔梗』のメンバー。獣人の黒猫族。獣人にしては珍しく魔法使いであり、魔法オタク。


エルアーナ・・・冒険者パーティー『白の桔梗』のメンバー。種族はエルフ。普通の魔法や精霊魔法も使う弓使い。パーティー内での愛称はエル。本当の姿はエルフの里の女王。訳あって力のほとんどを失っていて里を出て世界を放浪していたが、現在は『白の桔梗』として冒険者をやっている。


リンナ・・・冒険者パーティー『白の桔梗』のメンバー。種族は魔族の鬼と人間のハーフ。大剣を使った近接戦闘が得意。


【Sランク冒険者】

グレン・・・王国の冒険者ギルドに所属しているSランク冒険者。500年前の『アリアドネの災厄』で活躍した聖人で、ドラゴンを一人で討伐した竜殺しとしても知られている。トワの正体を見抜き秘密裏にセラ達から引き離して討伐しようした。


ゼスト・・・帝国の冒険者ギルドに所属しているSランク冒険者。魔法に精通した聖人で戦いをこよなく愛する戦闘狂。グレンやセラと共にトワと戦ったひとり。


【公国】

春風 桜・・・通称、春姫。公国の春の領域を治めている姫で永い時を生きている聖人。四季姫の三女で、天真爛漫で心優しい性格をしていて、積極的に他国とも交友を深めようとしている表向きの公国のトップ。トワ討伐の際の協力者。


秋風 紅葉・・・通称、秋姫。公国の秋の領域を治めている姫で春風桜と同じく聖人。四季姫の長女で、春風桜とは違ってあまり人とは関わろうとはしない。公国全体のことは全て春風桜に押し付けている。


美烏・・・秋の領域にある『紅い森』に住む天狗の眷族。トワに主を救ってもらったことから恩を感じている。



~用語集~


魔法・・・術者のイメージした現象を魔力を使って再現すること。トワの使う〈原初魔法〉ではイメージのみであらゆる魔法を使えるが、一般的にはイメージを固める為の呪文とそのイメージを現象化させるための補助として魔法陣を使う。


魔法の種類・・・魔法には大きく分けて消費魔法、継続魔法、持続魔法が存在する。消費魔法は一般的な魔法で魔法行使と共に魔力を消費する。継続魔法は魔法行使と同時に魔力を消費後に更に魔力を消費することによって魔法による現象時間を引き延ばすことが出来る。持続魔法は最大魔力量を減らして行使する。(例 消費魔法→炎の玉を撃ちだす 継続魔法→炎の壁を作ってその場に残す。竜巻を長時間発生させる 持続魔法→収納魔法や身体強化)


スキル・・・コモンスキル、エクストラスキル、固有ユニークスキルがある。コモンスキルには熟練度レベルがあり、最大値である10まで上げて更に研鑽を重ねることで上位スキルへと派生する。スキルはあくまで動きに補正する能力しかないため、スキルが高くても技術が伴うわけではない。(例〈火魔法レベル10〉を持っていてもファイアーボールのイメージが出来なければ使えない)


魔人・・・魔力の少ない生き物が動物。魔力を多く持ち魔力を使うことが出来る動物が魔物。生物としての体が無くなり〈魔力体〉になった魔物が人と同等の知性と姿が出来るようになると魔人となる。


変異種・・・魔物が進化した際に特異な能力を持つことがあり、そういった魔物を『魔物の変異種』と呼ぶ。種類は様々だが、知性が上がる頭脳ブレイン型、体が大きくなり身体能力と魔力が大きく上がる巨躯エルダー型、自分の魔力を使って同じ種族の魔物を生み出し使役するマザー型などが存在する。



~ここまでのあらすじ~


ふと目が覚めるとうさぎの姿で見渡す限りの草原に居た。自分のことの記憶は曖昧だけども地球の日本での記憶を持っているこのうさぎは転生者だった。


十歳ぐらいの少女の姿に変身出来るようになったうさぎはトワと名乗り、この世界を生き延びる為に人間達の世界を学ぼうと潜入を開始。


冒険者パーティー『白の桔梗』と共に王都に行くことになったトワは王都で冒険者としてダンジョンを探索したり、宝石から魔術具を作ったり、図書館で世界のことをより知ったりと順調に過ごしていたが、公国の四季姫のひとりである春姫からの依頼で、魔物の変異種が世界各地に大量に発生している現象の調査をすることになった『白の桔梗』と共に公国に向かう。


公国に着くと春姫から秋の領域にある『紅い森』という場所の調査を任され、トワはそこで理性を失った天狗という魔人と出会い勝利した。その天狗から力のある魔人すら狂わせる紫の魔石の存在とその魔石が人の手によって魔物に埋め込まれていることが判明した。


秋の領域での依頼を終えたトワ達は春姫の居る春の領域へと戻ってくると、トワは春姫の言動から嫌な予感を感じてトワが作った宝石の魔術具を仲間のエルに託した。


トワの予感は当たり、セラによって郊外に連れ出されたトワは三人のSランク冒険者達と死闘を繰り広げ敗北して、最後の賭けとしてアビスコアという自爆魔法を使う。


そして、全ての戦闘が終わった後の春の領域の外にある森の中で、ひとりの少女がボロボロの姿で倒れているところをとある親子が助けたのだった・・・




 暗く、深い闇の中に意識が落ちていくのが分かります。



 いや、右も左も、上も下も分からないから本当に落ちているのかも分からないのですけどね。



「・・・・・・・・・い」



 何かが遠くで聞こえたような気がします。とても遠くてひどくノイズがかかっていて聞こえにくい。



「・・わ・・・・・ぱい」



 何度も呼ばれている内にだんだんとその声が鮮明に聞こえてきて、わたしの意識もまた覚醒していくのを感じます。



「・・わ・・先輩ってば」



 うるさいですね。そんなに呼ばなくても聞こえていますよ。



「永久先輩、いい加減起きて下さいよ。もう放課後ですよ?」



「・・・聞こえていますよ。しつこいです」



 わたし、月代 永久(つきしろ とわ)はそう目の前の後輩に苦言を弄して伏せていた体を起こした。



「聞こえているなら、もっと早く起きて下さいよ。生徒会室に来ないから心配になって教室まで見に来たらこんなとろで寝ているんですもの。びっくりしましたよ」



「・・・わたしだって居眠りくらいしますよ。人間なのですから」



「くすくす。そうですよね。永久先輩も人間ですものね。だから、疲れているのならちゃんと言ってください。先輩はここ最近働きすぎですよ?千鶴先生も心配していました」



 いたずらっ子のような笑みを浮かべたかと思えば、今度は心配そうに眉をひそめて目の前の後輩、今井 綾(いまい あや)がわたしの目の前に立っている。



――ここ最近は()()()()に向けてちょっと動き過ぎていましたからね。変なところで勘のいいこの子はずっと違和感を持っていたのでしょう。



 わたしは一度ぐっと伸びをしてから音を立てずに席を立ちます。



 夕焼けに赤く染まった教室の中にはわたしと綾以外には既に誰も居ないようですが、外からは運動部の人達の掛け声や吹奏楽部のパート練習の音が微かに聞こえてきます。



 窓を見るとわたしが無愛想な顔で見返してしてきます。日本人らしく黒い瞳に黒い髪、癖のない艶やかな黒髪は腰の下まで伸びていて、片手で軽く払うと髪の毛一本一本がさらさらと流れた。



――この無駄に長い髪を最後に切るのも良いかもしれないですね。・・・目の前の後輩が発狂しそうだからやりませんけど。



 わたしが席から立つと、上から見下ろしていた綾の視線が僅かに見上げるように変わります。と言っても、三センチしか変わらないのですけどね。



 わたしは綾の艶のある綺麗な黒髪を解くように頭を撫でます。



 綾の目が嬉しそうに細められて、でも子供扱いされている羞恥心からか健康的な頬の色がうっすらと朱色に染まります。



――触り心地が良いからつい撫でてしまうのですよね。この子も逃げないですし。



「もう、永久先輩?私はもう生徒会長ですよ?こんなところを他の学生に見られたら示しがつかないのですけど」



「・・・それなら逃げればいいでしょう?・・・ん。随分と髪も伸びたのですね。手入れも大変になったでしょう?」



――この子はわたしに会ってからずっと髪を伸ばしているようですからね。手入れが面倒なるから止めた方がいいと助言したのですけど、むしろ手入れのやり方を根掘り葉掘り質問責めされたのですよね。懐かしいです。



 出会ったばかりの頃は肩にかかるかという長さだったのが、今では肩甲骨の方まで伸びています。彼女の頭を撫でながら、彼女と出会ってからの年月の長さに想いを馳せます。



 当時のわたしには、彼女がここまで自分にとって信頼できる相手になるとは思いもよらなかったでしょう。



「学園の高嶺の花、孤高の宝石と呼ばれている先輩に頭を撫でられて逃げる生徒は居ないですよ。あと、髪は永久先輩と同じくらいまで伸ばしたいですからね。手入れも永久先輩のアドバイス通りにやっていますから、大変ですけど、頑張っていますよ」



「・・・高嶺の花、孤高の宝石ですか。何度聞いてもセンスの欠片もありませんね」



「そうですか?ぴったりだと思いますけど?」



 恐らく本気でそう思っているだろう目の前に後輩の頭から手を退けます。一瞬だけ名残惜しそうな顔になりましたが、すぐにいつもの微笑みに戻りました。



――ここの学生はお嬢様ばかりだからなのか、少々夢見がちなところが多いのですよね。お金持ちはお金持ちなりの人付き合いや特殊な環境があるはずなので、現実もしっかりと見えているはずなのですけどねぇ。



 わたしがこの学園で一種の偶像化(アイドル)のような扱いになっているのは、わたしの容姿、学業、普段の様子から勝手に理想として押し付けられたようなものなのですよね。



 それに便乗して利用しているわたしのせいで、ここまで有名になったのもあるのですけど。



「それにしても、永久先輩が教室で居眠りなんて・・・やっぱり疲れているんですよ。今日はもう早く家に帰って休んだ方が良いですよ?」



――わたしの住んでいる家に安らぎなんて皆無ですけどね。何ならば、ここで寝た方がまだ休めるかもしれませんね。精神的に。



「・・・ちょっと変な夢を見ていただけですよ」



「変な夢?嫌な夢でも見ていたのですか?」



「・・・違いますよ。むしろ面白くて奇想天外な夢です」



「へぇ!どんな夢だったんですか?」



 どんな夢、そう言われてわたしは頭の中に先ほどまで見ていた夢を思い出します。



――わたしがうさぎになっていて、魔法を使って魔物を倒して、毎晩お月見をしている夢だなんて、本当に意味不明ですね。



 夢、そう、夢です。こんな意味不明な奇想天外な内容は夢のはずです。でも、何故でしょう?なんだか夢にして妙にリアルな記憶のような気がします。



「永久先輩?どうしたのですか?」



 綾の声が何故だか少し遠くに聞こえます。それは物理的なのか、わたしの意識のせいなのか。わたしの見ている教室の景色が歪んだような気がします。



「永久先輩?やっぱり調子が悪そうですよ?もう帰ったほうが良いんじゃ・・・」



――そう。帰らないといけません。ここでは無くて、あの家でも無くて、あの幻想的(ファンタジー)な世界に。



 そう思った瞬間急速に周りの景色が溶けて無くなり、先ほどまで目の前に居た綾の姿も消えました。周りの真っ暗な闇に包まれていきます。



――そうです。わたしは『トワ』。あの世界で生きている月兎のトワです。だから帰るのです。だってわたしはまだ・・・



 真っ暗な闇から一筋の光が差し込んでいるの気付いて顔を上げます。そこにはあの世界で何度も見た大きな満月があり、わたしを照らしていました。



「・・・だってわたしはまだ、『わたしの居場所』を見つけていないのですから!!」



 わたしがそう叫ぶと、月の光はその眩しさを増して、暗い闇の世界を白く染め上げました。



 わたしはその眩しさに思わず目を閉じて、再び目を開けると、今度は知らない天井が目に入ります。窓から月明かりが射し込んでわたしの体を照らしていました。



――えっ?何ですこの状況?わたしは今どうなっているのです?



 混乱するわたしはその部屋(?)、家(?)に居る気配に気付くのに少し遅れました。



「わー!あるじさまが目を覚ましたのです!どこか痛いところはないですか?お腹空いてますですか?喉乾きましたですか?」



「・・・え?あの・・・え?」



 突然襲い掛かってきた質問責めにわたしの混乱は増していきます。



 声を掛けてきたのは、わたしよりも幼そうな見た目の女の子でした。金色の瞳を輝かせてわたしを覗きこんでいます。



「あっ!おかあさまにほーこくしないとです!あるじさま、すこしだけ待っていてくださいです!」



 そう言って女の子は嵐のように去って行きました。なんだったのでしょう?あの子。



 わたしは改めて落ち着いて自分を確認します。さっきまで見ていた記憶もはっきりと覚えていました。



 今のわたしは長い白銀の髪に日焼けのない真っ白な肌、窓に写る自分の顔はまだ子供のような幼い顔立ちで、大きくて赤い目が窓越しにわたしを見詰めています。



――間違いなくわたしは『トワ』のようですね。記憶の中の『永久(とわ)』と顔は似ていますが髪や瞳の色は全然違います。それに今のわたしは子供の姿ですからね。



 わたしはそう確認して今度は自分の体を見下ろします。



 ベットのような物の上にいますが、マットレスが敷いてあるわけでも無く毛布や掛け布団もありません。



 十歳前後の子供の体がわたしの視界に入りました。着ている服は最後に着ていた白いワンピースです。わたしはそっと自分の胸に手を当てます。



――それにしても、わたしは成長してもあまり大きくならないのですね。Bくらいだったでしょうか?それくらいはありましたよね?別にどうでもいいのですけどね。別にショックなんて受けていませんよ?



 誰に言い訳しているのか分かりませんが、そんなことよりもあの時のことを思い出してみましょう。何故わたしがここに居るのかの手掛かりがあるかもしれません。



 あの時とは、セラさん達Sランク冒険者達と戦ったあの夜の時のことです。



 * * * * * *




 わたしが自分の体にある魔力のほぼ全てを使ってアビスコアもどきを作りました。



 クーリアさんが使った魔法を完全再現しなかった理由は、わたしでは制御出来なくて再現した瞬間に暴発するのが目に見えていたからです。



 その代わりに()()()()()()()()()を、制御出来るギリギリまで超圧縮したものがわたしが使ったアビスコアもどきになります。



 わたしが手のひらにあるこのアビスコアもどきを握り潰すと、今まで絶妙なバランスで球体を保っていた大量魔力が奔流となって大爆発しました。



 純粋な魔力とはいえ、〈魔力物質化〉で質量を持ったこの魔法は、国境門での時に匹敵するほどの圧倒的な威力の爆発が起こり、爆発に巻き込んだものを消滅させるほどの力があります。



 わたしはその魔力の奔流がわたしの体を呑み込む寸前に、付けていた指輪の魔力を使って転移魔法を使います。



 ぶっつけ本番でしたが上手くいったようで、無事に結界の外に脱出することに成功します。



 春姫さんが、セラさん達を脱出できるように結界の能力を変えるだろうと考えていたので、ここまではおおよそわたしの思惑通りになりました。



 背後の遠くから途轍もない魔力を感知してわたしは振り返ります。



 結界の中は肉眼で見えるほどの濃厚な魔力が渦巻いていて、結界内の空間がひどく歪んでいました。ただ、あの大きな桜の木だけは別の結界で守ったようで無事のようです。



 少々心配でしたが、結界で守りきれたようですね。クーリアさんが使った簡易アビスコアよりも威力も控えめだったとはいえ、それでも小さな街ひとつは消滅させることが出来る自信作だったのですけど。



――おっと、こんな悠長なことをしている場合ではありませんね。早くこの場から少しでも離れなければいけません。



 わたしは癒すことの出来ない胸の傷口を手で押さえながら、ノロノロとおぼつかない足取りで歩きます。



 魔力を蓄えて供給している心臓部・・・核を破壊された上に〈熾天使〉の強力な浄化能力のせいで治癒の魔力が阻害されて再生も出来ません。再生出来るほどの魔力も無いですけどね。



 さて、本当の賭けは実はここからなのですよね。



 わたしが作ったムーンストーンの指輪に蓄えられた魔力が尽きるのが先か、わたしの核の浄化が消えるのが先か。魔力が尽きたら黄泉の国への片道切符が発行されること安請け合いです。



 夜の間は指輪に多少は魔力を回復しますが、焼け石に水程度の回復量に過ぎません。わたし自身は何をやっても魔力を回復させることが出来ない状態なので、この指輪の魔力だけが今のわたしの命を繋ぎ止めているのです。



――〈熾天使〉の力を甘く見すぎましたかね?思っていた以上にきついですよ、これ。



 それでもわたしは休むこと無く三日間歩き続けました。道中他の魔物に会わなかった奇跡には恵まれましたが、すでに核を回復させるだけの魔力どころか、満足に動くことも出来ないぐらいまで指輪の魔力は少なくなりました。



 わたしは森の中で見付けたしだれ桜まで歩いて、そこで力尽きたように、いや、まさに力尽きて座り込み背中を預けます。



 空を見上げると、夜空に星が散りばめられていて、その中でも一際存在感のある丸い月がわたしにやさしい光を照らしています。



――あぁ。さすがにここまでですかね。偽物の魔石まで使って折角逃げられたのに。明日の夜までにはもたないでしょう。



 静かな夜の中、ぼんやりと月を見上げていましたが、どうせ最後だからとなけなしの魔力を使って、収納魔法からいくつか団子を取り出します。



 震える手でそれを食べていると、久し振りに強烈な眠気がわたしを襲ってきました。



 わたしはそれに抗うことも出来ずに目を閉じて意識を手放しました。



 * * * * * *



――で、今わたしは生きてこの場所にいるのですが。訳がわかりません。



 はぁ、とわたしが深い溜め息を吐くとふと気付きます。



――あれ?わたしの魔力が回復していませんね?今は夜の筈なのに・・・。



 さっき胸の辺りを触った時には違和感が無かったので気付けませんでしたが、どうやら未だに核の部分は浄化能力で再生出来ない状態のようですね。



――と、いうことは?



 わたしは左手に付けている指輪をまじまじと見ていると、魔力がほぼ満タンに近い状態になっているのを確認します。あの状態からここまで魔力が回復することはありえないので誰かが魔力を補充してくれたのでしょう。



――その誰かが、わたしを助けてくれて、この場所まで連れてきたのでしょう。



 そして恐らくその誰かが、今わたしの寝ている家(小屋?)にやって来たようです。入り口の扉近くにまで来た三つの気配を感知して、わたしは入り口に体を向けます。



――しかしこの気配、何処かで会っているような感じがするのですよね?・・・って、わたし今までそんなこと〈索敵〉で分かりましたっけ?レベルが上がったからでしょうか?そういえば最近は全然スキルの確認をしていませんでしたね。



 そんなことを考えていると、入り口のドアが開いて大人の女性と、先ほどの女の子と、女の子と同じ顔の男の子が入ってきました。



 双子(?)の男の子と女の子がベットから起きているわたしを見て、満面の笑みで走ってこようとしたのを大人の女性が二人の首根っこを押さえて止めます。



――親子・・・ですよね?



 三人とも白銀色の髪をしていて、双子の髪型はおかっぱで、母親は姫カットの長い髪をしています。瞳の色はお月様のような金色で、全員がわたしを見て嬉しそうに輝いています。着ている服は女性二人が黒い袴に白い千早の巫女装束で、男の子は黒の着物ですね。男性用の黒い着物は格の高い人が着るものなのですけど・・・まぁ、紋章も無いですし、前世の記憶ですから今は関係ないですよね?



 わたしがまじまじと三人を見て観察していると、たぶん母親の女性が丁寧に跪きました。それに続いて、双子も同じように跪きます。



 わたしは顔の表情は変えられませんが、内心はとても困惑しています。



「主様。お目覚めしたことを心からお喜び申し上げます。わたくし達の力が及ばず、表面の傷口を塞ぐことしか出来なかったため、止む終えず勝手ながら、主様が付けている魔術具に魔力を供給させて頂きました」



 とてもとても堅苦しい言葉で喜ばれました。とりあえず、助けてくれたのは間違いないようですし、わたしもお礼を言いましょうか。



「・・・そうですか。そのお陰でわたしはこうして生きているのですから、お礼を言いましょう。ありがとうございます」



「主様から頂いた御恩に比べれば、この程度のことなど本当に些細なお返しに過ぎないのですが、主様からお褒めの言葉を貰えてとても嬉しく思います」



「あたしも~!あたしも頑張ったのです!あるじさまが早く良くなるようにって、いっぱいいっぱい気持ちをこめたのです!」



「ボクも!ボクも頑張ったのです!あるじさま!」



 わたしに褒めてほしいのか、双子が声を揃えて頑張ったアピールをしてきます。まぁ、実際に命の恩人といってもいいくらいのことはしてもらっているので、二人の要求通りに褒めておきます。



「・・・ええ、分かっていますよ。二人ともありがとうございます」



「えへへ♪」



「わぁ♪」



 満面の笑みを浮かべて喜ぶ二人を見据えながら、わたしはほんの少し警戒度を上げます。



――どうやらこの親子、()()()()()()()()()ようですね。



 双子の母親はわたしが警戒するような目になったのが分かったのか、無邪気に喜ぶ子供を諫めると、金色の瞳でわたしの顔をじっと見てきます。



「今は兎に角、御身を大事にしてください。わたくし達のことやこの場所のこと、疑問は沢山あると思いますが、少なくとも、わたくし達は主様に仇なす者ではありません」



「・・・そうですね。今のわたしはまだ風前の灯火のような状態ですし、貴方達のわたしに対する好意は本物のようです。・・・核の再生が終わるまでは気にしないことにしましょう」



 そこでわたしは一度言葉を切ってから、実はずっと気になっていたことを聞いてみます。これだけは聞いておかないとなんだかすっきりしません。



「・・・ところで、わたしはどのくらい寝ていたのでしょうか?・・・なんだか、妙に体を動かすのが久し振りな感覚がするのですよね?」



 わたしが質問をすると、双子の母親が穏やかな表情で口を開きます。でも、その口から出てきた言葉はとても穏やかなものではありませんでした。



「そうですね。人間達の暦で言いますと、およそ三ヶ月になります」



「・・・え?」



・・・・・・どうやらわたしは、そこそこ長いこと寝こんでいたようですね。




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