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転生うさぎは異世界でお月見する  作者: 白黒兎
第二章 人間世界
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31話 転生うさぎと国境門防衛戦(前編)

 セラさんが聖剣に魔力を込めると、片手剣くらいの大きさだった聖剣が大剣ほどまで膨れ上がります。それを振り抜くと光の衝撃波が剣閃のように魔物の群れに飛んで行き、魔物を切り裂きながら地面にぶつかると爆発してさらに何体もの魔物を葬っていきます。



――お~。まさに地上に舞い降りた殲滅天使って感じですね。



 魔力を温存するために聖剣に込めた分しか使ってないようですね。剣から飛ばしている衝撃波はアーツか何かなのでしょう。それと適当に攻撃しているように見えて、Aランク級の魔物を優先的に倒しているようです。本来はAランクの魔物一体討伐するのにAランクパーティーが一組で対応していると考えると、あの数を相手にしていてスタンビートを乗り切るのは絶望的ですからね。



――でも、アーツは魔力は使いませんが代わりに精神力を使いますからね、元凶の登場までに疲労しなければ良いですけど。



 そうそう。わたしは宣言通り、前日の段階で北の森にうさぎの状態で潜んでいます。わたしの前を数を数えるのも億劫になるほど魔物が通り過ぎていきます。いずれの魔物も冷静さを完全に無くして暴走状態にあるせいか、姿を消したり気配を消したりしなくても、わたしのことを無視して森の出口へ向かっていきます。



 そんな魔物達を手ごろな木の上から見下ろしつつ、聴力を強化して国境門側の様子を聞いてみます。



「あはははは!!さぁさぁ私の新作魔法の実験体になると良いです!!火を巻き上げ、砂塵を巻き上げ、彼の敵を打ち上げろ!!アースフレイムトルネード!!」



 クーリアさんの高笑いと詠唱の後、ここからでも見えるほどの大きな炎の竜巻が現れました。よく見ると、硬化した大きな魔法の岩が無数に竜巻の中にあり巻き上げられた魔物にぶつかって追撃しているようです。



――火と風と土の複合魔法ですか。本当にクーリアさんは器用ですよね。



 前にも言いましたが、魔法スキルのレベルを上げてもその属性の魔法がすぐに使えるようになるわけではなくて、あくまで扱いやすくなるだけで、きちんとしたイメージ力と魔法陣の勉強をしないと魔法を無駄なく万全の能力で使うことは出来ません。



 今回のクーリアさんの複合属性の魔法は、複合魔法のスキルというものが存在しないため、三つの属性の魔法をそれぞれ制御しつつ、どのような現象を引き起こせるのかイメージを正しく固めて、実戦投入出来るレベルまで使う魔力の量を調整しながら威力を上げる必要があります。そしてなにより、それぞれの現象を引き起こす魔法陣をお互いに干渉しあわないように三つ分重ね合わせて使います。これが非常に面倒なのです。二属性までならば上位の魔術師でも使う人はいますが、三属性以上となるとほぼ居ないというレベルで難しいのです。



 まあ、兎に角、クーリアさんの魔術オタクの集大成ともいえる魔法が先ほどの複合魔法なのです。



「クーリア、出来れば高ランクの魔物を優先的に狙ってくれるかしら?それと、今からそんなに魔力を使っても大丈夫なの?」


「大丈夫です!!今日の為に大量のマナポーションと非常用に用意した貯蓄魔力詰まった魔石を用意していますから!!今日は大奮発です!!!」


「あ、そう。まあ、それなら良いわ」



 クーリアさんの勢いにエルさんも引いていますね。声を聴いているだけでも、クーリアさんがとても楽しそうでなによりという感じです。



 エルさんは精霊魔法で前線の確認をしながら、危なそうな人達のところに要所要所で魔法で援護しているみたいですね。こちらはクーリアさんとは違って冷静に戦況を見ながら臨機応変に動いているようです。時折弓も使っているようですが、音だけでは何をやっているかまでは分からないので割愛します。



 さて、後衛やセラさんがAランクの魔物を優先的に討伐しているとはいえ、かなりの数のBランクの魔物が最前線の人達と戦っていることに違いはありません。そんな最前線のリンナさんの様子も確認してみましょう。



 音だけではどれがリンナさんなのか分からないため、魔力感知も使って索敵してみます。そして、リンナさんの魔力反応を見つけたのでそちらに耳を傾けました。



「うらああああ!!!」



 雄々しい叫び声を上げながら、リンナさんが大剣を振り下ろして地面をえぐった音が聞こえます。



――そういえば、今回は『鬼化』するって言ってましたよね?



 是非見てみたいと思ったわたしは、さっそくリンナさんの居る方向を見据えて視力を強化します。ぐんぐんと強化すると、やがて森を抜けて平地を埋め尽くさん限りの魔物の群れの中に居るリンナさんを見つけました。額には一本の角があり、燃えるように赤い髪は波打っていて、体中から赤いオーラを発しています。



 左右から挟むようにして襲い掛かってきたグレートオークを、リンナさんは回るようにして大剣を豪快に振り回して一刀両断にします。間髪入れずに正面から飛び掛かってきた狼を左手で殴り飛ばすと、そのまま右手で持っている大剣を大きく振りかぶって地面に叩きつけます。



「はああああ!!!」



 声を上げながら大剣を叩きつけた地面が大きく抉れてその周囲も大きく揺れます。その揺れで前を走ってくる何体かの魔物が体勢を崩しました。



「そら、おまけだ。遠慮せずにとっておけ!」



 もう一度大剣を上段に構えなおすと、そのまま振りかぶり今度はアーツを使って巨大な衝撃波が地を這うように飛んでいき、体制を崩した複数体の魔物を木っ端微塵に吹き飛ばします。そこまで観てからわたしは視力を元に戻しました。



――リンナさんはかっこいいですね。それに、わたしの思っていた以上に『鬼化』も強力なもののようです。



 ただ、攻撃を受けていない筈なのに、体を動かす度に節々に傷が出来ていたのを確認したので、まさに諸刃の剣というものなのでしょう。傷の自動治療もしていましたが、動き回りすぎると自動治療が追い付かなくなりそうですし、高密度の魔力を体に纏うので魔法耐性が非常に高くなってしまって回復魔法も阻害してしまうようです。リンナさんはああ見えて戦闘に関しては弁えているところがあるので無茶はしないでしょうけど、今回のような長期戦にはあまり向かなそうです。



――さて、わたしも少しは手伝いますかね。



 見ていた感じでは、王国側に魔物が多く寄っているようです。少し間引いておかなければ一番精神的に厳しくなる中盤戦までに体力と魔力を使いすぎてしまうかもしれません。



――まだスタンピードは始まったばかりですからね。



 わたしは森の中のちょうど国境の壁が途切れている場所に向かって走ります。国境門も別に国境沿いの全てに壁があるわけではありません。管理できる最低限の長さ、北の森の全体の三分の一にも満たない長さですが、これが南にも同じだけ続いているのですから、単純な長さだけでもかなりの距離があります。



 目的の場所までの移動中、目の前まで迫ってくる魔物の中でウォータージェットカッターで一撃で仕留められそうなものを両断していきます。しかし、あまりにも数が多くて中々思うように進むことが出来ません。段々とイライラしてきたので、ちょっとこの辺一体を一時的に殲滅することにします。



――魔物の暴走による共倒れということ誤魔化せるでしょう。



 わたしは倒した魔物から爪や牙、角といった素材を素早く剥ぎ取り重力魔法で浮かせます。ついでに周囲に転がっている倒れた木や大きめの石なんかも浮かせて硬化の魔法で強化して、円を描くようにぐるぐると浮かせたものを振り回します。この時に加速の魔法陣を展開させてさらに威力を高めておきます。ここまでしないと高ランクの魔物にはダメージが通らないかもしれませんからね。



 わたしの周囲にある魔物や木々も振り回される物にぶつかってどんどんと倒れていきます。爪や牙のような尖ったものに当たったものは貫かれて、石や木に当たったものは強烈な打撃を受けます。ものの数秒で振り回していたものが使いものにならないほど壊れてしまったので魔法を中断しました。



――思い付きでやってみましたけど、思っていた以上に効果がありましたね。今後も要研究です。



 自分の周囲が死屍累々で小さな広場のように開けた空間になってしまいました。それでも、その屍を乗り越えて数多の魔物がこちらに走ってきます。わたしは魔物が減った僅かな時間を無駄にしないように素早く移動を再開しました。



 その後も通り過ぎざまに魔物を倒しつつ、ようやく国境の壁まで辿り着きました。そこからさらに北上して途切れている箇所まで一気に移動します。



――国境の壁には魔物を寄せ付けにくくする素材や魔法陣を使っているからか、暴走した魔物達に攻撃されていないようですね。



 素材や魔法陣の効果が出ているのは間違いないですが、一番はやはり、人間が居ないからでしょうけどね。餌が無いのが分かっているのに無意味に近づきたくないものに近づく必要性はありませんからね。



――さてさて、わたしの狙い通りに来てくれますかね。



 わたしが森での単独行動をするのには、セラさん達にも話した通り、衆人環視の中でわたしの非常に目立つ戦い方は面倒事のリスクが高くなってしまうという理由にしていますが、実はそれは建前で本当の目的があります。



 その目的とは、変異種の魔石を手に入れて取り込むことです。



――今までは、セラさんのガードが固すぎて手に入りませんでしたからね。



 変異種の大量発生という大チャンスがありながらも、一度もその魔石を手にする機会がありませんでした。大体がセラさんによって妨害されます。なぜわたしがこんなにも変異種の魔石が欲しいのかというと、頭打ちになった魔力量の上限を増やす方法が、変異種の魔石を取り込むことなのではないかと考えたからです。



 わたしが魔人になるきっかけになったのは変異種の魔石を体の中に複数取り込んだことが原因だと思っています。変異種の魔石を取り込んだことによって、わたしの体の中の魔力量が一定値を超えたから進化したのではないか、というのがわたしの仮説となります。



――今ならば魔力もほぼ満タンに近い状態なので、この仮説を裏付けることが出来るのですが。これだけの数の魔物が居るのに変異種っぽいのは見当たらないですね。



 しばらくの間、王国側に偏っている魔物の数を減らすためにちまちまと攻撃していると、少し離れた場所から強い敵意を感じました。わたしは一旦攻撃を止めてそちらに集中します。



――どうやら、来たみたいですね。



 わたしが変異種を変異種だと感覚で分かるように、恐らく相手も同じなのでしょう。他の魔物のように森を抜けるようなコースではなく、真っすぐわたしのもとまで向かってきます。これも感覚的というか本能に近いものなのでしょうが、自身が強くなるために変異種は優先的に変異種を狙う傾向にあるようですね。



――わたしのように強い自我がある場合や、頭脳型の変異をした賢い変異種はまた違うのかもしれないですけど。



 そんなことを考えていると、こちらに向かってきていた魔物が姿を現しました。銀色の毛並みの白熊です。もちろん可愛らしい見た目なんて一切なく、その眼は獲物を定めたようにわたしにロックオンしています。



――まーた熊ですか。わたしは熊に嫌われているのでしょうか?わたしは別に嫌いでは無いのですけど、嫌いになりそうです。



 見た目とやってきた方角から察するに、アードワール山脈にある雪山地帯に生息しているスノーロックベアでしょうね。白い巨体が遠目でみると巨大な雪の岩に見えるからそう名付けられたそうですよ。ちなみに、魔物のランクだとAになります。賢くて素早くて身体能力も高くて爪の魔力伝導率が非常に高いため、魔力で強化した爪での攻撃はミスリル製の防具を貫通するほどの威力があります。熊系の魔物の中でも上位に位置する厄介な魔物ですね。



 しかも、それの変異種ときましたか。見た目だけでは分からない変化ということは、少なくとも巨大化する巨躯型ではないようですね。頭脳型ならば馬鹿正直に正面に出てこないでしょう。複数体居る様子もないので分裂する双子や三つ子、大量の眷属を使役する母型の可能性も薄いですね。



 そこでわたしはスノーロックベアの毛の色がおかしいことに気が付きました。たしか、毛色は雪の保護色だったと記憶しています。でも、この白熊は銀色です。そう、まるで金属のような。



 悠長に観察していると白熊の方がしびれを切らしたのか、丸くなったと思うとそのままこちらに凄まじいスピードで転がってきました。さっとその場を避けると、真後ろにあった国境の壁に激突するっと、ぶつかった箇所が大きく抉れて粉々に砕けました。



――あ、やっちゃった。・・・でも、今はスタンピード中ですからね。多少は仕方ないですよね?



 そんな言い訳を脳内でしながら、白熊を観察していると、白熊は何事のなかったかのようにむくりと立ち上がってわたしを睨みつけました。凄まじい威圧を感じますが、それをさらりと流しつつ今の現象を考察します。



――ふむ。普通の熊種では有り得ない攻撃の仕方。外壁ほどではないとはいえ、国境門の壁にも硬化の魔法陣が組み込まれていたはずなのにそれを粉々にする威力と、あれだけの衝撃があってもダメージが見られない。・・・恐らくは防御型の変異ですね。毛の一本一本が魔力を通して強固になり、鋭さも兼ね備えた攻防一体の状態というわけですか。ハリネズミみたいですね。熊ですけど。



 この攻防一体の変異に加えて、元々ある爪での攻撃力はもちろんのこと、変異種になったことで非常に魔力量も多くて身体能力も向上しているようです。



――元々がAランクの魔物であるということと、この厄介な変異の仕方から考えるとSランクに近い強さの魔物になるでしょうね。単純な強さだけならば、恐らく以前戦ったスモアネスの変異種よりも手強いかもしれません。



 それに、この状況はあまりよろしくないですね。万が一この白熊・・・というよりは銀熊ですね。銀熊がこの状況で森を抜けて平地まで行ってしまったら、間違いなく前線は総崩れでしょう。一対一で相手出来るのはわたしかセラさんくらいでしょうね。鬼化したリンナさんなら足止めくらいなら出来るかもしれません。



――うさぎ姿でこうして熊と対面していると懐かしく感じますね。あれからそこそこ日付も経っていますから余計にそう感じます。



 思考に浸るわたしに銀熊が地を駆けてほんの数秒でわたしの目の前まで来ると、その大きな腕を振り上げます。爪に魔力が込められているからか白い線を残しながらその腕を振り下ろしました。



 わたしは縮地を使って銀熊の背後に一瞬で移動すると、そのまま無防備な背後にウォータージェットカッターを最大出力で切りつけます。ですが、魔力の通った銀色の毛皮を貫通することが出来ずにはじかれてしまいました。



――魔力耐性も非常に高いようですね。これは面倒です。



 あの頃と今で一番違うところは、今のわたしはあの頃と比べ物にならないほど強くなったということです。魔力量だけならば、収納魔法で魔力量を減らしている今の状態でもこの銀熊よりも遥かに多いですからね。身体能力も身体強化無しでなんとかなりそうですし、リンナさんとの訓練のお陰で白兵戦の心得もある程度身に付きました。油断は禁物ですが、面倒なだけで勝てない相手ではありません。



――人型になれば武器が扱えて楽になるのですが、うさぎの時が本来のわたしなのですから、この状態で負けたくありません。



 わたしが攻撃する手段が無いと思ったのか、銀熊が防御を無視した攻撃をひたすら繰り返します。わたしはそれを縮地を使ってひょいひょいと危なげもなく躱しながら考えを巡らせます。



――避けるだけならば楽なので苦労はしないのですが、ダメージを与える方法ですかぁ。せめて武器が扱えればどうとでもなるのですが・・・



 そこまで考えて、つい先ほどやった重力魔法を使った攻撃を思い出します。あれは、物を持ち上げて振り回すまでが魔法なので直接的な攻撃は物理です。もともと研究しようと思っていたのならば、この銀熊でいろいろ試してみれば良いじゃないですか。幸い、相手は防御特化ですから実験相手に不足はありません。



 なんだか我ながらクーリアさんっぽい思考だなと思いながら、相変わらず目にも止まらぬ速さで突進してきては腕を振り回す銀熊から大きく跳んで距離を離しつつ、重力魔法で粉々になった壁から大きめの瓦礫を浮かせて硬化します。そのまま、銀熊の死角から銃撃をイメージしながら瓦礫を打ち出します。今回は隠密性を上げる為に加速の魔法陣無しでやりましたが、原初魔法の補正のおかげか、まさに銃撃のような速さで銀熊に激突しました。



 頭や腹に横から攻撃を受けた銀熊はその衝撃で数メートル吹き飛ばされましたが、ダメージはあまり無かったようで、苛立たしそうに立ち上がって吠えました。全身に魔力が伝わったのを魔力眼で確認したため、身体強化を使ったとすぐにわかりました。そして、先ほどまでとは明らかに違う速さでわたしに突進してきます。



――冷静に考えて硬化した壁に激突して無傷だったのですから、ダメージが通るわけないですよね。完全に無駄に怒らせただけでしたね。発想は良かったのですが、結果だけ見ると威力不足で失敗です。



 予見していた銀熊の攻撃を躱すと、今度は投げ槍の形にした武器を取り出して先ほどと同じ要領で打ち出してみます。射出された投げ槍は銀熊の左肩を貫通してそのまま地面に深く突き刺さりました。銀熊がまともなダメージを受けて驚いたように呻きます。



――ふむふむ。これならさすがに攻撃が通りますね。でも、毎回重力魔法で浮かせて射出するのは非効率的ですね。わたしの武器はあの飛んで行ったあれしかありませんし、このやり方ならばいっそのことサイコキネシスのように念力だけで武器を操る方が使い勝手が良いかもしれません。



 重力魔法で浮かせて射出する攻撃は二工程で済んで魔力消費的にも少なくて良いのですが、手持ちの武器を飛ばすには少し使い勝手が悪いです。原初魔法で物を操る念力をイメージすれば魔力消費はとても多いですが、うさぎの状態でも武器を振り回すことが出来るかもしれません。



 魔力を使って傷を癒した銀熊は忌々し気にわたしを睨むと、さらに身体強化をかけて全身の銀の毛に魔力を伝えてより防御力を上げました。そして、最初にやった攻撃のように丸くなって転がって来ます。



 わたしは跳ぶようにしてそれを避けると、武器の近くまで移動します。銀熊はどこかにぶつかることなくそのまま旋回してわたしを再び狙ってきます。わたしは今度は向かい打つようにその場に留まります。



 そして、わたしにぶつかる寸前に、大盾の形にした武器を念力で移動させて間に置きます。銀熊はその勢いのままわたしの盾にぶつかって轟音を鳴らして止まりました。衝撃がそのまま銀熊に伝わったのか、銀熊は苦悶するようなくぐもった声を出します。わたしは面倒になったので一度人型になってモーニングスターの形にした武器を振りかぶります。



「・・・もう感覚は掴みましたから実験は終了です。さようなら」



 身体強化を少しだけ掛けて、武器にも魔力を通して強度を上げつつ、大きく鉄球部分を空に投げてそこから持ち手を振りかぶって勢いよく銀熊に向けて落下させます。威力を更に高める為に重力魔法で加重を掛けるのも忘れません。



 トゲトゲの鉄球が落ちると大きな地響きが鳴り響き、地面を大きく揺らします。落ちてきた鉄球を中心にクレーターが出来ていて、銀熊は体が潰れて見るも無残な状態になっていました。一応死んでいるのを確認してから、意気揚々と心臓部分を解体して雪のように白い魔石を取り出しました。



――最終的には人間になってしまいましたが、時短のためですから仕方ないですよね?



 自分のちっぽけなプライドのために、美味しそうな魔石を我慢するなんて出来ません。それに、戦闘が長引いて遠くに居るセラさんに見つかってまた妨害されたら嫌ですからね。必要なことは実験出来たので十分でしょう。



 わたしはウキウキ気分でうさぎの姿に戻ると、魔石をもって森の中に隠れます。相変わらず、数多の魔物が森の出口に向かって走っていますが、そんな些細なことは今のわたしにはどうでもいいことです。



「きゅい~」



 うっとりと魔石を見詰めた後、魅かれるままにぱくりと口の中に入れます。



 なんというか、表現が出来ないのですが、とても美味しいのは分かります。それと、やはり魔力量が増えていくのも分かりました。この魔石を食べて使用した魔力も回復したのですぐに気づきました。わたしの仮説は正しかったようですね。じわじわと魔力が増えていって、最終的にわたしの魔力量全体の一割ほど増やすことが出来ました。ひょっとしたら増える魔力量は元の魔物の魔力量に比例するのかもしれませんね。



――上昇値は少ないように感じますが、増えた量だけならば魔人になる前のわたし数体分の魔力増えていますからね。十分すぎるでしょう。



 けぷっと思い通りにいって満足したわたしが木の上でまったりしていると、突然後方で激しい爆発の連鎖が起こりました。びっくりしたわたしは思わず飛び跳ねて木から落ちそうになりましたがなんとか耐えました。



――ふぅ。危なかったです。いや、別に頭から落ちても死にはしませんけど。・・・さっきの派手な魔法はクーリアさんですかね?そういえば、今はスタンピード中で、国境門の防衛戦の最中でしたね。



 一応戦況を確認してみますが、声を聴いている限りでは前線が崩れていたり、大きな問題が起こっている様子はありません。それでも、戦闘が始まってそろそろ中盤戦も近くなってくる頃です。終わらない魔物の群れに精神的に厳しくなってくる頃でしょう。



――仕方ありませんね。最前線のリンナさんになにかあると寝覚めが悪いですし、適当に高ランクの魔物を間引きしますか。



 それからわたしは、まるで工場に働く社員のように、一撃で倒せるBランク以上の魔物を魔法でちまちまと間引いていく作業をしていました。戦闘が始まったのが四の鐘が鳴ってからで、今は七の鐘がとうに鳴り終わり、空が暗くなってきました。八の鐘間近だとすると時間的には夕方の六時前くらいでしょうか。



 魔物の群れも既に八割近くは減ったと思います。明らかに最初の頃に比べて走っていく魔物の数が減りました。正直、ここまで順調にいくとは考えていませんでしたが、魔物の半分近くを倒しているのはセラさんなのですよね。剣聖のアーツによる遠隔攻撃の他、一度に出てくる魔物数が多すぎると判断した時は光の極太ビームで薙ぎ払ったりしていました。そのビームのせいで平地の面積がすごく広くなっていたのは不可抗力でしょう。



――終わりが見えてきたということは、そろそろ元凶がやってきますかね。



 ちょうどそう考えていた時に、わたしの索敵の範囲内に今までで一番大きい魔力反応と威圧を感じました。わたしは木の天辺まで登って見晴らしの良い位置から反応のあった方向を見据えます。



 夜の帳が近づく夕暮れの中、ついにスタンピードの元凶たる魔物が、遠目に見ても巨大だとわかるその姿をわたしの目が捉えました。




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