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転生うさぎは異世界でお月見する  作者: 白黒兎
第二章 人間世界
31/106

27話 転生うさぎと春の姫

 魔術具を無事に作り終えてからは、セラさん達と一緒に街を歩き回ったり、冒険者として依頼をこなして少しずつポイントを稼いだりして過ごしました。



 そして今日は、先日わたしの冒険者ランクDに上がったお祝いとして、街の東地区で皆さんとお買い物に出かけています。



「もういっぱしの冒険者だな。・・・早すぎる気がするが」


「私の時はもっと早かったよ?」


「そうですね。むしろ、トワちゃんの実力ならば遅すぎるでしょう」



 わたしの気持ち的にはCランクまでさっさと上げてしまいたい気持ちと、あまり目立ちたくないのでもう少しゆっくりと上げていきたい気持ちが半分半分といった感じです。



「実際に実力があればDランクまでは一ヶ月足らずでいける人はたくさん居ると思うよ。問題はDランクより上だね。ここからは収集と討伐だけじゃなくて、護衛依頼や生息調査の依頼とか多種多様な依頼を達成しないとかなり上がりにくいからね」



 冒険者ランクは基本的にポイント制で昇格していくのですが、Dランクから上は同じ種類の依頼ばかりやってもポイントが減衰されて一向にポイントが貯まらないらしいです。全く上がらなくなるわけでは無いですが、最終的には高ランクの依頼をこなさないとポイントが加算されなくなることもあるのだとか。



「・・・今までは『チュートリアル』でここからが本番と言うわけですか」


「ちゅーと・・・?なに?なんて言ったの?」


「・・・いえ、なんでもありません」



――チュートリアルという言葉はこの世界には無いのですね。危なかったです。



 ただでさえ魔人という種族でハンデを背負っているのに、違う世界から来た転生者ですなんて言ったらどんな扱いになるか怖くて仕方ないです。この人達が悪いようにするとは思えませんが、安易に話して良いことではないことくらいはさすがに理解していますからね。



 わたしが話す気が無いことが分かったのか、セラさんは特に追及することなく隣を歩きます。



「・・・しかし、いつ来ても東地区は他と比べても異質な感じがしますね」


「同じ東地区でも中央寄りにある『春風亭』は周囲の外観と合わせるように建築されているけど、門の近くまで来ると公国の建物と王国の建物が入り混じっているからねぇ」


「公国は文化が特に特殊というか奇抜というか、特徴的なので、他地区と比べても違和感が出てしまうのは仕方ないですね」



 石造りのが基の建物と木材建築の建物が混在している通りといえば、分かり易いでしょうか?世界観が台無しな感じがしますが、これはこれで、慣れるといい調和を生み出しているようにも見えて複雑な感じです。そんな東通りを歩いていると、ふと、エルさんが立ち止まってきょろきょろとしだしました。わたしを含め、他の皆さんも怪訝な表情を浮かべてエルさんを見ます。



「どしたの、エル?」


「急に立ち止まって、何かあったのですか?」


「えぇ・・・まぁ・・・」



 歯切れも悪く返事をしながらきょろきょろとしているエルさんはやがて「気のせいかしら?」とか「でもこの感じは・・・」とかブツブツと呟き始めました。



「おいおい。本当に大丈夫か?」


「大丈夫よ。ごめんなさい。まさかあの子がここに居るわけ無いわよね。気のせいよ」


「知り合いの気配がしたの?」


「ええ、そんなところよ。それよりも、トワちゃんのお祝いをするのでしょう?どうするのか決まったの?」



 気にしないことにしたのか、エルさんは両腕を組んで聞いてきました。エルさんか普段の様子に戻って安心したからか、クーリアさんがほっと一息吐きます。



「トワちゃんは公国料理が気に入っているようですし、料理の美味しいお店を回りますか?」


「う~ん。そうだね。とりあえず、飲んで食べよう!」



 場を締めるようにセラさんが声を上げます。わたし以外の三人もそれぞれ「「「おー!」」」と声を上げました。ちょうどその時、わたし達に近付く気配を感じてわたしは振り返ります。すると、桃色の髪を肩まで伸ばした小柄な少女と目が合いました。お互いにこてんと首を傾げます。



「・・・どなたです?」


「あれ?懐かしい気配を感じたんだけどなあ。気のせいだったのかな?う~んでも確かにエルちゃんの気配だよねぇ」



――エルちゃん?まさかエルさんのことですか!?



 わたしが心の中で驚いていると、声に気付いたエルさんが勢いよく振り返ります。その目が大きく開かれて、端正な顔が驚愕に染まりました。



「な!?桜!?」


「あっ!やっぱりその顔はエルちゃんだ~。髪色は変わってるし魔力量も質も変わってるから分からなかったよ。本当に噂通りエルフになっちゃったんだね~びっくりした」



――エルフになっちゃった?元々はエルフでは無かったということですか?



 わたしだけでなく、クーリアさんとリンナさんも驚いたような顔でエルさんを見ます。セラさんだけはあちゃ~という顔をして少女を見ていました。



「春姫様。そのことは、内密にお願い」



 普段は感情を読ませない微笑で表情を取り繕っているエルさんが、苦々しげに顔を歪ませて少女に小声でお願いします。桜姫と呼ばれた少女はわたし達をぐるっと見回してから笑顔で頷きました。そして、今度はエルさんからセラさんに視線を移します。セラさんが心なしか背筋が伸びました。



「セラちゃんも久し振りだね!って言うほどじゃないか。あ、いや、でも人間的な時間で言えば久し振りで間違いないよね?」


「あはは・・・。間違っていないですよ。お久しぶりです、春姫様。御変わりありませんね」


「えっへへ~。わたしは全然変わらないよ。元気元気!セラちゃんとは五年ぶりくらいで、エルちゃんとは五百年ぶりくらい?最後に会ったのはアリアドネの領域突入前だよね?」


「ええ、そうね。その辺も伏せてくれると助かるわ」


「おっと、ごめんごめん。わたしにとってエルちゃんは盟友で親友だからさ、ずっと気になっていたんだよね。だから会えて嬉しくなっちゃって。ごめんね?」



 しおしおと沈んだ顔で少女が謝ると、エルさんが「もう良いわ。私も会えて嬉しいもの」と頭をぽんぽんと撫でます。セラさんがそれを見て苦笑しています。話についていけないわたしとクーリアさんとリンナさんは黙って成り行きを見守ることにしました。関わるとろくなことにならなそうだと勘がいっています。



「それで、春姫様?貴方どうしてこんなところに居るの?うろうろしていい立場では無いでしょう?」


「ちっちっちっ。前みたいに桜って呼び捨てしてくれなきゃ教えてあげないよ?」



――別に知りたく無いので帰って良いですかね?



 わたしの心の声は、恐らくこの場にいる少女以外の全員が思っていることと一緒だと思います。けれど、聞かないとたぶんなんやかんやと絡んでくる気配がします。エルさんが諦めたように溜め息を吐きました。



「まあ、それぐらいは妥協しましょう。それで、なんで王国のしかも平民の街中を彷徨いているのかしら、桜?」



 桜と呼び捨てにされて少女は嬉しそうに顔を綻ばせます。童顔で可愛らしい美少女のせいか、見た目は13~14歳くらいなのですが、より幼く見えてしまいます。



――エルさんをちゃん付けで呼ぶほどの関係ですか。中身は恐らく見た目通りの年齢では無いのでしょうね。本当にこの世界は見た目詐欺ばかりです。



 そして、なにより詐欺なのが、魔力感知や魔力眼で見てもこの少女が普通の人間にしか見えないのです。どんな手を使って誤魔化しているのか、この短い会話のやりとりを聞いているだけでも普通の人間では無いことは分かりますからね。



「実はこの国のおーさまと少しお話をしてたの。今は護衛の目を盗んで逃走中なんだ」


「言いたいことは沢山あるけれど・・・。あまり周りに迷惑掛けちゃダメよ?」


「あっ!ねぇねぇ。あそこの茶屋でお団子食べよ?」



 エルさんの言葉を無視して少女は茶屋まで走っていきます。エルさんは深い溜め息を吐きました。



「エル、溜め息ばっかりだよ?」


「そう思うなら、貴方が相手をしてくれても良いのよ?」


「あはは、お断り。さすがの私でも姫様の相手は無理だよ」


「ほら~みんなも早く~」



 わたし達はお互いに顔を合わせてサッとエルさんの後ろに隠れます。あの少女の対応を丸投げするわたし達の強い意思を感じたのか、エルさんが頭の痛そうにこめかみを押さえます。



「貴方達ねぇ・・・。行くわよ。待たせると構ってくる時間が長くなるわ」



 エルさんを最前線に追い出してわたし達はお茶屋に向かいます。ちなみに、ここのお茶屋さんはわたしも愛用していてよくお団子を買っています。もちろんお月見用です。お店に入ると、店の奥の個室で待っている少女・・・春姫が手招きしています。顔馴染みの店員さんがわたしを見るとにこりと笑って小さく手を振ります。わたしは手を振り返しながらエルさんの後についていきました。



「それで?わざわざ個室までおさえたってことは話があるのでしょう?」


「まぁね。エルちゃんとお話がしたかったっていうのも、もちろんあるけどね。・・・あ、その可愛い子気になってたんだよね。わたしの隣に座ろ?」



 セラさんが良い笑顔でわたしを差し出しました。後で覚えておいてください。料理にこっそり辛いものを忍ばせてやります。わたしは諦めた様に春姫と呼ばれている少女の隣に座ります。こうして近くで見ると、目を引くほど綺麗ながら着ている本人を引き立てるように作られている着物に目がいきます。桜を主にして春を代表する花が散りばめられています。まさに彼女の為だけに作られたものなのでしょう。それだけの違和感のなさと一体感があります。



「ふふ~ん。この着物綺麗でしょ?わたし以外は着ることが出来ない特注品だよ」


「・・・確かに貴方以外が着てもその着物の真価は発揮されないでしょうね」



 わたしの返答に可笑しそうにくすくすと少女は笑います。何故笑われたのか分からずに思わず首を傾げると、春姫は人差し指をぴんっと立ててニコニコとしながら理由を話し出します。



「この着物はね。わたしがなが~~~~~~い間着てずっとわたしの魔力で満たして染まっているから、わたしの体の一部みたいなものなの。だから、誰も着れないんだよ」



――ああ。わたしの武器のようなものですか。



 長い間というのにツッコミはしません。どうせ外見詐欺の長生きなのでしょうから。わたしが納得したように頷いていると、突然頭に手を乗せられてゆっくりと撫でられます。



「わ~。髪さらっさらのふわっふわ。もふもふしてる~。こんな可愛い子久しぶりにみたなぁ。昔に椿ちゃんが飼ってたうさぎみたい」



 思わずドキリとします。さらっと正体がバラされたような気がして、わたしは思わずセラさん達の方を見ます。あちらも気が気じゃないように心配そうにこちらを見ています。そんな目で見てくるのならば助けてほしいのですが。わたしと目が合いそうになるとさっと顔を背けられます。



――覚えておくといいですよ。後で寝ている時に耳元でしつこいくらいモスキート音を鳴らして寝不足にしてやります。



「桜、その子もいきなりそんなことをされて固まっているでしょう?そろそろ本題を話してほしいのだけれど?」


「あ~ごめんごめん」



 見かねたエルさんが春姫に注意してくれたおかげで、ようやくわたしは解放されました。いえ、撫でられるのが終わっただけで相変わらず隣に座っているのですが。対面に『白の桔梗』のメンバーが座っていると、わたしはこちら側の人間っぽく感じますね。ていうかこの少女は結局何者なのでしょう?姫と言われているからにはかなり立場の上の方だと思うのですが。



「ん~。どこまで話そうかな?全部聞きたい?」


「貴方が話せると判断したものだけで良いわよ。でも、私の今の立場はただの冒険者だから、あまり政治的な話をされても困るわよ」


「そっかぁ。それは残念。フリーになったのならわたしのところに来てお手伝いしてほしいのに」


「また話が逸れているわよ」



 えへへ、ごめんごめん。と悪びれる様子もなく謝ると、春姫は綺麗に背筋を伸ばしたまま、ニコニコと話を続けます。



「内密に国王さんとお話をしていたんだよ。今はその帰りなんだ。せっかく王都まで来たんだから少しくらい遊んで帰っても文句は言われないと思うんだよね。エルちゃんもそう思うでしょ?」


「思わないわね」



 エルさんが間髪入れずに返答しますが、桜姫は気にした様子もなくそのまま話を続けます。



「それでね。その内容なんだけど、冒険者ならひょっとしたらなにか情報持っているんじゃないかな。ここ最近あちこちで魔物の変異種が異常に増えているらしいの」



 変異種が増えている。その言葉にセラさんが眉を顰めます。ヘルスガルドで短い期間で複数の変異種と戦ったのです。ひとつの地域に数年に一度の頻度で現れるといわれる変異種が、どうやらあちこちで出てきているようですね。



「セラちゃんのその表情を見る感じだと、心当たりがありそうだね。話を聞かせてもらっても良いかな?」



 セラさんがヘルスガルドであったことと、王都で受けた依頼の中にも変異種が出てきたことがあったと話します。セラさんが一人であちこち飛び回っていた時のことらしいですが、今初めて聞きました。



「それと・・・」



 いきなり歯切れの悪くなったセラさんはちらりとエルさんを見てから席を立ち、春姫さんを部屋の隅まで呼びます。春姫さんが遊びに誘われたみたいにキラキラした目で向かいました。そして二人でこそこそとお話しています。このうちにあの少女が何者なのか聞いておきましょう。



「・・・エルさん、あの女の子は誰なのですか?エルさんは知っている人なのでしょう?偉い人なのではないかと思っていますけど」


「知らない方が良いわよ?もし気付いていても知らないことの方が良いことだってあるわ」


「私はなんとなく分かってしまいました。あんな人とも知己を得ているお二人に戦慄が走っているところです」


「私は知りたくないし分かりたくない。面倒事はごめんだ」


「そう言われると、意地でも巻き込みたくなるわね。まあ、あの子は立場が強くなって質の悪くなったセラだと思ってちょうだい」



――あれ以上に質が悪いとか洒落にならないのですが?



 わたしの心の声が聞こえたのか、エルさんがくすくすと笑います。それに釣られてクーリアさんとリンナさんも苦笑します。



「ちょっと!こっちは真面目な話をしているのにどうしてそっちは和やかな雰囲気になっているの!!」


「そーだそーだ!わたし達も混ぜろ~!!」



 いつの間にか話が終わっていたようで、こちらの様子に気付いた二人が頬を膨らませながら戻ってきます。



「話は終わったの?」


「とりあえずね。後でパーティー会議しようか。今後の方針を決めたいから」



 どうやら、何かの依頼を受けたようですね。わたし達は頷いて了承します。それを何も言わずに見ていた少女が突然あっと声を上げました。



「そういえば注文してない!ぜんざい食べよ~ぜんざい♪」


「「「「・・・」」」」



 うきうきと注文をしにいく春姫さんをなんともいえない顔で見送ったわたし達は、同時に何度目か分からない溜め息を吐きます。



「まあ、せっかく来たんだし、何か頼もうか」


「・・・草団子と緑茶」


「トワちゃんは常連だから決めるの早いね」



――わたしが通っているのがバレてます!?



「私もトワちゃんと一緒にするわ」


「う~ん。私はみたらしにしましょう。お茶一緒で」


「私はみたらしとあんこを頼むかな。お茶はみんなと一緒にしよう。それじゃ頼んだぞ、セラ」


「あーはいはい。分かったよ。私が行ってくるよ~」



 頼んだものが来るまでの間、春姫さんと待っていなければいけませんからね。わたし達は体よく押し付けることに成功してほっとします。



 少しの間、とりとめのない話題で話し合っていたら二人そろって帰ってきました。セラさんは両手では持ちきれないので魔法でふわふわと浮かせています。



「はい。これトワちゃんの分ね。これはエルので、クーちゃん、リンナの分っとこれで全部かな?」


「・・・ありがとうございます」



 それから和やかに食事を始めると、春姫さんが不思議そうな目でセラさんを見ながら首をこてんと傾げます。



「う~ん。やっぱりセラちゃん性格変わったよね?前に会った時はこの子みたいな感じだった気がしたんだけど」



 この子と言いながらわたしを見てきます。セラさんは困ったように苦笑を浮かべました。



「あ~、その辺はあまり突っ込まないでもらえると嬉しいです」


「ふぅん、そうなの?まあ、今の方が断然魅力的だし、セラちゃんっぽくてわたしは良いと思うよ」



 天真爛漫な笑顔でそう言われたからか、セラさんは普段より柔らかい笑顔で「ありがとうございます」とお礼を言いました。しかし、セラさんがわたしっぽかったというのが信じられませんね。確かに、真面目で本気の表情の時は感情が消えたような無表情になる時がありますけど。



「ふふふん♪ここのお茶屋さんはわたしの国に本店があってね。時折取り寄せているんだ~」


「・・・公国ですか。いつか行ってみたいですね」


「とっても良い国だから、いつでも遊びに来てね♪」



 それにしても、春姫さんは恐らく公国の中でもかなり偉い人なのでしょう。こんなところで悠長に食事をしていても良いのでしょうか?今更な感じもしますけど。



 春姫さんが冒険者の話が聞きたいとねだりだしたので、エルさんを中心に和やかに話をしていきます。その間もわたしを離すことは無かったので、黙って聞いていることにしました。いくつか話も終わり、頼んだ食事も食べ終えてお茶も飲み終わろうかという頃、ガラガラっとお店の扉を開けて入ってくる人の気配がしました。そのまま、わたし達のところまでやってきます。



「ありゃ?この気配もしかして・・・?」



――なんで気配だけで人を特定出来るのですかね?経験の差なのでしょうか?



 そんなことより、先ほどまでニコニコしていた春姫さんの顔がさっと青ざめました。明らかに、ヤバって顔をしています。



「失礼ですが。入室しても構いませんか?・・・あ、桜はその場から動かないように」


「桜・・・貴方の護衛ってまさか」


「も、紅葉ちゃんだよ」



 ひくっとセラさんの頬が引きつります。エルさんはこめかみを押さえながら「どうぞ」と入室を許可しました。



「失礼します」



 音もたてずに部屋に入ってきた少女はそっと入り口を閉めると、わたし達ひとりひとりを確認するように見渡してから、春姫さんに視線を固定しました。紅葉色の長い髪がひらりと流れるようにはためき、銀杏のような山吹色の瞳が獲物を狙うように細められます。



「な、なんでここに居るのが分かったの?」



 春姫の問いには答えずに、少女は視線を一度外してエルさんに体を向けると小さくお辞儀をしました。



「エルアーナ様、ご案内ありがとうございます。・・・噂には聞いていましたが、そのお姿を見ると驚きを隠せませんね」



 驚きを隠せないと言いつつ、ほとんど表情を変えずに抑揚の無い声で少女はエルさんに向けてお礼を言いました。どうやら、エルさんがこっそり精霊を使って春姫さんの連れを呼んでいたようです。春姫さんがそれに気付いたようで、ぷうと頬を膨らませます。



「エルちゃん酷いよ!裏切りだよ!」


「貴方の立場を考えれば当然でしょう。・・・それにしても、四季姫が二人も出てきて大丈夫なの?」


「問題ありません。この時期はまだ冬の力が強いですから、椿が居れば問題無いでしょう。さあ帰ろうか、桜。もう満足だろう?」


「ま、待って紅葉ちゃん!もうちょっと、もうちょっとだけ。だって帰ったら執務詰めになるんだから、少しくらい羽目を外しても良いじゃないのさ!」


「ということなので、私達はここでお暇させて頂きます。せめてもの迷惑料として、ここの代金は払わせてください。お土産も買っていって構いません」



 紅葉と言われた少女は、春姫さんの必死の訴えに表情一つ変えることなく無視すると、春姫さんの右手を取って立ち上がらせます。見た目は全然違うのに姉妹のようですね。よく見ると、着ている着物も春と秋の違いはあるものの同じデザインのようです。



「う~。今はわたしの方が偉いのに~」


「そうね。自覚しているようでなによりよ。・・・それでは、ご迷惑をお掛け致しました」


「いいえ。驚いたけど、久しぶりに会えて嬉しかったわ。貴方とも今度ゆっくり話がしたいわね、紅葉」



 エルさんの言葉に、紅葉さんは僅かに口角を上げて目を細めて微笑むと「ええ。機会があればお話いたしましょう」と嬉しそうに返して、未だにぐちぐちと言っている春姫さんを引きずるように連れてその場を後にしました。



「なんだかどっと疲れたね~」


「嵐の後のような感じですね。ほとんど会話に参加していないの精神がごりごりと削られていきました」


「ああ、全くだな」


「あの姉妹は全然変わらないわね。まるっきり五百年前と同じ光景で、懐かしくなってしまったわ」



 他の全員がぐったりとテーブルに倒れている中、わたしは一人懐かしそうに目を細めるエルさんをじっと見詰めます。



――結局、エルさんもかなりの権力者ですよね?



 王族に会えるほどの地位を持つ春姫さんと知り合いだということを考えたら間違いないはずです。それとも、エルフは長生きですから、そうした知り合いが多くなるのでしょうか。今のわたしには判断出来ませんね。元々何かしらの事情のある人が集まったパーティーなのですから余計な詮索はしませんけど。



 思わぬ邂逅を果たしてしまい、かなり時間が経ってしまってわたしのお祝いが出来なくなってしまったので、紅葉さんのお言葉に甘えて、たくさんの種類のお団子をお土産に買って夜に皆さんとお月見パーティーをしました。




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