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転生うさぎは異世界でお月見する  作者: 白黒兎
第二章 人間世界
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26話 転生うさぎと魔術具作成

 それから残りの数日間、王都のあちこちを連れまわされました。またもや服が大量に増えたり、観光名所でわたし達をナンパしてきた愚か者を撃退したり、図書館でクーリアさんの魔法陣談義や魔術具談義がたまたま居合わせた学生達の間で話題になり、まるで学校の講義のような状態で教わることになったりといろいろとありましたが、これといって大きな問題も起こらずに平和な観光を楽しみました。



 観光に一区切りつけると、今度は予約をした宝石の購入に向けてお金を稼ぎます。最初の頃はちまちまと依頼をこなして少しずつ貯めていったのですが、わたしのランクでは依頼だけで金貨一枚は中々時間がかかることに気付き始め、もう面倒になったので、ダンジョン調査の依頼で倒したタイラントワームの素材をセラさん経由で売って貰って一気にお金を稼ぎました。そうして、無事に宝石を全て買い揃えることに成功します。



 セラさんが「まぁ、トワちゃんなら余裕の相手だよねー」と遠い目をしていましたが、無視しました。お金のためですからね。



 さて、では魔術具の制作をしてみましょうか。宝石に刻む魔法陣は既に勉強しているので大体把握していますが、せっかくなのでわたしの魔法やスキルの力でアレンジ出来ないか試してみましょう。



――とりあえず、自分のから作りますか。



 わたしは買った宝石の中の一つであるムーンストーンを取り出します。和名では月長石げっちょうせきと言います。石言葉では健康や長寿の他、純粋な愛などの恋愛関係もあります。ムーンストーンの名前の由来でもある月光のような淡い輝きはシラー効果というもので、昔の人はその光を見て月の力が宿る神聖な石として扱っていたこともあったそうです。予言と透視の石とも呼ばれていて、予知能力や霊感能力を高めるとも言われています。



――どれも地球での知識なので、この世界に役に立つかは分かりませんけどね。



 でも、こうした情報のおかげでどういう魔術具を作るのか方針を決めやすいので助かります。宝石をいじくる前に、まずは土台である指輪を準備しておきます。魔術具用なので最低でもミスリル製が良いとのことなので、ミスリルのインゴットを買って魔法で加工して作りました。常々思いますが、魔法って便利ですね。わたしの魔法が異常なだけかもしれないですけど。



 この指輪にも魔法陣を刻んでおきます。っと、その前に魔術具に関しての基本的なことについておさらいしておきますか。



 まず、素材には基本的に属性と特性があります。その属性と特性によって付与しやすい能力や付与できない能力がある程度分かり、素材の質によってどの程度強力な魔法陣が付与出来るのか決まります。質に会わない魔法陣を刻むと、きちんと能力が発現しない事態になるので注意です。



 魔術具の作成にはまずメインの能力を付与すための素材と、その素材を身に着けるための用途に応じた土台が必要になります。ものによっては、メインの能力を補佐する素材を追加で付けたり、メインの能力とは別に能力を付与したりすることもありますが、基本はメインの素材と土台の部分の素材だけで大丈夫です。土台部分の素材には基本的にメインの素材と相性の良い属性か、無属性の素材を使用します。



 なんでもかんでも素材と魔法陣をくっ付けてしまえば良いというわけでもなく、メインの素材と同等レベルの素材を一緒に付けると相互干渉を引き起こして不具合が起きたり、相性の悪い能力や属性の素材を使ったり、魔法陣を刻んだりしてもきちんと動作しないので、どの属性がどの属性と相性が良いのかや、素材のランク、複数の魔法陣を刻む場合は相反する矛盾するような効果の魔法陣を刻んでいないか、魔法陣の紋様が干渉していないかなどを考えながら作る必要があります。



 後は、実は自分の魔力にも属性があります。人によって得意な属性の魔法があったりするのはこれが原因の一つと言われているそうです。魔術具の作成には当然ながら自分の魔力を使うので、ここでも属性の反発が起きない様にしなければなりません。魔力を使う時の属性を意図的に変えるのは、各属性の魔法スキルのレベルが最低でも5以上は必要と言われているそうです。わたしの今の原初魔法はレベル4ですが、原初魔法自体が超級スキル扱いなので問題無く属性を変えて魔力を注げます。



 さてと、おさらいはこんなところでしょうか。では、改めて魔術具作成を始めましょうか。



 ミスリルの指輪に魔法陣を刻みます。刻み方は直接掘って模様にするパターンと魔法のペンで描くことで見た目を変えずに書き込むパターンがあります。今回は後者を使います。



――この魔法のペンもなかなかに高価な物だったのですよね。



 魔術具作成にはお金がとてもとてもかかります。今回のことでそれを実感しました。そんなことを考えながら、指輪に伸縮の効果の魔法陣を刻みます。念のためわたしの指に指輪を通してみると、問題無く魔法陣が働いてぴったりのサイズに自動で大きさが変わりました。成功ですね。



 問題のメイン素材であるムーンストーンになんの魔法陣を刻むかですが、まずはこの素材がなんの属性を持っていて、どんな特性のある素材なのかを知らないとむやみやたらに魔法陣は刻めません。一度魔法陣を刻んだら消すことが出来ないらしいので失敗は許されないのです。あのお店でもこの属性と特性が分からなかったからこそ安く売りに出されていたのですけどね。



――高レベルの鑑定スキルを持っていれば分かるそうなのですが。



 あいにくと鑑定スキルは持っていないので、前世の知識と後は勘でなんとかします。失敗したらただのアクセサリーにして使えば良いですからね。気持ちを楽にしてやりましょう。



――というか、ムーンストーン、月の石と言われているくらいなのですから、月の属性を入れれば良いのでは?



 わたしのユニークスキル月の加護の中にある月魔法があるので、月の属性というのが恐らくあるでしょう。それに、わたし自身の魔力が月の属性っぽいのでこのまま使ってしまって大丈夫だと思います。こういうのはノリですよ。ノリ。



 というわけで、さっそくムーンストーンを取り出します。・・・やっぱり光加減が気に入らないですね。一応研磨でしっかりと表面上は綺麗にされいるのですが、カットはほぼ無いに等しいですからね。もうわたしが魔法でやってしまいましょう。詳しいやり方は分からないですがカットの種類や見た目は知っていますので、イメージだけでなんとかなるでしょう。というわけで、ウォーターカッターさんの渦に宝石を投げ込みます。カッターというと切断のイメージがありますが、ウォーターカッターは水圧で削り取るので実質研磨ですからね。たぶん上手くいくでしょう。



 十秒ほどしてから宝石を取り出します。ムーンストーンはカボションカットが主流だったはずですので、半球型になるように綺麗に形にするようにイメージしましたがどうでしょうか。・・・上手くいったようですね。まぁ、ファセットカットに比べれば難しいものではないですからね。それでも、魔法は便利すぎですね。精密さを要求するために多くの魔力を使いましたけど、大満足の出来です。



 次にこの宝石をわたしの魔力で満たして染めます。この作業は素材の中にある微量な魔力を追い出して、魔法陣の効果をより高めるためのものです。置いてあった環境で本来持っていないような雑多な魔力が邪魔をしてしまうのを防ぐのです。魔力の少ない人は元々ある魔力から使える程度まで継ぎ足して使うこともあるそうですが、完全に魔力で満たした方が高品質になるので、時間をかけてでも行ったほうがよい工程だそうです。わたしの魔力で染め終わると、ムーンストーンの月光のような淡い光が強くなり、時折紅くなったり青くなったりと変わっています。



――ほう。とても綺麗になりましたね。



 これだけでもアクセサリーとして実用的になりました。でも、これからが本番です。わたしは魔法のペンを手に取ります。この宝石に刻む魔法陣は、ユニークスキル『月の加護』の効果の一つである月光浴の効果の魔法陣です。月光浴の魔力回復を使ってこの魔術具自体に魔力を貯蓄出来る様にする予定です。わたしが冒険者ギルドでスキルの一覧を確認した時にユニークスキルの魔法陣は直接頭の中に直接浮かんできたので、魔法陣自体は問題なく描けるのですが、この素材で耐えられる能力なのかが不安です。失敗したらただのアクセサリーになるだけですけどね。



 ミスをしないように慎重に魔法陣を刻みます。月光浴の魔法陣に貯蓄効果の図形を刻み、魔力の線を素材の中に張り巡らせます。これでこの宝石に月光浴の効果で魔力が貯蓄されるようになるはずです。次に、土台の指輪部分に宝石をはめて伸縮の魔法陣で固定します。最後に指輪部分に宝石から魔力の線を通して完了です。この魔力の線・・・ラインと言うそうですが、これをしっかりと書いておかないと魔術具に魔力を込めにくくなってしまい、結果として不具合が起きやすくなる原因になるとのことです。クーリア先生曰く。



――さて、それでは試してみましょうか。



 ちなみに失敗すると全く無反応かパーンと弾けて素材が粉々になり、制作時間と素材に使ったお金が消し飛びます。出来れば後者は避けたいですね。滅多にそんなこと起きないとのことですが。わたしは指輪を左手の中指に付けて魔力を流します。これで魔法陣が起動するはずです。



「・・・・・・・・・?」



 おや?何も起きないですね。失敗でしょうか。ちょっと爆発を期待したのですけどね。わたしは残念に思いながら指輪を外します。リングの伸縮効果が無くなって元の大きさに戻ります。・・・おや?



――失敗していたらこの伸縮効果も発動しない筈なのですが。



 宝石部分とラインを刻んだ段階で、このリング部分も宝石部分と一体化している筈です。宝石部分が失敗していたらリング部分も機能しなくなるのです。ふむ。っとわたしはもう一度指輪を付けて魔力を流します。すると、なんの問題もなく伸縮効果が発動してわたしの華奢な指にフィットしました。



 しばらく考えていると、気付けば夜になり窓から月明かりが差し込んできました。わたしの指輪はキラキラと光り、魔力が蓄えられていくのが分かります。



「・・・あ、なるほど」



 月光浴のスキルを刻んだのですから、夜の月明かりのある場所でないと機能しないではないですか。わたし、うっかりしていました。とりあえず成功しているのが確認とれましたので、このまま装備していることにします。一度魔力を流して自分と繋げてしまえば、後は放置で勝手に魔力が増えていくのです。



 ところで、何故魔力貯蓄の魔術具を作ったかというと、以前は際限なく魔力が回復していて魔力量も多くなっていったのですが、ある一定量まで増えるとそれ以上は増えなくなりました。恐らくはわたしの今の体の上限値まで貯まってしまったということなのでしょう。月が出ている夜はその上限値を越えて魔力量も増えるのですが、朝になると増えた魔力が徐々に減っていって最終的に元の量で落ち着きます。



 わたしにとって魔力はMPであり同時にHPでもあるのです。いくらあっても足りないのに上限が来てしまったので、仕方なく別の方法で魔力を貯めることにしたわけです。この魔術具で貯まる量など気持ち程度ですけどね。



 そして、普通の魔力自動回復ではなく月光浴を使った理由は、ユニークスキルを刻むと同じユニークスキル持ちでないと使えない専用装備になるからです。専用装備という言葉に魅かれたというのもありますが、普通の自動回復よりも強力ですからね。なにせ、ユニークですし。



――なにはともあれ、無事に作成出来て良かったということにしておきましょうか。



 次はどの宝石を使おうかと思案していると、部屋に近づいてくる騒がしい声が聞こえてきました。どうやら、セラさん達が帰ってきたようですね。今日はここまでにしましょう。



 それからセラさん達の目を盗んでひとつひとつ魔術具を作っていきます。結局全員分の魔術具を作るのに半月近くかかってしまいました。



 わたしが用意したそれぞれの魔術具が以下になります。



 まず、セラさん用に作ったのはセレスタイトという宝石を使ったペンダントです。和名は天青石てんせいせきと言い、石言葉は休息や浄化、博愛だったと思います。まさに、天使なセラさん向けだと思います。見た目は青灰色で水晶に近いです。わたしのムーンストーンと同じでカボションカットで綺麗に整えて、チェーンやトップ部分の土台にはもちろんミスリルを使用しています。休息ということで魔力の自動回復を付けて、浄化能力を意識して体を綺麗にするクリーンの魔法を常時発動させるようにしています。



 クーリアさん用はティファニーストーンのペンダントです。非常に希少な宝石で、アメリカの一部の地域でしか産出されないものです。石言葉は直観力、発想力、洞察力といったもので、研究熱心なクーリアさんにあげようと思いました。白と紫色のマーブル模様が特徴で、結婚指輪にも使われることがあるらしいですね。これには直感という偽りの情報を見破る能力を付与しました。これ以外にこの石に付与してまともに機能しそうな魔法陣が無かったのですよね。



 エルアーナさんにはアレキサンドライトを採用しました。地球では大昔に王族が愛用した宝石と知られていて、光によってエメラルドのような緑色とルビーのような赤色に変色します。この特徴から、和名で変彩金緑石へんさいきんりょくせきと呼ばれ、石言葉も高貴の他、安らぎと情熱や秘めた思いなど二面性を示したものになっています。こちらはダイヤモンドで使用されるブリリアントカットという技法でまさに宝石らしく仕上げました。・・・とても、頑張りました。ちなみにこれもペンダントです。二面性という特徴を持つゆえに相反する属性と相性が良いのですが、魔法陣のシステム的に相性が悪いという困ったちゃんで、散々苦労した結果出来上がったのは、宝石が緑色の時は魔力回復、赤色の時は魔力攻撃の威力増加という切り替え型で落ち着きました。初心者のわたしが作るものではないですよ。まったく。



 最後にリンナさんですが。こちらは黒い宝石、ブラックダイアモンドと呼ばれることもあるヘマタイトを使ったペンダントにしました。・・・もう面倒だったので全員ペンダントです。付けても邪魔になりにくいですからね。ヘマタイトの和名は赤鉄鉱せきてっこうです。鉄の含有量が多い為、資源としても扱われるそうです。色は真っ黒で、きちんと研磨すればまさに宝石の如くツヤがでて美しい見た目になります。石言葉は戦いと勝利や生命力といったもので、戦いの守護石と呼ばれることもあるそうです。まさにリンナさん向けですね。付与する能力は身代わりです。ため込んだ魔力を使って、一度だけ防御の障壁を張ってくれるのです。性質上とても壊れやすい魔術具ですが、最前線に立つリンナさんは危険も多いので持っておいてほしいものです。



 こうして、全員分のアクセサリーを作ったのですが、困ったことに渡すタイミングがありません。いえ、別に何も考えずにぽいっと渡しても良いのですが・・・。



――まあ別に、焦って渡す必要も無いでしょう。収納に仕舞っておきましょう。



 わたしは作ったアクセサリーをひとりひとり箱に詰めて名前を書いて収納に投げ込みました。次思い出した時にきっと渡すでしょう。未来のわたしに期待しておきます。



 作業を終えたわたしは、窓の外を見上げて夜空に浮かぶ丸い月を見上げました。



 ずっと一緒には居られない、ここは居場所ではないと解っているはずなのに、彼女達を『仲間』だと思ってこうしてお礼の品を用意しているのですよね。



――人との関わりに飢えているというよりも、まるでわたしのことを見捨てないで欲しい、引き留めていてほしいと懇願しているようです。



 わたしは魔物であり、人間からは敵とされて襲われるような立場でありながらも、わたしは人間であった記憶のせいで人間での生活に未練がある。そんな気がします。



――未練・・・未練・・・生まれ変わって違う世界に生まれて人間ですらなくなり、自身の記憶もほとんどないのに未練なんてあるのでしょうか?



「・・・自分のことは、存外分からないものですね」



 見上げた月にそう小さな声で呟きます。



 夜空に浮かぶ満月はわたしに呟きに何も答えることはなく、夜の世界を静かに照らし続けていました。




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