1話 転生うさぎと転生特典
ふと気が付くと周りは緑色でした。何言っているのでしょうね?いえ、わたしはありのままを説明しています。ふむ、落ち着いて深呼吸してみましょう。
「きゅう~~」
――あら。ずいぶん可愛らしい声が聞こえてきますね。・・・わたしから。
「きゅう?」
わけもわからずに首をかしげます。相変わらず愛らしい声がわたしから聞こえてきます。
とりあえず周囲のことより自分の確認をしましょう。わたしは自分をそっと見下ろしました。
もふもふの白い毛に短い手足。耳をぴくぴく動かすとなるほどちょっと長いですね。おしりの方にある感覚は尻尾でしょうか。丸い感じがします。なるほどわかりました。わたしはうさぎなのですね!
――・・・おっけいわかりましたわたしはまだだいじょうぶです
さて、わたしは誰なのでしょうか?哲学ではありませんよ?しかし、ただのうさぎがこんなに思考出来るものなのでしょうか?別にうさぎを馬鹿にしているわけではありませんが・・・
話が逸れていきますね。とにかくわたしは目を閉じて集中し、自分の記憶の奥深くまで探ってみることにしました。
わたしは地球という世界の日本という国で暮らしていた人間です。知識としては一般学生レベル・・・高校生くらいはあるでしょうか。少なくとも義務教育は終えていそうです。社会人ではないと思います。会社などで働いていた記憶はないですね。
わたし自身に対する記憶は酷くあやふやですね。男性だったのか、女性だったのか、人と会話したり学校に関する知識があったりと、人間であることに間違いはありません。もちろん名前も思い出せません。でも、交友関係的には恐らくは女性でしょう。わたしの体も雌のようですし。
一体どんな人生を送りどんな末路になったらうさぎになるのでしょうか?
家族構成は・・・はっきりとは思い出せませんが両親と兄妹がいたような気がします。今のわたしの記憶でははっきりと思い出せないですね。後に思い出すのかそれとも段々と忘れていくのか、どちらにせよ今判断できることではなさそうです。それに、なんとなく、家族のことは思い出したくない気がします。
過去のことは一旦置いておきましょう。現状、使えそうな知識や記憶はあまりなさそうですし。
改めまして、周囲の状況を確認しましょう。こうして生きている以上は生きる為に行動しなくてはなりません。うさぎでは戦えないと思いますし。
周囲はやや丈の長い草で覆われていました。耳を立ててピンっと両足で立つとなんとか周りが見えます。一面緑の草原が。ころころと大きい岩も遠目に見えますが、ほぼ緑一色でした。すっと伏せると周りの草にうまく隠れることが出来そうです。
そういえば、異世界に転生するととても強力な能力があったりするお話を読んだことがあります。敵を食べると相手の能力を手に入れたり、強力な魔力や能力で敵を瞬殺したり・・・。
実はわたしも気づいていないだけでなにか転生特典があるのではないでしょうか?
何も無かったら肉食獣に襲われてお腹の中です。人間に出会ったら狩られて血抜きされて解体されてしまいます。何か強力な力がなければ日本という平和な国で生きてきたわたしでは生き残れないでしょう。
神様。わたしにどうかチートな能力を・・・
というわけで、いろいろやってみましょう。実はすごい身体能力があるのではと遠目に見えた岩まで走っていき思いっきり蹴ってみました。とても痛かったです。良い子は真似しないでください。ちなみに岩はびくともしなかったですし助走の速さも、まぁ、草食動物並みの速度だったと思います。はい次
実はとても強い魔力(存在するのかわかりませんが)を持っていて、凄い魔法が使えるかやってみましたよ。できるだけ鮮明にイメージしてみて水を出してみようとしたり、風をおこしてみようとしたり、草をちぎって異空間にしまおうとしたり、目を閉じて瞑想して内なる何かを感じ取ってみようとしたりしてみました。
最後にやった瞑想っぽいものでわたしの中で何か蠢く熱のようなものを感じ取ることが出来ました。恐らく魔力的な何かでしょう。しかし、それを使って魔法っぽいものはできませんでした。この感じからして魔力っぽいものは特別多いわけでは無さそうですね。
そして、魔力っぽい存在を確認したことで、わたしのいる世界が異世界である可能性が高いと結論に至りました。無駄にならなくて良かったと心から思います。はい次
転生特典の王道といえばチートな能力でしょう。敵を睨んだら即死させる魔眼とか、実はパッシブで相手を魅了する能力とか。常に完全無敵な結界が張られているとか。
しかし、確認するのはほぼ不可能ですね。まず、わたしに襲い掛かってくる者が居たら見つかった時点でアウトです。もしなんの能力も無かったらわたしは死にます。そして、そうなるくらいなら、見つかる前に逃げます。当たり前でしょう?わたしはうさぎですよ?狩られる側の存在です。食物連鎖の弱者です。
せめて、自分のステータスやスキルを確認できれば良いのですが。現状ではそれらの存在もあるのかわからないですしどうしようもないですね。
結論。わたしに転生特典はありません。