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16話 転生うさぎと仲間

 魅かれるがままに魔石を食べようとしたら、突然わたしの体に衝撃が来ました。



「トワちゃんすとーーーーーーーっぷ!!」



 背中に抱き着かれ、手に持っていた魔石を凄い勢いで取り上げられます。



――あ、わたしの魔石が盗られました。



 思わず取り上げられた魔石を目で追いかけると、真剣な顔をしたセラさんの目線とぶつかります。



「・・・セラさん?向こうは終わったのですか?」



 わたしが疑問に思って首を傾げると、セラさんは安心したようにほっと溜息をつくと、苦笑しながら頷きます。



「ついさっきね。それで慌てて戻ってきたの」



 こっちに来たら思っていた以上に酷い惨状で驚いたよ。と、おどけたように肩を竦めると、魔石を取り上げたままわたしから離れます。



「・・・あ、」



 わたしが思わず声を上げると、今度は咎めるような顔になってセラさんがわたしを制します。そして、おもむろに空を指さしました。その先には未だに血のように紅い月が見えます。



「とりあえず、あれを元に戻してくれるかな?今頃世界中がパニックだよ」


「・・・」



 すっかり忘れていました。普通の魔法と違って、月魔法はあまり魔力を使わないため気にも留めなかったです。



 わたしは月に向けて手をかざして、月魔法を解除します。別に手をかざす必要は無いのですが、気分的な問題です。



 月が元に戻ったのを確認すると、セラさんは安堵したようにほっと一息つき、他の仲間達の下へ向かいます。わたしもその後を着いていきます。



 魔物の死体からそこそこの距離のところに三人は居ました。どうやら、わたしの戦闘に巻き込まれないように移動したようですね。三人はわたしを見た後、セラさんを見て非難するように厳しい顔になります。



「ん。みんな生きてるね。安心したよ。大体の怪我は治療したみたいだけど、念のために私の力で治療するよ」


「ありがとうございます。・・・セラさん。彼女の正体、知っていましたね?」



 セラさんの手から白い魔法陣が出てきて、白銀色の粉がクーリアさん達に降りかかると、見えていた細かな傷や汚れが無くなり綺麗になりました。顔色も先ほどよりかなり良くなっているように見えます。



「クーちゃんの言う通り、私はトワちゃんの正体に勘付いていたよ。でも、初めに行ったよね?事情のある子だって」


「いくらなんでも、これは予想出来ないわよ」



 セラさんがクーリアさんの質問に答えると、エルさんとリンナさんは呆れたような、困ったような複雑な顔で溜息をつきました。クーリアさんはわたしを真剣な顔でじっと見てきます。



「トワちゃん・・・貴方は、魔人なのですか?」



 クーリアさんの言葉で、その場に居る全員がわたしを見てきます。わたしは一人一人の顔を見まわしてから、最後に質問者であるクーリアさんと目を合わせてゆっくりと頷きます。



「・・・はい。人間側の区別で言うならば、わたしは魔人ということになるのでしょうね」



 わたしの言葉に、クーリアさんは息を呑み、その可愛らしい顔を驚愕に染めます。エルさんやリンナさんも似たような状態の中、セラさんだけはいつもと変わらず、微笑を浮かべながら呟きます。



「恐らくはアリアドネの災厄以来の、完全に人間に溶け込める魔人だね」



 アリアドネの災厄はたしか500年以上昔に起きた魔人による事件だったと言っていましたね。その時の魔人も、わたしに近い存在だったのでしょうか。



「アリアドネは魔人となってから積極的に人間と交流をして、その地帯の魔物を支配し、コントロールすることによって人間達に長いこと恩恵を与え続けた魔人なの。一時期は聖獣として崇められていたこともあったわ。でも、ある日突然豹変して、人間達の国を襲い、自身の支配していた魔物を進化させて各地に放ち暴走させたの。およそ10年も続いた長い戦争でようやくアリアドネを討伐して終局したけど、その戦争での犠牲者は当時の世界の人口のおよそ半分は居たと言われているわ」


「それ以来、魔人はその存在が確認し次第討伐することが、全ての国で義務付けられ、魔人に進化すると言われいる魔物の変異種もまた、最優先討伐の対象になったのです」



 エルさんが昔の話を、クーリアさんがその後の話をそれぞれ教えてくれます。その話が終わると、リンナさんは感情を殺したような表情の無い顔でわたしをじっと見詰めます。



「だからこそ、どんなに人間達と親しくして、害が無さそうでも、魔人は殺さなきゃならない。かつてのアリアドネの災厄を起こさないようにするには、そうするしか無いんだ」



 そう言うと、静かに大剣を手に持ちます。セラさんは即座にわたしの前に立ち塞がると、リンナさんと対峙します。セラさんは変わらず微笑を浮かべていて、何を考えているのか分かりません。



「リンナ。まさか、さっきまでの戦闘を見た後で、トワちゃんを殺せると本気で思っているの?もしそうなら、随分とお花畑な頭だね。魔力の大半を使ったとはいえ、余力がない訳ないでしょ?ね、トワちゃんだって無抵抗に殺される気は無いでしょ?」



 わたしは頷きます。こうなる覚悟は出来ていましたから、セラさんさえなんとか出来れば逃げることは容易いです。強いて言うならば、セラさんの手に持っている魔石が欲しいぐらいでしょうか?



「・・・魔石、欲しいです」


「う、そんな可愛い顔してもダメだよ。君にこれ以上成長されちゃうと、私でも手に負えなくなるかもしれないんだから」



 上目遣いでおねだりしてみましたが、ダメみたいです。・・・もう少し押せばいけそうですかね?



 わたしが真剣に考えていると、今度はクーリアさんがわたしの前に立ってリンナさんと対峙しました。クーリアさんは静かに首を横に振ります。



「ダメですよ。セラさんでしか相手出来そうにないのに、セラさんが懐柔されてますからね。それに、リンナさんだって本気でトワちゃんを殺したいわけではないでしょう?」



 クーリアさんがそう言うと、リンナさんは悔しそうに顔を歪ませて、大剣を仕舞います。エルさんも処置無しという風に肩を竦めると、綺麗な笑顔でわたしを顔を向けます。



「私達の誰もトワちゃんを殺したいと思えないならば、どうすることもできないわね。迷いをもって戦って勝てる相手でも無いし、仕方ないわ」


「そうそう。それにみんな、トワちゃんに言うことがあるんじゃないの?トワちゃんは相当な覚悟を持って助けてくれたんだよ?」



 セラさんの言葉で三人が一斉にわたしを体を向けます。そして、丁寧に頭を下げました。



「トワちゃんのおかげで私たちは助かりました。本当にありがとうございます」


「トワちゃんのおかげで命拾いしたわ。ありがとう」


「あ~、なんだ。今回ばかりは本当にダメかと思ったが、トワのおかげで助かった。ありがとう」



 頭を上げた三人から、口々にお礼を言われます。わたしは自分の自己満足と彼女達を情報収集に利用するのために助けたのであって、別にお礼を言われるほどのことではないのですが。



――まあ、悪い気はしないですね。



 わたしが黙ったまま視線を逸らしたのを照れたと思ったのか、クーリアさん達の目が幼子を見るような慈愛に満ちたものになりました。



 とりあえず、わたしの処遇は保留ということになりました。彼女達と一戦交えなくて良かったと安堵します。覚悟はしていても、あまり気分の良いものじゃないですからね。ま、戦うとなったら全力で逃げますが。セラさんには絶対に勝てそうにありませんので。



「そういえば、トワちゃんは何歳くらいなのですか?魔物の生態が本人から聞けることはこの先無いでしょうし、変異種から魔人までの期間が分かれば、今後の参考になります」



 クーリアさんの質問にわたしは答えに詰まります。普通のうさぎとして意識が覚醒した時は既に子ウサギでしたし、いつ生まれたかは分からないのです。分からないので正直に答えることにしましょう。



「・・・わたしはあまり参考になりませんよ?わたしとして意識を持った時は普通のうさぎでまだ二ヶ月くらいでしょうか。動物のうさぎから魔物になるまでにおよそ一週間ぐらいで、魔物から魔人になるのに一か月とちょっとくらいですかね。その後、人間として三週間ぐらいは暮らしているはずです」



 わたしがいろいろと過去を思い出しながら話をしていると、クーリアさんは素っ頓狂な声を上げます。



「に、二か月!?まだ生まれて二か月なのですか!?」


「しかも、元はただのうさぎだったんだね。いやはや、びっくりだよ」



――そうなんですよね。わたし、意識が覚醒してから波乱万丈な日々を過ごしていますよね。



 結構本気で休息期間が欲しいと思い始めますが、ここまで波乱万丈なのは半分以上自業自得なので、これから先もあまり変わらないだろうと項垂れます。安寧な居場所はまだまだ遠そうです。



「確かに、あまり参考にはならなそうね。二か月でここまで成長するのが普通ならば、人族はとうの昔に滅びているわよ」


「しかし、トワ相手にもう一生分驚いた気がするぞ。・・・さすがにもう無いよな?」



 リンナさんがジト目で見てきますが、わたしは驚かしたくてやっているわけじゃないですからね。知りません。目を背けると、リンナさんの肩ががっくしと下がり「まだあるのか」と呟きます。本当に失礼です。リンナさんは放っておいて、驚いているクーリアさんに気になったことを聞いてみます。



「・・・わたしのように、普通の動物から魔物になるのはよくあることなのですか?」



「よくある、訳ではありませんが、動物から魔物になるのは既に研究で実証されていますので、驚くようなことではありませんよ。・・・この草原に条件を満たすものがあるのかどうかは疑わしいですが」


「・・・条件?」



 わたしが首を傾げて質問すると、クーリアさんが屈んでわたしと目を合わせながら教えてくれます。



「動物から魔物になる条件は、大量の魔力を長時間浴び続けるか、大量の魔力を体内に取り込んだ場合です。いずれも、通常の体から魔物の体に造り替えられる際に、体と精神が耐えられなければ死んでしまいます」



 やはり、わたしが魔物に、しかも変異種にまでなったのは、スライムさんのゼリーをおやつに食べていたからでしょう。あれにはスライムさんの魔力がたくさん込められていますからね。



 わたしが納得したようにうんうんとしていると、他の四人は例の魔物を調査するために移動し始めました。わたしも慌てて後を追います。



「やっぱりスモアネスのエルダータイプだよねぇ。私のところとまったく同じ個体だから、複製化したんだろうけど。不自然だよねぇ」


「エルダーネスは単体でSランクの変異種ですからね。その元が草原の先に生息しているとはいえ、やはり不自然な進化の仕方ですね」


「変異種に関しては分からないことも多いとはいえ、この街周辺は特に不可思議なことが多いわね。トワちゃんもそうだし」


「帝国で人造魔物の実験をしていると噂で聞いていたが、本当にやっているということか?」



 なにやら真面目な話をしているみたいなので、わたしは倒した魔物・・・エルダーネスでしたか、の傍まで寄って見上げます。



――今更ですがよくこんな奴倒せましたね。



 あの時は無我夢中だったので気にしませんでしたが、今冷静になると、わたしのような小柄な体躯ではあっという間に潰されてしまいそうなほど大きい体です。本当に、強くなりましたね。わたし。



 大きな体の尻尾付近まできた時に、体の中に妙な魔力を感じたので、魔力眼で見てみます。すると、この魔物のものではない魔石を見つけました。取り出して手で持って確認してみると、毒々しい紫色の魔石が怪しく光っています。



――どうみても普通の魔石じゃありませんね。



 わたしの危険察知のスキルがガンガンと警鐘を鳴らします。これはセラさんに渡しておきましょう。四人の下に戻ると、まだ話し込んでいるようでした。わたしはセラさんを手招きして呼びます。わたしに気付いたセラさんが小走りで近づいてきました。



「どうしたのトワちゃん?」


「・・・これ。この魔物の魔石じゃありません。わたしが持つと危ない感じがするので、あげます」



 わたしが先ほどの魔石をセラさんに渡すと、セラさんは大きく目を見開いてそれを観察します。



「これ・・・これは。・・・ううん。・・・確かにトワちゃんが持っていると危ないね。私が預かっておくね」


「・・・何か有用なものならば、お礼に魔石をください」


「だから、これ以上君を強くするわけにはいかないから、だーめ」


「・・・でも、さっきの戦闘でかなり魔力を使ったので回復したいのです。今は月が出ているので魔力に余裕がありますが、余裕を持っておきたいのです」



 わたしが必死に主張すると、セラさんが少し考えるように顎に指をあてて俯きます。そして、顔を上げると、収納からエルダーネスとは違う魔物の魔石を取り出しました。



「変異種の魔石は影響が大きいかもしれないからダメだけど、普通の魔物の魔石ならあげるよ。君は魔力で体を維持してるから、確かに魔力を余分に持っておきたいもんね」


「・・・いただきます」



 さっきの魔石よりもだいぶ魅力が落ちますが、魔力を回復したいという建前を使ってしまった以上、これで満足するしかありません。セラさんから薄黄色の魔石を受け取ると、それを口に含んで飴玉のように吸収していきます。



「一応それはAランクの魔物の魔石だから、魔力も回復するでしょ?」



 セラさんの言う通り、かなりの魔力がある魔石だったので、みるみる魔力が回復していきます。この調子なら、月の加護の回復量と併せて今晩中に魔力がほぼ回復するでしょう。



「みんな~。そろそろ街に帰ろうか。この魔物はわたしの収納に仕舞っておくね」



 セラさん達が帰り支度を始めますが、今日は魔力の回復のために外に居たいため、わたしはここに残ることを伝えます。すると、全員がお互いに顔を見合わせて頷くと、その場で野営の準備を始めました。



「・・・な、なにをやっているのですか?」


「何って、野営の準備ですよ。こんなところで、仲間を一人きりにするはずないじゃないですか」



 野営のテントを張りながら「何を馬鹿なことを言っているのですか」とクーリアさんが答えます。いえ、わたしが言いたいのはそういうことでは無く。



「トワちゃんの話を聞いてると、月の光を浴びれば魔力が回復するんだよね。今日は皆でお月見しようよ」


「ふふ。長いこと生きてるけど、こんなにじっくりとお月見するなんて初めてね」


「ああ、普段はあまり気にしないからな。こうして改めてみると、綺麗だな」


「皆さん手が止まってますよ!お月見するなら野営の準備を終えてからにしてください!」



 クーリアさんに叱られて、三人が苦笑しながら野営を始めます。といっても、ほとんどがクーリアさんとセラさんの収納に入っているものを出すだけですが。



 野営の準備が終わると、簡単な夜食を食べて、後は眠くなるまでお月見タイムです。全員が肩を寄せ合って同じ月を見上げます。



「ふふ。リンナやエルじゃないけど、こうしてじっくりお月見するなんて初めてだから、こんなに綺麗だと思わなかったよ」


「そうですね。トワちゃんは日課なのでしょう?」


「・・・はい。わたしにとっては一番心が安らぐ時間ですね」


「確かに、これをぼーっと見ているだけでも落ち着くわね」


「ああ、そうだな」



 ぼーっと月を見上げていると、わたしはおもむろに収納からスライムゼリーを取り出します。



「それは?」


「・・・わたしの親友からもらったものですよ。・・・もう会うことは出来ませんが」



 わたしはそのゼリーをいつものように団子の形にして口の中に入れました。ソーダっぽい爽やかな味が口の中に広がります。



 セラさんはその正体に気付いたのか、ほんの少し顔を曇らせます。



「ごめんね」



 小さくささやいた言葉に、わたしはなにも言わずに月を見上げ続けます。謝ってほしいわけではありませんから。人側からしたら魔物とは討伐しなければならない害虫のようなものです。それくらい理解しています。まだそんな簡単に許すことは出来ないと思いますが、代わりに知識を収集するためにせいぜい利用させてもらいます。



 セラさんが神妙な顔をして離れると、今度はクーリアさんがわたしの顔を覗き込んできました。その目には好奇心の光が爛々と見えて、思わずちょっと身構えてしまいます。



「・・・な、なんですか?」


「トワちゃんの魔物の姿はうさぎなのですよね?遠目では見えていましたが、是非近くでちゃんと見たいなと思いまして」



――嘘です。もふもふしたいって目が言ってます。



 思わず指摘しそうだったのをぐっと堪えます。まあ、別に減るものでも無いから良いですけど。



「・・・構いませんが。・・・ほどほどにお願いしますね?」



 こくこくと頷くクーリアさんに胡散臭げな視線を送りつつ、わたしはうさぎになりました。やっぱりこっちの姿の方が落ち着きますね。前世では人間だったのに不思議です。



 わたしが溜息をつくと、ひょいっと体を持ち上げられます。クーリアさんが目を輝かせながら、わたしをもふりはじめました。



「うわあ!可愛いです!それに毛がふかふかですね。あ~もふもふ癒されます~」


「あ~!!クーちゃんずるい!私にももふもふさせて~!!」


「あら?本当に素晴らしい毛並みね。ずっと触っていても飽きないわ」


「白い毛並みに赤い瞳。確かにトワだな。元がこんなに可愛いなら、人化しても可愛いのも当然だな」



 クーリアさんに抱き締められながら、他の皆さんも横から手をだして触り始めます。今わたしは愛玩動物の気持ちがすごく分かります。



「きゅい~・・・」


「鳴き声も可愛いです!」


「だね!だね!ね、もっと鳴いて」



――う、鬱陶しいです。



 予想はしていましたが、クーリアさんとセラさんはわたしのうさぎ姿に夢中です。



 しばらく皆に構われてクーリアさんの腕の中でぐったりとしていると、夜もかなり更けてきたので寝ることになりました。



「うぅ。トワちゃんを抱き枕にしたいです」


「こらこらクーちゃん?気持ちは分かるけど、トワちゃんはこのままお月見して魔力を回復させないとだからダメだよ。気持ちはすっごく分かるけど」



――何故二回言ったのでしょう?そんな期待を込めた眼差しをされても断固拒否ですよ。



 わたしはクーリアさんの腕からするりと抜け出すと、テントに入ると全員の前に出ます。



「おやすみなさいトワちゃん。今日は本当に助けて頂いてありがとうございました」


「おやすみなさい。今夜はもうゆっくり休んでね」


「おやすみ。また明日からよろしくな」



 クーリアさん、エルさん、リンナさんがそれぞれ挨拶をしてテントに入っていくと、最後にセラさんがわたしを見て微笑みます。



「私達だと君の居場所になれないかもしれないけど、君の仲間として一緒に居ることは出来ると思うの。だからね。自分自身を見失わないでね」



 願いを込めるような目でセラさんがわたしを見下ろした後、皆さんと同じテントに入っていきました。わたしはしばらく皆さんの居るテントを見詰めていましたが、正面に向き直り、いつもの白い光に戻っている月を見上げます。



――仲間・・・ですか。



なぜわたしは危険を冒してまで彼女達を助けたのか?



なぜわたしはあの時理由を作ってまで助けようと思ったのか?



 なぜわたしは彼女達と一緒に居て楽しく感じるのか?



――結局は飢えていたのでしょうね。なんやかんやと考えながらも、その根底には人との交流に飢えていたということでしょう。



 それでもわたしは人間達の住む世界を居場所とは思えないのです。だから今は、彼女達のことを利用する言葉で誤魔化しながら一緒に居ることにします。幸い、人としてはお人好しな人達のようですし。



――わたしはどんな居場所を望んでいるのでしょうか?



 漠然と望んでいる、いえ、心の底から求めている居場所というものが何なのか、わたしは夜が明けるまでずっと月を見上げながら考えていました。




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