表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/106

10話 転生うさぎと人間の街と言葉と文字の習得

 さて、人型に変化出来るようになったのですが、とても深刻な問題があります。



「・・・ふくがないです」



 これで街に入るのは無理でしょう。即刻捕まって面倒なことになります。この世界の言葉もわからないですしね。となるとやっぱり。



 わたしはうさぎの姿に戻って一息つきます。やっぱりこの姿が落ち着きます。まずは、人間達の住む街を探しに行きましょうか。前に初めて人間達に会った時に人間達が逃げていった方向に進んでみましょう。



 草原を走ること・・・時間はわかりませんね。一時間くらいでしょうか?遠くに大きな外壁が見えました。意外と近くにあるように感じますが、これはわたしの基礎身体能力が大幅に上がった上に、今までと同じ魔力消費率の身体強化で超ブーストがかかった影響です。速すぎて最初はビビりましたからね。自転車だったのが電車になった感じだと言えばわかりますかね?



 身体強化で視力を上げて遠目で外壁を観察します。外壁の素材自体は普通の石壁っぽいですね。でも魔力の流れを感じるので何かしらの細工をしているのでしょう。耐久や防御力の強化だけなら良いのですが。監視系の何かがあったら侵入がバレるかもしれません。色々と準備が必要ですね。



 というわけで、街への潜入の前にまずは色々と変わったわたし自身について、どういうところが変わったのか把握しておかなければなりません。



 一番の変化は人化が出来るようになったことですね。人化する利点は武器や防具が持てることと言葉が喋れる点ですね。身体能力はほとんど変わりません。体積変化の違和感があるくらいでしょうか。人間の子供とはいえ、ウサギよりは大きいですからね。ちなみに、うさぎの時の体長は子うさぎぐらいのサイズから成人うさぎになりました。もふもふレベルも上がりました。自分ではあまり堪能出来ませんけど。



 次の大きな変化は魔力です。以前の10倍以上に上がっていて、今でも少しずつ成長しています。収納の容量が大幅に上げられるのは嬉しいですね。服とか武器や、生活雑貨も余裕で仕舞えそうです。人間の生活をするには物は入り用ですから、収納はいくらあっても困りません。増えた魔力で今まで使いにくかった魔法や魔力量の関係で使用を見送った魔法が使えそうですね。要研究です。



 次の変化は身体能力ですかね。見た目は普通のうさぎなのに、岩を蹴ると少しだけ破砕出来ます。もちろん痛くありません。もはや外見詐欺ですね。今の身体能力は以前の身体強化込みのわたしより断然強いので、常時身体強化を使うのは止めることにしました。というか、強化しすぎると自分で制御できないのです。いつもの感覚で草原を走った瞬間に速度が出すぎて岩に体当たりして粉々にしたのはいい思い出です。あの時はさすがに衝撃で頭がくらくらしましたね。



 自分に関することは大体以上ですかね。それでは、人間の街潜入作戦用の魔法開発と潜入後の行動と目標を詰めていきましょうか。



 それから三日間かけて、街の中に入るための新魔法を創りました。とりあえず、目標は言葉と文字を覚えて、冒険者になるということになりました。準備は万端です。これで、人間の世界に潜入しましょう。



 わたしは今、大きな門の入口に居ます。出入りの少ない時間を選んだお陰か、門番が暇そうに両脇に控えています。どきどきしながら堂々と正面から門を通ります。門番達はわたしに気付くことなく平原地帯を見張っています。わたしはそのままなんの問題も無く門を通り過ぎて無事に街中に入ることが出来ました。



 門を過ぎると両脇に露店が並び、人々が買い物に勤しんでいます。そんな中を何食わぬ顔でぴょこぴょこと通り過ぎるうさぎ。もちろんわたしです。そして、適当な場所で路地に入り込んで、手頃な穴場を見つけ、念のために周囲に人が居ないのを確認してからずっと使っていた魔法を解除します。



――ふぅ。上手くいったようですね。



 新しく造った魔法の名前は光学迷彩です。地球でもまだ実用化されていない技術だったと記憶していますが、アニメやゲーム等で映像化されているのでイメージはわりと簡単に出来ました。ただ、原理や仕組みまではよくわからなかったので魔力の消費が多くなってしまうのと、身体強化のような維持系の魔法じゃなくて、常に魔力を消費する継続系の魔法になるのも以前のわたしには出来なかった原因でした。



――無事に潜入出来ましたし、しばらくは街の様子を観察していましょう



 潜伏してから数日が経ちました。この数日の間は、街中を歩いて回りながら様々な会話を聞いて少しずつ言葉を覚えていきます。街中を見回った感じですと、地球で言う中世くらいの時代ですかね。魔法という概念があるので、技術力に関しては一概に当時と同じとは言えませんけど。



 それと、いい加減に人間時の服が欲しかったので、夜中に服屋に忍びこんで、白のワンピースと下着を一式頂戴しました。いずれ、うさぎの恩返しをしましょう。今は背に腹は代えられませんからね。



 ちなみに、服屋に潜入した時に鏡でわたしの姿を確認しました。月明かりのように真っ白な髪と儚げな印象の整った顔立ちに宝石のような紅くて大きい瞳でした。控えめに言って美幼女ですね。中身がこんなのでごめんなさい。



 さて、そろそろ本腰を入れて言葉と文字の習得をしなければいけませんね。ほとんど会話の出来ない子供に教えてくれそうな人をあらかじめピックアップしておいたので、明日会いに行ってみましょうか。



 翌日の朝方、平原の門の近くは沢山の人でごった返していて活気に溢れています。そんな門から壁沿いに移動すると段々と建物が廃れていき閑散としていきます。そんな建物の中の一つに小さな教会がありました。周囲に比べると多少は小奇麗ですが、建物自体が古いせいかあちこちに補強の跡があり、控えめに言ってボロボロです。



 人型になったわたしは、そんな教会の入り口に立ちそっと扉を開いて中に入りました。屋内に入ると外観に比べると綺麗に整っています。天窓から光が差し込み、奥に見える女神像を照らしています。その目の前に神官服を着た人が跪いてお祈りをしていました。



 わたしはその人に近づきますが、全然わたしの存在に気付きません。姿も気配も消していないのですが。仕方ないので声を掛けようと口を開きますが、そのまま固まってしまいました。



――あ!こういう時にどう声をかけるかわかりません!



「・・・あ」



 戸惑ったまま小さく声を漏らします。あまりの恥ずかしさに顔が赤くなっていそうです。しかし、その小さな声でわたしに気付いたようで、神官服の人はお祈りを止めてゆっくりと立ち上がってこちらに振り向きます。



 神官服の人は30歳くらいの女性でした。肩まで伸ばした鮮やかな金髪がさらさらと動き、驚いたように見開いている目は緑色です。彼女はその表情のまま、震える声で話しかけてきます。



「一体―――どの―――で―――か?」



――こうして会話をしようとすると、まるで何言っているかわかりませんね。



 仕方ないので、わたしは困った顔をして身振り手振りで頑張って意思疎通を図ります。



「・・・えぇと・・・」



 街中で聞いただけの言葉だけではなかなか伝えられません。でも、ここで諦めたら言葉を覚えるのにどれだけの時間がかかるかわからないのです。リスニングだけでは限界があるのです。



――なんとかして、わたしの思いを伝えなければ!



 わたしの必死の訴えが少しは通じたのか、最初は警戒していた神官さんが段々と不思議そうな表情になってきて、ついには生暖かい目になってわたしに優しく微笑みながら頭を撫でてきました。そして、教会の奥の部屋に姿を消します。



――頭撫でられましたよ。見た目は完全に子供なので仕方ないのですが。



 少し複雑な気持ちになりながらも、神官さんが居なくなって暇になったので、女神像の前に立って見上げます。この世界の宗教はどうなっているのでしょうね。魔法がある世界なのですし、神様が実在したりするのでしょうか?



 しばらく女神像を見上げながら考え込んでいると、神官さんが帰ってきました。手には一冊の本と何やら文字っぽいのが書いてあるボードを持っています。どうやら、わたしが言葉を覚えたいのが伝わったみたいですね。よかったよかった。



 わたしと神官さんは近くの椅子に座って、神官さんが文字の一覧が書いてあるボードをわたしに見せながら一文字一文字丁寧に発声して復唱させます。一通り文字の発声練習が終わった時に奥の部屋の扉が開いて、数人の子供たちがやってきます。



 神官さんの周りで色々と喋っていますが、わたしにはまだ意味が良くわからないので聞き流します。何人かはわたしに気付いて不思議そうな目で見てきますが、相手をすると面倒そうなので無視しましょう。おや、わたしを見ていた女の子が、わたしを指差して何か神官さんに聞いていますね。神官さんがにこにことそれに答えています。・・・早く言葉を覚えないと、こういう時にもどかしいですね。どんな会話をしているのか気になってしょうがありません。



 しばらく(わたし以外)談笑していると、神官さんが席を立って教会の奥の部屋に向かいます。



――今日はここまでですかね。



 基本文字がわかっただけでも大きな進歩でしょう。わたしがぼんやりと皆を見送っていると、神官さんがこちらを振り向いて笑顔で手招きします。さすがに無視するわけにはいかないので、彼女達の後を着いていくことになりました。



 奥の部屋に入るとリビングになっているようで、大きな暖炉と机、多くの椅子があります。子供たちはそのまま更に奥の部屋まで駆けていきました。神官さんもわざわざわたしの隣まできて、手を取って連れていきます。いや、別に良いのですけどね。万が一危険があっても、ここの人達くらい殲滅できますし。



 物騒なことを考えながら、連行されるままに部屋に入ると、キッチンになっているようで、木の台の上で色とりどりの野菜を子供たちが切り分けながら竃の上に置いてある大きな鍋に入れています。身長的にのぞき込めませんが、水が入っているのか、大きな野菜が入るとちゃぷちゃぷと音がします。やがて、全ての野菜を鍋に入れたら竃の前に立った神官さんが小さく呪文を唱えて火を点けました。



――こういう所は前世ではありえない光景ですよね。



 日常生活に魔法がある生活がどんなものなのか、まだ想像が出来ませんが、これからはそういうのも学んでいかなくてはいけませんね。



 そうして、野菜のスープが出来上がり、子供たちが器を持って神官さんのところまでスープを貰いにいきます。スープを貰った子供は嬉しそうに頬をほころばせて先ほどのリビングに向かっていきました。ってちょっと待ってください。



――ご飯これだけなのですか!?



 いくら何でも成長期の子供にあんまりではないでしょうか?これがこの世界の孤児の普通の扱いなのでしょうか?わたしは額に手を当ててため息をつきます。この世界の常識と前世での常識。地球だっていくつもの国がありそれぞれ常識が違うのですから、常識の差なんて当たり前のことではあるのですが。



 それに、そもそも人間ではないわたしが中途半端に手を出すのはよくありません。ここの人達は毎日をこうやって過ごしているのですから、わたしの自己満足だけでここの子供達にご飯を恵んでも、わたしが居なくった後々が苦しい思いをするでしょう。人間は楽なことを知ると、どんどんと堕落していきますからね。



 考え事をしながらぼーっとしていると、神官さんがわたしの分の器を持ってやってきました。料理の手伝いもしていない、よそ者のわたしにも頂けるのですね。ここの子達や神官さんの人の好さに心配になりながらも、無言で器を受け取って会釈します。



 子供達と神官さん、そしてわたしが食卓に着くと、わたし以外の全員が両手を合わせてなにやらお祈りの言葉を喋っています。難しい言い回しの言葉っぽかったのもあって、さっぱり意味不明でしたが、わたしも見よう見まねで両手を合わせてお祈りしておきます。



 お祈りが終わって食事が始まると、途端に騒がしくなります。わたしも隣に座っている女の子に色々と話しかけられいますが、会話が出来るほどまだ言葉は覚えていないので聞き専になります。それでも嬉しそうに色々と話しかけてきて、あっという間に時間が経ち、気付けば皿の中のスープは空になっていました。ちなみに味はそこそこ美味しかったです。料理は偉大だと再認識いたしました。



 食事が終わると、子供達は食器を片付けて教会の裏口から外に出ていきます。わたしは食事中に話しかけてきた女の子に一緒に行こうと腕をとられましたが、ぶんぶんと首を横に振って拒否しました。悲しそうな顔をされましたが、心を鬼にして断固拒否の姿勢を貫きます。わたしは子供と遊びにきたのではありません。それに、わたしは見た目が子供ですが、身体能力は人外なので相当手加減しないと怪我させてしまうかもしれませんし仕方ないのです。



 神官さんが魔法でちゃちゃっとお皿を綺麗にすると、仕舞ってあった棚に戻していきます。その後は、再びわたしとマンツーマンで言葉の練習です。基本文字を大体覚えて、絵本が読めるようになるまでになりました。日本語と当てはめながら言葉を覚えていけば、想定していたより早く日常会話が出来るぐらいになれるでしょう。



 女の子達が疲れて帰ってきました。これ以上この場に居ると夕食まで用意されそうなので、早々に撤退することにします。



「・・・帰ります。今日はありがとうございました。・・・また来ますね」


「え?」



 わたしは覚えたて帰りの挨拶とお礼を言って部屋の外にでます。礼拝堂まで戻った瞬間に光学迷彩で姿を消しました。慌てて追いかけてきた神官さんが礼拝堂まで出てきて辺りを見回しています。



「居ない?今扉から出たばかりなのに」



 困惑した様子で、礼拝堂の出入口の扉から外に出てわたしを探しています。わたしはその後ろからこっそり教会の外に出て、路地に入り込んで周囲の気配を確認してからうさぎに戻って暗がりに身を隠しました。



――あ!神官さんの名前聞いてないです!



 それから一週間、わたしは教会に通って言葉と文字を学びました。また朝食を頂くのは忍びなかったので、通う時間をお昼に限定して夕食前に帰ることにしています。あ、そうそう。神官さんの名前はプリシラさんというそうです。



「・・・こんな感じですかね?」



 地面に書いた文字を見てプリシラさんはにっこりと笑った。



「えぇ。とても綺麗な字で書けていますね。もう基本的な文章も書けるでしょうし。トワさんは本当に優秀ですね」



「・・・いえ、プリシラさんの教え方が・・・分かり易かったのですよ」



 実際、前世で言語の記憶があるとはいえ、最初はまともに話すことも出来なかったわたしを、こんな短期間で文字の読み書きまでマスターさせるとは思いませんでした。



「うぅ~。上手く書けない」


「うぐぐ、ここ難しい」


「司教様~。私も出来た~」



 この一週間わたしがプリシラさんと言葉や文字の勉強ばかりしていたら、周りの子供達も交じって一種のブームになっています。ちなみに一番最初にわたしと文字の勉強を始めたのは、初めて来た時にずっとわたしに話しかけていた女の子です。名前はフェイちゃん。この子は他の子供達に比べると文字を覚えて書けるようになるまでが早かったですね。



「トワさんのお陰で子供達が勉強することに興味を持って、こうして将来の為になることを進んで学んでくれるはありがたいことなんですよ」



 基本的に孤児達は10歳になると冒険者ギルドに登録して働くことになるらしいです。文字を読めなくても活動は出来るけど、自分で好みの依頼を見つけたり、代筆や代読で手数料が取られたりするらしいので、文字の読み書きが出来るだけで、生きやすさが大きく変わるそうです。



「悪い商人騙されたりすることも減りますし、冒険者のような危険な仕事以外も探すことが出来ます。恐らく、トワさんが考えているよりも文字を覚えるというのは大事なことなのですよ」


「・・・そうですか。そんなに大事なことならば、もっと積極的に教えてあげれば良かったのではないですか?」



 わたしの疑問に、プリシラさんは困ったように眉をひそめます。なんでも、今までも勉強はしていたのですが、今のように熱意も無く、なかなか覚えが悪かったとのこと。



「自分と対して変わらない年の子が、どんどんと文字や言葉を覚えていく様子を見て、いい刺激になったのでしょう」



 わたしは自分の為に、彼女達を利用しているつもりなのですが、お互いに利のある関係性を築けていたようですね。



 さて、そろそろ次のステップに進むタイミングですね。プリシラさんのことをじっと見ていると、プリシラさんも何かを察したようにわたしに視線を合わせます。



「・・・お話ししたいことがあります。出来れば子供達がいない方が良いでしょう」



 わたしの言葉に、プリシラさんは一度目をぎゅっと瞑ってから、真剣な眼差しでわたしを見返して頷きました。



「それでは、子供達が寝静まった夜に礼拝堂にお越しください」



 その日の夜。相変わらず夜空には満月が浮かんでいます。月光が照らす教会は、どこか神秘的な光景に見えます。では、行きましょうか。



 初めて来た時と同じ様に入口の扉を開けて中に入ります。教会内は昼間よりも薄暗く、月の光が窓から射し込んで女神像を照らしています。その女神像の前で、初めて会った時と同じ様に跪いてお祈りをしているプリシラさんが居ました。



「・・・来ましたよ」


「来ましたか」



 プリシラさんはお祈りをやめて立ち上がり、振り返ってわたしと相対します。その顔は普段の慈愛に満ちた笑顔では無く、どこか覚悟を決めたような険しい表情でした。



――はて?わたしは子供達が居ると聞きにくい話題をしにきただけなのですが。なんか、これから決闘でもするみたいな顔ですね。



 疑問に感じはしましたが、とりあえず一番聞きたかったことを聞いてみます。



「・・・プリシラさんは、わたしが人間では無いと気付いていますね?」


「えぇ。初めて会った時から気付いていましたよ」



――やっぱりそうでしたか。



 彼女のわたしに対する言動は、他の子供達と比べても違うものでしたからね。



「・・・何故気付けたのですか?今後の参考に知りたいです」


「私の場合は少し特殊でして、魂魄眼という固有スキルを持っていますので、参考にはなりませんよ」



 真面目な顔で答えてくれましたが、わたしは今混乱しています。



――固有スキル?何ですかそれ!?



「私の魔眼は、あらゆる生命の魂を視ることが出来ます。どの生命にも魂の形があり、種族毎にある程度特徴はありますが、一人一人が違う魂の形をしているのですよ」



――いや、あの、プリシラさんの魔眼の説明よりも気になるワードがあるのですが・・・



「・・・あの、プリシラさん?・・・スキルってなんでしょうか?」



 わたしが首を傾げて質問すると、プリシラさんは驚いた顔になってわたしを見返してきます。そのまま、考えるように頬に手を当てて黙りこんでしまいました。



 しばらく気まずい沈黙が続き、ようやくプリシラさんが思考の海から帰ってきたようで、わたしの目に焦点を合わせて口を開きます



「トワさんは魔人ですよね?スキルという概念は知っていても、人間達の言葉がわからないということでしょうか?」



「・・・まじんってなんでしょう?」



 またもや知らないワードが出てきました。わたしの種族に関わるものなのでしょうが、さっぱり話が分かりません。



「・・・・・・えっと、詳しく説明すると少し長くなりますので、座りましょうか?」


「・・・お願いします」



 プリシラさんが困惑した様子で席を進めてきて、隣り合わせに座って改めて話を聞きました。



「まずは、魔人から説明しましょうか。基本的に全ての生物には魔力があります。その中で魔力を使って戦うことが出来る動物を魔物と言います。その魔物が何らかの原因で変異し、強い魔力や特殊なスキル、高い知能を持ったものを魔物の変異種と呼びます。さらに変異種から成長し、人族並みの知性と人族の姿を模倣出来る魔物を魔人と呼びます。変異種の段階で、肉体の構成が魔力によって維持されるようになり、魔人になると魔力で肉体構造を変質させて姿を変えることが出来ると言われています。ここまでで分からないところはありますか?」



 わたしは首を横に降ります。一気に説明されましたが、概要はわかりました。今の説明を聞くに、確かにわたしは魔人と言われる種族になりますね。



「・・・わたしは魔人。理解しました」



 自分で納得するように頷いていると、プリシラさんも満足したように頷きます。気付けばいつものような、優しい慈愛の満ちた笑顔になっていました。



「ふふ。相変わらず、すぐに覚えてしまいますね。とても教えがいがあります」


「・・・えへん」



 わたしは言葉だけでどやっとします。何故か表情が上手く動かせないのですよね。一度子供達と居る時に笑おうとしてみたら、「なんで怒ってるの?」と半泣きされましたので、感情の表現は後々練習しましょう。



 全く関係ないことを考えていると、プリシラさんが「次はスキルについて説明しますね」と、真面目に話を進めてくれました。



「スキルは大きく分けて三種類あります。コモンスキル、エクストラスキル、ユニークスキルです。わたしの魔眼はこの中でユニークスキルになります」


「・・・さっきは固有スキルと言っていませんでしたか?」


「ユニークスキルは固有スキルとも呼ばれているのですよ。人によって呼び方が違うだけです」



 プリシラさんはそこで一度咳払いをして、居住いを正してから話を続けます。



「ではまず、コモンスキルから説明しますね。コモンスキルは最も一般的なスキルで、魔法や武器の扱いのような戦闘に関係するものから、裁縫や料理などの生活に関係するものまで、様々なものがあります。明確なスキルの区分けとしては、レベルがあり、使用していると能力が強くなるのがコモンスキルです」


「・・・レベルですか」



 なんだかゲームっぽくなってきましたね。しかし、過去を振り返ってみると思い当たる節がちらほらとあります。



「はい。レベルです。コモンスキルのスキルレベルは最大が10です。上限のレベル10まで鍛えると、より強力な上級スキルに進化するものもあります。上級スキル持ちというだけで、その道のプロと言われます。中には更に上の、超級スキルもあるとのことですが、私は見たことは無いですね。」



 プリシラさんはそこで言葉を切ると「一度休憩にしましょうか」と席を立って奥の部屋に消えていきました。ぼうっと女神像を見上げながら、今までのことを思い出していきます。



――今まで危険な時に鳴っていた警鐘や、気配を消したり探ったりしていたのも、恐らくスキルだったのでしょうね。



 部屋から戻ってきたプリシラさんは、わたしにコップを渡してから、自分も両手で包むようにコップを持ってこくりと飲みます。せっかく用意して頂いたので、わたしも一口飲みます。温かいミルクの味が体に染み渡るような気がします。味もしますし、全て魔力に変換されるので間違った表現ではありませんよ?



 飲み終わってコップを片付けてもらってから、話しを再開します。



「それでは、次はエクストラスキルについてですね。エクストラスキルはコモンスキルと違いレベルが存在しません。その変わり、少し特殊で強力なスキルが多くあります。また、種族による特性や専用のスキルなども、エクストラスキルに入ります。最後にユニークスキルですが、こちらは固有スキルとも呼ばれています。基本的にその人本人しか持っていない特別な能力、才能です。過去の英雄達が持っていたとされるスキルがあるらしいですが、生きている内は他の人が同じスキルを持つことはあり得ません。世界でただ一人のスキル。それがユニークスキルです。」


「・・・つまり、コモンスキルはレベルがあって成長する。エクストラスキルは成長しないけど特殊なスキル。または種族専用のスキル。ユニークスキルは世界でただ一人しか持っていない特別なスキル。で合っていますか?」


「はい。長々と説明しましたが、要約するとそうですね」



 優秀です。と頭を撫でられます。ここ一週間で撫でられるのもすっかり慣れてしまいました。わたしは撫でられながら、今説明してもらった内容を考えますが、何故プリシラさんが最初あんなに警戒していたのかは分かりません。



――いえ、ひょっとすると。



 ふと浮かんだ疑問に対する答えを聞いてみます。



「・・・プリシラさん。魔人は人族の敵なのですか?」



 わたしの質問に、プリシラさんは撫でていた手を止めて笑顔をひきつらせました。それから悲痛な顔になって自分の両手をぎゅっと握ると顔を俯かせながら頷きます。



「えぇ。魔人は定義の中では魔物と変わらないのです。むしろ危険な存在として大規模な討伐隊が出るほどで、冒険者ギルドでも高ランクのパーティーがいくつも徒党を組んで討伐に行きます。実際に、過去に魔人による被害でいくつもの街が滅んでいますので、仕方のないことなのですが」



 更に、冒険者ギルドでは、魔人になる前段階の変異種を発見して討伐するのを最優先依頼としているらしいです。定期的に中級者以上の冒険者パーティーが街の周囲を巡回する決まりになっていて、冒険者達もギルドから変異種の発見と報告は義務として指導され、報告を怠った場合は厳しい処罰もあるらしいです。



「・・・つまりわたしは、正体がバレると殺されるのですね」


「その可能性が高いでしょう」



 プリシラさんが気遣うようにわたしを見てきます。それにしても



「・・・よくわたしに言葉を教えてくれる気になりましたね?話しを聞くに、バレたら貴女もただでは済まないでしょう?」


「確かに最初は警戒しましたが、トワさんが必死に私に何かを伝えようとする姿が可愛らしくて・・・それに、害意も感じられませんでしたし、なにより救いを求める者を無下には出来ませんでしたから」



 くすくすと笑いながらそう答えるプリシラさんはまるで聖女のようです。



「もし万が一、害意を持つことがあれば、私が刺し違えてでも貴方を倒す覚悟もありました。今日もそのつもりでいたのですよ?杞憂に終わってしまいましたが」



 どうやらプリシラさんはわたしが夜中に呼び出したのは、魔人だとバレて口封じをする為だと思っていたようです。



「・・・わたしは正体がバレているか確認したかったのと、そろそろお別れのご挨拶をしようと思っていただけなのですが」


「お別れのご挨拶・・・ですか?」



 言っておいてあれですが、今の台詞だけ切り取るとまさに口封じしそうな台詞ですね。いや、やりませんが。



「・・・本来の予定だった言葉と文字を覚えるのは達成しましたので、そろそろ次の場所にいこうかと思いまして」


「次の場所・・・?どちらへ向かうのですか?」


「・・・とりあえずは冒険者になる予定です。あちこち自由に移動出来そうですし、わたしでも楽にお金を稼げますし」


「冒険者は決して楽な仕事ではないのですが・・・トワさんが魔人だというのを考えると、自由に動ける身分は確かに都合が良いですね。もちろん、危険も多いですが」



 わたしの正体・・・魔人だというのがバレると間違いなく指名手配になるでしょうね。最悪バレてしまったらどこかで魔物として生きていけば良いですし、人間の生活に拘る必要はありません。あくまでも人間として暮らすのは、この世界の人間の生活を知るためなのですから。



「・・・まあ、誤解も解けたようですし、改めてお別れの挨拶とお礼を言いますか」


「あら?お別れなんて寂しいですね。まだこの街にいるのでしょう?困ったことがあったらいつでも来てください。お話くらいしか出来ませんが」



 本当にプリシラさんは優しいですね。初めて関わりになった人が彼女で良かったです。わたしは席を立ってプリシラさんの前に移動して向かい合います。プリシラさんから見るとわたしの背後に女神像がある位置です。



「・・・では、お礼だけで。・・・プリシラさん。短い間でしたが、色々とお世話になりました。本当にありがとうございます」



 わたしは深々と礼をします。窓から射し込む月明かりは、わたしを煌々と照らしています。顔を上げると、影になっているプリシラさんと目が合います。



「・・・トワさん。もしよろしければ、本来の姿を見せていただいても良いですか?」



 プリシラさんが躊躇いがちにお願いしてきました。影になっているせいで表情はよく見えないですが、それくらいならば良いでしょう。



「・・・では、最後にわたしの本当の姿になってお暇しましょうか。それではまたいずれ、お会いしましょう」



 わたしは挨拶を終えて、うさぎに変身します。その状態でプリシラさんを一度見上げて、会釈をしてから出口から教会の外に出ました。



――うさぎの体で扉開けるのは地味に大変でしたよ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ