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ELEMENT2020冬号  作者: ELEMENTメンバー
4/10

飼い猫ミミの冒険(作:marron)



 私は猫。名前はミミ。

 あら、あの有名なオハナシと同じ書き出しにしたつもりなのに、全然雰囲気が違うわね。まあ、いいわ。だって私は可愛いぴちぴちの猫だもの。あんな「吾輩」なんて、ねえ?

「ミミ、おいで」

「にゃー」

 あ、この人は私のご主人様よ。イケメンでしょ?

 私たちってば、相思相愛っていうのかしら。もうね、ご主人様ったら私のことだーい好きなんだから。いっつも一緒にいるのよ。

 ご主人様は机に飛び乗った私にぎゅーって抱き着いてきて、背中にほっぺをすりすりしてるの。んもう、甘えん坊さんね。

「ミミー、聞いてくれよ~」

 なあに?

 首をかしげて次の言葉を待ってたけど、ご主人様はなかなか次の言葉を言わずに、すりすり。

「はあ」

 あらー、ため息なんてついちゃって、どうしたっていうのかしら。

「まさか、隣の家だなんてさー、はあ」

「うにゃ?」

 隣の家?どういうこと?

「一目ぼれって、ほんとにあるんだ」

 すりすり・・・て

「なー!」ひとめぼれー!?


 私の気持ちわかる!?だって、ずーっとずーっと私のこと大好きなご主人様が、いきなり一目ぼれって言ったきり真っ赤になって身悶えてるのを見てるしかないのよ。私という者がありながら!って反論したいのに、猫語しか喋れない私に何ができるっていうの。

 ああ・・・ご主人様が心変わりをしてしまうなんて。

 でも仕方がないことね。だって私は猫だもの。年頃のご主人様が人間のメスを好きになるなんて、逆に普通。それが正常ってものよね。

 だからいいの。

 我慢するわ。


 と、思ったら大間違いよー!!

 その人間のメスを見て、ご主人様にふさわしいかどうかを見極めなきゃ引くに引けないわっ!そうよ、私だってやるときはやるのよ!

 ということで、私は大人しく夜になるのを待つことにした。

 いつものように、ご主人様が布団に入ると私はそのそばで丸くなって眠る・・・ふりをして、ご主人様がすっかり寝入るのを待つの。ご主人様はすぐ眠っちゃうし、眠りが深いから私が少しくらい動いたって全然起きないから大丈夫。

 ZZZ・・・

 ほら聞こえてきた。古典的な寝息。

 さて、と私は起き上がるとご主人様の枕元に伏せてあるスマホを鼻づらで押した。押したっていうか、こうね、ひっくり返すのよ。それっ、それっ!

 ほお~ら、ひっくり返った。

 さてと、踏み。踏み踏み踏み。

♪ココン

 ほらね。

 知ってた? 猫の肉球でもスマホを操作できるのよ。画面に「ご用は何でしょう」と出てきたので「にゃ~」と鳴いた。ただの「にゃ~」じゃないわよ?ちゃんと意味があるのよ。

♪ココン

 スマホのAIはそれをちゃんとわかってるから、アプリを起動してくれた。スマホ画面が明るく光って私のことを照らし出す。そうすると私の身体が変化するの。


 トゥルルン♪

 ああ~、文章だとなかなか伝わらないわね。読解力のある「なろう」の読者さんならわかってくれたかしら?

 そう、そこのあなた、正解よ!

 私のこの姿を脳内で変換できたあなたはさすがね!そう、私、人間になれるのよ~。(ちなみに服は、AIが流行りの服をチョイスしてくれてるわ)

「アイ君、どうかしら?」

『とてもステキですよ、ミミさん』

 スマホのAI(アイ)君のこの無機質な声の中にも、私の可愛さをほめたたえる微妙な響きが聞こえるわ。うん、やっぱり私って素敵なのね。イケメンのご主人様にふさわしい猫なんだわ。

「ちょっと聞いてちょうだい、アイ君」

『ハイ、ご用は何でしょう』

「ご主人様ったら、女の人に一目ぼれしたっていうのよ!ひどいでしょ!?」

『・・・私にはわかりかねます』

 もう、アイ君ってば都合が悪くなるとすぐにわかりかねちゃうんだから。

「アイ君は、ご主人様の一目ぼれの相手を知ってる?」

『はい、コチラです』

 そう言ってアイ君は画像の中から一枚の写真を見せてくれた。

 そこに映るのはご主人様と同じ年ごろの女の子の写真。ふうん・・・

「べ、べつに、普通じゃない。この子どこにいるか知ってる?」

『はい、コチラです』

 今度はスマホ画面に地図が現れて、赤い印がポイんと揺れていた。ここね、そのメスがいるのは。

「わかったわ。行きましょ」

 私はスマホを持つと、立ち上がった。

 今なら人間の姿だもの、この部屋からも家からも自分で出られるわ。外は怖いけど、大丈夫、アイ君がいるし、人間なんだもん、きっと誰にも変だと思われないはず。


 音がしないようにご主人様の部屋の扉に向かう。いつもは足音なんてしないで歩けるのに、人間になるとちょっと足を踏み出しただけでヒタと変な音がしちゃう。

 二本足なんかで歩くから音が鳴るんだわ。

 いくら眠りが深いとはいっても、いつものご主人様のようにバタバタと歩いたらきっと起きてしまうから、ここは慎重にゆっくり歩かなきゃ。

 ゆっくりとそっと扉を開けて廊下に出る・・・

♪ピローン『階段を下ります』

 アイくーん!今は喋っちゃダメー!

 バッと後ろを振り向くと、ご主人様の布団がモゾと動いてる。

 ひえ~っ、どうしよう。いいえ、ここまで来たんだもの、階段を降りなくちゃ。急ぐのよ私!

 前を向いて階段をソロリと降りる。猫だったらタタっと下りられるのに人間の足は大きいからゆっくりじゃないと降りられないのね。もどかしいわ。

 音がしないようにしているはずなのに、時々階段が“ギ”って鳴るし。

 大丈夫?ご主人様のお母さんに気づかれない?

 階段がギっと鳴るたびに立ち止まって誰も起きてこないのを確認しながら、やっとのことで玄関前まで下りられた。はあ、大変だったわ。

 さて・・・外に出るには、靴よね。

 玄関にはいくつか靴があるけど、あんなものを履くなんて人間って大変ね。とりあえず、一番手前にある黒い靴に足を突っ込んでみる。

 硬い。それに、重いわ。

 でもまあ、これでいいみたい。で、玄関のカギを・・・うーん?

「アイ君、これどうやって開けるの?」

『・・・私にはわかりかねます』

 そうよね。アイ君だって自分で鍵を開けたことがあるわけじゃないものね。

 えーっと?これかな、つまみを捻って“ガチャ”!うおーい、また音が大きいってば!

 でも大丈夫。誰も起きてこないわ。

 玄関を開けて外に出る。扉もゆっくり閉める。

「あー、ドキドキしたあ!」

『5メートル先を右です』

「あ、そうね」

 アイ君ったら冷静ね。私なんて、家を出るだけでドッキドキだったのに。


 アイ君の声で少し冷静になったから、やっと落ち着いて外を見られた。

 外には出たことあるけど、一人で歩いたことはないの。だからすごく新鮮。空は家の中から見るのと同じだけど、空気が全然違う。ヒンヤリしていて、少しの風を感じる。何か、嗅いだことのない匂い。多分、土のにおいね。

 暗い空はいつもよりずっと広く見えるし、星が瞬いてきれい。ご主人様ったらこんな時間に眠っているなんてもったいないわね。

 でも、おかげで私がこうして外に出られるんだから、きっとこれで良いのね。


 道路に出て右に曲がる。

 靴が重くてガボガボと変な足音が鳴ってしまうけど、まあ、外だから良いわ。誰もいないし。

「あっ」

 靴の音に気を取られていて、ちゃんと前を見ていなかったせいで何かに躓いた。何があったのかわからないけれど、躓いた拍子に靴が片方脱げてしまって、そして転んでしまった。

 猫だったら、ちゃんと受け身を取れるのに!

 無様に転ぶ私。

「あら、大丈夫?」

 そこに女の人の声が聞こえた。

 ちょうど私がこけた所に玄関があって、そこの家の人が出てきたところだった。こんな夜中に、起きてる人なんて。

 驚いて顔をあげた私の頬に何かが触った。

 触った、っていうか、舐められた・・・!?

「ひっ」

 犬だわ!しかも超大型犬!転んでる人間の姿の私よりもずっと大きい。

 本能的に恐怖に包まれてガタガタ震えだした私を見て、女の人は優しく声をかけてくれた。

「こら、モモ、だめでしょ。ごめんなさいね、うちの犬大きくてびっくりしたでしょう?でも気は優しくていい子なの。噛みついたりしないから大丈夫よ、ほら、モモ、ごめんなさいは?」

 女の人がそういうと、犬、モモという犬は私から少し離れて、首をかしげた。

「あ」

 なんて可愛い犬かしら!

 賢くて、優しさがにじみ出てるわ。今のだって、転んだ私を気遣ってくれたのね。

 女の人は手を取って私と立ち上がらせてくれた。

「大丈夫かしら」

 女の人の顔を見て、私はさらに驚いた。この人!ご主人様の一目ぼれのメスじゃない!!

「ははははいっ、大丈夫です」

「ごめんなさいね、うちの犬大きくてみんなを驚かせちゃうから夜中に散歩してるんだけど、夜中に会ったら余計に怖いわよね」

「いえ、そんなことないです。ちょっと転んじゃっただけで」

 そう言っていると、モモは脱げた片方の靴を加えて私の足元に置いてくれた。

 なんていい子なのかしら。

 モモ。

 桃太郎って名前なのね。男の子(オス)ね。


 モモと女の人はそのまま散歩へ行った。私も礼をして別れて、家に戻った。

 玄関の鍵を閉めて、靴を脱いで、階段を上り、ご主人様の部屋に戻る。それからアイ君に頼んで猫に戻してもらった。

 これが私の冒険だった。

 眠るご主人様の布団に潜り込み、ご主人様の温もりに包まれて眠る。そのはずだったけど、私はなかなか寝付けなかった。

 だって、すごい冒険をしてしまったから。

 ご主人様の背中に顔をこすりつける。すりすり・・・はあ、ため息が漏れる。

 一目ぼれって、本当にあるのね。

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