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007 生産スキルも大事です

 





 それからのイエロースライム狩りは、まあ捗りに捗った。

 スキルを覚え、適性まで上がったキルシュが、とにかく楽しそうに魔法を連発していたのだ。

 もちろんMPには限りがあるから、定期的に休みながらになるけど、休んでる間も彼女の興奮は収まらない。


「ファイアクラッカーってどんな魔法なのかしら」


「パッシブスキル? くーるたいむ? それを覚えたら、もっと魔法が使えるようになるの!?」


「他の武器を装備したら違う魔法が使えるようになるのね!」


「ああもうっ、モミジ大好きー!」


 ぐりぐりと頬ずりされる私。

 明らかに近づいてる距離感に、私の心臓はとっくにオーバーヒート。

 体が離れてからも熱は収まらずに、どうにかして発散しようと、私はその熱量をモンスターにぶつけるように、イエロースライムを狩り続けた。

 そうして狩りを続けること数時間、ついに――


【パーティメンバー キルシュ “ファイアロッド”武器熟練度レベルアップ! 4→5】

【パーティメンバー キルシュ スキル[火魔法の心得]習得!】


 ファイアロッドの熟練度が最大値に達した。


「やったっ! モミジ、上がったわ、上がったわよ!」

「はあぁ……お疲れ様、キルシュ」


 私は大きく息を吐きながらへたりこんだ。

 狩ったイエロースライムの数は1000には及ばないものの、900体を超えた。

 私のインベントリの中には、もはや処理不可能な数の死体が積み重なっている。

 でもそのおかげで、私もレベルをかなり上げることができた。




 --------------------


 MASTER 短剣適性上昇+1

 MASTER 短剣適性上昇+1

 MASTER アクティブスキル[ダブルスラッシュ]習得

 MASTER 短剣適性上昇+1

 MASTER アクティブスキル[アサシンスティング]習得


 --------------------




 --------------------


 アーシャ・アデュレア


 ジョブ:村人


 レベル:41


 短剣適性:5


 ●習得スキル

 ○アクティブスキル

 [シャドウステップ]Lv.1

  ターゲットの背後へ瞬間移動する。射程10メートル。

  クールタイム10秒。短剣専用スキル。

 [ダブルスラッシュ]Lv.2

  ターゲットに対し同時に2回切りつけ、計220%のダメージを与える。

  クールタイム2.9秒。刃物専用スキル。

 [アサシンスティング]Lv.1

  ターゲットに対し突きを放ち、150%ダメージを与える。

  ターゲットの背後から攻撃を加えた場合、ダメージが100%上昇する。

  クールタイム15秒。短剣専用スキル。


 ○パッシブスキル

 [暗殺者の心得]Lv.1

  ターゲットの背後から攻撃を加えた場合、ダメージが100%上昇する。


 ○特殊スキル

 [解体]

  インベントリ内のアイテムを複数の素材に解体することができる。

 [器神武装:フローディア]

  ブロンズダガーに封じられていた器神。対象部位:右腕。


 --------------------




 ステータス画面の名前がアーシャになっちゃってるのはもう仕方ない。

 どうせ他の誰かに見られるわけでもないし、課金も出来ないから改名もできないし――このままモミジと名乗る以外になかった。


 さて、新しく習得したスキルについてだけど――アサシンスティングは、見ての通りシャドウステップとの併用を前提とされたスキル。

 背後からの攻撃で倍のダメージ、つまり300%の突属性ダメージを与えられる上に、そこに暗殺者の心得が加わって600%っていう高威力を叩き出すことができる。

 まあ、シャドウステップよりクールタイムが長いから、雑魚狩りのときは連発できなくてちょっともどかしい思いをすることが多いんだけど、それでも短剣使いの主力スキルとして名を連ねている。

 攻撃スキルがダブルスラッシュだけじゃ心許ないし、これでようやくレベルが上の強敵とも戦えるようになったって感じかな。


 あと特殊スキル欄に出てる器神武装。

 何なんだこの説明は、まるでわけがわからんぞ!

 せめてどうやって使うかぐらい丁寧に説明してくれてもいいのにー。


 ……まあいいや。

 それはさておき、さっきイエロースライムを狩りながらずっと、『なんでキルシュとパーティを組めたんだろ』ってずっと考えてたんだけど――どうやらそれが“パートナーシステム”の特徴みたい。

 要するにそれは、NPCとパーティを組めるっていうシステムだった。

 もちろん、この世界の人たちがAIで動くNPCってことじゃない。

 だって体温もあるし、感情もあるし、この世界には痛みも味も眠気も――本来VRMMOには無いはずのものがたくさんあって、もはや異世界以外の何物でもないからだ。

 でもメニュー画面は開けないし、スキルだって使えない。

 だからシステム上の扱いがNPCになっちゃってるってことなんだと思う。


 いまだに詳細不明な[器神武装]ってスキルにしてもそうだけど、私が知らないシステムが実装されてるのは……この世界が、私のプレイしていたマジサガよりも、何年か後の世界だからなのかもしれない。

 それなら、NPCとパーティを組むっていうシステムが実装された意図もわかる。


 マジサガは、お世辞にも順調な運営をしているゲームじゃなかった。

 掲示板で“過疎ってきたな”って書き込まれる程度には、人が減っていたのだ。

 さらに数年後となれば、さらに過疎化が進行していたはず。

 だからその対策として、ソロプレイがよりやりやすくなるように、NPCとパーティを組めるようにした。

 それが“パートナーシステム”。

 そう考えるのが妥当だと思う、あくまで私の予想だけど。


 だから、プレイヤーである私が、キルシュの装備を変えることができた。

 そしてそれと同じ理屈で、私はキルシュの詳細なステータスを見ることもできる。

 プライベートを覗くようでちょっと罪悪感があるけど、念のため確認しておきたいから、この際だし、ついでに見ておこう。




 --------------------


 キルシュ・スタチュース


 ジョブ:焔の魔法使い


 レベル:32


 火属性魔法適性:17


 ●習得スキル

 ○アクティブスキル

 [ファイアボール]Lv.1

  ターゲットに対し火球を放ち、200%の火属性ダメージを与える。

  射程20メートル。クールタイム3秒。杖、魔導書専用スキル。

 [ファイアクラッカー]Lv.1

  前方に複数の火球を放つ。相手に命中した数だけ100%の火属性ダメージを与える。

  射程10メートル。クールタイム10秒。杖、魔導書専用スキル。


 ○パッシブスキル

 [火魔法の心得]Lv.1

  火属性魔法の消費MPを10%、威力を20%増加させる。


 ○特殊スキル

 [デミイレギュラー:アラクネー]

  NULL


 --------------------




 ……んん?

 なんだろ、この特殊スキル。

 デミイレギュラー……アラクネー……?


「どうしたのモミジ、ぼーっとしちゃって」


 おっと、ステータス画面に夢中になりすぎたかな。

 インベントリにしてもそうなんだけど、周りから見るとぼーっと虚空を眺めてるように見えるらしいから気をつけないと。


「もしかして、インベントリを確認してたの?」

「そ、そうそう、それ! イエロースライムがかなり溜まっちゃったなぁと思って」

「最終的に何匹になったんだっけ」

「933匹」

「……狩ったわね」

「狩ったねぇ」

「よくそんな数がこの森にいたわね。しかも、まだうようよ居るみたいだし」


 狩ったそば――というより、死体を回収したそばから湧いてきてるみたいだ。

 ゲーム風に言うとリポップしてるってことなんだろうけど、物理法則とかまるまる無視してるよね。


「それにしても、改めて考えても信じられないわ。その小さな体のどこに、900匹以上のイエロースライムが入ってるのかしら」


 キルシュはそう言って、私の体をぺたぺたと触る。

 頭にほっぺた、肩に腕に腰に足――と、とにかく触りたくられた。


「く、くすぐったいって、キルシュ」


 こういう積極的なスキンシップに慣れてない私は、自然と顔が真っ赤になる。

 対するキルシュは何やらニヤニヤしてて……わざとか、わざとなのかー!?


「ふふふ、ごめんなさいね。でもやっぱりわからないわ、どういう仕組みなのかしら」


 ごめんなさいと言いながら、彼女は触るのをやめない。

 インベントリについては、私は完全に○次元ポケットのつもりで使ってるけども。


「知らないことを何度もモミジに聞いたって仕方ないわよね。そろそろ戻りましょう、日が暮れてしまうわ」


 夜になれば、おそらくここらを徘徊するモンスターも変わるはずだ。

 いくら火属性魔法が使えるとはいえ、暗闇の中を戦うのは危ない。

 私たちは大人しく引き上げ、ギルドに向かうことにした。




 ◇◇◇




 イエロースライムの体液は、ブルースライム同様に油として使うことができる。

 けれど油としての質はさほど変わらない一方で、美容液の素材としては、イエロースライムの方が質がいいんだとか。

 そのせいか、比較的高値で取引されている。

 でも一方で、一般的に油として使うには安いブルースライムの体液の方がポピュラーだから、需要はあっちの方が高い。

 ギルドに到着した私たちは、掲示板から探すのが少し面倒だったので、例の受付嬢のお姉さんに尋ねることにした。


「イエロースライムの体液ですか? で、でしたら大口の納入依頼が一つあったはずです。確か……そうだ、これです。体液100個、報酬は大金貨1枚。ただし他の冒険者が先に一定数を納入していた場合、その人と分配することになります」


 ギルドの依頼にはそういうパターンもある。

 例えば、ブルースライムの体液1000個、なんて依頼もたまにあるわけで――もちろんその量を、一人の冒険者が納入できるはずもない。

 だからそのうち100個だけを納入することもできて、その場合は1/10の報酬をもらえるというわけだ。


「現在の納入数はいくつなのかしら」

「いえ、まだ0です。今日入ったばかりの依頼ですから。あ、でも先方もイエロースライムを狩る冒険者が少ないことは承知していますから、期間は一ヶ月と長めに設定してあります」


 イエロースライムって、動きそのものはブルースライムと変わらないんだけど、パワーはあっちのが上だもんね。

 キルシュみたいに才能のある魔法使いですら、スキルを使わずに倒すには魔法を5発も当てなきゃならないわけだから、普通の冒険者にはちょっと荷が重い。

 とはいえ、大金貨一枚は魅力的だよねぇ、ちょっと無理したくなっちゃうぐらいに。

 でも残念でした、報酬は私が独り占めさせてもらうんだから。へっへっへ。


「なら、100個まとめて納入してもいい?」

「へ? 100個も……ですか?」

「何か都合が悪いとか……」

「い、いえっ、そういうわけでは。先方も喜ばれるとは思いますが……今日だけで、あのイエロースライムを100体も狩ってきたんですか?」


 こくんと頷くと、お姉さんは顎に手を当てて考え込むような仕草を見せた。

 実際は100体どころか、900体以上も狩ってるんだけどね。


「もしかして、あの男たちのことを心配しているの?」


 キルシュがお姉さんに尋ねる。

 すると彼女は露骨に視線をそらし、気まずそうな表情を見せた。


「昼間に来られたとき、この依頼に興味を示されていたので。さ、先に依頼が完了したとなれば、また荒れるのではないかと……いえでも、それはお二人には関係ありませんよねっ」

「厄介な連中ね。念のため納入は50体だけにしておく?」

「たぶんそれでも同じことだと思うよ」


 あの手の人間って、何であろうと自分の思い通りにことが進まないと癇癪を起こすんだよね。


「全部納入しちゃお。それで文句を言われたら、私たちの名前、出しちゃっていいから」

「ですが、それでは……」

「へーきへーき。こう見えても私、結構戦えるんだからさっ」


 人間相手に戦ったことはないけど、シャドウステップさえあればどうとでもなるはず。

 それに今は、キルシュだっているからね。

 私たちはアイコンタクトを取ると、互いに頷きあうのだった。


【クエスト[イエロースライムの体液大量納入]完了!】

【EXP5000 武器EXP6000 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ がEXP5000 武器EXP6000 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ キャラクターレベルアップ! 32→33】




 ◇◇◇




 それから宿に戻って、ぐっすりと休んだ私たちは、翌朝を迎える。


「レベル42……」


 起きたばかりの私は、自分のステータスを見て頭を掻いた。


「また上がってるの?」

「うん、勝手に」

「私はそのままなのに、本当に不思議ねぇ」


 今日も起きたらレベルがあがってました。

 もうログインボーナスみたいなものだと思うしかないのかな。


 ちゃちゃっと準備と朝食を済ませた私たちは、まず武器屋に向かう。

 昨日の時点でお互いに熟練度レベルが最大になったから、新しい武器を仕入れないと。


 またもやあの顔は怖いけど中身は優しいおじさんが「いらっしゃい」と私たちを迎える。

 キルシュが露骨に怯えてたから、私は「意外といい人だよ」と耳打ちをしておいた。

 そのおかげか少しリラックスした様子の彼女と、一緒に店を見て回る。


「武器屋に杖なんてあるのかしら……」


 壁にかけられた刃物を見ながら、キルシュがつぶやいた。

 確かに、杖ってあまり武器というイメージが無い。

 何よりこの世界だと、大事なのは杖そのものじゃなく、先っぽについてる宝石になるんじゃないかな。

 つまり杖の素材にこだわる必要は無いわけで――と思ってたら、店の一角に2つだけ並んでいる。


「ブロンズロッドとアイアンロッド」

「これ、杖なの? どちらかって言うと、鈍器のように見えるのだけれど」


 キルシュの認識は、たぶん正しい。

 でも杖の素材が何でもいいっていうんなら、近接戦闘もこなせる金属製の杖だって別に構わないわけで。

 需要があるかはともかく、理にはかなってる……のかな?


「習得スキルや上がる適性は、ちゃんと魔法使い用になってるみたいだよ」


 触れると、ブロンズロッドの説明が私の視界に表示される。

 あー、これあれだ、装備したときに属性選ぶやつ。

 魔法って火、水、風、土、光、闇って6個も属性あるのに、武器は杖の一種類だけ。

 だから選んだ属性によって習得できるスキルや上昇する適性が変わるようになってる。

 中には“ファイアロッド”みたいに露骨に属性が決まってるような例外もあるけど、少なくとも目の前にある2つの杖は、選択制になってるらしい。




 --------------------


 Lv.1 アクティブスキル[ファイアボール]習得

 Lv.2 火属性魔法適性上昇+1

 Lv.3 火属性魔法適性上昇+1

 Lv.4 火属性魔法適性上昇+1

 Lv.5 アクティブスキル[ファイアウォール]習得


 --------------------




 ちなみにこれがブロンズロッドで――




 --------------------


 Lv.1 アクティブスキル[ファイアクラッカー]習得

 Lv.2 火属性魔法適性上昇+1

 Lv.3 火属性魔法適性上昇+1

 Lv.4 パッシブスキル[火属性魔法の心得]習得

 Lv.5 火属性魔法適性上昇+1

 Lv.6 特殊スキル[器神武装]習得


 --------------------




 ――こっちがアイアンロッド。

 どっちも火属性を選択した場合だけど……アイアンロッドの方、例の謎スキルがあるな。

 アイアン武器だから上げるのは面倒でも、一応Lv.6までやっといた方がいいかもしれない。


「モミジがそう言うなら買っておきましょうか」


 昨日の報酬、大金貨1枚は小金貨5枚ずつで分配してある、

 とはいえ、一緒に旅してるんだけど、財布は一緒なんだけどね。

 私も店内を物色して、必要な武器を購入。


 ブロンズロッドとアイアンロッドは、案の定ずっと売れ残っていたらしく、おじさんは予想外に安売りしてくれて大銀貨5枚で買えてしまった。

 対する私が購入したのは、小金貨2枚と少々お高めのシルバーダガーに、小銀貨1枚の投げナイフ、小銀貨5枚のスコップ、そして大銀貨1枚の木こり斧に、大銀貨1枚のピッケルの5点。


「斧と、つるはしと、スコップ? どうしてこんなものまで買うの?」

「見てたらわかるよ」


 武器というよりは、“採集スキル“を習得するためのものだったりする。

 クラフトのことは考えてなかったんだけど、杖が武器屋で仕入れられないとなると、自作しないと厳しくなりそうだから、今のうちに覚えておきたかった。


「……おつかいかい?」


 武器屋のおじさんは、相変わらず恐ろしい目つきで私の方を見てくる。


「今日はさすがに違います……あはは」

「だろうな」


 こんなものを子供に買わせる親なんて……あ、いや、居たか。

 でも常識的ではない。


「投げナイフとスコップはタダでいい」

「本当ですかっ!?」

「シルバーダガーのおまけだ。持っていきな」

「ありがとうございますっ」


 やっぱりこのおじさん、優しい。

 値切らずして値下げに成功した私の所持金は、大金貨1枚に、小金貨5枚と、大銀貨8枚。

 わかりやすく日本円で言うと、15万8千円ってとこ。

 こうして私たちは、両手いっぱいに武器を抱えて、お店を出たのだった。




 ◇◇◇




 購入した武器は、もちろんすぐにインベントリに収納した。

 そして早速、キルシュはブロンズロッドを、私はアイアンアックスを装備し、町の南へと向かう。


「南……ブルースライムが群生してるところよね、今さらここに来る必要があるの?」

「使い慣れない斧じゃ、イエロースライムとやり合うのはちょっと怖いから」

「わざわざ使いにくい斧を装備して、何を覚えるつもりなのかしら」

「見てたらわかるって」


 オーガとの遭遇が怖いけど、そのときは素早くダガーを装備すればいい。

 私たちは町から三十分ほど歩いた。

 するとブルースライム生息地域に差し掛かったようで、ちらほらとその姿が見えてくる。

 群生と言うには程遠いけど、このあたりでも採取スキルを覚えるには十分かな。


「んじゃ、ちょっくら狩ってくるねっ」

「私はここに待ってればいい?」

「うん、そうして。すぐに戻ってくるからー!」


 私はキルシュに手を振ると、斧を担いで、えっほえっほとブルースライムに駆け寄る。

 そして容赦なく、その重い刃を叩きつけた。

 ドスンッ! とギロチンよろしく振り下ろされた斬撃が、一撃でその生命を葬る。


「えいさっ! こらさっ! えいさっ! こらさっ!」


 リズミカルに、もぐらたたきのようにスライムを屠っていく私。

 決して倒すことを楽しんでいるわけでは……無い、と思いたい。

 ひとまず、10体ほどで木こり斧の熟練度レベルが上昇。


【“木こり斧”武器熟練度レベルアップ! 0→1】

【特殊スキル[伐採]習得!】


 よしよし、これで木材の確保は問題無し。

 伐採を発動するにはこのアイテムを持っておかないといけないから、常にインベントリを1枠占有されるけど――これも素材採取のため、割り切るしか無い。

 私は、続けてピッケルを装備した。


「せいっ! せいっ! せぇいっ!」


 こちらもブルースライムなら一撃。

 鋭利な刃先を叩きつけ、急所であるコアに風穴を空けてやるのだ!


【“ピッケル”武器熟練度レベルアップ! 0→1】

【特殊スキル[採掘]習得!】


 こっちは鉱物を採取するためのスキル。

 そこらの岩の塊からも石材が採れたりするから、何かと便利である。

 ちなみに武器分類は“鈍器”。

 見た目は斧に近いと思うんだけどなぁ……なんでそうなったかは、開発のみぞ知る。

 そして最後は、鉄製スコップを装備。


「シャドウステップ! てぇいっ!」


 ブルースライムの背後にワープし、スコップで斬りつける。

 なんとこのスコップ、武器として装備した場合は短剣扱い。

 つまり武器専用スキルが使えてしまうのだ。

 一番レベルを上げるのが面倒そうと思わせておいて、最もサクサクと狩りを進める。


【“スコップ”武器熟練度レベルアップ! 0→1】

【特殊スキル[採取]習得!】


 これにて基礎採取スキルは全て習得完了。

 他にも、[釣り]とかもあったりするけど、例のごとく料理スキルを覚えるつもりはないから今回はスルー。


「モミジ、終わったの?」


 私の狩りが止まると、キルシュが駆け寄ってきた。


「待たせちゃってごめん」

「いいわよ、ほんの10分程度だったから。ところで、今ので何を覚えたの?」

「ふっふっふ、じゃあ披露しちゃおっかなーっ」


 私は装備を変更、まずは木こり斧を握ると、近場の木に近づいた。

 そして斧を振り上げると、根本付近に叩きつける。

 ドスンッ!

 私の腕力から繰り出されたとは思えないほど重い音がしたかと思えば――木は一発でぐらりと傾き、ずしんと倒れる。


 私は倒れた木に近づくと、それをインベントリに収めた。

 ちなみにインベントリ内でのアイテム名は“粗悪な丸太”。

 これに解体スキルを使用することで、“粗悪な木材”が10~20個手に入る。

 マジサガにおいて、伐採した木は、木の種類ではなく質でのみ区別されるのだ。

 そこはリアリティ追求しないんだね……。


 解体まで終わらせると、私は木材を1個だけ外に出した。

 手のひらの上に現れたそれは、長さ50センチほどの、軽い角材である。


「イエロースライムを解体したときも思ったけれど、相変わらず手順を無視した加工ね……」


 キルシュは苦笑いを浮かべた。

 私も思う。

 いくらゲームのシステムとはいえ、丸太にスキルを使っただけで木材になるっておかしいもんね。


「それで、その木材をどうするの?」

「クラフト――杖を製造しようと思って」

「道具も場所も無いのにどうやって作るのよ」


 もっともな疑問だけど……こういうの流行って言うのかな、マジサガの製造ってすごく簡単なんだよね。

 メニュー画面から製造タブを開いて、素材を揃えるだけで作れてしまう。

 武器にしても、服にしても、薬や料理にしたって同じ方法で作れて――でも最初から全ての装備を作れるっていういわけじゃない。

 作れば作るほど製造EXPが増えていって、例えば武器なら、武器製造レベルがあがるわけだ。

 そしてレベルがあがると、選べるレシピの数が増えるってわけ。


 ちなみに、[解体]スキルを習得した“チョッパー”って武器があったけど、あれをさらに使い続けると料理適性+1を得ることができる。

 料理に限った話じゃないんだけど、製造の適性が上昇すると、高品質なアイテムができやすくなるらしい。

 つまり、スクランブルエッグを作ったのに、上位の卵料理であるオムレツが完成したり。

 武器の場合なら、ブロンズダガーを作ったのにアイアンダガーが完成するとかいう、そういうランダム要素が発生するのだ。

 マジサガのシステム上、それが嬉しくないことも多々あるんだけど、概ね発生すると嬉しいことの方が多い。


 でもまあ、今必要なのはそんな上位の装備じゃない。

 私は製造メニューからさらに“武器”、続けて“杖”の欄を選択。

 表示された、たった一つのレシピ――ウッドロッドを製造した。

 製造成功すると、作ったアイテムはインベントリに自動的に入れられる。

 私はそれをキルシュのインベントリに移動させ、すでに装備していたブロンズロッドと入れ替えてみた。


「……あら? いつの間にか杖が変わってるわ」

「それね、たった今ここで作ってみたの」

「モミジが!? どうやって……って、もう聞くだけ無駄よね」

「うん、私もわかんないから。“そういうことができる”ってことだけ覚えてる」

「都合のいい記憶喪失ね」

「私もそう思う」


 にしし、と笑い合う私たち。

 キルシュももう慣れっこである。

 私もねー、別に騙してるつもりは無いんだけどもー、“こうなるからこうなった”としか言いようがないもん。




 --------------------


 Lv.1 アクティブスキル[ファイアボール]習得

 Lv.2 火属性魔法適性上昇+1

 Lv.3 パッシブスキル[火属性魔法の心得]習得

 Lv.4 火属性魔法適性上昇+1

 Lv.5 パッシブスキル[フルバースト]習得


 --------------------




 ちなみに渡したウッドロッドは、火属性を選択するとこんな感じの武器だ。

 ブロンズダガーと同じく魔法使いにとっての初期装備で、Lv.5になると、“その属性の特色”となる非常に重要なパッシブスキルを覚えることができた。

 さっきも言った通り、マジサガには6個の属性があって、それぞれに特徴がある。


 火属性は火力特化。

 魔法の威力が高く、なおかつ火属性魔法限定のパッシブスキル[フルバースト]を習得することで、“クールタイムが倍になる代わりに、両手から二発同時に魔法を放つこと”ができる。

 つまり瞬間火力にも優れているということだ。


 土属性は防御特化。

 魔法の威力は控えめながら、パッシブスキル[アースアーマー]を習得することで、実質“HPへのダメージをMPで肩代わりすること”ができる。

 さらに防御バフも覚えることができるのだ。


 風属性は速度特化。

 パッシブスキル[エアリアル]で空に浮かぶことができ、攻撃魔法のクールタイムも短いため、魔法使いに不足しがちな敏捷性を補いつつ戦うことができる。

 また、速度バフも覚えられるため、パーティでも需要も高い。


 水属性はオールラウンダー。

 魔法の威力は二番手、クールタイムの短さも二番手と、特筆すべき性能は無いものの、どんな狩場でも万能に戦える。

 パッシブスキルは[アクアプロテクション]で、魔力に応じてHPMPが上昇し、さらに状態異常への抵抗を得ることもができる。


 光属性は回復特化。

 攻撃魔法はあるものの威力は控え目、その代わりに魔法使いで唯一回復魔法を習得できる。

 ただしパッシブスキル[セイクリッドサイン]が無ければ回復魔法の性能がガタ落ちするため、他属性の魔法使いが、回復魔法だけ習得する、ということはほぼ不可能だ。


 闇属性は状態異常特化。

 こちらも攻撃魔法の威力は控え目だが、ほぼ全ての魔法に状態異常が付与してある。

 特に有用な、相手の視力を奪う[ブラインド]や毒による割合ダメージを与える[ポイズン]は他属性の魔法使いが取得することも多い。

 ただし闇属性専用のパッシブスキル[カースドサイン]が無ければ、状態異常の付与率は下がってしまう。


 こんな感じで、一口に魔法使いと言っても、使う魔法から戦い方まで全く異なる動きを見せるのである。

 ……とか得意げに語ってるけど、全部攻略サイトからの受け売りです。

 仕方ないじゃん、ゲームプレイする直前にこの世界に飛ばされたんだからさー。


「それなら今日は、この三本の杖の熟練度を最大にするのを目標にしましょう!」

「さ、さすがにそれは……」

「イエロースライムよりも強い敵を狩ればどうにかなるわ。町から北に行って、森の深い場所まで行けばブラウンベアっていう強いモンスターがいるって聞いたことがあるのよ」


 確かに熊はスライムより強そうではある。

 きっと経験値も多いんだろうな。

 でもさすがに三本全部は無理なんじゃないかなぁ……。


「モミジっ!」

「ひゃいっ!?」


 急に大声で名前を呼ばれて、私はびくっと震え驚いた。

 かと思えばキルシュは私の手を両手でぎゅっと握り、そのぱっちりとした赤い目で、私をじっと見つめてくる。


「きっと、どうにかなるわ!」


 何という希望的観測――!

 こんなにキルシュがやる気に満ちてるのは、たぶん私のせい……というか、適性が上がるってわかったせいなんだろうな。

 それだけ、彼女にとってはそれが希望だったってことで。

 ……ま、一緒にいるの自体は楽しいし、テンションの上がったキルシュは非常にかわいい。

 明らかにはしゃいでて、一応年上なのに、見てるだけでニヤニヤしてしまうぐらいかわいい。

 何度でも言うけどかわいい。

 この喜びに水を差したくないし、近くで見てたいから――私も頑張ってみるかな。

 まあ、どう考えても三本全部は無理だけどね!


「わかった……やれるだけやろうっ」

「ええ、そうと決まれば移動して――」


 ズウゥゥン……。

 駆け出そうとした私たちの前に、何かが立ちふさがる。

 高さは3メートルを超える、筋骨隆々の赤い(・・)肉体。


「レッドオーガっ!?」

「またおまえかー!」


 色は違うけど。

 しっかし、こうもオーガばっかり出てくるとなると、このあたりに群れが住んでるのかもしれない。

 レッドオーガはグリーンオーガの上位モンスター。

 表記レベルは68――単純計算して、グリーンオーガより1.5倍強いってことになる。

 先日交戦した敵みたいに“接頭詞”はついてないから妙な動きはしないはず。

 とはいえ、今まで戦ってきたモンスターと比べるとかなりの強敵だ。


「近づかせないわっ、ファイアボール!」


 キルシュが、着地したばかりのオーガに火球を放つ。


「グオォォオオォオッ!」


 まさかの起き攻めにオーガはもがき苦しむ。

 頭上に浮かぶHPゲージは、ごっそりと20%ほど減っていた。

 おや……意外と減ってる?

 格上とはいえ、オーガも雑魚モンスターのうちの一体。

 ソロならともかく、二人でパーティを組めば、案外狩れちゃうのかも――


「吹き飛びなさい、ファイアクラッカー!」


 キルシュがかざした手から、小さな火球が無数に放たれる。

 ファイアクラッカーはいわば、火属性魔法のショットガンだ。

 近ければ近いほど、体が大きければ大きいほど複数ヒットし、大きなダメージを相手に与えることができる。

 その拳を叩きつけようと接近していたオーガはモロにそれを喰らい、合計4ヒット――約40%のHPを失った。

 残るは40%。

 これなら行ける。

 私は握っていた斧から短剣に持ち替え、シャドウステップで背後に回る。


「ふっ!」


 目の前に見える赤い首筋に――必殺の一撃、アサシンスティングッ!


「待って、モミジっ!」


 キルシュが私を呼んでいる。

 焦ってるみたいだけど、でももう待てない。

 この体勢になったならスキルを放つしか――


「それダガーじゃないわ!」

「へ?」


 手元を見ると、私が握っていたのはスコップだった。

 あ、やばっ、装備するときに間違えたんだ。

 スコップでオーガとか倒せるわけないじゃん!

 どうしよ、どうしよっ、どうしようっ!

 ええい、ままよ! このまま突き刺してしまえーっ!


「どっせええぇぇぇいっ!」


 いつもより余分に力を込めて、スコップによる刺突を繰り出す。


「グオォオオオオオンッ!」


 するとその先っぽはレッドオーガの分厚い表皮を切り裂き、筋肉まで食い込んだ。

 そして苦しげな断末魔の悲鳴をあげ、沈む巨人。


【EXP1500 武器EXP1500 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ がEXP1500 武器EXP1500 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ キャラクターレベルアップ! 32→33】

【パーティメンバー キルシュ “ウッドロッド”武器熟練度レベルアップ! 1→3】

【パーティメンバー キルシュ 火属性魔法適性上昇! 17→18】

【パーティメンバー キルシュ スキル[火属性魔法の心得]レベルアップ! 1→2】


 一気にダイアログが表示され、よりにもよってキルシュのレベルばかりがあがる。

 私はスコップを引き抜くと着地し、倒れるモンスターの様子を呆然と眺めていた。

 キルシュも同じように、ぽかんとした顔をしている。


「……」

「……」


 しばしの沈黙。

 あたりに流れる空気は若干の気まずさを含んでいた。

 その手の雰囲気が苦手な私は、誤魔化すようにつぶやく。


「なんだよ……スコップでも結構行けんじゃねえか……」


 なぜそのセリフをチョイスしたのかはよくわからない。

 でも、釣られるようにキルシュは「ふふっ」と笑う。

 さらにそこからツボに入ってしまったらしく、口に手を当てながら肩を震わせだした。


「ふふっ、ふふふふっ、ほんと……モミジったら、もうほんっとうにおかしいんだから……ふふっ、んふふふっ! あぁ、もうダメっ、スコップでオーガを倒す人なんて見たことないわ、ふふふっ、あははははっ!」

「な、なにもそこまで笑わなくたってー!」

「だって、スコップよ? レッドオーガって、とんでもなく強いモンスターのはずなのに、それをスコップって……んふっ、んふふふふっ、ごめん、ダメ……笑っちゃう、どうしても笑っちゃう……!」

「まだ笑うかー!」


 私は照れ隠しに、ぷりぷりと怒りながら街道の方に大股で歩いていく。

 ああもうっ、顔が熱い!


「待って、モミジ。わかった、もう笑わ……わ、んふっ、ふふふっ……!」

「もうっ、キルシュなんて知らないからっ!」


 倒せたんだからいいじゃん! スコップでも立派に短剣なんだからいいじゃーん!






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