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005 表と裏

 





 キルシュが部屋に泊まってほしいと願ったのは、他でもない、暗殺者から身を護るためだった。

 確かに、こんな田舎町で14歳の少女が一人、しかも誰かから命を狙われているとあっては、不安でしょうがないと思う。

 それでも彼女が毅然と振る舞っていたのは、貴族として、そういう風に育てられてきたからなのかな。


 でも案内された宿屋は、貴族が泊まってるとは思えない安宿だった。

 部屋に案内されると、彼女は「好きに座っていいわよ」と告げる。

 私はひとまずベッドの縁に座った。

 ベッド、一つしかないけど……一緒に寝るのかな。


「ところで、あなたはどうしてあんな場所にいたの?」


 椅子に腰掛けたキルシュがそう尋ねる。


「ギルドで依頼をこなしたあと、宿を探そうと思ったら迷っちゃって」

「ふふふ、それで偶然、私のピンチに駆けつけてくれたのね。まるで運命みたい」

「……うん」


 その言い回しに、頬を赤らめる私。

 だから思春期ー!


「キルシュこそ、どうしてこんな時間に外に出てたの?」

「私は、せっかくだから夕食にこの町の名物でも食べようと思ってたの。そしたら、後からつけられてるのがわかって、あの場所に逃げ込んだんだけど……今になって思えば、誘導されたのかもしれないわね」


 標的の心をたくみに操り、路地裏まで誘導する。

 なかなかできる芸当じゃないよ。

 言うまでもないけど、あの人はたぶん、そういう道のプロなんだと思う。

 なにせ黒ずくめだもん、黒ずくめの男たちだもん!


「名物は明日の明るい時間にするわ、今日は宿でご飯を済ませましょう。モミジはどうする?」

「ベリーベリーお腹空いてる」

「ふふふ、ならちょうどよかった、一階の食堂に行きましょう」




 ◇◇◇




 この宿は、一階が食堂で、二階が宿泊用の部屋という作りになっている。

 食堂は宿泊客以外も利用できる場所で、ピーク時には満席になるほどの人気だった。

 今は少し遅い時間だから、席も空いている。

 私たちは向かい合って腰掛け、店員さんが持ってきたメニューを受け取った。


「コカトリスの唐揚げ定食、ボアのシーガ焼き定食、コボルトの照り焼き定食……」


 微妙にどこかで聞いたことのあるメニューばかりだった。

 マジサガは日本産のゲームだし、そっから出来た世界ってことは、シーガ焼きはしょうが焼きで、シュオ焼きは塩焼きだったりするのかな。

 じゃあこの、端っこに書いてある『定食を注文された方は“メイ”おかわり自由』っていうのは……メイ……マイ……米……コメ?

 ご飯おかわり自由ってこと?

 まんま日本の定食屋だよこれ!


「どうしようかしら、あまり馴染みのないメニューばかりなのよね」


 貴族感をアピールするキルシュ。

 ああ、やっぱりお嬢様って、こういう庶民のお店を使ったこと無いんだ。

 だったら、どうして一人でこんな場所にいるんだろう。

 うーん、美人な上にミステリアスとは、罪深い。


「モミジは決めた?」

「うん、私はボアのシーガ焼き定食にしようかな」

「じゃあ私も同じのにするわ」


 微笑みながらそんなことをおっしゃるお嬢様。

 ほんと、こんな絵に描いたような貴族の娘って実在するんだなぁ……。

 と思って様子を観察していると、キルシュはテーブルの上で何かを探し出した。


「あら、ベルが無いわね」


 店員さんを呼ぼうとしてるらしい。

 でもベルなんて上品なものは無いし、大声で呼ぶのもお嬢様らしくない。


「すいませーん!」


 なんで私が大きめの声で店員さんを呼んだ。


「ごめんなさい、そうやって呼ぶのね」

「いいよいいよ、お店によって違うから」


 すると目付きの悪い、気だるそうな顔をしたおばさんが、ペンを片手に近づいてくる。

 この町の店員さんは、悪い顔をしなきゃいけない決まりなのかな?

 でも私は、人を顔で判断しないって決めたのだ。

 睨まれても、めげな……めげ……めげそうだけど、頑張る!

 私はやってきたおばさんに対し、メニューを指さしながら、


「ボアのシーガ焼き定食を2つお願いします」


 と頼む。

 するとおばさんは不機嫌な顔のまま、


「ボア肉がもう無いんだ、他のにしとくれ」


 と低い声で言い放った。

 顔を見合わせる私たち。

 ううむ、私の胃袋は完全にしょうが焼きモードになってるのに、まさかの肉切れとは。

 キルシュも少し残念そうだった。

 そのとき、ふいに私は思い出した。

 インベントリの中にボア肉があることを。


「ボア肉があれば、作れます?」

「そりゃあ作れるけど、あんた持ってるのかい?」

「はい、ここに」


 テーブルの上にドスンと置かれるボア肉。

 のけぞるキルシュに、目を見開き驚くおばさん。


「今のどこから出したのっ!?」

「これまた立派なボア肉だ、何人分あるんだい?」


 それぞれ驚くポイントが違うのが面白い。

 確かに、ボア肉の塊はとても大きくて、3キロ近くある。

 これを二人で食べろって言われても、さすがに無茶だよね。


「しかも肉の状態も最高じゃないか、これなら美味しいシーガ焼きが作れる。しかし逆に多すぎるねえ、この量じゃ食事代をタダにしたって足りやしない」

「いいですよ、使ってください」


 ボア肉自体は、そう高級なわけじゃない。

 それにやろうと思えば、すぐに補充できるし、これで食事代がタダになるなら、私にとっては非常にありがたかった。


「そうかい、ならお言葉に甘えて。ちょっと待ってな、とびきり美味しいシーガ焼きをご馳走するからね」


 比較的上機嫌になったおばさんは、肉の塊を持ってキッチンに消えていった。


「あ、あの、モミジ?」

「どしたの?」

「いえ、今の……本当に、どこから出したの? どう考えても、あの肉の塊が入るスペースなんて無いわよね!?」

「インベントリ」

「いんべん……とり? 新種の鳥? 鳥に運んでもらったの? 光の速度を超えて!?」


 大変だ、キルシュが混乱している。


「えっと、インベントリって言って、アイテムが入るスペースがあるの」

「どこに?」

「……どこだろ」

「それが一番重要よね!?」


 私もよく考えたことなかった。

 ゲームキャラって平然と大量のアイテムをインベントリに入れてるけど、物理的に不可能だよね。

 どうやってるんだろう。


「○次元ポケット的なやつなんじゃないかな……」

「理解できない単語しか出てこないわ」


 異世界で機械青猫の話題なんて通じるわけもなかった。


「とにかく、そういう場所があって、私はそこにアイテムを入れられる、と」

「はあ……」

「だから、ボア肉ならまだあるよ。ほら」


 ドサッ、とテーブルの上に置かれるボア肉の塊。

 キルシュはどこか遠い目をしながら、その肉を眺めている。


「私は、とんでもない女の子と知り合いになってしまったかもしれません……」


 天に祈るようなポーズで儚げに言い放つキルシュ。

 誰に言ってるのそれ。

 ひとまず生肉を出しっぱなしにするのも何なので、インベントリに仕舞う。

 するとまたもやキルシュは驚いた様子だった。


「便利なんてものじゃないわ。運送をメインにしてる冒険者が死滅するレベルよ、その能力」

「能力なんて大それたものじゃないけど」

「大それてるわよっ!?」


 怒られてしまった。

 とはいえ、マジサガプレイヤーである私にとっては当然のもの。

 もしかしたら、私がまだ、異世界に来たっていう実感を得てないからそうなるのかもしれないけど。

 何となく、ゲームの延長線上な感じがしてる。

 ゲームだったら、キルシュとこんなに自由に会話はできないのにね。


「記憶喪失なことと言い、人間離れした動きをすることと言い、モミジには謎が多いわね……」

「私にとってはキルシュの方が謎だらけだよ?」

「どのあたりに謎があるっていうのかしら」

「その手のマークは何なのかな、とか。なんで貴族なのに一人でこんな町にいるのかな、とか」


 私の記憶喪失に比べたら、大した謎じゃないけども。


「手のマークはあなたにもあるでしょう?」

「これは村人だけど、それは違うよね」


 私たちのマークは、明らかに形も色も違う。


「記憶喪失だからってそこまで忘れて……これは焔の魔法使いを示すマークよ。生まれたばかりの赤子に先見の水晶を使って、火属性魔法の適性が高かった場合に刻まれるの」


 先見の水晶……その道具で適性を見てるってことか。


「じゃあ、キルシュは魔法使いなんだ」

「ええ、適性は15だから特別高いわけではないけれど」


 適性15は、初期値にしては中々の数字だ。

 単純に炎属性魔法に150%の補正がかかるんだから、ある程度のレベルまでは熟練度システムを使わずとも通用するはず。

 でも、この世界の人たちは、熟練度システムを使えないってことは、スキルを習得できないんじゃないかな。


「魔法はどうやって使ってるの?」

「それはもちろん、この杖に入ってる水晶に刻まれている呪文を使って、よ」


 そう言いながら、キルシュは床に置いた杖を持ち上げる。

 その頭の部分には赤い水晶が埋め込まれていて、中に薄っすらと魔法陣が浮かんでいるのが見えた。


「魔力を注ぎ込むと呪文が起動して、いくつかの火属性魔法を放つことができるの」

「へえー……」


 私は水晶をまじまじと覗き込んだ。

 なるほど、スキルが無くてもこうやって魔法を使ってるんだ。

 ってことは、杖を持ってないと使えないってことなのかな。

 魔法使いってひと目でわかるけど、なんだか不便そうだ。

 とはいえ、適性は生まれてついて与えられるもの。

 そのジョブに生まれてしまったからには、こうして魔法を使うしか選択肢は無いのかもしれない。


「それと、私が一人でこの町にいる理由だけど……入学前の課題なの」

「入学?」

「王立グローシア学園。あらゆる学問を学ぶことができる、王国に存在する最高にして最大の学府よ」


 そんな設定は……マジサガにも、確かにあった。

 町一つが学園になっていて、その中で全ての学問から生活までが完結する場所、だったっけ。

 メインシナリオ第一章じゃちょっと触れるだけで、まだ未実装の第二章で本格的に話に絡んでくるって噂話を聞いたことがある。


「その入学前の課題がね、冒険者として一定の経験を積んでくること、なのよ」

「だから一人で……大変だね」

「これぐらいはこなせないと、学園生活でもっと苦労することになるわ。それでもまさか、暗殺者に狙われるとは予想外だったけど」

「学校に入る前の女の子を狙うなんて、ひどい話だよね」

「そうね、でも不用心過ぎたのは確かだから……モミジがそばに居てくれると助かるわ」


 微笑みかけられ、高鳴る胸。

 ナチュラルジゴロかな?


「はいよ、お待たせ。ボアのシーガ焼き2つね」


 いつの間にか接近していたおばさんが、テーブルにお皿を2つ並べる。

 立ち上るショウガ……もといシーガの香りと、肉の香ばしさに食欲が騒いだ。

 一口大の肉は一般的なしょうが焼きよりも厚めにカットしてあり、そこにタレがからめてある。

 しょうゆやみりんが無いとこの匂いは出せないと思うんだけど、たぶんシーユとかミリーンとか名前を変えて、似たような調味料があるんだと思う。

 もし異世界に飛ばされたら、って妄想すると、いつも食事の壁が立ちはだかるんだけど、そこで躓くことはなさそうだ。


「いただきます」

「いただきますっ」


 私は雑に、キルシュは丁寧に手を合わせると、フォークを片手に食事を始める。

 口に放り込むと、甘辛い味と、シーガの爽やかさが中に広がった。

 シーガは辛くなりすぎないよう絶妙な量で調整されていて、なおかつタレの味と組み合わさって、白米を欲する気持ちを増幅させる。

 でも、これは調味料だけじゃ成立しない。

 厚めにカットしたことによる肉のジューシーさと、ボア特有の甘みのある脂があって初めて成り立つ味だ。


 私はすぐさま炊きたての白米――もとい“メイ”をすくい、頬張った。

 ほくほくとした、理想の硬さの粒とシーガ焼きの味が絡み合って、私の食欲を満たす。


「ほいひ……」


 口に入れたまま、頬に手を当て思わずつぶやいた。


「これ、とてもおいしいわ……味付に繊細さはないけれど、家で食べるご飯とは全く違う類の美味しさを感じる」


 キルシュも食レポみたいな感想をつぶやいていた。

 それぐらい、美味しい。

 定食屋さんって、注文前に味を想像して、想像通りの料理が出てくると満足するものだけど――ここの料理は、想像をさらに超えてきた。

 私たちは料理に大満足しながら、メイのおかわりまでしてしまったのだった。




 ◇◇◇




 部屋に戻ると、「食った食ったー」と満腹になった私はベッドに転がる。

 そんな様子を、またもやキルシュに笑いながら見られてしまった。


「あなた、本当におもしろいわ。表情はあんまり変わらないのに、感情がわかりやすいところが特に」

「表情、変わってないかな?」

「なかなかの仏頂面よ」


 そういえば、こっちに来てから鏡を見ていない。

 私は部屋に備え付けられた洗面台に向かうと、自分の顔を初めて、はっきりと確認した。

 年齢は――10歳から11歳ぐらいだろうか。

 髪は銀色のショートボブ、目つきは悪く、眼球は深い青色をしている。

 肌は白くて、鼻は小さくて、唇は薄い桜色。

 試しに鏡の前で笑ってみるけれど、自分で想像しているより表情筋は動いていない。

 普段からあまり使ってなかったんだろうか。


「どうしたの、急に鏡なんて見て」

「いや、えっと……記憶喪失だから、自分の顔も忘れちゃって」

「そんなことあるの?」


 ある、ということにするしかない。

 というか、そもそもこれって誰の体なのかな。

 私が異世界転移してここに来たとしたら、目を覚ました瞬間に、この体と同時に私は生まれた可能性もある。


「ほんと、色々と大変ね」


 いつの間にかキルシュは隣に立って、私の頭を撫でていた。

 まるっきり子供扱いだ。

 実際そうなんだけど……精神年齢は4つ上のはずなんだけどな。

 けど、こうやって撫でられてると、なんか気持ちよくなってきて、頭がぽーっとしてくるというか――


「ふぁ……」


 気を抜くと、大きなあくびが出てしまった。


「ふふふっ」


 キルシュは口元を隠しもせずに、肩を震わせて笑った。

 これじゃあ、本当に子供みたいだ。


「あなたも疲れたでしょう、お風呂に入ってもう寝ましょうか」

「……ん」


 私はうなずく。

 そしてお風呂に――なぜかはわからないけど、一緒に入ることになってしまった。


 見せつけられる、14歳とは思えない豊満なボディ。

 対する私、10歳にしたって残酷すぎるまな板アーマー。

 あぁ、それ以上酷い現実を見せつけないでー!


 そして私は先にお湯に浸かり、キルシュが体を洗うサービスショットをちらちらと覗き見る。

 顔もいい上に、体もモデル真っ青な体型とは羨ましいもんよのお、ゲヘヘ……と、下心マシマシな羨望の眼差しを向けていると、手招きで呼ばれてしまった。

 私が彼女の前に座ると、頭を洗われ、背中を流され――さすがに前は自分で洗ったけど――トドメに、同時に湯船に入ることに。

 小さいから無茶ではないけど、背中に柔らかい何かが当たって、私の心臓は常にバクバクとオーバヒート状態だった。

 のぼせて気絶しなかったのは奇跡だと思う。


 こうして、人生でもっとも体力を使うお風呂を済ませた私は、寝間着は持っていないので、ほぼ下着姿でベッドに入った。

 キルシュは、さすがお嬢様と言うべきか、旅に持参したネグリジェに着替え、私の隣で寝息を立てている。

 暗殺者に怯えていると言っていたけど、今はそんな様子は見られない。

 私がいるおかげかな。

 なんて、少しぐらいうぬぼれても――今はあながち、間違っていないような気がした。




 ◆◆◆




 みなが寝静まった午前2時、ワタシは目を覚まし、部屋から抜け出しました。

 手にはアイアンダガー。

 使い慣れない短剣の柄を何度も握り、緩め、握り――馴染むまで、それを繰り返します。

 気配と足音を殺して階段を降りて、一階へ。

 客も店主も居ない食堂は静まり返って非常に不気味でした。

 こういう雰囲気は、ワタシは結構好きですけどね。


 その扉の外に――ランプの明かりが見えます。

 店のものではない、誰かが建物に侵入しようとしているようです。

 もちろん、深夜の宿屋には鍵がかかっていますが――ガギンッ! という音ともに破壊されてしまいました。

 専用の器具でも持っているのかもしれません。

 つまり相手は、日常的に窃盗を繰り返す外道ということ。

 何より、彼らの狙いは年端もいかない少女であり――生かす必要など微塵もない相手でした。


 扉が開き、三人の男がなだれ込んできます。


「情報が正しけりゃ、あのガキは女と一緒にこの宿に泊まってるはずだ。まずは台帳を探す、部屋の場所がわかったら、とっとと二人を攫ってずらかるぞ」

「兄貴、マジでやるんすか?」

「ったりめえだろ、公衆の面前でこの俺をコケにしてくれたんだ、相応の罰は受けさせなきゃなんねえ」


 彼は、ギルドでモミジに喧嘩を売ってきた男性でした。

 名前はゾーン、レベルは41。

 冒険者としてはなかなかの能力です。

 しかし、能力に精神面が追いついていないようですね。

 あんなゴミは、世の秩序を守るために排除しなければなりません。


 ワタシは近くにあった椅子を蹴飛ばしました。

 ガタンッ、と音が鳴ると、ランプの光がこっちに向きます。


「誰だっ!」


 三人分の視線が一斉にこちらを向きました。

 自然と口角が釣り上がります。


「てめえは、ギルドにいた……へへっ、ちょうどいい。まさか自分から現れてくれるとは――」


 スキルを発動。

 シャドウステップで、まずは取り巻きの背後へ移動。


「またこれかっ!」

「兄貴、あいつはどこ――がひゅっ!?」


 首筋にダガーを突き刺し、レバーのように引き寄せ、確実に命を奪う。


【EXP1000 武器EXP1000 を得ました】

【キャラクターレベルアップ! 32→33】


 やはり、人間はモンスターよりも効率がいいですね。

 こんなに経験値がもらえるなら、手っ取り早くそこらの人間を皆殺しにしてしまえばいいのに。

 ワタシはそう思いますよ。

 ねえ、“私”?


「てめえ、いきなり何を――ぎゃっ!?」


 勇み掴みかかってきた取り巻きその2。

 私はダブルスラッシュを放ち、頭蓋を四分割しました。

 飛び散る血肉は脳みそ混じりで生臭く、まるで彼の心の汚さを表しているようです。


【EXP900 武器EXP1000 を得ました】

【“アイアンダガー”武器熟練度レベルアップ! 2→3】

【スキル[ダブルスラッシュ]レベルアップ! 1→2】


 でも経験値はそれなりですし、許してあげましょう。

 これで取り巻きは打ち止め。

 もっと連れてきてくれたら経験値が稼げたのに、残念です。

 二人を仕留めてる間に、リーダーである男はワタシから距離をとってしまっていました。


「だ、誰だてめえ……」

「誰って、ワタシですよ、ワタシ」

「違う……まるで別人じゃねえか。少なくともあのときのガキは、躊躇無く殺しをやれるような目はしてなかったはずだ!」


 そこを見抜く知能はあるんですね。

 だったら、触らぬ神に祟り無しと言いますし、うかつに手を出さなければよかったのに。


「い、いくら不法侵入だからってよぉ、んなことしてタダで済むと思ってんのか? 殺人の方がよっぽど罪は重いんだぜ?」


 ワタシが近づくと、男は後ずさりしながらそんな戯言を言い始めました。


「平気です、証拠隠滅は得意ですから。それに――」


 アイアンダガーの刃が、月明かりにきらりときらめきます。


「あなたたちのようなクズを殺しても、お天道様は許してくれるでしょう」


 次の血はまだか、と飢えているようです。


「何だ、お前。本当に……何なんだよぉっ!」


 “誰”だの“何”だのうるさいですね。


「そんなに自己紹介が聞きたいんですか?」

「……くっ」


 返事はありません。

 せっかく、ワタシが自ら正体を明かしてあげようと思ったのに。


「ワタシの名前は――」


 ですがどうせ殺すんですし、興も乗ってきましたので、自己紹介はやっておきましょう。

 冥土の土産ってことで。


「アーシャ・アデュレア。嘘つき、死骸、脱走者。そして秩序の履行(・・・・・)に所属する、クラスⅡ執行者です」


 まあ、セカンドというのは、さほど誇るような称号ではないのですが。


「なにいってんだ……? 嘘つきだの秩序だのわけわかんねえことを!」

「そこまでは死者相手でも答えられません、機密事項ですので」

「チッ、もう殺せるつもりでいるのかよ。だがそうはいかねえ、俺だって冒険者なんだよ、本気を出しゃんなガキに負けるほど――」


 シャドウステップ発動。

 背後に回り、首を一刺し。


「ぐぎゃっ……!」


 ぶじゅると噴き出す血。

 生ぬるいべとっとした液体に濡れる手。

 心地いい。

 だからもう一度突き刺して、引き抜いて、突き刺して、引き抜いて――にちゃりと糸を引く血をみて、私はにたりと笑いました。

 楽しい。

 面白い。

 だからもう一突き。

 傷口がぐずぐずになってズタズタになって醜い顔が歪んであははははははははっ!

 命を奪う感覚。

 他者より上位に立つ優越感。

 ワタシには力があって、権利があって、だったらやっちゃうしか無いじゃないですか。

 好きに殺しましょう。

 好きに傷つけましょう。

 好きに、好きに、好きに生きて――もう誰も、私の邪魔ができないように。

 これが、何より、ワタシにとっての幸福なのです。


【EXP1500 武器EXP1800 を得ました】

【キャラクターレベルアップ! 33→34】


 はは、おいしい。

 さすがはリーダー格、いいものをもっていますね。

 私は上機嫌に死体に近づくと、体に手を当てました。


 人間だって――死んでしまえばただの“物”です。


 死体は消え、インベントリに収納されました。

 ここに入れさえすれば、モミジが[解体]を習得したおかげで、ゴミも汚れも残さずに死体をバラすことができますし、楽に運搬もできます。

 知ってますか? 殺人を隠すには、人が死んだという事実を隠すのが一番楽なんですよ?

 つまり――これほどまでに人殺しに向いた能力、他には無いということです。


「クズを殺して秩序は保たれました。さらに身の安全も守れて、経験値まで稼げたではありませんか。これでは、もう人殺しをしない理由がありませんね、モミジ? くすくすくす……」


 ワタシは笑いながら、二階の部屋に戻っていきます。


 ……と、その前に血痕が残ってることを思い出しました。

 さすがに残しておくとマズいです。

 仕方ないのでお手洗いから掃除道具を拝借して、現場を片付けると、改めてワタシは部屋に戻るのでした。






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