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024 パワーレベリング

 






「マジカルぅー☆ インパクトォッ!☆☆」

「アダマントスティグマァッ!」


 武器屋から外に出るなり、ウィリアお姉ちゃんとティンクルは、迫り来る群れに容赦なく武器を振り下ろした。

 二人の放つ衝撃波は相乗効果で威力を増し、道沿いの建物を削ぎ壊しながら、化物どもをバラバラに切り裂いていく。

 これらの攻撃はスキルとは違う。

 単純に、個人の技術と力によって繰り出される技なんだとか。

 修行だけであの領域まで到達するんだから、執行者って恐ろしい。


【EXP3000 武器EXP2800 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ がEXP3000 武器EXP2800 を得ました】

【パーティメンバー メイル がEXP3000 武器EXP2800 を得ました】

【パーティメンバー ウィリア がEXP3000 武器EXP2800 を得ました】

【パーティメンバー ティンクル がEXP3000 武器EXP2800 を得ました】


 一気に五人分の取得経験値が表示される。

 二人の一撃で屠られた敵の数は、およそ数十。

 私の視界はあっという間にシステムメッセージに埋め尽くされていった。


「うわー、なんか出てきたよ? なにこれなにこれー」

「モミジ、これがあんたの力ってわけ☆」


 私の力って言い方には微妙に違和感があるんだけど、今はそういうことにしておこう。


【キャラクターレベルアップ! 59→61】

【“アサシンダガー”武器熟練度レベルアップ! 4→5】

【短剣適正上昇! 15→16】


【パーティメンバー キルシュ キャラクターレベルアップ! 46→51】

【パーティメンバー キルシュ “ウッドロッド”武器熟練度レベルアップ! 3→6】

【パーティメンバー キルシュ 火属性魔法適正上昇! 29→30】

【パーティメンバー キルシュ スキル[フレイムピラー]習得!】


【パーティメンバー メイル キャラクターレベルアップ! 20→32】

【パーティメンバー メイル “ブロンズロッド”武器熟練度レベルアップ! 1→5】

【パーティメンバー メイル 水属性魔法適正上昇! 10→13】

【パーティメンバー メイル スキル[アクアボール]習得!】

【パーティメンバー メイル スキル[アクアスプラッシュ]習得!】


【パーティメンバー ウィリア “アダマントサイズ”武器熟練度レベルアップ! 0→1】

【パーティメンバー ウィリア スキル[死旋風]習得!】


【パーティメンバー ティンクル キャラクターレベルアップ! 153→154】

【パーティメンバー ティンクル “アダマントハンマー”武器熟練度レベルアップ! 0→1】

【パーティメンバー ティンクル スキル[アースマウンテン]習得!】


 さらにずらりと流れるメッセージ。

 どうやらこれは、先ほど群れを倒した分を合算してくれているみたい。

 さすがにあの速さじゃ目で追いきれないもんね。


「モミジ、次の群れが来てるわ! 装備を変えるんでしょう!?」


 お姉ちゃんの視線の先には、ゾンビ映画さながらに、全力疾走でこちらに接近する化物たちの姿があった。

 どいつもこいつも、そこらに散らばっている仲間の死体など気にする様子もなく、知性の欠片も感じられない野生の顔をしている。

 命はそこにある。

 しかし人としての彼らは、すでに死んでしまっているに違いない。


 私はインベントリを開き、そこに詰まった武器をパーティメンバーにそれぞれ割り振っていく。

 お姉ちゃんとティンクルの“アダマント装備”はまだLv.1までしか上がってないけど、上位武器のため熟練度を上げるのに時間が必要な上、最も必要なスキルはすでに習得済みだ。

 もちろん武器としての性能はずば抜けて高いけれど、少なくとも今迫っている雑魚たちを相手するのに、それを使うのはオーバーキルだ。

 武器屋で仕入れたほどほどの武器でも、問題なく蹂躙できるはず。


 まず変更するのは自分の武器から。

 装備するのはもちろん、即死効果のあるパッシブスキル[介錯]を持つゴールドダガー。

 お姉ちゃんも同様に、パッシブスキル[斬首]を習得してもらう必要があるから、ゴールドサイズに装備変更。

 キルシュはボーンロッドからクリスタルロッドへ。




 --------------------


 クリスタルロッド(火)


 Lv.1 アクティブスキル[ファイアボール]習得

 Lv.2 アクティブスキル[ファイアクラッカー]習得

 Lv.3 アクティブスキル[ファイアウォール]習得

 Lv.4 パッシブスキル[火属性魔法の心得]習得

 Lv.5 アクティブスキル[ストレングス]習得


 --------------------



 メイルはブロンズロッドからウッドロッドへ。

 アイアンロッドに変えたいところだけど、あれは器神武装の都合でキルシュが所持したままだから。




 --------------------


 ウッドロッド(水)


 Lv.1 アクティブスキル[アクアボール]習得

 Lv.2 水属性魔法適正上昇+1

 Lv.3 パッシブスキル[水属性魔法の心得]習得

 Lv.4 水属性魔法適正上昇+1

 Lv.5 パッシブスキル[マジックシールド]習得


 --------------------




「っ!? ほ、本当にいきなり変わるのね……」

「びっくりしたー」


 装備を変えると、初めて遭遇する現象に、お姉ちゃんとメイルは体を震わせて驚く。


「いかにもイレギュラーって感じで気持ち悪ぅーい★」


 ティンクルは相変わらずだ。

 まあ気持ちはわかるけど、残念ながらあなたの武器も変更しないといけません。

 さすがにあの武器屋にどでかいハンマーなんて打ってないから、アダマントハンマーに比べるとかなり小ぶりになっちゃうけど――




 --------------------


 こん棒


 Lv.1 アクティブスキル[パワーインパクト]習得

 Lv.2 鈍器適性上昇+1

 Lv.3 鈍器適性上昇+1

 Lv.4 パッシブスキル[破壊者の心得]習得

 Lv.5 鈍器適性上昇+1


 --------------------




 装備変更完了。


「よしっ」

「よしじゃないんですケドー!★★★」


 即座に抗議された。


「なんでティンクルだけこんなしょぼい木の棒なわけ★ もっと、こう、あるでしょ!?★★★」

「でも一番上がりやすい鈍器がそれだったから……」

「つうかこんなのでどうやって戦えっていうんですかー★ 素手のほうが強い可能性あるんですケドー★」

「そこは、さっき習得した[アースマウンテン]を使えばいいと思うけど」

「こんな木の棒で、地面を砕けるわけが――」

「まずはやってみることをおすすめするわ、私も最初は半信半疑だったもの」


 キルシュの言葉に顔をしかめつつも、敵を見据え、振り上げたこん棒を地面に叩きつけるティンクル。

 習得した以上、使い方はすでに体に染み込んでいるはずだ。

 そしてこん棒がこつんと石畳を叩いた次の瞬間――ゴバァッ! と地面から巨大な岩がせり出し、巻き込まれた化物たちはバラバラに砕け散った。

 ずらりと表示されるメッセージ。

 最初の一撃から復活した者も巻き込まれた影響か、さらに大量の経験値が全員に振り分けられる。


「……さすがのティンクルもドン引きかもぉ★」

「道理や理屈を無視した力の行使――まさにイレギュラーの真骨頂ね」


 無視したわけじゃない。

 たぶんそれは、イレギュラーが元いた世界の道理をこちらに持ち込んでいるだけだと思う。


【キャラクターレベルアップ! 61→63】

【“ゴールドダガー”武器熟練度レベルアップ! 0→2】

【短剣適正上昇! 16→18】


【パーティメンバー キルシュ キャラクターレベルアップ! 51→55】

【パーティメンバー キルシュ “クリスタルロッド”武器熟練度レベルアップ! 0→2】

【パーティメンバー キルシュ スキル[ファイアボール]レベルアップ! 3→4】

【パーティメンバー キルシュ スキル[ファイアクラッカー]レベルアップ! 3→4】


【パーティメンバー メイル キャラクターレベルアップ! 32→40】

【パーティメンバー メイル “ウッドロッド”武器熟練度レベルアップ! 0→5】

【パーティメンバー メイル 水属性魔法適正上昇! 13→15】

【パーティメンバー メイル スキル[アクアボール]レベルアップ! 1→2】

【パーティメンバー メイル スキル[水属性魔法の心得]習得!】

【パーティメンバー メイル スキル[マジックシールド]習得!】


【パーティメンバー ウィリア キャラクターレベルアップ! 136→137】

【パーティメンバー ウィリア “ゴールドサイズ”武器熟練度レベルアップ! 0→2】

【パーティメンバー ウィリア 鎌適正上昇! 105→107】


【パーティメンバー ティンクル “こん棒”武器熟練度レベルアップ! 0→5】

【パーティメンバー ティンクル スキル[パワーインパクト]習得!】

【パーティメンバー ティンクル スキル[破壊者の心得]習得!】

【パーティメンバー ティンクル 鈍器適正上昇! 99→102】


 そして再び、弾けるように大量に表示されるシステムメッセージの羅列。


「見てると目が回っちゃいそうー」


 メイルの気持ちもよくわかる。

 私も流石に、こんな大量には見たことないから。

 にしても、こんだけの経験値が入ったってのに、ゴールド系やクリスタル系はLv.2までしか上がらないんだ。

 これはLv.5にするのは苦労しそう。

 一方で、メイルのウッドロッドは一気に最大まで上昇。

 パッシブスキル[マジックシールド]は水属性使いにとって必須とも呼ばれるスキルで、一定数値までのダメージを魔力で肩代わりするという優れもの。

 これで、私たちの中でも戦闘能力が低そうなメイルの命が守れるはず。

 そして同じく、こん棒も最大値までアップ。


「……本当に、これで適性が上がったっての?★☆」

「そうみたいね」


 相変わらず素直に喜べてはいなさそうだけど、自分が放ったスキル[アースマウンテン]の威力を見た以上、信じないわけにもいかないみたい。


 順調に強くなっていく私たちだけど、敵が減っていくわけじゃない。

 どんなにバラバラにしたって、心臓を核として新たなパーツが生え、化物は再び私たちに襲いかかってくる。

 無限に経験値を稼げると言えば聞こえがいいけど、時間が経てば経つほど戦闘の音で引き寄せられた化物が増えるわけで、状況は一向に好転していないんだから。

 何より、半分人間で半分化物の異形を殺すことに慣れていくのが嫌だった。

 それでも戦闘は続く。

 生きることを望むのなら中断なんて許されない。


 すぐさまインベントリを開き次の装備に変更する。

 対象はメイル、ティンクルの二人。

 まずはメイル。

 武器をウッドロッドからマジシャンロッドに変更。




 --------------------


 マジシャンロッド(水)


 Lv.1 アクティブスキル[バブルマイン]習得

 Lv.2 水属性適性上昇+1

 Lv.3 水属性適性上昇+1

 Lv.4 アクティブスキル[メイルシュトローム]習得

 Lv.5 水属性適性上昇+1


 --------------------




 続けてティンクル。

 武器をこん棒から、武器屋で仕入れたアイアンメイスに変更。




 --------------------


 アイアンメイス


 Lv.1 鈍器適正上昇+1

 Lv.2 鈍器適正上昇+1

 Lv.3 アクティブスキル[パワーインパクト]習得

 Lv.4 鈍器適正上昇+1

 Lv.5 アクティブスキル[バーストインパクト]習得


 --------------------




「うわー、また変わったー」

「まだ小さいけどさっきよりはマシかな☆ えーいっ☆」


 ティンクルが眼前に迫る敵に、パワーインパクトを放った。

 それは特殊交換なんて特に無い、単純に威力を200%に増加させただけの打撃。

 本来は低位のスキルだけど、ティンクルの馬鹿力があれば――ズドオォンンッ! と、敵は砕け散り、衝撃で周囲の敵まで吹き飛ばされる。

 それがよほど爽快だったのか、彼女の口元には笑みが浮かんでいた。

 見てるこっちは怖い。

 けど、粉々からでも元の姿に戻る敵のほうが怖いかも……。


「はぁぁぁあああああッ!」


 お姉ちゃんは、民家の屋根の上から落ちてくる敵を目障りに思ったのか、民家に向かって鎌を薙ぎ払った。

 発動するのは死旋風。

 生じた竜巻が、触れるもの全てを切り裂きながら前に進んでいく。

 もちろん建物だって例外じゃない。

 たぶん、“どうせこの街にもう生き残りなんていない”っていう確信がお姉ちゃんにはあるんだと思う。

 だから、民家だろうがなんだろうが、気にせず吹き飛ばすことができる。

 もちろん竜巻には、屋根の上にいた化物たちも巻き込まれて、例外なく肉片に変えられていった。


「わたしもがんばるよー!」


 執行者二人ほどではないものの、メイルも十分な戦力になりつつある。

 習得したスキル――[アクアボール]、[アクアスプラッシュ]を駆使して、一体ずつ、確実に仕留めていく。

 ちなみに、彼女のジョブはそのまんま“人魚”。

 もちろんこの世界には存在しないジョブだけど、適性としてはイメージ通り、水属性魔法を得意としているらしくて、初期の状態で適性は10あった。


「ファイアクラッカー!」


 もちろんキルシュだって戦いには参加している。

 彼女は火属性魔法で次々と敵を撃破していたけど、その表情は浮かない。

 ちょうどアサシンスティングでヒトイヌの首を飛ばしたとき、そんなキルシュと目があった。


「……ねえ、モミジ」


 彼女は何かを話しかけてこようとしたけれど、襲いかかってきた化物に遮られてしまった。


「グギャオォォオオオンッ!」

「くっ!」

「キルシュ、危ないっ!」


 私はイリュージョンナイフを放ち、投擲した幻影の刃を半リザード男の眉間に突き刺す。


「ファイアボール!」


 そして空中で態勢を崩した相手の土手っ腹に、キルシュの魔法が炸裂した。


「ごめん、あとで話すわ」

「わかった、必ずあとでね」


 でも、言いたいことはわかるよ。

 やっぱりキルシュも戸惑ってるし、ためらってるんだ。

 元々生きていた人を殺すことに。

 だって彼女は優しいから。

 でも一方で、もうどうにもならないってことも理解していて――だから割り切って、今は殺すしかない。

 弱音は、戦いが終わったあとにでも吐けばいい。

 そのときは私も一緒に付き合うからさ。


 私たちは、ひたすら敵を倒し、倒し、倒し続け――もちろんいくら倒したって不老不死だから数は減らないんだけど、経験値を得続けた。

 絶対に戦いが起きてることはわかってるはずなのに、一向にヨズア博士が姿を現さないことに不安を覚えながら。

 そしてついに――


【“ゴールドダガー”武器熟練度レベルアップ! 4→5】

【スキル[介錯]習得!】


【パーティメンバー ウィリア “ゴールドサイズ”武器熟練度レベルアップ! 4→5】

【パーティメンバー ウィリア スキル[斬首]習得!】


 私とお姉ちゃんは、念願である“即死効果”をもつパッシブスキルを入手した。


「燃やし尽くせ、フレイムピラー!」


 キルシュの放った魔法が、数体の化物を焼き尽くす。

 だがそのうちの一体は、重度のやけどを追いながらも絶命には至っていなかった。

 それを好機を見た私は、温存しておいたシャドウステップで背後に回り、脳天にゴールドダガーを突き刺す。


 ほぼ同時に、メイルが設置(・・)していたバブルマインに敵が触れ、反応し爆発した泡に吹き飛ばされた。

 そいつもまた、瀕死ではあるが生きている。

 お姉ちゃんは地面を蹴って飛び上がり、金色の鎌を振りかぶった。


「せええぇぇぇえいっ!」

「おおぉぉおおおおッ!」


 二人の声が、血で染まった通りに響く。

 刃が敵にダメージを与えると同時に、パッシブスキルの効果“即死”が発動。

 相手の“不老不死”という理屈を無視して、無慈悲に、問答無用に死をいう終わりを与える。


『ギャッ』


 断末魔の叫びは、短く、か細い。

 力を失い地面に倒れた異形は、以降、再生することも動くこともなかった。


【EXP7000 武器EXP6000 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ がEXP7000 武器EXP6000 を得ました】

【パーティメンバー メイル がEXP7000 武器EXP6000 を得ました】

【パーティメンバー ウィリア がEXP7000 武器EXP6000 を得ました】

【パーティメンバー ティンクル がEXP7000 武器EXP6000 を得ました】


 得られる経験値も、普通に倒したときよりもかなり多い。

 それは、マジサガにおいて、再生能力を持つアンデッドモンスターに対し完全なるとどめ(・・・・・・・)をさしたときと同じ現象だった。

 つまり、私たちはここで初めて、不老不死の化物を本当の意味で殺すことに成功したのだ。


「やった……やったわっ!」


 着地したお姉ちゃんが、歓喜の声をあげる。

 賭けに勝利した私の口元も、自然と緩んでいた。

 でも今は戦いのさなか、喜んでいる暇はまだ――


「すごいわモミジぃぃぃっ、さすが私の妹よぉっ!」


 暇はまだ無いはずなのに、お姉ちゃんは執行者特有の異常な身体能力でシュバッと私に近づいて、力いっぱいその豊満な胸に頭を抱き込んだ。

 むぐっ、むぐぐっ、苦しいってばー!


「やっぱりかわいいぃぃぃ! もう中身なんてどうでもいいわぁぁぁ!」

「仲いいんだねー」

「うらやま……って違うわ、なんかとんでもないこと言ってる気がするし、そんなことやってる場合じゃないわよぉっ!」

「あんにゃろー、ついにやりやがったなぁ★★★」


 ティンクルはもちろんのこと、キルシュの視線も痛いし、あと物理的にもお姉ちゃんの力で抱きしめられると結構痛いから、解放してくれると嬉しいなぁ。

 まあでも、殺す方法さえ見つかれば、こんな敵は恐るるに足らずなわけで。

 もうレベル上げの狩りは必要ない。


「んぐっ、んぐうぅーっ!」


 あと苦しいから! そろそろギブ! ギブ!

 お姉ちゃんの肩を叩いてそうアピールすると、ようやく伝わったらしく、その両腕から力が抜けていった。


「ぷはぁー……はぁ、はぁ……」

「ごっ、ごめんねモミジっ! お姉ちゃん、つい興奮しちゃって!」

「いや、気持ちはわかるから、うん、いいよ……」


 よくないけど、ここでお説教したって仕方ないからね。

 お姉ちゃんの腕から解放された私は、改めて武器を構えた。


「じゃあ気を取り直して、反撃開始ってことで!」

「えぇ、ようやく彼らを気味の悪い殻から解放できると思うと、気持ちが高ぶるわねっ!」


 解放――そっか、そういう考え方もあるんだね。

 そうだよ、あの人たちだって化物になりたくてなったわけじゃない。

 殻から逃げ出したい。

 今の自分は嫌だ。

 そう思うのは……誰だって同じこと。


 お姉ちゃんのおかげで、心にかかっていたもやが晴れる。

 迷いがなくなった途端、体も軽くなっていく。

 もう“モミジ”として、彼らを殺すことを恐れなくていいんだ。


 だから――私は微かに笑みを浮かべながら、化物の肉体を刺し貫いた。






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