023 終わる街と、終わった少女たち
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[シャドウハイド]Lv.1
影に潜み、相手から姿を隠す。
持続時間10秒、クールタイム30秒。短剣専用スキル。
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シャドウハイドで影に隠れられるのは10秒まで。
レベルを上げてもクールタイムが縮むだけで、そこは変わらない。
だから影に姿を消した私は、急いでその場を離れる必要があった。
でも追っ手から逃れるには十分すぎるだけの猶予がある。
「みんな……大丈夫かな」
敵がいないことを確認すると、私は壁にもたれて呼吸を整えた。
大通りがあの有様ってことは、宿の正面から逃げた四人も大量の化物に遭遇してるはず。
でも経験値が入ってないってことは、近くにはいないってこと。
ウィリアお姉ちゃんとティンクルがいるし、戦闘に関しては大丈夫だと思うんだけど――もしも大量の化物じゃなくて、“大量のヨズア博士”に追われていたんだとしたら、そうはいかない。
あのメス捌き、執行者とだってやりあえそうなぐらい素早かったし。
……とか考えてたら、さっきの思い出しちゃった。
目とお腹のあたりがむずむずする。
ポーションで回復できたけど、あの痛みと気持ち悪さは、しばらく夢に見そうだ。
まさかメスで、あんな風に、切られるなんて。
しかもあいつ、すっごく楽しそうだった。
サイコパスってやつだ、しかも本物の。
もちろん会話は通じないし、殺すか殺されるか以外に決着は無い。
「大丈夫……リーガのときほど、殺すことに抵抗はない。だけど、まずあんなのに勝てるのかが問題だよね」
下僕はみな不老不死。
しかもこの様子では、街全体が敵に回っていると思って間違いないと思う。
まず……逃げる? でも、逃げたとしてどうするんだろう。
たぶんあいつ、放置しておいたらどんどん被害を広げていくよね。
例えば学園とか……いや、学園は大丈夫なのかな、そもそもそこの理事長がマルス・ジェノスにあれを押し付けたのが始まりなんだから。
実は、コントロールできないから押し付けただけだったりしてね。
あるいは、学園はイレギュラーを操る術を持っているとか。
まあ、そもそも学園と敵対する必要も、私には無いんだけどさ。
でも、仮に学園の理事長がイレギュラー騒動の黒幕だったとして――それってつまり、私をこの世界に呼び出した張本人ってことだよね。
あと、キルシュの体にイレギュラーの因子を組み込んだのはキルシュの父親だって話だけど、その“因子”とやらを父親に渡したのって理事長なんじゃないかな。
要するに、キルシュが学園に入学するのは、実家の厄介払いではなく……そいつの手元に、彼女を置くため、だったり。
なんのためかはわからない。
ただ、はっきりしているのは、こんなとんでもないイレギュラーを野放しにしちゃう理事長は、ろくでもないやつってことだけだ。
味方にはなれそうにない。
かといって、執行者たちがまともかと言われるとそうでもなくて……うーん……うぅーん……どうしたらいいんだろ。
こういう、現実離れした光景を目の前にすると、やっぱり色々考えちゃうけど、混乱した頭じゃまともな答えはでない。
ただ、はっきりしているのは――ヨズア博士だけは止めなければならない、ということ。
今は逃げるにしても、ここで立ち向かうにしても、どちらにしたって。
複数の足音が近づいてくる。
息遣いは荒い。
人のものじゃない。
戦闘音はなおも聞こえず、キルシュたちの行方はわからないまま。
「……まずは」
目指すべき場所はある。
敵は不老不死。
しかし、それを倒す方法がないわけじゃない。
倒せるかどうかは決まってないけど、試すだけの価値はあるはず。
鍵は、“短剣”と“鎌”、その特性。
けれど賭けにベットするためには――迫るケモナーの壁を突破せねばならない。
相手のペースに乗りたくはない。
目を閉じ、呼吸を整え、私は自分から飛び出した。
「キィッ!?」
連中はびくりと体を震わせ目を見開いた。
ひときわ不快な鳴き声を放ったのは、コウモリ男だ。
相手はすぐさま構えるけれど、私はその前に、例のごとくシャドウステップを発動する。
彼らの背後に転移すると、続けてシャドウハイドを発動。
姿を消した。
しかし相手は人ならざる者、そして距離はほぼゼロ。
嗅覚、あるいは超音波でも使っているのか、目ざとく私の位置を特定してくる。
「キイィィィィイイッ!」
人とは思えぬ素早い動き。
肉体が半分コウモリになったがゆえか、その速度はヒトイヌや半魚人よりも素早い。
「ぐぅっ!?」
私は影に“姿”を消しているだけで、消えているわけじゃなかった。
だから攻撃は防がねばならない。
振り下ろされた爪を短剣で受け止めるも、その一撃は重い。
吹き飛ばされ、影から出ると、シャドウハイドは解除され私の姿は白日の下にさらされた。
「っく、なかなかうまくいかないかなぁっ!」
覚えたてのスキルを使いこなすのはなかなかに難しい。
プロの暗殺者なら、もっとうまくやるんだろうけど――私は慌てて起き上がり、破れかぶれで走り出す。
幸い、前方に敵の姿はない。
……とか思ってたら、屋根の上から四体ほどぼとぼとと落ちてきた。
「ギャッギャッ!」
サルだ。
半分サル半分人間……ってもうそれ七割ぐらい人間じゃない? みたいな連中が、私の前に立ちはだかる。
言うまでもなく、運動能力は人間のそれを凌駕する。
そして小癪なことに、そいつは他の化物よりも高い知能を持つらしくて――うち三体が私の前方と左右を塞ぎ、残りの一体は高く跳躍して上から攻撃を仕掛けてきた。
後方には群れ、そして立体的に囲まれた私。
けれどそれが限界。
だからさあ、私にはシャドウステップがあるんだってば。
実はこれ、“いきなり背後にワープできる”ってだけで、マジサガの中でもチート扱いされてたんだよね。
というわけで、シャドウステップを発動。
前方のヒトサルの背後に周り、その首元にアサシンスティングを――
「……っ」
私はためらう。
なぜならそれは、元人間だから。
ヨズア博士とも感覚が若干異なる。
これを殺してしまっていいのか。
『もっともそれは善意ではなく――“判別”の問題。そう、アーシャなら問題なかったのに――』
葛藤の隙を相手は見逃さない。
サルは素早く、振り向きざまに腕を薙ぎ払う。
短剣で受け止めるけど、その威力に弾かれ、のけぞる。
「ちぃっ……私は……っ!」
今は誰もいない。
『モミジもアーシャも、他者に認識されてはじめて成り立つ個。誰も見ていないなら気にする必要もなかったのかな』
わかんない。
難しい。
そんな細かいことがわかっていたなら、私はあの日、親に焼かれて死んだりはしなかった。
考えるな、考えるな、考えるな。
それは紅葉の話であって、モミジに――それは、関係ないはずなんだから。
「キイィィッィイッ!」
「ギャッ、ギャッ!」
「グルウゥゥゥッ、ワフッ!」
獣どもが私に殺到する。
すぐさま背中を向けて私は逃げた。
狭い路地で、相手は壁をまるで地面のように利用し私を捕まえようとする。
だいたい――なんでこいつら、私のこと敵対視してるんだろう。
ヨズア博士にしたってそうだ。
狙いは執行者? だから一緒に行動してた私を捕まえようとした?
それとも、理由なんて特に無くて、ただ快楽的に生き残った人間を殺そうとしているだけなのかな。
路地を抜け、再び別の、広めの通りに出る。
ここもやはり、化物だらけだ。
今のところ、まともに生き残っている人間は一人も見ていない。
「あの場所に行く前に、敵を撒かなきゃ……」
ぞろぞろと引き連れて行ったんじゃ意味がない。
この通りを右に進めば目的地はすぐだけど、あえて左に曲がって、私は近くの民家に入った。
そしてそこを通り抜け、窓を突き破って再び外に出る。
さらにまた別の民家へ。
ドアの前にチェストやテーブルを移動させて、ほんの数秒の時間稼ぎ。
敵の群れが侵入してくる前に窓、あるいは裏口から外に出る。
逆に窓から民家に侵入し、ドアを突き破って外に出ることもあった。
それを何度も何度も繰り返しているうちに、付いてこれる敵の数はどんどん減っていく。
ラスト、残り一体になれば、そいつはシャドウステップとアサシンスティングの組み合わせで刺殺してしまえばいい。
不老不死とはいえ、再生は一瞬じゃない。
動けなくなった間に、その場を離れるのだ。
そうこうして、ようやく敵を撒いて私がたどり着いたのは――“武器屋”だった。
周囲に敵がいないことを確認すると、すべるように裏口から中に入る。
屋内に化物の気配はない。
しかし慎重に、息を潜めて表側にある売り場へと向かう。
なぜここに来たのか――それは言うまでもなく、“武器を手に入れるため”だった。
なぜかって、そんなのスキルを入手するために決まってる。
「パッシブが付いてる上位武器があればいいんだけど……」
短剣のパッシブスキル[介錯]、そして鎌のパッシブスキル[斬首]――一部武器で習得可能なこのスキルには、とある共通した能力がある。
それは、“即死”。
掲示板では、“浄化”と呼ばれることもあったかな。
なぜそんな呼ばれ方をしていたのかと言えば、即死攻撃により命を落とした相手は、たとえ自動蘇生能力を持っていたとしても、蘇ることはなかったから。
だから、確率で倒した直後に蘇るアンデッドモンスター狩りによく活用されていた。
それがあの不老不死に効くかはわからないけど……だから“賭け”なんだよね。
まず問題は、それを習得可能な武器が、この武器屋にあること、だけども。
「おじゃましまーす……」
腰を落とし、足音を殺して、売り場に到着。
そこで私は――
「モミジっ!」
「あー、モミジだー」
離れ離れになっていた四人と遭遇した。
「キルシュっ、メイル!?」
真っ先に抱きついてくる二人。
しかし音を気にしてか、割と控えめな歓迎だった。
「それにお姉ちゃんとティンクルも……どうしてここに?」
「悔しいけどデミイレギュラーの提案でーす☆」
「あなたが無事でよかったわ。ティンクルの言う通り、キルシュが『武器屋に来るかもしれない』って言い出してね」
「本当に来るとは思ってなかったケド☆」
「モミジなら、打開策を見出すためにここを目指すはずだと思って」
そう話すキルシュはなんだか得意げだ。
かわいい。
思わず撫でたくなって、頭にぽんと手を置くと、ぼふっとほっぺたが赤く染まった。
うーん、癒やしだ。
「わたしもー」
するとなぜかメイルにもう一方の手を掴まれ、頭の上に置かれてしまった。
なんだこの状況。
「ずるいわ、私も……」
「ウィリア、今んなことやったら殺すかんね★★★」
ティンクルの殺気が怖いので、私は急いで手を引っ込めた。
……いや、二人ともそんな寂しそうな目で見られてもどうにもならないから、ね?
「でさー☆ なんでここに打開策があると思ったわけ?☆」
「その前に、私の力について話しておかないといけないんだけど――」
私は手短に、自分が使える能力についてティンクルに説明した。
お姉ちゃんにも詳しく話すのはこれが初めてかな。
「……適性が上げられるって、本気で言ってるわけ?★☆」
全て聞き終えたティンクルは、複雑な表情でそう言った。
「実際、私の適性はモミジのおかげでかなり上がったわ」
キルシュの言葉に、さらに彼女は眉間のシワを深くする。
「なんていうかさー★ こいつと会ってから、ティンクルたちの存在意義否定されまくりなんですけど★★」
「そこに憤ってもしかたないわよ!」
「あんたはアーシャが妹だからって甘すぎだと思う★ ティンクルたちがなんのためにサンサーラ・アルゴリズムなんて胡散臭いものに頼ってると思ってるんだから★★」
「さん……さん……さんま?」
「サンサーラ・アルゴリズム★」
とぼけるメイルに対し、ティンクルは苛立たしげに言った。
私もそれ、知らないな。
なんのことなんだろう。
「私たちはね、転生してるの。仕事上、だいたい十歳から二十歳ぐらいで命を落とすから、死後はこの――ソウルカートリッジに魂を保管して、新たな体に生まれ変わらせてもらうってわけ」
そう言って、お姉ちゃんは胸の谷間あたりからスマホぐらいの大きさの板を取り出した。
あれに、魂が入るんだ……。
「なんのためにそんなことを?」
「適性を上げるため☆」
「この方法を使えば、生前の適性を維持したまま、生まれ変わったあとの適性を上乗せできるの」
「適性ってよくわからないけどー、つまりー、それを何回もやればー、すっごく強くなれるってこと?」
メイルはこの世界の仕組みだってよくわかっていない。
だが彼女の認識が正しかった。
要するに、この世界に住まう人々が適性を上げるためには、本来それだけのことが必要みたいだ。
だから、簡単に適性を上げられるって聞いて、ティンクルが微妙な顔するのも仕方のないことなのかもしれない。
「というかさー★ もしかして、ティンクルにもそのイレギュラーの力で適性を上げるとかいうの、させようとしてる?★★」
「嫌なら強制はしないけど……でも一緒に戦ってたら、嫌でも“経験値”が入ると思う」
「なにそれ★」
「入れば入るほど強くなる数字っていうか……」
「なんでティンクルがそんなものもらうわけ★」
「私と一緒に戦うから……一応、仲間っていう認識で」
「……★★★」
ティンクルはよほどイレギュラーが嫌いなのか、私のほうを睨んでいる。
そんな顔されても、今さら敵対するわけにもいかないしさー。
「個人的な感情を持ち出している場合じゃないわよ、ティンクル! この前も言ったけど、イレギュラーの力を利用するなんて今さらじゃない!」
「それはそうですけどぉー★」
「アールマティも、このアダマントサイズも、イレギュラーそのものなんだから」
そう言って、お姉ちゃんは棒を握った。
すると液体がぐにゃりと形を変えて、鎌の形になる。
アダマントって言ってたけど、確かにそんな素材、マジサガの世界には存在しない。
あれも別世界からもたらされたもの……執行者ってイレギュラーと敵対してるのに、それを利用することもあるんだね。
「はぁ……わかりましたぁ★ 今回だけは仕方ないから受け入れるとして★☆ どうやってあの化物を倒すわけぇ?★」
「人間と動物が混ざったみたいなー、気持ち悪いのがいっぱいいたねー」
「ここに来るまで何度も交戦したけど、ウィリアやティンクルの攻撃を食らってもすぐに傷が再生していたわ」
「うん、あの化物に関しては、ここに倒す方法があるかもしれない」
まず私は、お姉ちゃんとティンクルの持つ武器を確認した。
素材は異世界からやってきたものとはいえ、あれも一応武器のはずだから、スキルは付いてると思う。
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アダマントサイズ
Lv.1 アクティブスキル[死旋風]習得
Lv.2 鎌適性上昇+1
Lv.3 鎌適性上昇+2
Lv.4 パッシブスキル[死神の心得]習得
Lv.5 鎌適性上昇+3
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お姉ちゃんのほうは――スキル自体は、一般的な上位武器と同じって感じかな。
適性上昇は大きいけど、もちろんLv.5に上がるまでの必要経験値も大量になる。
Lv.4の死神の心得は、攻撃範囲と攻撃力が上昇する鎌にとって必須のパッシブだけど、下位武器でも取れるから習得の必要があるかと言われると微妙なところ。
でも武器自体が優秀だから、単純に性能目的で使ってるうちにLv.5まで上がってることはありそうな雰囲気ではある。
だけど今は違う。
ひとまずLv.1の[死旋風]――竜巻を作り出して相手を切り裂くスキルだけ習得したら、別の武器に変えたほうがいいかもしれない。
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アダマントハンマー
Lv.1 アクティブスキル[アースマウンテン]習得
Lv.2 鈍器適性上昇+1
Lv.3 鈍器適性上昇+2
Lv.4 パッシブスキル[内部破壊]習得
Lv.5 鈍器適性上昇+3
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続いてはティンクルの武器だけど、ハンマー……なんだ。
アースマウンテンは、名前の通り、地面をぶっ叩いて巨大な岩が地面からせり出してくるスキル。
まあ、彼女なら素でそれぐらいやってのけそうではある。
パッシブは打撃と同時に身体能力低下のデバフを与える[内部破壊]。
これは貴重だからLv.4まで上げる価値はある。
でも基本パッシブである“心得”シリーズが無いのが気になるから、まずはしばらく、下位の鈍器を装備して戦ってもらうのがいいかもしれない。
今は少しでも、戦力が欲しいところだから。
ヨズア博士本人が本格的に仕掛けてくる前に、できるだけ強くなっておかなきゃ。
でも――二人の武器には、肝心の“即死”効果がついてるものは無いんだよね。
実は、鈍器のアクティブスキルにも、一部即死持ちがあるんだけど、この店の品揃えでそれを期待するのは難しいところ。
探すべきはやっぱり、短剣と鎌。
私は立ち上がると、店の武器を物色する。
もちろん鎌なんてそうそう使ってる人はいないから、あまり種類は置いていない。
ただ、短剣のパッシブ[介錯]の効果が“残りHP10%以下の敵を一定確率で即死させる”なのに対し、鎌のパッシブ[斬首]は、“残りHP30%の敵を一定確率で即死させる”と段違いの性能を誇る。
あの大量の化物を殲滅するためにも、できれば鎌のほうが欲しいところだけど――
今はお代なんて言ってる場合じゃないから、ひとまずめぼしい武器を片っ端からインベントリに入れていく。
「なんか武器が消えていってるんですケド★ あれ大丈夫なワケ?★」
「インベントリ――見えないカバンみたいなものに入れてるだけだから大丈夫よ」
「ぜんぜんそれ大丈夫に聞こえないんですケド★」
傍から見ればそうかもしれない。
でも今は説明がめんどくさい。
ひとまず、短剣のほうは介錯持ちのものを発見。
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ゴールドダガー
Lv.1 短剣適性上昇+1
Lv.2 短剣適正上昇+1
Lv.3 短剣適性上昇+1
Lv.4 短剣適正上昇+2
Lv.5 パッシブスキル[介錯]習得
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スキル習得がLv.5っていう、ちょっと――っていうかかなり意地悪な構成だけど、贅沢は言っていられない。
続けて、鎌のほうも見つけた。
店の壁に展示物として飾られてたから、見逃すところだった。
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ゴールドサイズ
Lv.1 鎌適性上昇+1
Lv.2 鎌適正上昇+1
Lv.3 鎌適性上昇+1
Lv.4 鎌適正上昇+2
Lv.5 パッシブスキル[斬首]習得
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金色に光り輝くその鎌は、ダガーと同じくゴールドシリーズ。
Lv.5に上げるのにかなり敵を狩らないといけないけど――幸い、外には無限POPのザコ敵がうようよしている。
狙いはそれだ。
「それでー、武器を集めてー、どうするのー?」
「さっき説明したように、私の力を使って、みんなの適性を上げたり、色んなスキルを覚えてもらって戦おうと思って」
「でもそれじゃあ、あの化物たちは倒せないわ!」
「そこなんだけど、私とお姉ちゃん――つまり短剣と鎌なら、死なない相手を殺せるスキルを覚えられるかもしれないんだよね」
「私と、あなただけなの?」
「うん、二人だけ」
今のところは、だけど。
「わかったわ、お姉ちゃんにまかせて」
お姉ちゃんは即答してくれた。
イレギュラーの――というより、“私の力”だから抵抗が無いんだと思う。
「ティンクルには無理ってわけぇ?★」
「こればっかりは、ここに武器がなかったから仕方ないと思う。でも、色んな武器を装備して戦えば、適性も上がるし、スキルを覚えることもできるから――」
「気乗りはしないけど、それで対抗したらいいってわけね☆★ わかった、今だけは協力してあげる☆」
キルシュは、言うまでもなく、目を合わせるだけで私の話を理解してくれた。
メイルはよくわかってなさそうだけど、私のことを信用してくれてるみたい。
「……気配が近づいてきたわね」
「さすがにティンクルたちの居場所に気づいたのかもね―☆」
ちょうどいい。
それぞれ武器も装備した。
気持ちの準備もできている。
それじゃあ始めよう――私たちの、“レベル上げ”を。