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010 フローディア・カタストロフィ

 





 戦意に満ちた私とキルシュの眼差しに、リーガは一瞬気圧されたみたいだった。

 執行者ってのも大したことないみたい。

 いや……それともこいつが特別へたれなだけなのかな。

 そうかも。

 だって普通、自分が強いんなら子供を自爆させる必要なんて無いはずだもん。


「覚悟なさい人殺し!」

「覚悟するのは貴様らの方だ、二人が相手だろうと縮められない力の差がある!」


 強がりを吐き捨て、駆け出すリーガ。

 キルシュが手をかざすと、前方に炎の壁が現れる。

 火属性魔法のファイアウォールだ。


「ちぃッ!」


 リーガはそれを飛び越え、こちらに近づいてくる。

 キルシュのファイアボールと私のイリュージョンスローが同時に襲いかかった。


「その程度で執行者を止められると思うな!」


 彼は両手の双剣を同時に投げ、私たちの攻撃を弾き落とす。

 さらに剣は回転しながらこちらに向かってきた。

 私とキルシュは同時に飛び避ける。

 そのまま地面に突き刺さる――かと思いきや、それはブーメランのようにリーガの手元に戻っていった。

 スキルを使えるでもないのに器用なやつ。


「まだまだ行くわよ!」


 やる気に満ちたキルシュは、今度はファイアクラッカーを繰り出す。

 拡散する火球を逃げようとすれば、どうしても相手の隙は多くなる。


「おおぉぉおおおおおッ!」


 それを嫌ったのか、リーガは双剣でその全てを叩き落とそうとした。

 どう考えても無茶だ。

 実際、うち数発が彼の体をかすめた。

 しかし、致命傷には至らない。

 もっともダメージはゼロではなく、痛みで緩んだ集中力の合間を突くように、私はシャドウステップでその背後を取った。

 そしてアサシンスティングを放つ。


「づ、ぐぅっ!」


 やはり反応してくる。

 でも威力を止めきれず、力に押されてザアァッ! と彼の体は後退した。

 さらに地面を蹴り肉薄し、ダブルスラッシュ。


「止めてみせる、執行者として!」


 こいつ、その執行者ってのにやけに執着してる気がする。

 それは逆に、弱さの表れでもあるんじゃないかな。

 だからそうやって、ダブルスラッシュを受け止めても、背中から迫る火球に気づかない。


「があぁぁっ!?」


 背中からファイアーボールの直撃を受け、吹き飛ばされるリーガ。

 HPが半分ほどごっそりと減った。


「このようなことが……クラスⅨだぞ、執行者だぞ……!」

「それが何なのかは知らないけど、強さに肩書きなんて関係ないわ!」

「執行者の気高さを知らぬくせに、何を言うかぁ!」


 リーガは上着の内ポケットらしき部分に手を突っ込むと、取り出した何かを私たちの方にばらまく。

 きらきらと輝くあれは――宝石?


「魔石っ!? 危ないわモミジ、避けてっ!」


 指示通り、私は飛び退いて、散らばった石から離れた。

 直後、ズドドドォッ! と一斉にそれらが爆ぜる。

 それを見て私は、爆発した子供のことを思い出した。

 そっか、こいつ双剣だけじゃなくて、爆弾使いでもあるんだ……。


「くっ……!」


 私たちがひるんでいる隙に、リーガは逃げ出す。


「逃さないわ!」


 追いかけるキルシュの後に続いて、私もその背中を追尾した。


 まるで道を知っているかのように、森の中を迷いなく進んでいくリーガ。

 私はその足取りに違和感を覚えた。


(振り切るでもないし、何かを仕掛けてるわけでもない。どこかに私たちを連れて行こうとしている?)


 キルシュのときも、あの子供たちもそうだけど、こいつはよく自らの有利な地形に敵をおびき寄せようとする。

 不穏な空気を感じ取った私は、地面をよく観察した。

 すると前方の木と木をつなぐように、細い――目を凝らさないと見えないような、糸のようなものが張り巡らされているのに気づいた。


「キルシュ、ストップ!」

「何かあったの?」

「そこ……罠が仕掛けられてる」


 私は木に向かってイリュージョンスローを放つ。

 すると、パァンッ! と張り巡らされた糸そのものが弾けた。

 当たれば、体の一部ぐらいは吹き飛んでいたかもしれない。


「爆弾が仕掛けられていたの?」

「……気づいたか」


 リーガは足を止め、私たちの方を振り向いた。


「最初からこういうものを用意してたんだ」

「魔鉱線――魔石と同じ力を持つ糸だよ、炸裂の魔法を仕込んである」

「説明ありがとう。それにしても、魔鉱線なんて高価なものを使っているのね。そんなに私を殺したかったの?」

「執行者に失敗は許されない」


 彼の表情が険しくなる。

 失敗したら死ぬ、ぐらいの雰囲気だ。

 実際、秘密結社の一員だって言うんなら、それぐらいの罰はあるのかもね。

 でも厄介だなぁ。

 あの魔鉱線がどこにあるのか、夜だと全てを見分けることはできないし、かといってあいつを逃がせばまたキルシュが狙われてしまう。

 何か、見えなくても一網打尽にする方法があればいいんだけど。

 あいにく、短剣スキルにはそういう広範囲を狙うものはあまり用意されていない。

 となると、キルシュの魔法に頼ることになるんだけど――


「ねえキルシュ、こっち来て」


 私が手招きして呼ぶと、彼女はすぐに顔を近づけた。

 そして耳に口を寄せて、ぼそぼそと、思いついた案を伝える。

 しかし近くで見ると、黒くてくりっとした目が本当に可愛らしい。


「……そんなことできるの?」

「行けると思うから、やってみよ?」

「わかったわ」

「何を話している。貴様らにこの結界を突破する術は無いはずだ」

「それはどうかしら?」


 挑発的に笑うキルシュ。

 蜘蛛のお姉さんの色っぽい笑み……見てるだけでゾクゾクしてくるよね。

 すると彼女の足――もとい今回は(・・・)8本の腕が、一斉にリーガの方に向けられた。

 ついでに両手も前にかざして、スキルを発動する。


「ファイアクラッカー・フルバースト!」


 例のごとく言う必要はないんだけど、気合が入ると言いたくなっちゃうよね。

[ファイアクラッカー]は、前方に火の玉をばらまく魔法。

 そして[フルバースト]は、全ての()から特定の火属性魔法を一斉に放つパッシブスキル。

 この2つを併用することで、炎のショットガンが、計10発同時に射出される。

 もはやそれは“弾幕”と呼ぶべき数の暴力だった。


「馬鹿な、こんなことが……!?」


 ズドドドドドドォッ!

 キルシュの放った魔法があたり一帯を塵に変える。

 張り巡らされた魔鉱線、そこに込められた炸裂の魔法が起動し、まばゆい光が周囲を覆った。


「ぐ、おぉおおおお……っ!」


 その向こうからリーガの苦悶の声が聞こえてくる。

 眩しすぎて見えないけど、あんなのに巻き込まれたら普通の人間はひとたまりも無いはず。

 光がやんでも、炎はまだくすぶっていた。

 煙で視界も悪い。

 風がそれらを流すまで彼の姿は見えないままで、ようやく現れたとき――そこには全身ボロボロで、口から血を吐き出すリーガがいた。


「このような、こと……このような、ことが……!」


 それでも、まだ生きている。

 HPバーの残りは10%程度だけど、死んではいない。

 その丈夫さはさすがってところかな。


 でも、ここからどうしようか。

 あいつを殺す?

 そう簡単に人殺しができる?

 自問自答する。

 “私”はノーと答えた。

 なぜなら私は、ごく普通の人間にすぎないからだ。

 キルシュにも同じく、トドメを刺す意図は見られなかった。

 けど同時に、仮に殺さなかったとして、どうやってケリをつけるか悩んでいると思う。

 だって、こいつは生きてる限り、キルシュの命を狙ってくるだろうから。


「く、くはは……」

「何がおかしいのよ」

「化物のくせして、慈悲のつもりか? それとも人のフリ(・・・・)を続けるために、殺すわけにはいかないというわけか?」


 あいつは、その葛藤を見抜いている。

 見抜いた上で、動揺を誘うためにあえてそう言った。

 つくづく汚いやつだ。


「人にも化物にもなれない、中途半端な存在。それこそがデミイレギュラーだ。ゆえに家族からも愛されず、人間としても扱われなかった」

「もうその手の挑発は効かないわよ、だって私にはモミジがいるんだから!」


 胸を張って言われるとさすがに恥ずかしいです。

 でも、まあ、誇らしくもある。


「そのモミジとやらも、本心を言っているという保証があるのか? 私にはわかる、そいつは嘘をついている。人を平気で騙す人間の目をしている」

「だからなに? 誰にだって隠し事ぐらいあるわよ。それに、少なくとも私のこの姿を見て“可愛い”って言ってくれたモミジの言葉は、嘘じゃなかった。それだけははっきりわかるわ」

「あまりに頼りない根拠――」


 ゴォッ!

 キルシュの手から放たれた火球が、リーガの頬をかすめた。


「これ以上私の友達を侮辱するなら、本気で殺すわ!」

「くははっ、ようやく化物の本性を出したようだな」

「こいつ……っ!」


 前のめりになるキルシュ。

 すると『それを待っていた』と言わんばかりに、リーガはまたもやポケットに手を入れた。

 そしてばらまかれる魔石。


「まだ持っていたの!?」

「キルシュっ!」


 私は彼女に飛び込み、押し倒して地面を転がり、爆発から逃れる。

 しかし、その魔石が放ったのは爆風ではなく――目が潰れるほどの、まばゆい閃光だった。


「こ、これは……っ!」


 フラッシュグレネードの真似事?

 ってことは、逃げるつもりだ。

 慌てて立ち上がったけど、全然目が見えない。

 手探りで前に進めんでも、すぐに木にぶつかってしまった。

 それは一時的なものだ。

 10秒もすればある程度視界は戻ってきたけど――もうそこに、リーガの姿は無い。


「ここまで来て逃げられるなんて!」


 悔やむキルシュ。

 そのとき私は――メニュー欄を開き、自分の装備画面を眺めていた。

 画面の一番下に、見慣れぬ矢印がある。

 選択すると画面は下にスライドし、別の装備画面が現れる。

 表示された右腕の部位にはいつの間にか、Lv.6まで上げたブロンズダガーが装備されていた。


「器神武装……」


 メニューにはそう記されている。

 誰がここにブロンズダガーを入れたのかなど、考えるまでもない。

 たぶん、気を失っていた間に動いていた、誰かだ。


「どうしましょう、モミジ……って、何をしてるの?」


 右手を前にかざす。

 目を閉じて、その存在を意識する。

 そして――引きずり出すようにして、“力”を呼び出した。


「器神武装・フローディア!」


 目の前にブロンズダガーが浮かび上がったかと思えば、弾け、光の粒子となる。

 それは私の右腕に絡みつき、形を変えた、

 まず篭手のようなものが私の肘までを包み込む。

 さらに二の腕から肩にかけても、防具と呼ぶには大きすぎるパーツが現れた。

 特にショルダーアーマーは特徴的な形をしており、まるで羽のようだ。

 変化はなおも続く。

 手の甲を包む部分がボコッ! と盛り上がり、その内側から、鋭く長い爪が三本伸びてくる。

 もはやブロンズダガーの原型などはない。

 しかし紛れもなく、それはシステム上、“短剣”として分類されるもの。

 だから――


「イリュージョンスロー・テンペスト!」


 習得した短剣スキルも、強化された上で(・・・・・・・)問題なく使用できる。


「これは……!」


 私は、もはや両手剣と呼ぶにも巨大すぎる3メートル近くの短剣(・・)を握り、


「そお――りゃあぁっ!」


 それをリーガが逃げていったと思われる方向にぶん投げた。

 激しく回転しながら舞うそれは、ゴオオォォォ――と音が聞こえるほどの風を纏い、触れるもの全てを切り裂いていく。


「……っ!?」


 ここからは見えないけれど、その一投はリーガをかすめたような気がした。

 射線上に存在する全ての樹木は伐採され、一直線に視界が開ける。

 また木のある方に逃げ込んだのか、彼の姿は見えなかった。


「モミジ、そ、それは?」

「器神武装ってスキルみたい。よくわかんないけど、できるようになってた」

「その割には、使い方をよく知ってるみたいね」

「うん、なんでだろね?」


 私にはわからない。

 けど、力がある――今はそれだけで十分だった。

 器神武装を発動すると、スキルが強化されるのはもちろんのこと、身体能力も上がり、さらにもう一つ、“器神スキル”っていうのが使えるみたい。

 スキル欄に新たなアイコンが現れていることを確認すると、私はそれを放つため、動かす度にガシャンガシャンと、まるでロボットみたいな音をたてる右腕――フローディアを前に構えた、

 手のひらは、リーガがいると思われる方向に向ける。


『それやったら死んじゃうけどいいんですか?』


 誰かが、内側から私に問いかけた。

 誰だろう、眠ってる間に勝手に動いてたあいつかな。

 ……悩む。

 果たして私がそれをやってしまっていいのか、と。

 でも――キルシュを殺そうとしてるやつを、放ってはおけない。

 理不尽は許せない。

 違う私になりたい。

 そう思ったからこそ、私は私になったんじゃないの?

 それなら――やるしか、ない。


「キルシュ、危ないから離れてて」

「え、ええ……」


 戸惑いながらも距離を取るキルシュ。

 私は表情をこわばらせながら、スキルを起動した。


「フローディア――」


 ガゴンッ! と右腕を包むフローディアが変形を始める。

 まず最初に肩付近の装甲が開き、冷却用のフィンが現れた。

 内側から、ギュイイィィィ――と何かが回転するような音がする。

 使用されたMP――もとい魔力が増幅されているんだと思う。

 それによって生じた熱が、肩から白い煙となって排気された。

 手の甲付近では、伸びていた三本の爪が場所を変え、さらに長く伸び、バレルのように形を変えていた。

 ガゴンッ、と手のひらのあたりが震え、砲門が開く。


【発射準備完了しました】


 システムメッセージが視界の中央に表示された。

 同時に、頭にいくつかの単語が流れ込んでくる。

 私は最後に、そのワードの中から――射出許可を意味する、言葉を発する。


「――カタストロフィ、シュートッ!」


 キイィィィィィ――ドォオオオオオオンッ!

 閃光の柱が、爆音と共に砲門より吐き出される。

 その反動に私の体は後ずさり、背中から倒れないように両足で踏ん張るのに必死だった。

 するとキルシュが慌てて私の背後に周り、支えてくれる。


 そのビームに触れた物体は、言うまでもなく蒸発する。

 先ほどのイリュージョンスローで倒された木々も、次々と消滅していた。

 まだ――リーガは仕留められていない。


「ふんぬううぅぅぅぅ……!」


 私は勘に従い、腕の角度を変える。

 するとビームはぐにゃりと向きを変えて、まだ無傷だった地表を焼いた。


【EXP70 武器EXP70 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ がEXP70 武器EXP70 を得ました】

【EXP70 武器EXP70 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ がEXP70 武器EXP70 を得ました】

【EXP150 武器EXP150 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ がEXP150 武器EXP150 を得ました】

【EXP70 武器EXP70 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ がEXP70 武器EXP70 を得ました】

【EXP120 武器EXP120 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ がEXP120 武器EXP120 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ キャラクターレベルアップ! 38→39】

【EXP70 武器EXP70 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ がEXP70 武器EXP70 を得ました】

【EXP240 武器EXP240 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ がEXP240 武器EXP240 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ “マジシャンロッド”武器熟練度レベルアップ! 0→1】

【パーティメンバー キルシュ スキル[ファイアクラッカー]レベルアップ! 2→3】

【EXP70 武器EXP70 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ がEXP70 武器EXP70 を得ました】

【EXP120 武器EXP120 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ がEXP120 武器EXP120 を得ました】

【EXP120 武器EXP120 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ がEXP120 武器EXP120 を得ました】

【EXP70 武器EXP70 を得ました】

【キャラクターレベルアップ! 47→48】

【パーティメンバー キルシュ がEXP70 武器EXP70 を得ました】

【EXP240 武器EXP240 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ がEXP240 武器EXP240 を得ました】


 ずらりとシステムメッセージが並ぶ。

 何十匹、何百匹というモンスターたちが巻き込まれているのだ。

 きっとリーガは今頃、いきなり現れた光に怯えて、逃げ惑っているに違いない。


「何だこれは、まさかこの世ならざるもの(イレギュラー)の力だとでも言うのか!? ふざけるな、私は執行者だぞ!? こんな場所で、こんな場所で死ぬわけが――馬鹿な、馬鹿なあぁぁぁぁぁッ!」


 光が――命を捉える。

 それに巻き込まれた瞬間に、リーガはたぶん、嘘みたいにあっけなく消し飛んだ。


【EXP50000 武器EXP50000 を得ました】

【キャラクターレベルアップ! 48→52】

【“シルバーダガー”武器熟練度レベルアップ! 4→5】

【スキル[アサシンスティング]レベルアップ! 1→2】


【パーティメンバー キルシュ がEXP50000 武器EXP50000 を得ました】

【パーティメンバー キルシュ キャラクターレベルアップ! 39→45】

【パーティメンバー キルシュ “マジシャンロッド”武器熟練度レベルアップ! 1→5】

【パーティメンバー キルシュ 火属性魔法適性上昇! 24→27】

【パーティメンバー キルシュ スキル[ファイアストーム]習得!】


 大量の経験値が私たちに入ってくる。

 それは他でもない、彼が息絶えた証拠だ。

 “倒した”と私の頭が判断した瞬間、フローディアは出力を下げる。

 光の帯は少しずつ細くなり、肩のあたりで回転していた何かも、静かになっていった。

 やがてビームが途切れるように消えると、フシュー! と一気に排熱を行い、元の形態へと戻っていく。

 さすがに使用したMP量も多かったのか、私は体全体に気だるさを感じていた。


「はひぃ……」


 情けない声をあげながら、私はへたりこむ。

 キルシュが背中から支えてこれていたもんだから、しなだれかかるような形になってしまった。


「ごめん、キルシュ……」

「これぐらいいいのよ。それより今の……とんでもないわね」


 彼女の4つの瞳が、焼け焦げた森を眺める。

 すっかり景色は変わり果ててしまっていて、さすがに私も引きつり笑いを浮かべるしか無かった。

 こんなのが実装されるって、マジサガはいったいどんなインフレしちゃったんだろ。


「死んじゃったのよね、あの人」

「経験値が入ったってことは、そうだと思う」

「……あなたに殺させてしまったわ」

「後悔はしてないよ」

「でも、私も一緒に背負わせて。本当なら一人でどうにかするべき問題だったんだから」

「二人で背負うって、なんか……」

「なあに?」

「……ううん、何でも」


 なんか、くすぐったいなって思ったけど――言ったら自分で恥ずかしくなりそうだからやめておいた。

 ひとまずこれで、キルシュ暗殺事件は一件落着。

 家族のことや、暗殺組織、そしてイレギュラーとかいうよくわからない存在、と謎は山積みだけど、今はとにかく……死んだように寝てしまいたい。

 それで頭がいっぱいだった。




 ……あ、あとこの姿のキルシュを、ぜひ明るいところで観察したいかも。






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