婚約者を陥れたい息子で遊ぶ母
2019.11.12 ウィルヘミナの台詞の罰せれを罰すれに訂正。
「母上!」
それは、ウーヴァラと言う王国の王城で、名だたる貴族達が集められた王子の婚約記念パーティーが今正に始められようとした時に起きました。
婚約相手は数年前から決まっていたのですが、正式に婚約が結ばれるのがこのパーティーだったのです。
集まった貴族達に挨拶をしようとしたこの国の女王たるウィルヘルミナに呼びかけたのは、王子であるウィレムでした。
「何です、ウィレム。トイレですか?」
「違います!」
不作法を咎めず、茶化すようにそう言った母に、ウィレムは怒鳴る様に否定しました。
「母上に、紹介したい人がいます!」
「そうなの。じゃあ、これが終わったら」
「それは、彼女です!」
ウィレムは、ウィルヘルミナの言葉が耳に入っていない様子で、その彼女とやらを手で示します。
其処には、ピンク色の可愛いドレスを身に着けた美少女が立っていました。
美少女と言っても、ウィレムの婚約相手であるベアトリクス・ファン・メール公爵令嬢のような人目を引く様なタイプでは無く、目立たないタイプです。
「おいで。リーフェ」
「はい! ウィレム様!」
リーフェと呼ばれた少女は、嬉しそうにウィレムの隣に駆け寄りました。
「あらあら。可愛らしい子ね。シャルロッテの小さい頃を思い出すわ」
シャルロッテは、ウィレムの二歳下の妹です。
因みに、リーフェと同じ年です。
「そうでしょう! 可愛いでしょう! ……その女と違って!」
ウィレムはウィルヘルミナの皮肉に気付かず喜ぶと、ベアトリクスを睨み付け、憎々しげに言いました。
「母上! ベアトリクスは、リーフェを苛め、殺そうとまでしたのです! そんな女と結婚など出来ません! どうか、厳罰を! そして、リーフェ・ファン・ボッス男爵令嬢との結婚を認めてください!」
黙って見ている貴族達は、どうやってウィレムを引きずり落としてシャルロッテを次期国王にするか、考え始めました。
神輿は軽い方が良いと言う人もいますが、軽過ぎて予期せぬ方へ動いたら困ります。
「ベアトリクス。ウィレムはこう言っているけれど、どうなの?」
「いいえ。……苛められたのも、殺されかけたのも私の方ですわ」
ベアトリクスは、辛そうに俯いてそう答えました。
「何を言うか! 白々しい! ……母上! このような嘘を信じてはなりません!」
「あらあら。じゃあ、貴方が言った事も嘘なのかしら?」
「母上?! 何を言うのです! リーフェがその女に苛められ・殺されかけたのは事実です! 息子である私の言う事が信じられないと言うのですか!」
「でしたら、私がベアトリクスお義姉様の証人ですわ。お兄様」
そう言って立ち上がったのは、シャルロッテ王女です。
リーフェと並んで立ったら彼女が霞むぐらいには、美少女です。
「息子の言葉を信じるなら、娘の言葉も信じなければならないわね~」
「リーフェは苛めなどしませんし、ましてや、殺人など! シャルロッテのあからさまな嘘など、聞く価値はありません!」
「あからさまな嘘とはお兄様の言葉では? お義姉様は苛めなどしませんし、人を殺す様な方でもありません。証拠でもありますの?」
シャルロッテがそう問うと、ウィレムの側近達が進み出ました。
「証拠でしたら、此方に。リーフェさん殺害未遂の現場に落ちていたイヤリングです。これは、ベアトリクスの物でしょう?」
「知りませんわ。私の物ではありません」
「白々しい! これで解りましたね、母上! ベアトリクスに厳罰を!」
ウィレムが勝ち誇ったようにそう言いましたが、シャルロッテも黙っていません。
「此方にも、証拠が御座いますわ」
「何だと?!」
シャルロッテの合図で彼女の親衛隊が進み出て、台の上に載せられた証拠品をウィルヘルミナに見せました。
「ベアトリクス・ファン・メール公爵令嬢殺害未遂の現場に落ちていたリボンです。リーフェの物ですわよね?」
「それは、盗まれた物です! きっと、ベアトリクスさんが盗んだんです!」
リーフェは冤罪を着せられてなるものかと、大声で否定しました。
「あらあら。困ったわ~。何方を罰すれば良いのかしら?」
「母上! 罰せられるべきはベアトリクスで決まっています! その女が、誰かから苛められたり・殺されかけたりなど、する訳無いではありませんか! ましてや、リーフェが行うなど、絶対にあり得ません!」
「先程も言いましたけれど、貴方の言葉を信じるのであれば、シャルロッテの方も信じなければならないわ。どちらも、私の子供だものね」
「リーフェを信じてください!」
「どうして?」
ウィルヘルミナは、首を傾げます。
「素晴らしい女性だからです! 次期国王たる私の妻に相応しい! 彼女以上の人はおりません!」
「そうなの。ベアトリクスも素晴らしい女性よ。次期国王の妻に相応しいと思って選んだのに。貴方は、『女王の目は節穴だ』と言うのね」
流石のウィレムも、女王を公の場で非難するのは不味いと気付きました。
「そ、その様な事は……。ですが、ベアトリクスはリーフェを……」
「そう。では、貴方に選んで貰おうかしら? 何方も罰するか、何方も罰しないか」
「母上! 罰せられるべきは、ベアトリクスだけです!」
「駄目よ。そんな不条理は許しません。選びなさい。何方も罰するか、何方も罰しないかを」
口を閉ざしたウィレムに、ウィルヘルミナは笑顔で言います。
「ああ。そうそう。何方も罰しなくても、リーフェを貴方の妻にする訳にはいかないわ」
「何故です?! 男爵令嬢だからですか?!」
「人柄も家柄も関係無いわ。このような騒ぎを起こす原因になったからよ」
ウィレムはその言葉に青ざめました。
「馬鹿な子ね~。もっと早く、私に婚約者を変えたいのだと相談していれば、リーフェと結婚出来たかも知れないのに」
ウィルフェルミナは、笑顔のままで続けます。
「リーフェと結婚出来ないのは、貴方自身の行いの所為よ。自室で反省なさい。私が許すまで」
ウィレムは、次期国王の座を外された事に気付き、床に膝を着きました。