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争奪戦?


 数瞬後、大きな邸宅の前に三人は立っていた。音もなく足元の魔法陣が色を失って消えていく。

 邸宅には守護魔法がかけられていたため、直接中へは転送されなかったらしい。邸宅の門の前だった。玄関先までの道が前に延びて続いている。


「やっぱすげえな、爺さん、ちぃとも揺らぎもしねえ」


 足元を確認するかのようにとんとんと地面を踏みしめて、ジョルジュが呟く。

 色々と巫山戯た爺さんだが、賢者の力は伊達ではないらしい。

 下手な魔術師が移動魔法を実行すると、移動途中に足元が揺らいで送られた者が酔うこともあるのだ。だが、足元は微動だにしなかった。三人同時に送っても、だ。さすがは賢者の魔法だ。精度が高い。


「さて、ここにライアンがいるのか」


 揉み手をして、離れた位置にある邸宅を見遣る。ジョルジュが不敵に嗤った。

 うずうずしているという表現そのままの様子だ。

 カルロが隣にいたウォルターを見ると、軽く頷いて寄こす。ここがライアンの領邸で間違いないようだ。


「んじゃ行くとするか」


 後ろ頭に両手を組むようにして、ジョルジュは門を越え、玄関へと向かって歩きだした。口笛を吹いたりして余裕綽々といった体だ。

 数メートル程進んだところで、正面の玄関から飛び出してきた姿があった。いい体格なのが遠目でも見て取れる。足元に投げ捨てられたのは家令服のようだが、手には剣があった。片眼鏡を外して胸元にしまい込み、鞘から剣を抜きながらじりじりと近付いてくる。

 ジョルジュの殺気に反応したようだ。


「ん、露払いにはなるか」


 その言葉にカルロはぎょっとして、ウォルターと共にジョルジュから急いで距離を取った。

 すかさずジョルジュは背後から大剣を抜き払う。


「あっぶねえ……!」

「勘弁してくださいよ……!」


 思わず本音が漏れた。冷や汗を拭う。

 すぐに離れていなければ、剣を振り回したその動作に二人共巻き込まれていただろう。


「何だ、問題なかっただろうが」


 それはそうだが、危険過ぎる。

 半身で振り返ってその様子を確認してジョルジュは嗤う。

 自分達の反応すら試すつもりだったようだ。カルロは小さく舌打ちした。


「それよりお前ら、もっと離れてろ」


 ジョルジュは前方の家令から発せられる殺気に、じり、と足元を踏みしめ直した。

 


***



 視界に飛び込んできたのは、自邸の前で家令と第二騎士団長が戦う姿だった。

 どうやら見間違えではないらしい。

 剣戟を繰り返しては距離をとり、また剣戟を、と繰り返している。


「一体何事だ!?」


 馬で敷地内へと走り込みながら、騎乗したままライアンは叫んだ。どうどうと愛馬を宥めて止めて、その場にすぐに降り立つ。


「団長!」

「団長、遅い!」


 離れた所からカルロとウォルターの声が同時に上がる。


「カルロ?ウォルターまで!なんで二人がここに!?」

 続いて馬から降りたシルヴァールが目を丸くする。


「なんであいつらがここにいるんだ。おい、ジョルジュ?ここで一体何をやってる」


 ライアンが家令と第二騎士団長との間に入るように近付けば、名を呼ばれたジョルジュはこちらを見て、唇の片端を上げる。


「やっと来たな、本命っ!」


 ぶん、と大剣を振り回すようにして構え直し、ジョルジュはライアンへと突進した。


「……っ……!」


 瞬時に反応して、ライアンは剣を鞘から引き抜いた。同時に足で愛馬を蹴って、その場から遠ざける。

 ギギギギインっと音がして、剣が組み合った。


「く……っ、なんなんだっいきなりっ!」


 力で押されて、剣ごと押し返しながらライアンは叫んだ。

 再び剣が打ち合わされ、重なる。


「来るのが遅えよ、ライアン」

「知るか!それよりなんでお前がここにいる」

「爺さんに魔法で送ってもらったんだよ。それより、あの家令、なかなか面白い奴じゃないか。今まで相手して貰ってた」


 ジョルジュに顎で示されて横目で見ると、家令はため息をつきながら剣を鞘にしまうところだった。殺気が消えている。


「おい」

 声をかければ、家令は片手で自分の服から埃を払っている。

 

「……ライアン様をお望みのようですので」


 私には関係ありませんと、どこ吹く風だ。

 そういやこういう奴だったよ、とライアンは半眼になる。

 第二騎士団長であるジョルジュを今まで相手にしていながら、汗一つかいていない。流石というべきか。


「集中しろ、よっ!」

 

 がつ、とジョルジュが打ち込んでくる。

 剣でいなしながら、ライアンは距離をとった。


「だから、なんでここでお前と戦わなきゃなんないんだ!」

「後で説明してやるから戦え」

「今説明しろよ!」


 ジョルジュの手が止まることがない以上、ライアンも対応せざるを得ない。気を抜けば斬られる。

 がつ、がつ、と剣戟が繰り返された。



 家令がライアンの馬を捕まえて、シルヴァールの元へとやってきた。促されてシルヴァールは自分の馬の手綱を引き渡す。

 一礼すると、家令は厩舎の方へと消えて行った。

 その姿を目を細めながらゆっくりと見送って、シルヴァールはカルロ達へと近寄った。


「それで、一体どういう事なんです?なんでジョルジュ団長と貴方達がここにいるんです?」

 シルヴァールが尋ねた。

 二人の団長の戦いから視線は外さないままだ。


「団長が悪いんだよ。賢者の爺ちゃん怒らせるから」

 ウォルターが口を尖らせる。


「それはフレデリク様のことですか?」

 ウォルターの言葉にシルヴァールは首を傾げる。

 カルロが頷いて言い添える。

「俺達とジョルジュ団長をここに移動魔法で送ってくれたのは賢者フレデリク様です。幾つか伝言を預かりましたので」

「伝言ですか」

「はい。直接伝えるように、と。団長とアデリシア宛てにです。一部、副団長にも絡んでますが」

「……聞きましょう」

 

 カルロは老賢者の言葉を伝えた。

 アデリシアを決して隣国へは行かせないとのこと、そして、ライアンの手元から今後遠ざけること、また本人の承諾を条件に、シルヴァールとジョルジュへ彼女を得る許可を出した旨を伝えた。

 ついでに、ライアンを倒せばアデリシアを貰える、とジョルジュが勝手に早合点して今戦っていることも伝えた。

 

「そうですか……」

 シルヴァールは銀の双眼を伏せて考え込む。


「それより副団長、なんで言ってくれなかったんですか。新団長として就任の話があるって」


 カルロはシルヴァールに問い質す。


「ああ、だってまだ本決まりではないですし」

 そんな状態で言うのもね、とシルヴァールは説明する。


「でも賢者の爺ちゃんにアディが欲しいって、副団長は言ったんですよね?」

 ウォルターが首を傾げる。

「ええ、言いました。ウォルターもアデリシアに言ってたでしょう」

「それってあの求婚の話?冗談じゃなく?」

「そうです。別に全部冗談っていうわけでもないですよ。彼女を得られるなら婚姻もやぶさかでない」

「副団長、本気だったんだ……」

 ウォルターは呆然として呟いた。


「ウォルターは違うんですか?」

 不思議そうにシルヴァールは聞き返す。

「あれはその場の冗談のノリかと思ってた。だってアディは団長のこと好きなんだよ?」


「それくらい私も知っていますよ?婚約者の存在を知って、それでライアンを忘れるためにすべて振り切って隣国へ行こうとしたのだろうということくらい簡単に想像がつきます。ちょっと発想と行動が突飛ですが、なんとも一途で可愛いじゃないですか」

 くすりとシルヴァールは笑う。

 愛情深い女性ということですよ、と余裕の笑みだ。


「でもそれって完全に横恋慕じゃん」

「貴方も男なら、アデリシアにライアンを忘れさせてみせるくらいの気概をみせなさい」


 シルヴァールにはその気概がある、と。

 大した自信だ。


「うわー……副団長すげぇ……男前すぎ……」

 ウォルターは肩を竦めた。


「二人共、何を言ってるんだ?」

 カルロは話が見えなくて独り混乱する。


 求婚?気概?なんの事だ。


「ああ、それはねえ……」


 事の経緯をウォルターから聞き出して、カルロは軽く呆れた。短髪の頭を振る。


 あり得ない、なんだ、それ、である。

 大体、目の前で繰り広げられているこの団長同士の戦いですら意味はまったくないではないか。結局のところ、アデリシアが納得しなければどうとも出来はしないのに。


「一応確認しますけど、ジョルジュ団長はただ団長と戦いたいだけですよね?」

 シルヴァールは頷いた。

「ずっと手合わせしたがってましたからね。なのに、ライアンにいつも逃げられてましたから。いい機会だったんでしょう」

 シルヴァールはおそらく間違いないはず、と斬り合いをする二人を見遣る。

 笑顔で剣を振り回すジョルジュに対して、ライアンはそれはもう嫌そうに応じているのが表情にありありと出ている。

 カルロは額を押さえた。目眩がしそうだ。巻き込まれたライアンに少しだけ同情する。


「そういや、ジョルジュ団長さ、ライアン団長を倒した後、副団長も倒すんだって言ってたよね?そんで、アディ貰うんだって」

 ウォルターが思い出したように言う。


「…………館の中に入りましょうか?」


 巻き込まれるのは御免である。

 シルヴァールの申し出に二人は頷いて玄関へと向かった。




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