未来は不確か
そして日々が流れ、かぐやにとっての日常に戻る。あの後こってりと母様に叱られ、結婚する気があるのなら面談を用意すると言われた。今回の件で見合いはもうこりごりだと思ったかぐやはその話を断り、いまだに独身が続いていた。いつものとおり居酒屋かぐらで淋しく独り酒を浴びる。
「っんぱあっ~。」
「あいかわらずいい飲みっぷりだねぇ。ポスターにして宣伝ガールにしたいぐらいだよ」
「らにいってんのよ。私がそんなことしたら大繁盛でおっちゃん過労死しちゃうあよ」
「かっ! そんな理由で死ねるなら本望だねぇ」
焼き鳥を頬張りながらかぐやは考えた。結局、なにも変わらなかった。誰かと一緒にどこかへ出かけたり、ここで一緒に飲む人ができたり、そんな風に未来が変わると心のどこかで思いながら地球へと戻った。でも現実は独りで焼き鳥を肴にお酒を飲んでいる。それを認識すると、ちょっと気がめいった。こんな時、翁や媼がいてくれたらなんていってくれるだろうか。地球に行った理由、旦那を探すためだったけど、ふたりに会いに行ったと考えればそれもそれでいいかもしれない。素直にふたりに会えて嬉しかった。色々あったけど、ふたりには健康でいてほしい。
「ま、息子が結婚するまで死んでも死に切れねぇけどな。だっはっはっは」
鍋の中身をお玉でかき混ぜながら店主は笑った。
「結婚ねぇ……」
ほぼ無意識にぼやいていた。私に果たして縁のあるものなのか。
「あ、あのっ!」
「んあ?」
無の境地に達し、ただ鶏もも肉を噛み砕く機械と化していたかぐやに、渡上は声をかけた。
「えっと、かぐら――いえ、かぐやさん、俺の仕事が終わったあと、ちょっとお時間よろしいですか?」
バンダナを脱ぎ、真剣な面持ちで渡上はかぐやの瞳をまっすぐにみつめた。
「え? 大丈夫だけど……」
彼の真剣な眼差しの意図に、かぐやは彼が仕事に戻ってしばらくしてから気づいた。そして、ちょっと顔が熱くなった。
行動を起こして、なにも変わらないことはない。今回はかぐやにとってなにも変わらなかったことなのかもしれないけど、その周囲にいる人たちの気持ちを変化させた。無駄のように思える失敗でも、その中に次につながる成功のもとがある。
「こりゃ、店が大繁盛する未来もそう遠くないかもな」
店主は今日もかぐや姫のために、肴を作る。