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1分で異世界最強になる

前回までのあらすじ:

田中一郎、不快に思って全裸になり、女神を不快にする。

(序章:最終話です)

 服を着た田中一郎は、うーんとうなりながら事務机にあるイリスのパソコンをのぞきこんでいた。

 画面にはたくさんのバーが表示され、それぞれに攻撃力、防御力といった名称が表記されている。


「これで全能力を設定します。ただ美少女は何を言われようと無理なので、チート能力だけになります」


「できないものは仕方がないか。しかしまあ、こんな画面をいじるだけでチート能力になれるのか」


「なれますね。これでも神様のパソコンなので」


「じゃあちょっとステータス最強にしてくれ。もうホント、魔王が一瞬で消し飛ぶぐらい強い能力で。あと魔法とか特殊な技とかも全部覚えたい感じかなー」


「はい、わかりました」


 と言いつつも、女神イリスはまったくノリ気ではなかった。

 本来なら地獄へ行くはずだったのに、誰も得たことのないチート能力を与えて異世界転移させる。

 それはイリスにとっても、上司である神様にとってもムチャクチャな話だった。


 ただイリスのそばにいるクズの田中一郎は、そのムチャクチャさ加減を分かっていない。

 むしろ勝ち取ったと誇っている。

 全裸で、お尻からアレを出すと言ってイリスを脅したというのに、その表情には一切の恥じらいはなかった。

 恥じらいを知らない男なのかもしれない。

 イリスはそれでも丁寧にバーを操作し、ステータスを最強にしつつ、有用な魔法やスキルに片っ端からチェックを入れた。

 

 攻撃力、防御、HP、MP、魔力、素早さ、賢さといった基本ステータスから、鍛冶スキルや建築スキルといったサブステータスに至るまで、すべてを最大値に設定をする。

 有用な魔法やスキルは、ほぼすべて使えるようになった。しかしここには世界規模の人心掌握術、天地創造、時間逆行といった世界の秩序を一瞬にして乱すものは入っていない。神様だけが使える技を与える権限はイリスにない。

 田中一郎は特典としてさらにすべてのアイテムを要求してきたので、アイテム袋の中に異世界にあるアイテムを片っ端から突っ込んでいった。異世界に一つだけしかないアイテムもすでに田中一郎は手に入れた。


 これらの作業は一分程度でおわった。

 つまり、田中一郎は一分でクズニートロリコンから異世界最強に変貌した。


「全部、要望どおりにしました」


「よし、じゃあ異世界に飛ばしてくれ。美少女は俺が手に入れる!」


「わかりました。でも田中様、そのまえにこのアイテムを身につけてください」


 イリスは事務机から出した腕輪を田中一郎に渡した。金色に輝く立派な腕輪で、所々に赤いルビーがはめこまれている。


「なにこれ? アイテム袋にアイテムは入れたんじゃなかったのか?」


「それは私からのプレゼントです」


「ふーん、まあそれならもらっておこう。どれ、装着」


 田中一郎はそれをいぶかしみながら眺めつつ、腕にはめ込んだ。

 すると、



〈セット完了。はずす際には必ず保護観察官の解除コードが必要となります〉



 という音声が腕輪から流れ、ガシャリという音がした。


「え、なにこれ? ど、どういうことだよ? 保護観察って……」

「私が田中様を観察……いえ、監視をするのよ、一郎」


「え、なに? イリスって女神だよね? いきなり下の名前で呼び捨てって失礼じゃない? というか外れないんだけど!?」


 田中一郎は腕輪を外そうと力を入れる。

 チートレベルの力が入っているにも関わらず、びくともしない。

 ようやくここで、イリスは笑みを浮かべることができた。

 もっとも女神の微笑というより、嘲笑に近い笑みだが。


「外せないように作ってあるのよ。それに神のアイテムだから、どんなことをしても絶対に壊せないから」


「うわーマジかよ。というかイリス、口調も変わってない?」


「だってこれから一緒に異世界へ行くのよ? 田中様~なんてアホみたいに呼ぶ意味、もうないじゃない?」


「うううん? 俺と一緒に異世界へ行くのかよっ!? なんで?」


「なんでって、決まってるでしょ? 一郎がチート能力を使って悪さをしないように監視をするためよ」


「監視……そう言って俺の美少女王国の建国を邪魔するつもりなんだろ?」


「邪魔はしないわよ。本当にあなたが暴走しないかどうか見るだけよ」


「そうか、それならありがたい。だけど、それもなんで?」


「なんでって? それは異世界転移者の目標を阻害しちゃいけないって決まりが、私たちにあるからよ。人間は無意識的にも、意識的にも目標を決めて生きている。それを阻害しちゃうと、一郎みたいなクズの場合、ストレスをためて周囲に悪影響を及ぼすでしょ? そうならないように私はしたいの。もっとも、転移後にスローライフ農作業といった新しい目標を見つけてくれるとありがたいんだけどね」


 しかし、その決まりはクズ人間が転移しないことを前提としていた。

 あくまで転移者の自由を尊重するために作られた決まりだ。

 ただ今回は前提が異なるため、その尊重がイリスにとって邪魔になっていた。


「いや、俺は作物より美少女の方が好きだから、美少女を育てるよ」


 腕を組んで、堂々と田中一郎は言ってのけた。


「……そうでしょうね。本当はそんなの看過したくないけど、私はそれを監視する。ただ、監視と言っても見ているだけじゃないからね。もし一郎がチート能力を使って、少女になにかイヤなことをすれば、私は罰を与えるわ」


「罰って……そんな物騒な」


「さっきあげたその腕輪。実は私がボタンを押すだけで電気が流れるようになっているの。いったん電気が流れれば、三十分から一日ぐらい気絶するはずよ」


「えーいやいや、なにそれ。こっわー。気絶? えー、俺どれだけ信用されてないの? そんなに美少女にイヤなことすると思ってる?」


「黙れ、一郎! 小学生のパンツをのぞく変態趣味野郎のどこを信用しろっていうのよ?」


「うーんと、自分の気持ちに、素直なところとか? ピュアって言うやつ。そもそもパンツのぞくのぐらいさー、別によくない?」


「はい、アウト」


 イリスはポケットに入れていたボタンを押した。

 出力はマックス。

 手錠からビシリという破裂音が鳴ると、田中一郎の体は一瞬にして崩れ折れた。



                  ※



『僕が悪かったんだけどさー女神がそこまで面倒見る必要あるかなあ。だいたい、そこまで実害はないんじゃないの?』


 神様が電話越しで悩んでいる姿をイリスは容易に想像ができた。

 しかしイリスの決意は固かった。

 田中一郎と一緒に異世界転移する。そして監視をする。その青写真は頭の中ですでに描かれていることだった。

 

「いえ、神様。キングオブクズの田中一郎は異世界を舐め腐っています。非現実的ななにかと勘違いをしているんでしょう。だから美少女を見れば見境なく襲います。まちがいなく。そんな悲劇は起こしたくはないのです!」


『うーん、彼がそこまでするかなあ』


「現に彼は、私の目の前で全裸になってウン……アレを出そうとしました。そんな男が、異世界でチート能力を得て、まともでいるはずがありません!」


 イリスは興奮気味に話す。そのため、呼吸が少し荒くなっていた。


『そうだなあ。人前で出そうとするのはまともじゃないなあ。まあ特別手当は出しておくよ。ただ労災はあんまり発生させたくないから、身の危険を感じたら即座に天界へと戻るように』


「わかりました。無理はしないようにします。あと特別手当、期待しています」


 電話の受話器を置く。

 これで異世界転移の準備は整った。

 心の整理もついた。

 そして、


「はうっ……はー、一体ここはどこ? 俺はどうなったんだ?」


 一日気絶していた田中一郎が起きた。


「さあ、行くわよ」


「え、どこに?」


「異世界。チート転移の話、忘れたの?」


「あ、あー……思い出した。全部思い出したぞ! イリス、お前さ、いきなり電撃はないわ。俺はポケ〇ンのサト〇じゃないって」


「そうね。ポ〇モンのサ〇シはもっと健全だったわ」


「俺だって健全でしょー」


「どこがよ?」


「イリスを見て欲情しないところ。例えばイリスのその強調された胸の谷間に手をいれても、イリスは俺のストライクゾーンではないから欲情しません。はい、俺、けんぜーん!」


 女神イリスの神聖なドレスから見える谷間。その中に、田中一郎は腕を一本、躊躇なく突っ込んだ。

 そしてぐりぐりと腕を動かし、谷間の隙間をより広げた。


「んー微乳好きの俺でも、胸の谷間の感触、悪くは感じないな。腕、もう一本入れてみようかな」


「一郎」


「はい?」


 女神イリスは笑みを浮かべる。この仕事について最大限の笑みだと自分で思うぐらいの笑みだ。


「はい? ……はうあっ!?」


 田中一郎は床に突っ伏した。

 そしてそこから一日が経って、ようやく二人は異世界へと転移した。

次回から異世界でのお話になります。1章です。

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