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詩集  作者: 蓮井 遼
21/30

詩編Ⅰ 


こちらは15年11月の文学フリマに参加したさい、自分で印刷してまとめた詩編になります。



 詩編  Ⅰ         


To death

なくしたいわけを

夜に生まれる

風遊び

旋律

Ⅰ・Ⅱ 

月追い







To death



一房の松明が鎮火して行く今まで

あの日を懐かしく思った個人の随筆も構わなく

畏れ多くも慈しみが終わりを伝える

託された思いに子孫はその生まれた大地を

走り、叫び、既に車両は満員で

祈らざるをえない

どうしてこういう足場に立たされるのか

その景色は教えてくれずに突きつける

等間隔に痛みは馴らされて

誰か苦しめば、自ずと誰かは充たされて

しかし、火種の在り処がわかっても

もう列車は行ってしまい

仮に持参しようとも包みは破り捨てられる

そうして私が闘争の一員に自然と成るのである







なくしたいわけを



水辺に浸かり雨の中

濡れた身体はどこかへ薄れてしまいたいと

呼ばれた気がして

いつの時代かわからぬように

わがものはもうわがものでなく

ある種の総体と化して

記憶の海原から無限へ漂う

そこらに引き止める言葉は現れない

契約の終えたこれらの思い達が

雨滴とともに流浪の旅に願うものなら

恩恵に触れる穴倉の小動物達の呼吸からは

また繋がりへ戻る道を辿るはず

けれども道は閉ざされそれらが雨音を受けるというのなら

自由を未だに膝に抱えたまま

雨にはじかれて自ずと前方にからだは廻っていく


そのありふれる発展し行く時間を

切ないことだと認めていくのか

引きずっていくのか
















夜に生まれる



暗い空は次第に星が照り

田園の稲穂は夜風になびかれる

畦道では誰かが笛を吹いていて

その調べはどこかしら風を

うっとりさせることだろう


住宅では

机に頬づいて誰かが考え事をしている

その人が見ている象徴は

電灯との会話を遮断して

うすらげな光と話している

ただ、光の方は何も言わず

その人の視線が集まるばかりだ

焦点が定まることはないのに

ふと、その人の想念のなかから

横笛の音が聞こえた

肖像は明らかになり、頬杖をした男は呟いた

この身体に留まるのは虚しいと

電灯は消え

辺りは静まり

男は目を閉じた











風遊び




ある日の風吹くころ

橋の上から下を見つめていたら

傍に通った女性の後ろ髪と

麦藁帽子が

視界を遮った

帽子をつかんだ片手には

これから光を拾おうなどとは

思っていなかった

女性は振り返り

丁寧に凛を注いだ

とまどった自分の心から

灰汁のようなものが溢れそうになって

命からがら抑えていた

彼女に知られることは

道に外れることだと

わかっていたからだ


次の瞬間に彼女は

名前を呼ぶ人獣に 攫われていった

橋の上でそよ風は続いていた

背中は風になじられ

侘しさだけが心の曲線を

「お前は駄目だぞ」と

慰めていた












旋律




空がとても広く光っていたり

歌が昔の続きに私がいることを

教えてくれたり

ここに誰もいなくても

ここで誰かが息をしている

呼吸のペースも

虚空の感じ方も

わからないけど

束の間を生きるあなたがここにいる

儚い喜びは涙にはならない













「Ⅰ」



この森は鬱蒼としていて気分が楽だ

砂漠に渡ることはできなかった

煌めく星の光を信じることもできなかった

動転するような日々を通じて

虚ろなままの心と

差し込む光の黄金を見つける

ただ初めからあったものだが

どこかで落としていたようだ










「Ⅱ」


それは光の閉ざされた苔の生える森の

微粒子のなかに

広大に及ぶ海の水平線や

北欧、蒙古、米国、カナダの雄大な空間の錯視に

悲劇に怒り震えた画家の作品のなかに

塵の気配のない洗練された星空の絵巻のなかに

確かに感じてしまうむせび泣くものを












月追い




チーターが走るのは

月を追うためでなく

逃げるアンテロープを追うための

脚力であった


チーターのいなくなった草原で

アンテロープが走っていたのは

月を追うためではなかった


風景や一切は

食わぬ輩に与せず

風景と渾然の一切に

食えるものが渦となり

終には大雨が降っただろう


束の間の息次に

頭上から狙いを定めた猛禽に

何度も切ない感情を繰り返した

先祖の記憶は思い出せず

死にもの狂いの活力が

次の創造や生きる糧となり

代償に闘争を負った


都市生活は虚ろな目と化し

生活は一切になる

跳ね返るは精神への負荷であり

憩いは本来の場所へ返し

備えるなら繰り返すだろう

簡単とは言い切れぬ歯がゆさを

噛み殺しているのは己だけだろうか


そして苦痛は秘密をまとい

いつかの記憶を思い返す

駄々をこねたくもなるだろう

顔が引きつる間に

遠吠えが掠めて

どうあれ命に

諦めがつき

落着けぬ間に

駆け出してゆく








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