小説未満「盲目」
きっかけはなんだったか。
アルバムの頁をめくるように、頭の中の思い出を探す。
幼稚園のころ、動物園に行った時に、二人で迷子になったこと
小学生のころ、沢山の悪ふざけを、二人で一緒にしたこと
中学生のころ、ささいなことで喧嘩して、仲が悪くなったこと
高校生のいま、気づけばキミを目で追いかけていること
そのどれもが色褪せなくて、そのどれもがきっかけのようで。
けれど、そのどれもがきっかけではないように思えてしまう。
いつからキミを好きになったんだろう?
中学生のとき、沢山の人に囲まれ笑うキミに、なんだか無性にお腹がムカムカとしてしまったときにはもう、すでにキミが好きだったのかもしれない……そういえばあのときの朝食はカツ丼だった。
小学生のときにはまだ、単なる友人、親友として接することが出来たのに、気づいたらそうは思えなくなっていた。どう思われているかなんて、どうでもよかったのに、今ではキミの視線、顔色ばかりが気になっている。
何が好きかな?何が嫌いかな?誰か好きなの?私は……どう?
ノートの端に吐き出された独り言のような問いかけは、キミに向けてのメッセージ。なんとかキミに渡そうとしたけれど、結局、ゴミ箱のご飯になってしまった。けれど、あのときに自分の思いをハッキリと理解したんだ。形にして初めて私は気づいた。
どうしようもなくキミが好きだと。
そうなるとやはり気になってしまう。
きっかけはなんだったか。
君との思い出、君のくれたもの、キミにしてもらったこと。
そのどれもに問いかける。けれど、どれもがきっかけに思えて仕方がない。
「どうしたの?」
と、キミがきく。ボーッとしていたのを心配してくれたのか。
そんな優しさと、ちょこっと首をかしげる動作にすら、私はときめいてしまう。
またキミを好きになる。これすらもきっかけになってしまう。
過去も未来も現在も、そのどれもがきっかけで、どのキミも大好きだ。
……あぁ、恋とはなんと盲目的なのか。
私の頭の中を、客観視して思う。
私はその、つまり、私の視線はいつもキミに向いているんだ。
あぁ。私は今日も恋に落ちる。
きっかけはなんだったか。