トラック天使馬鹿一台
私は天使、たぶん天使、まぁ天使でいいんじゃないかな?
そんな私の愛馬はいす○のエ○フトラック現行型、バンタイプのディーゼルエンジン、カラーリングは白色だ。
うん。やっぱり天使だしトラックといえばエ○フしかない!
私は今、深夜のR357を走り銚子へ朝日を見るため走っているのだ。
車内のBGMには深夜ラジオが流れている。
私の目的は転生希望カーナビを元に異世界に行きたい人間をひき殺し、神様のところに送るのが役目だ。
転生と一言で言うけどもここでは、"転生"、"転移"、"憑依"など含めて"転生"と一まとめにして置くことに注意。
カーナビのマップには光点が点滅しているが、転生を希望する力が強いほど「青→緑→黄→赤」の順に色が変わるため、赤色を優先的に狙っているのだ。
日本支部では私以外にも多くの天使が存在しているため、狙った人間のところへ向かう途中に点滅が消えることもある。
他の天使の送り方としては夢の中で勧誘したり、ゲーム経由で引き込んだりと色々あるようだが、私はトラックが気に入っている。
このトラックもローンで買ったこともあるのだが……。
そうそう、最近は転生者も多いため希望する人の実能力や潜在能力が高いこと、転生先の目的や環境に合致しているか、神様から評価されポイントが貯まるシステムになっている。
貯まったポイントは道具の更新や、食べ物、衣服、能力向上などに使うことができる。
私はトラックのローンや軽油、修理代につかっているけどね。
「おっと、信号が赤に変わりそう」
私はトラックの速度を下げ、ルートを考える。
もうそろそろ千葉市内に入る頃合だ。
1つ目はR126を通り北上するルート。
2つ目はR51→R296を通り、やはり北上するルートだ。
「よし、R51経由で行こう」
私は信号が青になったことを確認し、曇り空の下アクセルを踏み込んだ。
深夜といえ、今日のR51の交通量はそこそこあるようだ。
ガソリンスタンドをいくつか横目で通過しつつ、トラックを停車できるコンビニを探す。
「ここに停車しよう」
わたしはR296途中セブンイレブンに寄る事にした。
バンの扉を開けて外に出る。10月の空気は冷たく、これからもっと寒くなってくるだろう。
なお、天使の性別は特にないため、トラックを運転する時は青年の姿をしている。髪は黒、服装は白色の作業着でスニーカーを履いている。
「さーて、もう一走りしますか!」
私はおかかのおにぎりを車内で食べ、ホットのお茶を飲む。
食事と睡眠は、戦いに疲れた戦士の至福のひと時である。
コンビニを出発してR296をひたすら走り、R126へ合流する。
これからは住宅の横や大通りを走って、ひたすら北上するだけだ。
2車線に入ると、トラック横の追い越し車線をバイクのツーリングだろうか。集団が抜けていく。
バイクのテールランプが暗闇の道路を泳いでいく。
そして、ラジオから音楽が流れる中、少し昔のことを思い出す。
天使は神パワーで生まれる……らしい。
らしいというのは、私は天使が誕生する場面を見たことはないからだ。
天使には数々の役目があり、まずは天使見習いとして色々な仕事を任される。
例えば、人間や動物の生誕や死亡時に立会い祝福することや、神の指示で奇跡を起こすことだ。
その中で、いわゆる"転生担当"はブラックな職場といわれている。
仕事内容は難しくないが、"精神的にくる"と言われているからだ。
まあ、天使というよりは死神だろう。
仕事を体験するのは希望制とはいえ、かなり少ない。
私は怖さ半分、興味半分で体験を希望した。
「お前が新米の天使ちゃんかい?」
「いえ。天使見習いです……」
「そーかい。まぁ、気負わずにやろうや」
私の担当は、いわゆる"姐さん"だった。
彼女は元々別の仕事をしていたが、転生担当を希望したらしい。
「私が悩みに悩んで困ったやつらを、新しい人生に送ってやれるんだ」
そう言って彼女は寂しそうに笑っていた。
それから3ヶ月くらいだろうか、日本全国……とまでは言わないけども、色々なところに行った。
もちろん"お仕事"もこなしつつだ。
転生希望者が多いため、彼女は東京を中心に活動していると話していた。
男をひき殺す時は美少女に、女をひき殺す時はイケメンになると死亡する際の満足度が上がり、ポイントが増えるといっていた。
また、じわじわ殺すよりも、即死させるとポイントが高いようだとも。
そして彼女の道具は長年使い込まれたエ○フのトラックだった。
何故トラックでわざわざ転生させているのかと聞いたことがある。
そうすると彼女はこう答えたのだ。
「未練って誰にでもあるだろう。私は偶然交通事故に巻き込まれて死んだことを神様に教えてもらった後、天使になった。そんな私が転生トラックを走らせてるなんてね」
――そんな彼女が始めて東京から離れて、連れて行ってくれた場所が銚子だった。
私は犬吠崎灯台が見える砂浜の近くの駐車場にトラックを止める。
ふとカーナビを見ると、黄色の光点が点滅していることに気がついた。
流石に砂浜へトラックを突っ込ませると、スタックするだろうし、そもそも砂浜まで車で簡単に行けないのだが。
私はトラックから降りると、砂浜へ向かって歩き出した。
見上げた空は曇り空だが、雲は少なくなっているように見える。
砂浜へ到着すると、深夜の砂浜に少女が一人座っているようだ。
セミロングの黒髪にズボン格好で体育座りをしており、顔を埋めているようだ。
見渡せる範囲に他に誰も居ないことを確認し、私は彼女の後ろから音がしないようにゆっくりと接近した――。
私は接近しつつ17歳くらいの少女になる。
黒髪ロングに、白いスカート姿のちょっぴりお嬢様風な格好だ。
流石に金髪碧眼で声をかける勇気は無かったのだ。
そんな私をお許しください……って誰にですか。
そして、少女へ声をかけてみる。
「こんばんわ」
「……こんばんわ」
可愛い顔の少女はためらいながらも返事をしてきた。
少女は15歳くらいだろうか。家から抜け出してきたのかも知れない。
こちらを怪しんでいるようだ。
「いやー。ちょと用事で銚子まで来たのですが。寒くなってきましたね」
「……はい」
「で、深夜に目覚めたので朝日を見にこようかと!」
私が彼女に声をかけると、彼女もそれなりに返事をしてきた。
雰囲気は少し暗いが、話をする中で少し和らいできた気もする。
「どーぞ」
私は彼女にジョージアのオリジナルを渡した。本当はマッ缶を渡してみたかった……。
ちなみに缶はホットだ。アイスを渡すほど冷血漢ではないのだ。
天使なので血が通ってるかは知らないけど。
「……ありがとうございます」
彼女はそれを両手で受け取り飲んでいた。
――立ち上がったまま水平線を見ると、朝日がゆっくり上がってくる。
私が彼女を見ると、彼女ははにかんで私を見上げた。
私はそんな彼女の姿を見て、トラックへ戻ろうとする。
「あの……」
彼女の声がかかる。
私は一瞬足を止めるが、そのまま砂浜を歩いていく。
彼女から見えないようにトラックに乗り込みエンジンを掛け、エアコンで車内を暖め出発の準備をする。
カーナビの電源が自動的に入り、眼を移すと砂浜の光点は緑になっている。
私はカーナビの電源を切り。ラジオの電源を入れる。
今日の銚子は一日晴れらしい。
私は砂浜に居た彼女がこちらへ歩いてこようとするのをバンのバックミラー越しに見る。
朝日に照らされた彼女の顔を見てふと思う。
姐さんが若ければ彼女に似ているかもしれない、と。
「さて。今日は何処へ行きますか」
――そう呟いて、私はトラックのアクセルを踏み込んだ。
*****
天使「マッ缶どうっすか?」
少女「実は……私ブラック派なのです」
天使「ファッ!?」
少女「……」
天使「…………」
少女「……なんちゃって……えへ」
天使「 」
今日もご安全に!