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都市伝説の始まり

作者: merry

 都市伝説ってあるじゃん?口裂け女、人面犬、大雑把に言えば、トイレの花子さんなんかの怪談話も含まれる。僕が個人的にオススメするのは、ヤマノケかな。え?そんな話は聞いていないって?ごめんごめん、話が逸れたね。

 まあそんな都市伝説なんだけど、君たちはどうやって生まれるか知ってる?知らないよね。全部が全部ではないけど、大概の物はとあることから生まれるんだ。あっ、丁度これから一つ、新しい都市伝説が生まれるみたいだ。君も一緒に見ていくかい?

 それじゃあ、お茶でも飲みながら見物していってくれ。







「おいT、知ってるか?」

「何だよ唐突に。」


 友人のSが、昼休みに携帯アプリをしてる俺に話しかけてきた。


「最近うわさの、落ち武者の生首だよ。」

「ああ、なんかそういう話聞いた気がする。」


 夜、一人で歩いていると、後ろから声をかけられ、振り返ったら落ち武者の生首が宙に浮いている、といったものだ。


「それが一体どうしたんだ?どうせ単なるガセだろ。」

「ところがどっこい、とうとうD組の女子が目撃したんだってよ。しかもその日にツイッターで呟いてから、学校に来ていないらしい。」


 正直眉唾物ではあるが、それ以来登校していないという点に、少々興味が引かれた。


「ただ風邪引いたとかってわけじゃないのか?」

「普段はその辺の連絡を友達に伝える奴みたいだが、今回はそれが全く無いんだと。ついでにツイッターの方も音沙汰なし。」


 ふむ、偶然といえば偶然なのかもしれないが、事が事だ。噂に拍車が掛かってもおかしくはない。


「他に何か情報は無いのか?」

「なんだ?意外に食いつくじゃないか。とりあえず俺が今知ってるのはそれくらいだな。また何か仕入れたら話してやるよ。」

「おう、楽しみにしてる。」


 そういって教室から出て行くSを見送り、俺は様々な考えを巡らせ───キーンコーンカーンコーン───ようとしたところでチャイムが鳴ったので、後でゆっくり考えようと思った。




 放課後、帰宅した俺は、早速ネットで検索を掛ける。すると数件がヒットした。


『帰宅途中のOLが、不審者に声を掛けられ、逃げ出すと生首があった。』、『JK、落ち武者に追われる。』、『塾帰りの女子小学生、首のお化けに会う。』


 そこからツイッターや掲示板、コミュニティサイトなんかで、各人の被害報告、野次馬の捜査官気取りの検証なんかが取り上げられていた。


「へぇ、結構広がってきたな。」


 口元を吊り上げながら、俺はデスクトップの隅に顔を向ける。そこには青白い顔に血を流した、落ち武者の首が置いてあった。そう、一連の事件の黒幕は、俺だったのだ。受験勉強のストレス発散に、ほんの軽い気持ちで始めてみただけなんだが、これが存外面白く、今では週1のペースで脅かし歩いてる。

 女ばかり狙っているのは、そのほうが反応がいいっていう理由だが、男を驚かして、万一DQNにこれを破壊されても困るからってのも一応懸念している。元々はゴミ捨て場に捨てたれた、単なるマネキンだったが、雨風にさらされた風貌が、またいい味を出しており、そこにネットで調べた簡単な特殊メイクを施して作成した自信作でもある。


「そうだ、この間脅かした女子。あいつD組だったんだな。なんか他に情報載ってないかな。」


 偶々だとは思っているが、あれが原因で引きこもりになり、挙句自殺なんぞされた場合は流石に寝覚めが悪い。そう思って色々調べるものの、わかったことは、今まで一日に何回も更新されていたツイッターが、翌日から一度も更新されていないという事だけだった。


「う~ん、S経由で友人から聞き出したほうが早いかな、これは。」


 あとは新しい情報が流れるのを待とう。そう割り切り、今日はもう考えるのをやめた。




 翌日、学校に来るなり、Sが駆け寄ってきた。


「Tっ!また出たらしいぞ!」

「またって、生首かっ?!」

「ああ、C組の奴が見たらしい。」


 おかしい、昨日はネットをしていて、終わったらそのまま寝たはずだ。


「で、今度は音信不通になってるらしい。」

「音信不通って、電話にも出ないのか?」

「そうらしいな。ただ、昨日LINEでやり取りした奴の話だと、"近づいてる"って文が送られてきたんだってよ。」


 近づいてくる?首がだろうか?となると、俺以外にも誰か模倣犯が居るのか?


「他には何かあったりしたか?」

「今のところわかってるのはそれくらいだな。俺はもうちょっと他の奴らに聞いてくる。」

「新しい情報わかったら教えてくれよな。」


 そうしてSは廊下へ走って行った。しかしこれはどういうことだろうか?やはり模倣犯が出てきたと考えるのが、一番納得できるのだろうが、何か腑に落ちない気がする。そもそも俺がこれを始めたのは2ヶ月前で、噂が広がり始めたのは最近になってからだ。誰かが真似するには、早過ぎると言う気がしなくも無い。


「といっても、判断材料が他にないから、全部憶測でしかないんだよな。」


 天井を見上げながら体を伸ばし、気分を変える。午後になれば少しは情報が出てくるだろうし、考えるのはそれからにしようと思い直した。




「お、スレに書き込まれてんじゃん。」


 帰宅した俺は、昨日と同じ様にネットを開いていた。大体は昨日と同じ様だったのだが、一つ違う点があった。どこかの誰かがオカルトスレに、全容を載せたのである。


「えっと、某高校3年の女子高生N、友人と遊びに行った帰りに声を掛けられ、生首に遭遇。急いで逃げるが、後から追ってくる。走りながら友人にメールを送り助けを求める。その30分後、今度はLINEで"近づいてる"とだけ送り、以後音信不通っと。」


 犯人側は、大体俺のやっていた事と同じようだ。


「被害者側がメールを送っていたってのは初耳だな。でもなんで最後はLINEにしたんだ?」


 どうにも引っかかりを覚えるが、当人でもないので答えはでない。わからないものはわからないですっぱり諦めることにした。それからは、スレ住人達の論争を眺め、時間を見て寝ることにした。




「T!昨日はB組の奴だってよ!」

「また出たのか!」


 昨日の今日とは驚きだ。そこまで派手にやってしまったら、警察も動いてパトロールが始まるだろう。悪戯がもう出来ないかもしれないという思いに駆られた俺は、肩を落として落胆の相貌をみせる。


「まあ可哀想だよな。なんだってうちの学校ばかり狙われるんだか・・・」


 そうか、二度ならわからないが、三度目ともなればそういう共通項が判別できる。


「ってことは、犯人はうちの学生か、それに恨みを持った奴って線が濃厚か?」

「犯人って、お前は誰かが人為的に引き起こしてるって思うのか?」


 しまった、つい声に出してしまっていたか。


「い、いやな?偶にだったらまだしも、こんなに頻度が高くてその後にも影響があるんだとしたら、幽霊とか考えるよりは、人間の仕業で、事件に巻き込まれたって考えたほうが現実的じゃないかってことさ。」

「なるほど、そういう意見もあるのか。確かにそっちの方がありえるかもな。」

「だ、だろう?」


 ふう、なんとか誤魔化すことが出来たみたいだ。とりあえず、昨日のことを聞いておくか。


「ところで、昨日はどういう経緯でそうなったんだ?」

「ん?話してなかったか。どうやらデートの帰りだったらしいんだがな、そこで今までと同じように遭遇。逃げながらメールで助けを求めたと。そして30分後にLINEで"あと一つ"ってメッセージが送られてきて、以後略っと。別段今までと内容はは変わらんから、特に話すことも無いんだよな。」


 もうちょっと何かあれば話題性もあがるんだが、とSはぼやいているが、俺はそれ以上に気になることがあった。D組から始まり、C・Bときた。そして"あと一つ"と言うメッセージ。もしかして、これは俺達のいるA組のことを指しているではないか?ただでさえ順番的にも怪しいのに、こんな文章があったらそうとしか思えない。


「おい、T。だいじょうぶか?顔色悪いぞ。」

「あ、ああ。ちょっと朝から腹痛くてな、気にせんでくれ。」

「そうか、無理そうなら保健室行けよ。」


 そう言って、いつも通り廊下に消えるS。一人残された俺は、震えるひざを必死に押さえ込むのだった。




「・・・やっぱりそう思うよな。」


 もはや恒例となった帰宅後のネット。既にスレッドには昨日のことが載っていて、住人からは次はA組?A組マダー?などという書き込みが目立つ。


「人の気もしらねぇで、勝手なもんだ。」


 彼らは自分達が楽しめればそれでいいのだろう。かく言う自分も、その騒動を巻き起こした張本人であるという事実に気付き、今更ながらに彼女達に申し訳ないという気になる。


「あいつらはもっとビビッて、不安になったんだろうな。」


 居た堪れなくった俺は、そのまま逃げるようにベッドに潜り込むのだった。




「T・・・うちのクラスのWなんだけどさ。昨日から連絡取れないんだって。」


 やっぱりか、そんな感情が溢れる。


「俺もメールしたんだけどさ、アドレス不明で帰ってくるんだ。」

「それは・・・そうか。」


 普通ならありえないことなのだろうが、今の俺はなんでも受け入れることが出来そうだった。彼女達がこうなった原因の一端を握っている立場から、全てを受け止めなければとも思う。


「それとな、今回のLINEなんだが・・・」

「どうした?なんて書いてあったんだ?」


 歯切れの悪いSに、なんとなく悪い予感がしつつも、先を促す。


「それがな・・・"見つけた"って。」


 瞬間背筋に悪寒が走る。頭から血が引いていくのを感じ、体温が急激に低下していく錯覚に陥る。心臓が痛いほど鳴り、耳の奥がキーンとする。


「お、おい!Tっ!しっかりしろっ!」


 強く揺すぶられ、ハッと意識を取り戻す。


「・・・ああ、悪い。ちょっと具合悪いから保健室行くわ。」

「本当に大丈夫か?なんなら付き添うが。」

「いや、一人で行ける。少し休んだら、今日は早退するわ。」

「そうか、お大事にな。」


 心配そうな顔で見送るSを背に、俺は教室を後にするした。




「ん?ここは何処だ?」


 見慣れぬ天井で目を覚ました俺は、キョロキョロと周囲と確認する。ツンと鼻につく匂いをかいで、やっと思い出すことが出来た。


「そうか、保健室でそのまま眠ったんだな、俺。」


 周囲はすっかり暗くなり、室内に落ちる影にかなり長い時間寝ていたことを知る。ふと隣を見ると、すぐ傍の机に書置きがあり、『先に帰ります。目が覚めたらそのまま帰って構いません。校医』と書いてあった。


「そのままって、普通施錠して帰らないとまずいんじゃないのか?」


 かといって、これから職員室に行って報告するのも面倒だということで、お言葉に甘えて学校を出た。外は完全に日が落ちており、時間を確認すると7時だった。


「ほぼ半日寝てたのかよ。今日一日無駄にしたな。」


 そのまま携帯アプリを開いて、全快しているスタミナを黙々と消化しながら帰路に着く。途中、前方不注意で躓いたりするものの、転ぶまではいかず、なんとか体勢を保つ。そんな中、


「もし、すみません。」


 と、声を掛けられた。はい?っと間抜けな声を出しながら振り向いた俺は、絶句する。そこには俺が作った落ち武者の生首があった。正確にはそれは宙に浮いていたのだ。


「やっと会えた。」


 首はにやっと笑い、こちらに近づいてくる。


「うぁ・・・ああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 全速力で逃げ出すが、それに着かず離れずの距離を保って、首は後を追いかけてくる。


「来るんじゃねええええええええええええええええええええええええ!」


 叫びながらも必死に走る。が、ここで躓き、地面に転げまわる。それでも逃げなきゃという思いに駆られ、直ぐに立ち上がろうとする俺の前に首はいた。


「あ、あああああ、ううああ・・・」


 あまりの恐怖に言葉にならない。後ずさろうとすると背中にコツンと触れるものがあった。恐る恐る振り返ると、そこにも首がいた。前後を塞がれ、左右に視線を飛ばすと、何処からともなく首が出現する。

 逃げ道を完全に失った俺、そこに場にそぐわない音が流れる。Sからのメールだった。


『昼に保健室行ったらまだ寝てたけど、大丈夫か?明日は学校来れそうなのか?』


 メールを返そうとするが、何故か送信が出来ない。ふと思い出した俺は、LINEを立ち上げ、入力・送信を押す。すると正常に送れたようだ。


「もういいか?それじゃあな。」


 そういって俺に殺到する首たち。前後左右から顔に突進を受け、目の前が赤く霞む。意識が遠くなる端で、ブチリという耳障りな音を最後に、俺の視界は回転し、途絶えていった。





「なあT。昨日の『無理、捕まった』ってなんだよ。俺すげえ心配したんだぞ。」

「ん?そんなの送ったっけか?ああ、あの時のか。もう終わったから気にしないでくれ。」

「・・・・・だったらいいが、今度何かあったらちゃんと教えてくれよ?」

「ああ、わかったよ。それはともかく、この間の落ち武者の生首、オチ知ってるか?」

「オチ?知らないが、なんかあるのか?」

「首に追いかけられ、捕まった者は、自分の首と挿げ替えられるのさ。」

「へぇ、どっからそんな話仕入れたんだ?」

「それは企業秘密ってやつさ。」


 そう言って、"俺"は笑うのだった。












 どうだい?わかったかな、都市伝説の生まれ方は。そう、都市伝説は誰かが作り出すんだ。そうして円熟した都市伝説は、作者に成り代わり、その後広めていく。

 モデルに人型が多いのは、その方が想像力が働かせやすいからなんだろうね。もし人間以外が創造できたら、それはきっと人が思っているものとは、全く違う姿なんじゃないかな?

 さて、これでこの話はおしまい。君も都市伝説に取り込まれないよう、精々気をつけるんだよ。

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