ある少年と白の日
3月14日。
所謂、俗に言うとホワイトデー。
先月大量に貰ったチョコレートのお返しをリュックサックに詰め込んで、朝一から店内に来た俺である。
「あ、瑠伊耶さん、おはようございま―――また凄い荷物ですね~?」
案の定と言うか何と言うか、先に来ていたらしい亜摩さんが挨拶をしてくる……と同時に、
俺の背中に背負われている荷物にも目が行ってる様であり。
「ああ、これですか。先月のお礼ですよ」
「先月…………」
あの時のうろたえっぷりというか何と言うかを思い出したのだろう。
顔が徐々に赤くなっていっている亜摩さんである。
……うむ、やはり可愛い。
「で、出来るなら、忘れて下さると私的には嬉しいのですが~……」
もぢもぢと指を付き合わせつつそんな事をのたまう亜摩さんに、更に萌える俺で。
――と、いかんいかん。
「では、これを。流石に人数が人数なので三倍返しとかは言えませんが」
お約束の三倍返しネタを交えつつ、小さめの箱を彼女へと渡す。
数瞬の間、目を瞬かせていた亜摩さんであるが、やっと頭に理解が広がったのか、ふわりとした笑顔で言葉を紡ぐ。
「あ、有難う御座います~。……開けてみても?」
「ええ、構いませんよ」
俺の了承の言葉に早速ラッピングされたその箱を開けに掛かる亜摩さんで。
その箱から出てきたのは、陶器製の小瓶が一つ。それを目にした途端、驚きの表情を浮かべ、俺の方へと視線を向けて来る彼女であり。
「……えとその。これ、高かったんじゃ~?」
まあ確かに少々の出費はしましたが、父さんのツテのお蔭でそれ程のものでもなかったですよ?
それにこれは貴女には必要な物でしょうし。
「――をを。これは……霊力増幅の霊薬ではないですか。……わたしも実物を見たのは初めてです」
「おはよう、鷹深ちゃん。何時もの事ながらキミも早いな」
「………この頃おにーさんの反応が凄く淡白でつまらないですねー。これが俗に言う倦怠期ですか」
それは違うと思うぞ、俺としては。
………まあそれは兎も角。いきなり湧いて来ないで欲しいんだが鷹深ちゃん。
「そいつは出来ない相談ですよ、おとっつぁん」
「誰がおとっつぁんだ誰が」
「…………ぇ?」
「心底驚きました、な表情を浮かべるんじゃない。
―――ごほん。ま、漫談はこれぐらいにしておこうか鷹深ちゃん。話が先に進まんし、な」
「合点承知の助」
また妙に古いネタを。
でも突っ込まん。話が脱線し続ける。
「鷹深ちゃんにはこれだ」
「をを、何時も済まないねー」
「だがな。チョコレートをくれたのは純粋に嬉しいが、本当に心臓を象ったチョコレートというのは如何な物か」
とりあえず更にボケ倒してくる鷹深ちゃんを再度スルーし、そう言葉を返す俺で。
――いや本気で開けた途端妙にリアルな茶色の心臓が目に飛び込んでくるとか激しくドン引きだぞ?
「喜んでくれたようで何よりなのです」
喜んではないのだがな?
そんな俺の内心を今回は珍しく読まず……と言うか、俺が渡したお返しに意識が集中しているらしい。
チラチラとプレゼントボックス(と言えるほど大層な物ではないが)を盗み見ているその姿がなんとも微笑ましく感じる。
「―――では中身を拝見。………わぁ」
「わ、可愛らしいですね~」
その箱の中に入っていたのは、空の様な青色のイヤリング。
オオタカの化身だし、空と言うのは彼女によく似合うんじゃないか、
と我ながら安直だとも思ったりしたが、な。
因みにこれは先に亜摩さんに渡した霊薬と同じぐらいの値段だった。
……アクセサリとはこうも高いものなのか、などと少々欝になりかけたが、まあ仕方あるまい。
「んと……。おにーさん。おにーさんの愛はしかと受け取りましたよー。不束者ですが宜しくお願いします」
「まあとりあえず落ち着け鷹深ちゃん」
ふわふわと今にも浮き上がらんばかりである。
後妙に反応に困る台詞をいわんでくれ。焦るから。
「でも……本当にありがとうなのですよ、おにーさん」
「鷹深ちゃん、良かったですね~」
にっこりと笑う亜摩さんと無表情の眠たげな瞳に喜色を浮かべる鷹深ちゃんとのやり取りを見ていると、
ああ、このチョイスは間違ってなかったんだな、とほっと胸を撫で下ろす俺である。
それから次々に出勤してくる皆にもそれぞれにお返しを渡していった。
概ね好評で、本当に良かったと思うぞ、本気で。
蛇足だが、これから暫しの間、鷹深ちゃんの作業効率が鰻登りであった事もここに記す。
何時もこれだったら更に嬉しいのだが……。
……と言う事で第二だーん(ぇ
前回のも同じく、数年前に書いててメーリングリストに投下してた物をそのまま投げ込んでみました(ぇ
……この二作を書いててつくづく思った事。
甘い話って僕には荷が重いのかなぁ、とか(苦笑
まあそれは兎も角に、ニヤニヤして貰えたなら幸いなのです。